内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)の普及により,広範な食道癌でも内視鏡的切除が可能になった.一方,切除後の粘膜欠損周在性が3/4周を超えた場合には食道ESD後狭窄のリスクが高いことが明らかになってきた.食道ESD後狭窄予防法として,予防的バルーン拡張術やステロイド治療が行われている中で,現在はステロイド局注療法とステロイド経口投与が主流となっている.しかし,その優越性と安全性は明らかではなく,現在,日本臨床腫瘍研究グループにおいて,両者のランダム化比較第Ⅲ相試験が行われている.ただし,本試験は全周性の病変は対象としておらず,全周性ESDでは,他の治療法を併用するなど新たな予防策が必要と思われる.また,ポリグルコール酸シートなどの組織遮蔽法や再生医療としての自己口腔粘膜上皮シート移植の新たな展開と普及にも期待をしたい.
大腸CT検査が報告されてから20年余りが経過した.その間,CT機器は多列化・高速化が進み,以前とは比較にならないような高画質なCT画像が得られるようになった.大腸CT検査は,内視鏡の挿入やバリウムの注入が不要であり,検査時間も短いため,一般的に被験者の負担が少ないのが利点とされる.また大腸内視鏡検査のように高度の熟練を必要としない,重篤な合併症が少ない,等の利点もある.タギングを含む腸管前処置や撮影手法の進歩に伴い,多数の大規模臨床試験で検査精度は担保されている.本邦の大腸がん死亡者数は増え続けている一方で,精検受診率は低迷しており,大腸CT検査の有効活用が期待される.
本検査は2012年から健康保険にも適応となり,被ばく低減技術や前処置の低減の進歩が著しい.近い将来,さらに安全で受容性,精度ともに高い大腸スクリーニング検査法として確立されると考えられる.
症例は91歳女性.早期胃癌に対してESDを施行し,翌朝より上腹部痛,発熱を認め,血液生化学検査で炎症反応の上昇を認めた.CTで肺炎像,free airはなく,胃壁の著明な肥厚を認め,上部消化管内視鏡検査では胃体部粘膜のびまん性の浮腫状変化と発赤を認めた.急性胃蜂窩織炎と診断し,直ちにTazobactom/Piperacillinの投与を開始し,速やかに改善した.胃ESD後の胃蜂窩織炎は稀ではあるが重篤な偶発症あり,画像検査で早期に診断し,適切で十分量な抗菌薬を投与する必要がある.
症例は78歳,女性,近医にて小腸腸閉塞と診断され,保存的加療を行うも腹部症状改善しないため当科転院となった.小腸造影では上部空腸に全周性狭窄を認め,経口的ダブルバルーン小腸内視鏡にて同部位に全周性潰瘍性病変を認めた.生検では特異的な所見は得られなかった.病歴からアスピリン起因性潰瘍と診断し,内視鏡的バルーン拡張術を計4回施行した.症状改善後,退院し経過観察していたが,退院2カ月後に再度腸閉塞を発症したため,再入院し外科手術を施行した.手術所見では狭窄部位は索状物により後腹膜に固定されており,バンドの切離と空腸部分切除を施行した.腹部手術歴のない腹腔内索状物を原因とした二次性潰瘍と小腸狭窄をきたした症例であった.
75歳男性.結腸憩室出血時のカプセル内視鏡にて,小腸に2~3mmのびらんが散在していた.2カ月後,膝関節痛に対してセレコキシブの投与が開始された.その9カ月後に黒色便および鉄欠乏性貧血を認め,カプセル内視鏡にて小腸に多発した潰瘍を認めた.Non-steroidal anti-inflammatory drugs起因性小腸潰瘍と診断し,セレコキシブの投与を中止とし,ミソプロストールおよびレバミピド,ポラプレジンクの投与を開始した.治療開始3カ月後のカプセル内視鏡では潰瘍は改善していた.セレコキシブはシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)選択的阻害薬であり粘膜傷害リスクは低いとされるが,長期投与やプロトンポンプ阻害薬併用時には粘膜傷害リスクが高まる可能性があり,投与には注意が必要である.
症例は73歳,男性.便潜血検査陽性を契機に下部消化管内視鏡検査を施行し,横行結腸に隆起性病変を認めた.拡大内視鏡・超音波内視鏡検査で粘膜下層深部へ浸潤をきたす癌と診断し,生検で中分化型管状腺癌の確定診断となった.外科的腸切除の方針となったが,生検80日後に施行した術前マーキング時の内視鏡検査では病変部の瘢痕化を認めた.腹腔鏡補助下結腸右半切除術が施行されたが,手術標本の病理組織では腫瘍細胞を認めず,大腸癌の自然消退と考えられた.
本邦では膵癌術前に内視鏡的ドレナージが一般的に施行される.近年では膵癌治療において術前治療(化学療法,放射線化学療法)によって根治切除率の向上が報告されており,予後を改善する可能性が示唆されている.術前治療例では手術までの期間が3カ月以上になることが多いため,待機期間中の胆管炎の危惧から金属ステントを留置される症例が増加している.本稿では術前治療例を含めたCovered Metallic stent留置の適応,手技の実際について概説する.
電子カルテの到来により,多くの病院で画像ファイリングシステムや内視鏡データベースが普及してきている.しかしながら,異なったベンダー間でのデータ統合は行われていない.筆者らは,2015年1月より,日本消化器内視鏡学会の一事業として,JED(Japan Endoscopic Database)プロジェクトを開始した.
本プロジェクトの目的は以下の通りである.
1)通常の内視鏡診療から作られた世界最大の内視鏡データベースの構築
2)日本の内視鏡診療の現状の把握
3)臨床研究用のレジストリーのための,用語と基本的項目の標準化
さらには,偶発症,修練医の達成度や評価,国内で施行されている内視鏡実数の把握などの自動収集の可能性もひめている.筆者らは,このデザインペーパーが,将来の国内多施設研究のみならず,海外多施設研究にも有用となると信じている(UMIN000016093).
【目的】プロトンポンプ阻害剤(PPI)の長期投与によって,ヘリコバクターピロリ菌(HP)感染者において胃粘膜萎縮が進行することが報告されている.われわれは,HP除菌治療を受けた既感染者におけるPPI長期使用の胃癌発症に与える影響を明らかにするために本検討を行った.
【デザイン】この検討は,2003年から2012年までの間にクラリスロマイシンを使用した3剤除菌治療を行った外来患者を対象として,香港の健康データベースを使用して行われた.このレジメンで除菌できなかった症例,除菌治療後12カ月以内に胃癌の診断がされた症例,除菌治療後に胃潰瘍を発症した症例は除外した.また,胃癌が診断された半年以内にPPIやヒスタミン受容体拮抗薬(H2RA)が開始された患者はバイアスを考慮して除外した.われわれはプロペンシティスコアを利用したCOXハザードモデルを使用してPPI内服による胃癌発症リスクを評価した.
【結果】63,397人の対象者の中で153人(0.24%)が平均7.6年の観察期間中に胃癌が発症した.PPIの使用で胃癌発症のリスクが2.44(95%CI:1.42-4.20)倍に有意に増加したが,H2RAの使用時は0.72(1.48-1.07)とリスクの増加は認めなかった.また,胃癌発症のリスクはPPIの投与期間と正の相関を示し,投与期間の延長に伴いリスクが増加した[PPI内服1年:5.04(95% CI:1.23-20.61),2年内服:6.65(1.62-27.26),3年内服:8.34(2.02-34.41)].PPIの非内服者と内服者の10,000人年あたりの胃癌発症リスクの差は,4.29(95%CI:1.25-9.54)であった.
【結論】長期間のPPIの使用は,HP除菌治療後にもかかわらず,胃癌発症リスクを増加する可能性があり,使用する際には注意を要する.