非乳頭部十二指腸腺腫は,全体的あるいは部分的に白色調を帯びた平坦隆起性病変として観察される.粘膜内癌の特徴としては白色化の消退,赤色調,腫瘍径大,凹凸不整およびNBI拡大における粘膜模様の不明瞭化などが挙げられている.しかしながら鑑別は容易ではなく,内視鏡もしくは生検による正診率は68-78%と報告されている.生検後に粘膜下層の線維化をきたして内視鏡治療の難易度を上げてしまうため,安易な生検は避けたほうがよい.十二指腸ESDは,完全切除が理論上可能だが,技術的に困難で穿孔率が高い.十二指腸内視鏡治療後の粘膜欠損部においては,膵液・胆汁・胃液の曝露により術後合併症のリスクが高く,積極的に内視鏡的閉鎖術を行うことが勧められる.
【背景・目的】進行食道癌におけるステント留置の有効性と安全性について後方視的に検討した.【方法】当科で2008年1月~2016年8月に金属ステント(Self-Expandable Metallic Stent;以下SEMS)留置を施行した進行食道癌42症例を対象とし,放射線治療の有無と留置したSEMSの種類で分類し,その有効性(Dysphagia score改善率,飲水や食事摂取までの期間,生存期間)と有害事象発現率を比較した.【結果】年齢中央値は67.5歳,腫瘍の占拠部位は中部食道が27例(64.2%)と最多だった.放射線治療有無別の比較では有効性,安全性共に有意差は認めなかった.SENS種類別の比較では有効性,全グレードの有害事象発現率において有意差はなかったが,重篤な有害事象(Serious Adverse Event;以下SAE)の発現はSEMSの種類に関連を認めた(P<0.01).【結論】SEMSの安全な留置のためには,ステントの機械的特性を考慮して症例ごとに適したステントを選択することが重要である.
症例は55歳男性.18年前より嚥下困難を自覚していた.右胸痛を主訴に近医を受診し,当院に紹介となった.食道アカラシア(Flask type)及び多発表在型食道癌(胸部上部食道1病変,胸部中部食道5病変)と診断した.多発表在型食道癌に対して内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)を施行,最深病変の病理組織診断は,扁平上皮癌,pT1a-MM,ly(-),v(-)であった.ESD3週間後に,アカラシアに対して,内視鏡的バルーン拡張術を施行した.アカラシアおよび多発表在型食道癌に対して,内視鏡治療が可能であった1例を経験したので報告する.
症例は29歳男性.腹痛を主訴に近医を受診し,Helicobacter pylori(HP)感染を指摘,除菌療法を施行された.その翌日に症状が増悪し腸炎疑いで当院に緊急入院となった.入院後に下腿の紫斑が出現し,上下部消化管内視鏡検査を施行したところ,食道,胃,十二指腸,回腸,結腸にびらんを認め,IgA血管炎による消化管病変と考えられた.プレドニゾロン内服後は,腹部症状は消失し紫斑も改善した.IgA血管炎の食道病変を内視鏡で観察し得た報告例は少なく貴重な症例と考えられる.またIgA血管炎には消化器症状が先行する例もあり,内視鏡所見は多彩な像を呈することが多いため,IgA血管炎の消化管病変の特徴を認識しておくことが重要と考えられた.
症例は76歳の女性.発熱と心窩部痛を主訴に受診し,高度の炎症反応を認めた.造影CT,MRI,EUSで膵尾部に70mm大の被膜を有する多房性嚢胞がみられた.病変はcyst-in-cystの形態を呈しており,嚢胞内に造影効果のある10mm大の壁在結節を認めた.ERPで膵管との交通を認め,嚢胞液では好中球が増加し,細菌培養で大腸菌(Escherichia coli)が検出された.以上から,細菌感染を伴った膵粘液性嚢胞腺癌と診断し,外科的切除術を施行した.病理学的に,嚢胞壁内に卵巣様間質を認め,壁在結節部は腺癌であった.
感染性膵嚢胞をみた場合には,腫瘍性嚢胞の可能性も念頭におき,治療法を検討する必要がある.
High resolution esophageal manometry (HREM)はカテーテルに1cm間隔でsolid state sensorを配置した内圧測定法である.HREMを用いたシカゴ分類では食道運動障害が体系的に分類され,診断フローチャートに各パラメータの値を当てはめるだけで食道運動障害を診断できるようになった.食道アカラシアは嚥下時の食道胃接合部の弛緩不全と食道体部の蠕動運動の消失を特徴とする疾患であり,シカゴ分類では3つのタイプが提唱され,タイプにより治療反応性が異なることが報告されている.なお,HREMでは使用する機器により基準値が異なることが知られており,注意が必要である.HREMは簡便であるが,測定された値のみを重視すると診断を見誤ることもあり,食道造影検査などの他の検査も併用して,総合的に診断することが重要である.
クローン病患者において,小腸狭窄は重要な合併症であり,その治療については未だ課題が多い.外科的切除で治療しても,クローン病を完治させることはできない.再燃して生じた狭窄に対して外科的切除を繰り返せば,短腸症候群になってしまう.バルーン内視鏡の登場により,深部小腸の狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術も可能となった.バルーン拡張術後に再狭窄することもあるが,繰り返し治療することが可能で,外科的治療を長期にわたって回避できる.本稿では,クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術について,多数例の治療経験から編み出された戦略や工夫について紹介する.
超音波内視鏡EUSによる粘膜下腫瘍の診断は,主存在層(由来層),腫瘍のエコーレベル,内部エコーパターンにより鑑別診断がある程度可能である.脂肪腫,リンパ管腫,嚢胞は,特徴的な所見を有するため,Endoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration(EUS-FNA)の必要性はない.迷入膵とGlomus腫瘍は,3,4層由来の腫瘍として同定され,前庭部に多く認められる.しかしながら,4層が肥厚様に描出される3,4層由来の迷入膵(深層型)は,多くは大きく,胃体部に見られることが多い.各々の粘膜下腫瘍は,特徴的な所見を有するが,第4層由来の腫瘍の画像診断による鑑別診断は,たとえ造影エコーを用いても難しい.それゆえ,これらの鑑別にはEUS-FNAを行わなければならない.しかしながら,小さな腫瘍に対するEUS-FNAの診断能は,臨床的な要求を満足するものではないため,第4層由来のこれらの腫瘍は,最初は6カ月後に経過観察し,もしもその時点で大きさ,形態が大きく変化してない場合には1年毎の経過観察とすべきと考えている.これらの腫瘍が1-2cm以上となった時点で,EUS-FNAによる診断が推奨される.さらに,結節分葉状,内部不均一,無エコー域,潰瘍などの悪性所見を有するなど通常とは異なる粘膜腫瘍もEUS-FNAの適応である.フードを装着した直視型超音波内視鏡は,小さな粘膜下腫瘍に対するEUS-FNAに有用である.
【背景】出血は内視鏡的乳頭括約筋切開術(Endoscopic sphincterotomy:EST)の重篤な有害事象の1つである.しかしながら,EST後の後期出血に関与する危険因子は明らかにされていない.
【対象と方法】2011年1月から2015年12月の間にESTを施行した連続患者を対象にして,後期出血の発生率,治療成績,危険因子につき遡及的に検討した.後期出血は内視鏡治療後24時間以降に発症した症候性出血と定義した.
【結果】対象期間に1,113名の患者にESTが施行され,後期出血は30名(2.7%)に認められた.後期出血の発症時期の中央値はEST後2日(1-6日),その重症度は軽度4例,中等度20例,高度6例であり,すべての患者で内視鏡止血が得られた.
単変量解析では,血液透析(p=0.013),抗血栓薬のヘパリン置換(p=0.012),EST直後の早期出血(p<0.001)を認めた患者に高頻度に後期出血が認められた.多変量解析により血液透析(OR 6.44,95% CI 1.67-24.8;p=0.007),ヘパリン置換(OR 3.76,95% CI 1.42-9.98;p=0.008),EST後早期出血(OR 4.35,95% CI 1.90-9.96;p<0.001)は独立した後期出血の危険因子であることが判明した.
【結語】EST後の後期出血は2.7%に認められ,血液透析,ヘパリン置換,EST後早期出血が危険因子と考えられた.