除菌後に発見される胃がんのほとんどは,除菌前のピロリ感染胃粘膜を母地として発生し,除菌治療により二次的修飾を受けた病変である.分化型がんにおける最も典型的な内視鏡像は,発赤した表面陥凹型病変であり,組織学的には腫瘍表層に低異型度な円柱上皮が出現することが特徴である.これらの特性により,除菌後胃がんの内視鏡的存在診断は困難な場合があり,粘膜下浸潤がんとして発見される例も稀ではない.除菌後胃がんを正確に診断することは極めて重要であり,その臨床的重要性は急速に増大している.内視鏡診断医は,除菌後胃がんの特性を正しく理解し検査に臨む必要がある.
【目的】胃壁固定において,様々な一本穿刺式固定が市販化されているが,これらをIntroducer法で使用した際の緩み,耐久性,安全性などは検討されていない.今回,その特性について二本穿刺式固定と比較し検討した.【方法】各種一本穿刺式固定(イージータイ,スマートアンカー,ガストロペクシー,ツーショットアンカー)について,検討1では金属板/棒に固定し,牽引後の緩みを測定,検討2ではブタ胃壁モデルを使用し,耐久性や胃壁損傷について,検討3-4ではイージータイを臨床的に用い,手技時間や安全性について評価した.【結果】(検討1)両群共に2-4%の緩みがみられたが,24時間以降の緩みはなかった.(検討2)一本穿刺式固定群の耐久性は,それぞれ24.9,15.7,17.4,21.0(N)で,二本穿刺式固定は23.4(N)であり,いずれも臨床的には十分な耐久性であった.(検討3,4)一本穿刺式固定の手技時間は短く,Introducer法でのPEGでも偶発症は認めなかった.【結論】一本穿刺式固定は,安全にIntroducer法でのPEGが可能である.
症例は88歳女性.当院皮膚科で水疱性類天疱瘡に対しプレドニゾロン(以下PSLとする)投与中であった.PSL減量中に皮膚症状が悪化したため,内臓腫瘍の合併が疑われ当科へ紹介となった.消化管精査を行ったところ,胃前庭部小彎前壁よりに隆起性病変を認めた.生検による病理組織の結果は腺腫であったが,内視鏡所見にて早期胃癌が強く疑われたためESDを施行した.病理組織の結果は,治癒切除であった.ESD後,水疱の新生はみられずPSLは順調に減量されており,ESDによる早期胃癌の治療が有効であったと考えられる.
症例1は64歳男性,十二指腸癌StageⅣ(T4,N3,M1)の浸潤による胆管狭窄に対し内視鏡的に胆管金属ステント(Self-expandable Metal Stent:SEMS)を留置.その後胆管十二指腸瘻(Choledochoduodenal fistula:CDF)と十二指腸狭窄が上十二指腸角に出現した.症例2は68歳男性,膵頭部癌cStageⅣb(T3N2M1)に伴う胆管狭窄に対し,SEMSを留置.その後下行脚に腫瘍浸潤に伴う十二指腸狭窄と上十二指腸角にCDFを認めた.いずれの症例も穿孔や出血,胆管炎などのリスクを十分説明の上,内視鏡的十二指腸SEMS留置術を施行.十二指腸の狭窄は解除され,経口摂取可能となった.また,短・長期的な偶発症は認められず,安全に十二指腸SEMS留置が可能であった.
症例は38歳男性.4年前から排便回数増加と血便を自覚していた.今回上腹部痛が出現し,改善しないため当院紹介入院となった.上下部内視鏡検査にて全大腸炎型の潰瘍性大腸炎(UC)と胃・十二指腸にUC類似の病変を認めた.同時に,画像診断にて膵腫大,膵管および胆管の狭窄像を認め,膵のEUS-FNAにてgranulocytic epithelial lesions(GEL)像を認め,2型自己免疫性膵炎(AIP)と診断した.プレドニゾロンと5-ASA製剤投与にてUCおよびAIPは寛解した.全大腸炎型UCに,UC類似の上部消化管病変および2型AIPを併発した症例の治療経過を報告する.
膵管拡張を指摘された65歳女性.膵頭部癌を疑い膵管ブラシ細胞診を施行,膵炎予防のため自然脱落型片側ピッグテイル膵管ステントを留置した.ERCP後17日目に腹痛と血圧低下で緊急入院となった.ステント迷入による膵液瘻と後腹膜膿瘍と診断し,膵液瘻に対し内視鏡的膵管ステント,後腹膜膿瘍に対し経皮経肝ドレナージと内視鏡的経鼻経乳頭的ドレナージを行い保存的に軽快した.膵管ステントの重篤合併症は稀であり,示唆に富む症例として報告する.
消化器内視鏡治療のめざましい発展とともに,安定した治療を施せるような鎮静が求められている.しかし,内視鏡時の鎮静に対する承認が取得できている薬剤はほとんどなく,ミダゾラムやフル二トラゼパムが保険適応外で使用されているのが現状であり,安全かつ確実な鎮静方法の確立が急務となっている.この状況を受けて2013年には日本消化器内視鏡学会より“内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン”が作成され,鎮静が必要と考えられる局面においてどのような鎮静方法が良いのか,指針が示されている.近年では,鎮静薬として,短時間作用型のプロポフォールや呼吸抑制がないプレセデックスが注目を浴びており,消化器内視鏡治療領域においても使用頻度が増している.しかし,その適応や使用方法を誤ると偶発症のリスクが高まるのも事実である.薬剤の特徴,使用方法,モニタリング方法等,今まで以上に事前の学習とトレーニングが必須の時代となっている.
潰瘍性大腸炎(UC)の重要な合併症として癌の発生があるが,存在診断や範囲診断,深達度診断は難しい.腫瘍性異型上皮(dysplasia)の検出が重要である.発病7-10年以降はサーベイランス内視鏡を,できれば寛解期に施行する.UC関連腫瘍の肉眼形態は様々なものがあるが,隆起を伴うことが多い.周囲と異なる粘膜模様や色調変化,領域のある発赤に注意する.白色光観察に加え,色素内視鏡や拡大観察などの画像強調観察により病変を絞り込むが,生検して組織学的検討も行う.以前はステップ生検が推奨されてきたが,近年狙撃生検で十分であることが示された.生検標本の評価には,Ki-67やp53の免疫染色も行う.治療方針決定には炎症性か非炎症性かが重要である.周囲のdysplasiaの存在やp53蛋白の過剰発現は炎症性を示唆する.進歩する画像強調観察も援用して積極的に拾い上げたい.
われわれは,米国消化器内視鏡学会(ASGE;American Society for Gastrointestinal Endoscopy)が開設運営を行っているIT&T(Institute for Training&Technology)Centerを訪問した.ゆとりのある空間で先進的な設備を備えたトレーニングセンターでは,多彩なプログラムの技術講習が多数開催されていた.わが国に,同様の技能研修システムをそのまま導入する事は困難と思われるが,質の高い内視鏡医療を持続してさらに発展させるために,日本消化器内視鏡学会として取り組むべき課題も多く存在する.
【目的】プロトンポンプ阻害薬(以下PPI:Proton pump inhibitor)により胃底腺の拡張や壁細胞の内腔突出といった病理学的変化が報告されている.また,PPI服用者における上部消化管内視鏡検査では,ひび割れ粘膜(以下GCM:Gastric cracked mucosa)や敷石様粘膜(以下GCSM:Gastric cobblestone-like mucosa)などの胃粘膜変化を体部領域に認めることが多いことが知られている.しかし,これらの胃粘膜変化とPPIの関連についての検討はこれまでに報告されておらず,本検討ではPPIと胃粘膜変化(GCM,GCSM)との関連を明らかにすることを目的とする.
【方法】単施設,観察研究.対象は2014年8月から2014年11月までに北海道大学病院で上部消化管内視鏡検査を施行した連続症例.内視鏡施行医と画像確認医師2人の合計3人でPPI内服状況を伏せた状態でGCSM,GCMの有無を評価した.対象をPPI服用者(PPI group)とPPI非服用者(Control group)の2つのグループに分け,胃粘膜所見を比較検討した.
【結果】除外症例を除き最終的に解析対象症例となったのは538症例(Control group:374人,男性/女性:204人/170人,平均年齢:65.2歳;PPI group:164人,男性/女性:89人/75人,平均年齢:67.1歳)であった.全解析症例の54人(10%)にひび割れ粘膜を認め,18人(3.3%)に敷石様粘膜を認めた.PPI groupでは,ひび割れ粘膜は40人(24.4%),敷石様粘膜は15人(9.1%)に認め,Control groupと比較し有意差をもってひび割れ粘膜や敷石様粘膜を多く認めた.
【結語】PPI服用者にひび割れ粘膜と敷石様粘膜を多く認め,PPIとの関連が示唆された.
【目的】4-9mmの大腸腺腫性ポリープに対する,cold snare polypectomy(CSP)とhot snare polypectomy(HSP)の完全切除率を比較検討する.
【方法】日本の12施設における前向きランダム化平行群間比較非劣性試験として行われた.内視鏡的に腺腫性大腸ポリープと診断した4-9mmの広基性病変を,CSP群とHSP群にランダム化して割り付けた.それぞれの方法による内視鏡切除後に,切除断端からの生検を行い診断に供した.プライマリーエンドポイントは完全切除率であり,生検組織に腺腫成分を認めない場合を病理学的完全切除と定義した.
【結果】2015年9月から2016年8月までに施行されたスクリーニング検査において,912人中の538人から,計796の該当するポリープが発見された.完全切除率は,CSP:98.2%,HSP:97.4%で,CSPの非劣性が確認された(+0.8%;90%CI:-1.0 to 2.7;p<0.0001).内視鏡的止血術を要する後出血は,HSPにおいてのみ見られた(0.5%,2/402 polyps).
【結論】HSPに対する,CSPの完全切除率の非劣性が確認され,CSPは4-9mmの大腸ポリープに対する標準切除法の一つとなりうる.
(Study registration:UMIN000018328)