胃底腺型胃癌は胃底腺への分化を示す分化型腺癌の一亜型で,免疫染色では主細胞のマーカーのpepsinogen-Ⅰまたは壁細胞のマーカーのH+/K+-ATPaseが陽性となる胃腫瘍である.徐々に発見・報告例も増えつつあるが,未だ稀な病変である.臨床的特徴としては,H.pylori感染率が約半数程度と従来の胃癌より明らかに低率で,病変が小さいうちからSM浸潤を来しやすいが転移などが見られない低悪性度腫瘍と考えられる.内視鏡的には,粘膜萎縮の無い胃上部に好発し,色調は褪色調で腫瘍表面に血管拡張所見が見られるのが典型像で,さらに粘膜深部から発生する腫瘍のために腫瘍表層上皮は健常粘膜で被覆されている場合も多く,粘膜下腫瘍様や上皮下腫瘍とも表現される.現在までに発見されている病変は小病変が多いため内視鏡的切除されている例が多いが,リンパ管侵襲例や腫瘍進行により高悪性度に変化する可能性,さらにより悪性度の高い類縁病変の存在も指摘されており,今後さらに症例を重ねて検討する必要がある.
症例は55歳女性.慢性腎不全にて維持透析中であった.上部消化管内視鏡で胃角部小彎に約8mm大の中心が陥凹した粘膜下腫瘍様の隆起を認めた.生検では診断しえず,診断目的にESDを行った.病理結果は径4mmの胃神経内分泌腫瘍でRindi分類のTypeⅢと診断した.ESD後7カ月の腹部CT検査で胃小彎リンパ節の増大を認めた.PET/CTを撮像したが,フルオロデオキシグルコース(FDG)の集積は軽度であったため,診断目的にEUS-guided fine needle aspiration(EUS-FNA)を行った.その結果,神経内分泌腫瘍の転移と診断し,追加外科手術を行った.径4mmの微小な胃神経内分泌腫瘍からのリンパ節転移は稀であり,貴重な症例のため報告する.
症例は63歳,男性.逆流性食道炎の経過観察目的の上部消化管内視鏡で胃体中部後壁に径5mm大の陥凹を伴う発赤調の平坦隆起性病変を認め,生検の結果,低分化型腺癌であった.診断目的にESDを施行する方針となったが術前のCTで右腎中下極に腫瘤を認めた.
胃のESD術後病理診断は腎細胞癌胃転移の疑いで,病変は粘膜層内に限局し切除断端は陰性であった.その後右腎摘出術を施行し,腎細胞癌(淡明細胞癌)と診断した.
腎細胞癌の胃転移は稀とされるが,本症例は同時性に発見され,転移病巣が粘膜層に限局することをESDで確認した非常に稀少な症例と考える.
症例は45歳,男性.約20年前に不全型Behcet病と診断され,通院中,2年前に腸管病変を認め腸管Behcet病と診断された.ステロイドおよびインフリキシマブ・アダリムマブに抵抗性であり,回腸末端に全周性の類円形巨大深掘れ潰瘍を認めた.また,潰瘍には巨大な露出血管を認め,そこからの大量出血を認めた.露出血管からの出血に対してIVR併用下に内視鏡的止血を行った報告はみられず,その有効性が示唆された.
症例は77歳,男性.便潜血陽性で行った下部消化管内視鏡検査にて上行結腸に6mm大のⅠs型腺腫性ポリープを認め,cold polypectomyを施行した.その6時間後に急に右側腹部痛が出現し,当院救急搬送となった.身体所見上は同部に筋性防御・反跳痛を認め,腸管穿孔による腹膜炎の可能性が疑われたが,画像上はpolypectomy後の部位に一致して限局的な炎症所見のみで明らかな穿孔所見は認めず,post-polypectomy syndromeが疑われた.保存的加療にて軽快し,第8病日に退院した.
症例は89歳,男性.2015年3月より悪性黒色腫に対しニボルマブ投与が開始され,今回8回目の投与目的で入院となった.投与後より腹痛・下痢・下血を認め,当科に紹介された.下部消化管内視鏡検査にて潰瘍性大腸炎類似の所見を認めたため,ニボルマブによる免疫有害事象と判断し,ステロイド治療を開始した.その後臨床症状,内視鏡所見は著明に改善した.ニボルマブによる免疫有害事象による腸炎は,注目すべき病態と考える.
胃がん検診の手段として胃X線検査に加え,上部消化管内視鏡検査(内視鏡)が推奨され,今後内視鏡が中心的役割を果たすようになるであろう.スクリーニング内視鏡では,胃全体を網羅的に撮影し,胃がんなどの疾患を見落とさないようにすることはもちろん大切である.それに加えて,背景胃粘膜の状態から胃がんリスクを評価することも望まれる.「胃炎の京都分類」では,19の内視鏡所見によりH. pylori感染状態について未感染・現感染・既感染に区別することを基本としている.そのうち,胃粘膜萎縮がなく,胃角部にRAC(regular arrangement of collecting venules)を観察できれば,H. pylori未感染の可能性が高い.そして,胃底腺ポリープや稜線状発赤を認めれば未感染の可能性はさらに高まる.一方,C-2以上の胃粘膜萎縮はH. pylori感染を示唆するものであり,びまん性発赤を認めれば現感染の可能性が高く,認めなければ既感染の可能性が高い.地図状発赤はH. pylori既感染の診断において感度は低いが特異度の高い所見である.背景胃粘膜の評価はその後の効率的な胃がん内視鏡スクリーニングに繋がるであろう.
新規画像強調観察法であるLinked Color Imaging(LCI)では,粘膜の赤色調の濃淡を強調することで,赤いものはより赤く,褪色病変はより白っぽく観察される.白色光観察では,灰白色扁平隆起として観察される特異型の腸上皮化生が典型的な腸上皮化生の所見であるが,白色光では検出できない腸上皮化生や斑状発赤を呈する腸上皮化生もLCIでは特徴的なラベンダー色として観察され,より簡便に客観的に胃癌リスクを評価しうる.
欧米と日本では消化管の腫瘍性病変の病理診断基準が異なることはよく知られている.欧米では大腸癌は粘膜筋板を越えて粘膜下層に浸潤したものと定義され,その浸潤の所見はとくに間質反応(desmoplastic reaction)の出現に依存している.日本では浸潤性の有無に関わらず核異型と構造異型の組み合わせを基本として定義されている.その結果,欧米では粘膜内癌は高度異形成(high-grade dysplasia)と診断され,低分化腺癌成分を含む粘膜内癌でさえ“Tis”に分類されることになる.粘膜内癌に対しては“T1”という用語を用いるのが論理的かつ妥当である.
粘膜内癌に対して高度異形成(high-grade dysplasia)という用語を用いるのは時代遅れである.大腸癌の適切な臨床的治療がなされるためには,種々の転移危険因子を十分評価することが重要である.より親密な病理医と臨床医との協力および交流により,過剰治療や不適当なフォローアップは避けることが可能である.腸癌の欧米と日本での病理診断基準の違いは両者の交流により対処されていくと思われる.そして将来的には,分子生物学的解析が大腸癌の標準的な病理診断基準の作成に寄与するかもしれない.
【背景】術後再建腸管を有する胆膵疾患に対する内視鏡的アプローチは,従来の内視鏡では盲端部への挿入,乳頭や胆管・膵管空腸吻合部への到達が困難であったが,バルーン内視鏡により可能となっている.
【目的】消化管再建術後患者に対するショートタイプ型ダブルバルーン内視鏡(double-balloon endoscopy:DBE)を用いた内視鏡的逆行性胆管造影法(double-balloon endoscopic retrograde cholangiography:DB-ERC)の有用性と安全性を明らかにする.
【方法】本邦5施設による多施設共同前向き試験として実施された.2013年6月から2014年5月に胆道疾患に対してDB-ERCを施行した311例(男性210例,女性101例,平均年齢67.3歳)の患者が前向きに登録された.患者の内訳は,Roux-en-Y 203例,Billroth Ⅱ 26例,pancreaticoduodenectomy(PD)44例,pylorus-preserving PD(PpPD)31例,その他7例であった.内視鏡機器はショートタイプ型DBE内視鏡システム(フジフィルム社製:内視鏡EI-530B,オーバーチューブTS-13101,バルーンBS2)を使用した.主要評価項目としてターゲット部(乳頭部または術後盲端)への到達率,副次評価項目として,診断(胆管カニュレーションと胆管造影)成功率,治療成功率,手技全体の成功率,平均術時間(術後盲端部到達およびDB-ERC関連治療),偶発症について検討した.
【結果】ターゲット部への到達率は全体で97.7%(95%CI:95.4-99.1),診断成功率96.4%(95%CI:93.6-98.2),治療成功率97.9%(95%CI:95.4-99.2),手技全体の成功率92.3%(88.7-95.0%)であった.平均術時間は,術後盲端部到達22.4分,DB-ERC関連治療56.3分であった.偶発症は,33例(10.6%)(95%CI:7.1-14.0)に認め,32例(膵炎が最も多く11例)は保存的に加療されたが,1例は穿孔のため緊急手術を要した.
【結語】消化管再建術後患者に対するDB-ERCは治療成功率が高く,重篤な偶発症発生率も低いため,DB-ERCは消化管再建術後の胆道疾患に対する第一選択手技になりうる.