2cm以下の胃粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)の取り扱い方について既報をreviewし考察した.消化管間葉系細胞腫瘍(gastrointestinal mesenchymal tumor:GIMT)のうち消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)であれば,2cm以下でも稀ながら急速に増大して悪性の経過をたどる例があるので腹腔鏡・内視鏡合同手術(laparoscopic and endoscopy cooperative surgery:LECS)などの方法での切除が必要である.通常内視鏡検査において鉗子等で触ってみて硬いSMTはGIMTの可能性大であり,ガイドライン通りに年に1-2回の経過観察が必要と考える.GIMTの診断はEUSで可能であり一度は施行しておくことが勧められるが,EUS下吸引細胞診(EUS-fine needle aspiration:EUS-FNA)に関しては,経過観察中にEUS上GISTを疑う不均一な内部エコー,辺縁不整,嚢胞変性,高エコースポット等の所見が描出された場合,あるいは経過中にサイズが2cmを超えてくるような症例で,手術適応の判断を要する場合に必要と考える.
【背景・目的】大腸ポリープの内視鏡的切除後にクリップ縫縮を慣習的に行うことが多いが,その有無による後出血率,処置時間,コストについて検討した.【方法】2013年2月~2014年1月の内視鏡的切除後にクリップ縫縮を行った群174例332病変(Clip群),2014年2月~2015年1月のクリップ縫縮を行わなかった群210例434病変(Non-clip群)に対して患者背景(年齢/性別/基礎疾患/抗血栓薬内服の有無)や切除したポリープの背景(1人当たりの数/サイズ/部位/肉眼型/組織),後出血率,ポリープ1個の切除時間,Clip群で縫縮に必要としたクリップ数について検討した.【結果】背景に差はなく,後出血率はClip群1.7%,Non-clip群1.4%と差は認めず,切除時間はClip群257(91-1,789)秒,Non-clip群145(46-2,443)秒とNon-clip群で有意に短かった(p<0.01).縫縮に必要としたクリップ数は2(1-6)個で,コストは1,950円であった.【結論】切除後のクリップ縫縮は必ずしも必要ではなく,それに伴い処置時間の短縮化・コスト削減を図ることができる.
症例は18歳男性.下痢と体重減少のため当科受診.生後3カ月で無汗症と診断されており,歯牙欠損,粗な毛髪,乾燥した皮膚を認める.大腸内視鏡検査を施行したところ,潰瘍性大腸炎が疑われた.メサラジン内服とプレドニゾロン内服で治療を開始したが再燃を繰り返した.9カ月後の内視鏡検査で縦走潰瘍を認めたためクローン病と診断した.インフリキシマブと6-メルカプトプリンで治療し寛解状態となった.特徴的な外観から免疫不全を伴う無汗性外胚葉形成不全症が疑われた.この疾患はNEMO遺伝子異常が原因といわれており,合併する腸炎はNEMO腸症と呼ばれている.本症例はNEMO遺伝子異常が同定されず確定診断にいたらなかったが,示唆に富む症例と思われたため報告する.
症例は57歳,女性.直腸カルチノイド治療後の定期的な下部消化管内視鏡検査施行時に上行結腸に粘膜下腫瘍が発見された.粘膜面に陥凹を伴う1.5cm大の腫瘤であった.超音波内視鏡検査では内部に高エコーな部分を伴うやや低エコーの腫瘤であった.上行結腸粘膜下腫瘍の診断で,腹腔鏡補助下上行結腸部分切除を施行した.病理組織学的検査では中心部に凝固壊死とその内部に線虫様の構造を認め,周辺部に好酸球とリンパ球浸潤を伴う肉芽組織を認めた.術後の血液検査で抗アニサキス抗体が陽性であったことから,大腸アニサキス症が疑われた.無症状で偶然粘膜下腫瘍として発見された上行結腸アニサキス症を経験した.
症例は48歳女性.心窩部痛を主訴に近医を受診し,血液検査で肝胆道系酵素高値を認め,腹部超音波検査で総胆管拡張を認めたため,当院紹介受診となった.CT・MRI検査では総胆管~肝内胆管拡張に加え,膵頭部分枝膵管拡張と膵体尾部萎縮を認めた.EUSでは総胆管は径10mmと拡張し,下部胆管は乳頭部と連続する膵頭部の長径27mm大の腫瘍により圧迫されていた.ERCPを施行したところ,主乳頭開口部より腫瘍の露出を認めた.膵頭部主膵管は拡張し内部に鋳型状の透亮像を認め,膵管内腫瘍栓と考えられた.生検にて主膵管内進展した膵神経内分泌腫瘍と術前診断し,膵全摘術が施行された.最終病理診断は非機能性神経内分泌腫瘍G2であった.主膵管内進展を来した膵神経内分泌腫瘍の術前診断例は少なく,若干の文献的考察を加えて報告する.
症例は82歳,女性.右季肋部痛で当院に受診され,軽症急性胆管炎の診断で内視鏡的胆管ドレナージ目的にERCPを施行した.十二指腸主乳頭(以下乳頭)は傍乳頭憩室内に位置しており,十二指腸鏡を用いた通常の方法では乳頭近接や胆管挿管は不可能であった.そこで,透明フードを装着した直視鏡に内視鏡を変更することで乳頭正面視が容易となり,膵管ステント留置に成功した.膵管ステントにより乳頭が憩室外に位置調整され,ERCPを完遂することが可能となった.本法は高侵襲な処置や難易度の高い処置を行わずに胆管挿管可能であり有用な方法と考えられる.本症例のような憩室内開口症例に対しては一つの有効な選択肢として優先されるべきであると考えられた.
筆者らの食道胃静脈瘤治療コンセプトは排血路血流を制御して,静脈瘤を逆行性に血栓で閉塞するところにある.逆行性の閉塞により静脈瘤に直接供血する静脈路の閉塞を期待でき,静脈瘤に直接関与しない血液の逃げ道となる静脈路は温存することができる.筆者らは食道静脈瘤に対しては内視鏡的硬化療法(EIS)を基本に,内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)を補助的に使用している.内視鏡的硬化療法結紮術併用療法(EISL)は両者の長所を兼ね備えた治療手技である.
背景と目的:内視鏡的バルーン拡張(EBD)は,クローン病(CD)患者の小腸狭窄に対する外科手術の代替手段である.しかしながら,EBDの長期有効性はまだほとんど知られていない.本研究の目的は,CD患者の小腸狭窄に対するEBDの長期予後を明らかにすることであった.
対象と方法:被験者は小腸狭窄に対してEBDを受けた65人のCD患者で,少なくとも6カ月間追跡調査した.すべての被験者は,小腸狭窄に起因する閉塞症状を有しており,短期的成功は,技術的成功と閉塞症状の消失と定義された.EBDの短期的成功率,安全性プロファイル,長期経過として累積非手術率および累積再拡張率を解析した.
成績:短期的功率は80.0%(52/65)であった.合併症は,65人中6人(9.2%)に認めた.この研究の観察期間中に17人の患者(26.2%)が外科手術を受けた.EBD後の累積非手術率は,2年で79%,3年で73%であった.短期的成功例は,不成功例と比べ有意に非手術率が高かった(P<0.0001).短期的成功52例において,初回EBD後の累積再拡張率は,2年で64%,3年で47%であった.
結論:CD小腸狭窄に対するEBDは,短期的成功だけでなく長期的にも有効である.しかしながら,再拡張率が高いことは,この内視鏡的手技の臨床的問題の1つである.
【背景】内視鏡的乳頭括約筋切開術(Endoscopic sphincterotomy:EST)の後期合併症として胆管癌の発症リスクが示唆されてきた.しかし,著者らの以前の検討ではEST施行群と非施行群との間に,胆管に限局する癌および胆管と周囲の肝臓や膵臓を占居する癌の発症リスクの有意差を認めなかった 2).
【目的】今回は,より大きな集団に対する長期観察を行うコホート研究によりESTと胆管癌の因果関係を明らかにする.
【対象と方法】フィンランド(1986~2010年)とスウェーデン(1976~2010年)の退院登録を用いてERCPあるいはESTを施行された患者を拾い上げた.両国の癌登録を用いて悪性疾患(胆管に限局する癌および胆管と周囲の肝臓や膵臓を占居する癌)を拾い上げ,ERCP検査後2年以内の発症例を除外した.対象患者の経過観察は,悪性疾患の発症,死亡,移住時期まであるいは,2010年12月末まで施行した.悪性疾患の危険度の判定は,性別,年次,年齢を調整した両国の一般人口データの悪性疾患発症率と比較し,標準化罹患比(standardized incidence ratio:SIR)を求めた.
【結果】1976年から2008年までにERCPを施行された69,925名が登録され,40,193名にESTが施行されていた.胆管に限局する癌および胆管と周囲の肝臓や膵臓を占居する癌の罹患比は,EST施行,未施行に関係なく,全対象群で上昇していた(SIR 2.3;95%CI 2.1-2.5).胆管に限局する癌の相対危険度はERCP群全体で約4倍(SIR 3.9;95%CI 3.3-4.5)であり,EST施行群(SIR 4.3;95%CI 3.5-5.5)は未施行群(SIR 2.7;95%CI 2.0-3.5)に比べ高い傾向を認めた.胆管に限局する癌および胆管と周囲の肝臓や膵臓を占居する癌の標準罹患比は,経過観察期間が長くなるにつれ減少していた.
【結語】ERCP後には胆管に限局する癌のみならず,胆管および周囲の肝臓や膵臓を占居する癌の発生頻度が上昇していた.この危険率はESTの施行,未施行に関係なく同じであったことから,EST手技との関連性は少なく,ERCP以前から存在していた胆管結石などの関与が示唆された.