腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)と様々な疾患との関連が明らかになり,腸内環境の改善を目的とした便移植療法(FMT:Fecal Microbiota Transplantation)に注目が集まっている.本邦においても,近年急増する潰瘍性大腸炎(UC)患者への新しい治療選択肢として期待が高まっている状況である.FMTは難治性Clostridium difficile感染性腸炎に対して高い治療効果を示し,欧米では既に実用化されているが,他疾患に対する治療効果については不明瞭であった.2017年2月に報告されたランダム化比較試験でUCに対するFMTの有効性が証明されたが,凍結ドナー便を40回自己浣腸する方法であり,治療手技の煩雑さや不確実性を考慮すると,現実的な治療選択肢になりうるかは疑問が残る.われわれも,UCに対して抗菌剤療法をFMT前に行い,大腸内視鏡下で新鮮便を投与する抗菌剤併用療法(Antibiotics-FMT:A-FMT)について報告してきた.特にUCについてはドナー便の選択,投与法など様々な手法が試されているが,未だ標準化されておらず,疾患に応じた安全で有効,かつ効率的なFMTプロトコールの確立が望まれている.
【背景・目的】他疾患との内視鏡的鑑別診断を行うために,カンピロバクター腸炎とサルモネラ腸炎の内視鏡像の特徴を明らかにすることは意義があると考えられる.【方法】7年間に当院で経験した両疾患について,臨床像,罹患部位,内視鏡像を後方視的に検討し比較した.内視鏡像を検討できたのはカンピロバクター腸炎43例とサルモネラ腸炎7例であった.【結果】両疾患の臨床像は類似しており差はなかった.罹患部位は下行結腸~直腸についてはカンピロバクター腸炎で有意に高率であった.大腸の内視鏡所見は,両疾患とも粘膜内出血と浮腫が特徴であった.大腸の潰瘍出現率はサルモネラ腸炎が29%で有意に高かった.回盲弁の潰瘍出現率はカンピロバクター腸炎が45%で有意に高かった.【結論】両疾患における大腸内視鏡像の特徴は粘膜内出血と浮腫であり,両疾患の鑑別には回盲弁の潰瘍の有無と大腸の潰瘍の有無が有用である.
症例は18歳,男性.腹痛,黒色便にて当院に救急搬送された.上部消化管内視鏡検査にて十二指腸に多発する縦走潰瘍を,胃噴門部に竹の節状外観を認めた.下部消化管内視鏡検査,小腸造影,カプセル小腸内視鏡検査,ダブルバルーン小腸内視鏡検査を施行し,全消化管を観察しえたが胃十二指腸潰瘍以外には特記すべき異常所見を認めなかった.
十二指腸病変からの生検にて非乾酪性肉芽腫を認め,胃十二指腸に限局するクローン病と確定診断した.
症例は79歳,女性.主訴は食欲不振,上腹部違和感,嘔気.腹部CTにて十二指腸肝嚢胞瘻が疑われ,上部消化管内視鏡で,球部前壁に径6mmの瘻孔を認めた.瘻孔造影により肝嚢胞が描出されるも,腹腔内への造影剤漏出はなかった.急性汎発性腹膜炎症状がないため保存的加療を選択し,瘻孔は縮小したが,瘻孔開口部より膿汁の流出を認め,小開腹肝嚢胞ドレナージを施行した.その後,瘻孔は閉鎖,肝嚢胞は胆道系との交通を認めたが自然に縮小が得られた.十二指腸潰瘍肝嚢胞瘻では肝嚢胞の外ドレナージを併用することにより急性期の外科治療侵襲を回避して瘻孔閉鎖が期待できる例もあり,治療法の選択肢になりうる.
82歳,男性.下血により当科紹介入院となった.既往に脊柱管狭窄症の手術歴があり,腰痛のためdiclofenac sodiumが長期間投与されていた.下部消化管内視鏡検査では,横行結腸脾彎曲口側に膜様狭窄を認め,通常の内視鏡は通過しなかった.このため,細径内視鏡を用いて狭窄を通過し,盲腸まで観察した.回盲部から横行結腸にかけて,多発する潰瘍性病変と11カ所に及ぶ高度膜様狭窄を認めた.生検,組織培養にて疾患特異的所見は認めず,非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)起因性大腸病変と診断し手術を施行した.NSAIDs起因性大腸膜様狭窄の報告例は少なく,組織学的所見を含めて報告する.
症例は45歳,女性.便鮮血陽性のため下部消化管内視鏡検査が施行され,肝彎曲に径5mmの発赤したⅡa様形態のポリープが存在したため,診断的治療目的にEMRを実施した.粘膜固有層に異型性の乏しい線維芽細胞様の紡錘形細胞の増生を認め,背景にはリンパ球や形質細胞を主体とした炎症細胞浸潤を認めた.免疫染色では,紡錘形細胞はvimentin,glut-1,claudin-1が陽性,desmin,c-kit,CD34,α-smooth muscle actin,S-100,epithelial membrane antigenが陰性を示し,Ki-67陽性率1%未満であり,類似する他疾患を除外し,benign fibroblastic polyp(perineurioma)と診断した.本疾患の報告自体が非常に稀であることに加え,本症例の内視鏡像はこれまでの報告とは異なった所見を呈しており,貴重な症例であると考え,文献的考察を加え報告する.
レーザー内視鏡では狭帯域光観察であるBlue Laser Imaging(BLI)やLinked Color Imaging(LCI)が可能である.BLIにはBLIモードとBLI-brightモードがあり,前者は拡大観察による質的診断,後者は明るい視野による遠景観察におけるポリープの発見に有用である.一方でLCIはBLI-brightよりもさらに明るく病変の発見に有用な可能性が示唆される.本稿ではBLI,LCIの実臨床における手技の解説を行う.
切除不能悪性肝門部胆管閉塞(malignant hilar biliary obstruction:MHBO)に対して,self-expandable metal stent(SEMS)やplastic stent(PS)を用いた低侵襲な内視鏡的胆管ドレナージ術が広く行われている.これまでMHBOに対して用いられてきたmetal stentは,uncovered SEMSであったが,近年,内視鏡的胆管covered SEMS(CSEMS)留置術の成績が報告され,注目されている.われわれの施設で行った切除不能MHBOに対するpartially CSEMSを用いた内視鏡的胆管side-by-side留置術の実際と治療成績について解説する.
【背景と目的】潰瘍性大腸炎(UC)患者は背景人口と比べ大腸癌のリスクが高い.その死亡率を下げる目的でガイドラインではサーベイランス内視鏡(SCS)を推奨しているが,そのガイドラインを医師が遵守しているかは十分に検証されてこなかった.今回われわれは日本においてUCに生じる癌・dysplasiaに対するSCSの現状を明らかにするために検討を行った.
【方法】2013年に炎症性腸疾患に関する研究会の参加医師541名に対し郵送によるアンケート調査を行った.
【結果】回答者のUC患者経験数の中央値は100であった.回答者の30%は癌合併例を経験したことがなく,51%は自分でUC合併大腸癌を発見したことがなかった.SCSの対象者について尋ねると47%の回答者は全大腸炎型および左側大腸炎型と答えたのに対し,38%は直腸炎型を含むすべてのUCを対象にしていた.罹病期間では63%の回答者が発症後7-10年経ってからSCSを開始していたが,20%は3年以下の症例も対象としていた.生検方法では52%が標的生検のみで行っており,49%で色素内視鏡を併用していた.SCSで行う生検数の中央値は回答者全体では5であったが,標的生検を行う医師の中央値は3であったのに対し,ステップ生検を併用する医師の生検数の中央値は7であり,統計学的に有意な差があった(p<0.0001).
【結論】SCSを施行するうえで,無視できない比率の回答者がガイドラインと異なる患者選択を行っていた.
【背景】プロトンポンプ阻害薬(PPI)が胃酸抑制により小腸粘膜傷害(びらん・潰瘍)を増悪させる可能性が報告されているが,小腸粘膜傷害のリスクにはPPI以外の様々な薬剤や併存疾患が関与しており,PPIそのものによる小腸粘膜傷害の影響は明らかでない.
【目的】Propensity score matching(傾向スコアマッチング)法を用いて,PPI内服者・非内服者間における背景因子のバイアスを調整し,PPIと小腸粘膜傷害の関連を明らかにする.
【方法】2010年から2013年までに日本カプセル内視鏡学会所属の本邦18施設において,小腸カプセル内視鏡検査が施行された患者を前向きに登録した.これらを対象に,年齢,性別,併存疾患,PPI以外の薬剤因子からロジスティック回帰分析を用いてPropensity scoreを算出し,PPI内服群と非PPI内服群にPropensity score matchingを行い,小腸粘膜傷害(びらん・潰瘍)の有病率を両群間で比較した.さらに非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)内服者と非内服者間でサブグループ解析を行った.
【結果】登録された1,769人からPropensity score matching法によりPPI内服群327人,非PPI内服群327人を選択した.小腸粘膜傷害の有病率はPPI内服群93人(28.4%),非内服群85人(26.0%)で両群間に有意差を認めなかった.また,NSAIDs使用者と非使用者におけるサブグループ解析においても,PPI内服群と非内服群間において小腸粘膜傷害の有病率に有意差を認めなかった.
【結語】使用したPPIの種類およびNSAIDs使用の有無にかかわらず,PPIは小腸粘膜傷害の有病率を増加させなかった.