従来の診断基準は日本消化器内視鏡学会で作成されたが,国内でも十分に活用されているとはいいがたい.外国でも診断基準は作られているが長い間改正されないので,現実的ではなくなっていると思われる.われわれの作成したガイドラインはEBMに基づいたものであり,世界を見回してもEBMに基づくERCP後膵炎ガイドラインは見あたらないと思われる.われわれは将来的にERCP後膵炎の診断基準を見直し,より早く治療を行い救命すると同時に如何に重症のERCP後膵炎を生じさせないかその予防法を検討する必要がある.
症例は66歳女性.胃角小彎に10mm大の未分化型早期胃癌があり,内視鏡治療を行った.粘膜内に限局して印環細胞癌が認められ,脈管侵襲なく治癒切除となったが,治療4年2カ月後に多発リンパ節転移にて再発した.未分化型早期胃癌適応拡大病変とされた病変から,長期的に再発した症例に関する報告が散見されており,多施設共同前向き試験の結果が出るまでは,慎重に対応する必要がある.
症例は73歳,女性.胃体部小彎の脂肪腫を経過観察中.定期的な上部消化管内視鏡検査にて,増大傾向の脂肪腫上に0-Ⅱc型6mm大の高分化型腺癌を認めた.早期胃癌の治療および脂肪腫の縮小を目的に,全周切開を併用した内視鏡的開窓術(endoscopic unroofing法)を施行した.この方法により,比較的簡便に早期胃癌の治癒切除と胃脂肪腫の縮小が得られた.全周切開併用endoscopic unroofing法は脂肪腫上の粘膜内癌を比較的簡便に治癒切除することが可能な手技であり,文献的考察も加え報告する.
症例は27歳男性.暗赤色便を主訴に近医を受診し,出血シンチグラフィにて遠位回腸に集積を認め,精査目的に当院へ転院となった.メッケル憩室シンチグラフィは陰性,経肛門的ダブルバルーン小腸内視鏡検査では回腸末端より40cm口側に,頂部に潰瘍を伴う隆起性病変を認めた.内視鏡的切除を検討していたが,頂部からの生検で異所性胃粘膜を認め,メッケル憩室内翻症の可能性を考慮し,腹腔鏡下回腸部分切除術を施行した.切除標本には胃底腺粘膜および膵組織を確認した.
本症は,術前診断を誤ると内視鏡的切除を行うことで,消化管穿孔などの偶発症を招く恐れがある.この特徴的な内視鏡像を認識し,積極的に本症を疑うことが大切である.
目的:局所進行切除不能膵癌に対し,化学放射線療法が推奨される.線量集中性増強のためIMRTが試みられ,その3次元的な照射野の確定に金マーカー留置が有用である.今回EUS-FNAを応用した膵癌への金マーカー留置後にIMRTを行ったのでその経験について報告をする.
方法:2013年12月~2014年12月に当院でEUS-FNA手技を応用した金マーカー留置を行ったStageⅠ~Ⅳaの膵癌6例を対象とした.
結果:6例全例で金マーカー留置は成功し,重篤な有害事象はなかった.IMRT中に金マーカーの脱落なく治療も完遂した.治療効果は,1例はPDで5例はSDであった.SD例はPET/CTでFDG集積低下を認めた.治療終了1年後,6例中4例で生存を確認した.
結語:IMRTを前提とし,膵癌に対してEUS-FNAを応用して金マーカー留置を行った.少数例での経験であるが安全性も確認され臨床応用が期待される.
超音波内視鏡下胆嚢ドレナージ(EUS-GBD)は,経皮的ドレナージ同様高い成功率を持ち,経乳頭的ドレナージ同様内瘻化が可能であるという長所を持った,新しい胆嚢ドレナージ法である.Interventional EUSの中でも歴史が浅いためevidenceは少なく,方法論が論じられる機会もほとんどない.炎症で腫大した胆嚢は穿刺は容易だが,膵炎後のwalled-off necrosisと異なり,消化管壁に癒着しておらず,また肝内胆管や膵管の様に実質臓器内で固定されているわけでもない.そのため他のInterventional EUSと比較しても手技中の胆汁漏出が起こりやすく,デバイスの挿入が難しいという特徴がある.また胆嚢の位置にはバリエーションが多く,安全かつ効果的なドレナージを行うためには多くのコツを必要とする.本稿では,EUS-GBDの普及の一助とするため,われわれの施設で実際に行っている方法を詳述する.
【背景】発症早期の食道アカラシアでは,内視鏡では特徴的な所見を認識するのが難しいことがあり,診断までに発症後数年かかることがある.
【方法】対象は,2014年3月から2015年8月までに当院で経口内視鏡的筋層切開術を施行した食道運動機能障害400例とした.内視鏡の胃内反転像において下部食道括約筋弛緩不全(LESRF)の下端がSquamocolumnar junction(SCJ)と一致しない所見をChampagne glass signと定義した.LESRFの下端とSCJが一致する場合,いわゆる「巻き付き」を認める場合をCG-0,LESRFの下端からSCJの距離が1cm未満の場合をCG-1,1cm以上の場合をCG-2とした.
【結果】CG-0は28.0%しか認めなかった.CG-1は65.1%,CG-2は6.1%に認められた.
【結論】LESRFの下端とSCJが一致せず,胃内反転像ではSCJが開いているようにみえるアカラシアは多く,注意が必要である.
【背景】腺腫発見率Adenoma detection rate(一つ以上の腺腫が見つかった症例数/全大腸内視鏡検査数,以下.ADR)は,大腸内視鏡の質の重要な指標として国際的に認識されている.本研究では,通常送気下大腸内視鏡挿入法(AI)と,無送気浸水法による挿入法2種類,すなわち,スコープ挿入中に残渣や空気があった場合,それらを吸引してから水を注入し,その水の除去は主に挿入中に行うWater Exchange法(WE)と,挿入中に視野が取れない時に適宜水を注入し,その水の除去は主に抜去時に行うWater Immersion法(WI)を比較し,WEはADRを改善し得るが,WIはAIと同等である,という仮説をもとにランダム化比較試験を実施した.
【方法】本前向き研究は,台湾南部にある慈済総合医院大林分院と台湾東部にある花蓮慈済医院において実施された,ADRを主要評価項目とするランダム化比較試験で,症例はWE群,AI群,WI群のいずれかに割り付けられ,3人の内視鏡医別に層別化された.サンプルサイズはPower80%,α0.05として各群217例と算定された.
【結果】2013年7月から2015年12月までに651名が本研究に参加し,各群へ217名ずつ均等に割り付けられた.その結果,各群のADRは,WE群は49.8%(95% CI,43.2%-56.4%),AI群は37.8%(95% CI,31.6%-44.4%),WI群は40.6%(95% CI,34.2%-47.2%)であった.WEは,AIに比べADRが有意に高く(p=0.016),WI群とWE群間に,ADRの有意差は認められなかったものの,WIとAIのADRは同等であった.WEはAIに比べると挿入時間が長く,腸管洗浄度は良好であったが,陽性検査内の腺腫発見数(adenoma per positive colonoscopy:APPC)やポリープ切除も含めたスコープ抜去時間は変わらなかった.サブグループ解析では,プロポフォール使用時には,WEによるADRが有意に改善していた.線形回帰モデルによる多変量解析では50歳以上の症例,WEの適用,大腸内視鏡の適応,初回の大腸内視鏡,また,8分以上の抜去時間がADRを有意に上昇させる要因であった.
【結語】既報と同様に,WEはADRを向上させるがWIは影響がないことが明確になった.特にプロポフォール使用時にはWEによるADRは,より大きく改善していた.スコープ挿入法によるADRの変化が明らかになったことによって,WEによる大腸癌予防における妥当性が示されたものと考えられる.また,陽性検査内の腺腫数やスコープ抜去時間には差が認められなかったことから,本研究では,いずれの群においてもスコープ抜去中には適切な観察が行われていたと考えられた.(Clinical trial registration number:NCT01894191.)