早期胃癌ESD/EMR後に胃癌治療ガイドラインにおける内視鏡的根治度C-2(非治癒切除)と判定された際には,リンパ節転移のリスクから全例で追加外科切除が推奨されている.しかし,実際には29-70%が無治療経過観察となっている.早期胃癌内視鏡的根治度C-2の際のリンパ節転移率は4-11%とされており,その最も強い独立危険因子はリンパ管侵襲と報告されている.また,他にも静脈侵襲などの独立危険因子があり,これらを組み合わせた早期胃癌内視鏡的根治度C-2病変のリンパ節転移を予測する簡便なスコアリングシステム(eCura system)を報告した.同システムは胃癌死を予測する臨床的に有用な指標となると思われる.一方,わが国では人口の高齢化とともに胃癌患者の高齢化も進んでおり,高齢早期胃癌ESD/EMR根治度C-2患者に対して非胃癌死も含んだ生命予後全体を予測可能なシステムの確立が望まれる.
急性胆嚢炎に対する内視鏡治療には,ERCP下に行う経乳頭的アプローチ(ETGBD)とEUSを用いる経消化管的アプローチ(EUS-GBD)がある.ETGBDは胆嚢管を突破するという技術的困難さから成功率は若干低いが,PTGBD不能例に対する代替治療として確立されており,また内瘻化することで胆嚢炎再発に対する長期予防効果も期待されている.EUS-GBDは2007年に始まった新しい方法であるがそのエビデンスの量はETGBDをすでに凌駕している.高い成功率と安全性を有し,長期予後も良好であり,さらに使用するステントによっては結石除去まで行うことが可能である.今後PTGBDに代わる第一選択の治療法となる可能性を秘めている.本稿では,ETGBDおよびEUS-GBDについて,適応,方法,短期成績,長期成績,偶発症,PTGBDとの比較などについて最新のエビデンスに基づき解説する.
嚥下困難を自覚,3カ月間に8kgの体重減少を認めた75歳男性.下部食道が狭窄しており,狭窄部口側に食道壁内偽憩室症を認めた.狭窄に対し,内視鏡的食道拡張術を行い,症状は改善した.偽憩室のnarrow band imaging(NBI)像は陥凹した淡茶色斑点で,その拡大像では睫毛様に配列するintraepithelial papillary capillary loop(IPCL)で囲まれた褐色の陥凹の中央に固有食道腺導管の開口部を認めた.開口部は透明な粘液を排出していた.食道壁内偽憩室症は比較的稀な疾患でありその特徴的な内視鏡所見を報告した.
62歳男性.黒色便,一過性意識消失にて緊急搬送.緊急上部消化管内視鏡検査を行ったが出血源を特定できず,下部消化管用の内視鏡に変更し観察したところ,Treitz靭帯付着部の粘膜下隆起から噴出性の出血を認めたため内視鏡的止血術を行った.十二指腸水平部より遠位の小腸GISTに対して内視鏡的止血術を行った報告は少ない.われわれは空腸GISTに対して内視鏡的止血術を行った症例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.
症例は79歳女性.食欲不振から全身状態悪化し当院救急搬送.精査の結果糖尿病性ケトアシドーシスの診断となり当院入院となった.治療経過中に腹部膨満感出現,腹部CTにて結腸の拡張を認め下部消化管内視鏡検査にて結腸全体の多彩な潰瘍性病変を認め,腸管サイトメガロウイルス(CMV)感染症の診断となり,ガンシクロビルによる加療を開始した.その後症状は速やかに改善,治癒となったがその後便秘症状が出現し,下部消化管内視鏡検査にてS状結腸にスコープ通過不能な狭窄を認めた.腸管CMV感染症治癒後瘢痕による消化管狭窄と診断,狭窄解除目的に内視鏡的バルーン拡張術(EBD)を施行,術後経過良好で現在再発なく経過している.
症例は65歳男性.便潜血反応検査陽性のため,精査目的に大腸内視鏡検査が施行されたが,S状結腸で挿入困難となり途中で中止した.注腸検査では,左鼠径ヘルニア嚢内にS状結腸が脱出していて,挿入困難の原因と考えられた.鼠径ヘルニア根治術施行後は,容易に検査を完遂することが可能であった.鼠径ヘルニアは高齢者でよくみられる疾患であるが,大腸内視鏡検査の合併症としても報告されている.挿入困難のみでなく,穿孔や抜去不可能により緊急手術が必要になる事もあるため注意が必要である.高齢者に大腸内視鏡検査を施行する際には,検査前に鼠径ヘルニアの有無を聴取するとともに挿入困難の原因となりうることを念頭に置くことが必要であると思われた.
経口胆道鏡には,十二指腸内視鏡を用いて,胆道鏡を胆管内に挿入する親子式胆道鏡と,細径の内視鏡を直接胆管内に挿入する直接胆道鏡がある.さらに親子式には2名以上の術者で操作する手技に加え,単独の術者で操作可能なSingle operator cholangioscopy(SOC)が開発され,その有用性が注目されている.経口胆道鏡の主な適応は,①胆管狭窄の良悪性鑑別診断,②胆管癌の表層進展度診断,③直視下生検,である.これに加え,通常の結石除去が困難な胆管結石(肝内結石を含む)に対し胆道鏡下の水中衝撃波(EHL)やlaserによる結石治療に用いられている.胆道鏡による悪性を疑う所見は,不整に拡張・蛇行した血管の存在,不整な乳頭状腫瘍の存在,粘膜下腫瘍様の結節隆起,易出血性の粘膜,があげられる.これに対し,良性を疑う所見は,規則正しい配列の細血管を有する平坦な粘膜,丈の低い均一な顆粒粘膜,粘膜不整のない表面の凹凸変化,などである.しかしながら,胆道鏡の内視鏡所見による診断基準はいまだに確立されていない.また,胆管は炎症性変化や留置したチューブやステントによる修飾を受けやすく,胆管生検や他の画像診断による総合的な判定が不可欠である.
【背景と目的】大腸カプセル内視鏡は大腸を検索する安全で有効な検査法である.しかしながら,大腸カプセル内視鏡検査における進行大腸癌の診断感度については十分に評価されていない.そのため本研究では,大腸カプセル内視鏡検査における進行大腸癌の診断感度を明らかとすることを目的とした.
【方法】通常大腸内視鏡検査で進行大腸癌と診断された患者に大腸カプセル内視鏡検査を行った.主要評価項目はPer-patient,Per-lesion解析での大腸カプセル内視鏡検査における進行大腸癌の診断感度とした.副次評価項目はper-lesion解析での大腸カプセル内視鏡検査における6mm以上と10mm以上,それぞれの大腸ポリープの診断感度と大腸カプセル内視鏡検査の安全性とした.
【結果】進行大腸癌20人,21病変のうち,17人17病変を大腸カプセル内視鏡検査で診断した.大腸カプセル内視鏡検査における進行大腸癌の診断感度はper-patient解析で85%(95%信頼区間62-97%),per-lesion解析で81%(95%信頼区間58-95%)であった.カプセル内視鏡が作動中に病変まで到達していた症例は,全例で進行大腸癌が診断された.進行大腸癌を診断できない要因として,大腸カプセル内視鏡検査の未完遂が有意な因子であった.重篤な検査の有害事象は認めなかった.
【結論】検査が未完遂である場合に大腸カプセル内視鏡検査における進行大腸癌の診断能は低い.大腸カプセル内視鏡検査による進行大腸癌の診断能の向上には,検査の完遂率を上げるための改良が必要である.
日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「POEM診療ガイドライン」を作成した.POEM(Peroral endoscopic myotomy)は,食道アカラシアおよび類縁疾患に対して本邦で開発された新しい内視鏡的治療法であり,国内外で急速に普及しつつある.したがって,本診療ガイドラインの作成が強く望まれた.しかしながら,この分野においてこれまでに発表された論文はエビデンスレベルの低いものが多く,また長期成績はまだ出ていないため,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決定しなければならなかった.主として,トレーニング,適応,検査法,前処置,麻酔,方法,成績,有効性,偶発症,他治療との比較などの項目について,現時点での指針をまとめた.
【目的】食道アカラシアに対する治療法として,経口内視鏡的筋層切開術(peroral endoscopic myotomy;POEM)と腹腔鏡下筋層切開術(laparoscopic Heller myotomy;LHM)の治療成績を比較することを目的とした検討である.
【背景】約20年にわたり食道アカラシアに対する治療法の第一選択はLHMであったが,2010年にPOEMが初めて報告され,それ以降は広く行われるようになった.しかしPOEMの長期成績はいまだ不明で,両者のランダム化比較試験も行われていない.
【方法】食道アカラシアに対する治療法としてのLHMおよびPOEMに関する論文をMedlineより検索した.主な評価項目は,嚥下障害の改善と術後の胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease;GERD)である.
【結果】LHMに関する53論文(5,834例)とPOEMに関する21論文(1,958例)を対象とした.経過観察期間の中央値は有意にLHMの報告で長かった(41.4カ月 vs. 16.2カ月,p<0.0001).治療後12カ月での通過障害の改善割合はPOEMで93.5%,LHMで91.0%(p=0.001),治療後24カ月ではPOEMで92.7%,LHMで90.0%(p=0.001)であった.POEMを施行した症例は術後のGERD症状(OR=1.69, 95%CI:1.33-2.14,p<0.0001),びらん性食道炎(OR=9.31,95%CI:4.71-18.85,p<0.0001),pHモニタリング上の胃食道逆流(OR=4.30,95%CI:2.96-6.27,p<0.0001)の頻度が有意に高かった.平均在院日数はLHM群よりPOEM群で1.03日長かった(p=0.04).
【結論】今回の検討により,嚥下障害の改善という短期成績の結果はPOEMの方が良好であるが,一方で術後逆流の頻度が非常に高いことが示唆された.