判例データベースで検索可能で,かつ,判決文が入手可能な上部消化管内視鏡・X線検査が関係した民事訴訟事例は,13事例(内視鏡検査関連9事例およびX線検査関連4事例)認められた.内視鏡検査が関係した9事例の内訳は,前処置後のショックが関係したものが4事例,胃癌の見落としおよび生検後の大量出血に関係したものがそれぞれ2事例,鎮静後の交通事故に関係したものが1事例であった.X線検査が関係した4事例の内訳は,胃癌の見落としとバリウムによる腸管穿孔に関係したものがそれぞれ2事例であった.5事例で医療機関側が勝訴しており,患者に悪い結果が生じたからといって,必ずしも医療機関側の責任とされてはいなかった.医療機関側の責任が認められるためには,3つの要件(患者側の損害,医療機関側の過失,因果関係)が揃う必要がある.事故時には,速やかに上記3要件について検討し,患者側に対する医療機関側の態度を決定する必要がある.
A型胃炎とは自己免疫性胃炎のことであり,自己免疫的機序により胃底腺領域の高度粘膜萎縮および化生を認め,ビタミンB12や鉄などの吸収障害が起こり,神経内分泌腫瘍や胃癌を合併しうる.特徴的な所見は,胃底腺領域の萎縮を内視鏡や生検組織などで認め,抗壁細胞抗体や抗内因子抗体が陽性となり,ガストリン値が高値,ビタミンB12が低値となる.治療法はなく,ビタミンB12や鉄などの補充を行うとともに,胃癌のサーベイランス,合併症の検索を行う.診断されていない症例が多いと考えられ,自己免疫性胃炎を鑑別に挙げることが大切である.
Helicobacter pylori(HP)陰性胃癌とは,大きくわけて,未感染,除菌後,既感染の3種類に分けられる.今回はHP陰性胃癌のなかで未感染胃癌,除菌後胃癌の特徴について述べる.未感染癌は,HP感染とは全く別の理由で胃癌が発生している癌であり,未分化型癌,胃底腺型胃癌が代表的なものである.未分化型腺癌の多くは印環細胞癌で褪色調のⅡc,Ⅱb病変であることが特徴である.胃底腺型胃癌は体部腺領域に発生し,粘膜下腫瘍様の形態を呈する腫瘍である.また遺伝的な背景をもつもののなかに,遺伝性びまん胃癌,家族性大腸ポリポーシスに伴う胃癌がある.その他には自己免疫性胃炎に伴う胃癌,EBV関連胃癌があげられる.これらの特徴を知ることはHP未感染背景の胃粘膜に生じうる胃癌の発見に重要である.除菌後胃癌の多くは分化型癌であり,平坦陥凹型を呈することが報告されている.除菌後分化型癌では表層粘膜をnormal epithelim,もしくはepithelium with low grade atypia(ELA)が覆い,NBI拡大内視鏡で胃炎様の変化が癌部に現れる現象や,生検診断や,癌の範囲診断が難しい症例が報告されている.
77歳女性,心房細動にダビガトラン開始半年後の上部消化管内視鏡検査(以下EGD)で中部食道に軽度のびらんを認め,時に喉のつまり感があった.2年後のEGDで中部食道のびらんがやや増悪しプロトンポンプ阻害薬を追加した.4年後のEGD所見も同様だったが生検で異型上皮が疑われ,3カ月後のEGDで中部食道に縦走帯状の厚い白色膜様物付着が出現し,更に3カ月後のEGDで改善なく,ダビガトランをアピキサバンに変更後症状は2-3日で消失し2カ月後のEGD所見は正常化した.ダビガトラン投与例では,投与期間や症状の有無によらず定期的EGDを施行し,食道炎を認めた際にはダビガトランの中止変更が望ましいと考える.
62歳男性.肝機能異常で当院を受診し,心臓超音波検査で心タンポナーデを認めた.心嚢ドレナージ術を行ったところ,心嚢液から扁平上皮癌細胞を認めた.原発巣の検索では,上部消化管内視鏡で胸部中部食道に粘膜内癌,胸部下部食道に粘膜下層癌を疑う病変を認めた.生検にて両病変からも扁平上皮癌を認めたため,癌性心膜炎を併発した多発食道表在癌(cT1bN0M1 cStage Ⅳb)と診断した.化学療法を施行したところ,胸部中部食道病変のみ残存を認め,その他の病変はすべて消失した.追加治療として残存病変に対してESDを行い,治癒切除が得られた.ESD後は追加治療を行っていないが,10カ月再発を認めていない.
症例は60歳男性.狭心症で抗血栓薬を内服中,黒色便を主訴に救急外来受診,緊急上部消化管内視鏡検査で十二指腸憩室内に活動性出血を認め,内視鏡的に止血した.本邦で報告された302例の十二指腸憩室出血と内視鏡治療となった194例の治療詳細について文献的考察を加えて報告する.
症例は35歳男性.下痢精査目的に下部消化管内視鏡検査を施行したところ回盲弁から上行結腸にかけて発赤と白苔付着を伴うびらん,さらに腸管浮腫など強い炎症所見を認めた.同部位から生検を施行したところ,表層上皮に接して羽毛状の菌体が付着しており,腸管スピロヘータによる大腸炎と診断された.各種検査にてアメーバは否定的と考えられた.メトロニダゾール(250mg×4/日)の内服を開始し,2週間の投与で下痢症状の改善を認めたため内服終了とした.今回われわれは内視鏡的に強い炎症所見を呈する腸管スピロヘータ単独感染を疑う大腸炎という稀な1例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.
食道アカラシアは,下部食道括約部(lower esophageal sphincter:LES)の弛緩不全と食道体部の蠕動運動の障害を認める原因不明の食道運動機能障害である 1),2).経口内視鏡的筋層切開術(Per-Oral Endoscopic Myotomy:POEM)はInoueらによって考案された食道アカラシアに対する画期的な治療法で,その登場により,食道アカラシアの治療体系は大きく変わった 3).しかしながら,POEMは従来の内視鏡治療と比べて,外科手術の要素を多く含んでいるため,臨床上問題なく行うためのポイントも存在する.本稿では,POEMを安全かつ効果的に行うためのコツと注意点について述べたい.食道アカラシアの診断には上部消化管内視鏡検査,食道 X 線造影検査,食道内圧検査,胸腹部CT検査を行う.これらの検査で食道アカラシアと確定診断され,POEMを施行する場合は,外科手術に準じた全身麻酔のリスク評価を行う.POEMを行うにあたっては,気管内挿管のもと,全身麻酔下で行うが,内視鏡からの送気は必ずCO2を使用する.空気送気でPOEMを行うことは禁忌である.
筋層切開の始点は,自覚症状(つかえ感の位置),食道造影検査での狭窄部位,食道内圧検査での亜分類(シカゴ分類)をもとに決定し,筋層切開の終点は胃側2cm前後のところに置く.胃側まで筋層切開が進んだことを確認する方法としては,Double scope法が推奨される.
超音波エラストグラフィは組織硬度を画像化するソフトウェアである.消化器領域において超音波エラストグラフィは,主として体外式超音波を用い肝臓の線維化の線維化診断の有用性が報告されている.EUSエラストグラフィは,EUSの高い病変描出能および空間分解能を活かし,膵,胆道疾患,消化管粘膜下腫瘍診断の組織硬度情報を得る新たな画像強調法として近年有用性が報告されてきている.EUSエラストグラフィにはストレイン法が用いられ,関心領域内の相対的硬度を画像化する.本稿においては,EUSエラストグラフィの走査法並びに画像の解析,評価の実際を症例を交えて概説する.
自己免疫性水疱症は自己抗体により細胞間接着が障害され,皮膚や重層扁平上皮に水疱が形成される疾患の総称である.多くは皮膚に水疱やびらんを形成するが,目,鼻,口腔粘膜,口唇,咽喉頭,食道などの重層扁平上皮にも水疱やびらんを形成することがある.しかし,咽喉頭および食道粘膜における病変の発生頻度や特徴についてはよく知られていない.この研究においては,自己免疫性水疱症における上部消化管内視鏡検査の重要性を評価することを目的とし,内視鏡的な咽喉頭食道病変の発生頻度をprimary endpoint,内視鏡的・臨床的特徴を見出すことをsecondary endpointとして評価を行った.口腔または咽喉頭病変を50.4%,咽喉頭病変を30.8%に認めた.通常観察で食道粘膜面に異常を認めなかった症例の40.6%において機械的刺激による表皮剥離または血疱形成(Nikolsky現象)を呈した.全体の16.8%に通常観察で食道病変を認め,56.0%がNikolsky現象陽性を呈した.皮膚病変を認めない29.2%の症例において,77.7%に口腔または咽喉頭病変,36.1%に食道病変,58.3%にNikolsky現象を認めた.上部消化管内視鏡所見より自己免疫性水疱症を疑うことは可能であり,その内視鏡的特徴および所見を理解しておくことは重要である.
【背景】早期胃癌症例の多くは背景に粘膜萎縮を伴っており,異時性胃癌発生の高リスク症例である.早期胃癌内視鏡切除後の異時性胃癌発生リスクに対するHelicobacter pylori(以下,H. pylori)除菌の意義については,まず,Uemuraらによる非ランダム化比較試験の結果により,リスクが軽減されたと報告されている.しかし,その後実施された2つのopen labelランダム化比較試験では,胃癌発生予防効果は示唆されたが,一つの研究で統計学的有意差に至らなかった.また,例えH. pylori除菌に成功したとしても,高度な粘膜萎縮を伴う早期胃癌内視鏡切除後症例は,長期的にみると異時性胃癌発生の高リスク群であることに変わりはない.
【方法】本研究は,H. pylori除菌による粘膜萎縮の改善や,異時性胃癌発生予防効果の長期成績について検討した単施設プラセボ対象二重盲検比較試験である.本研究の対象は,2003年8月から2013年3月まで,the National Cancer Center in South Koreaにおいて,分化型癌もしくは高異型度腺腫の診断が生検で確認され,内視鏡的切除が予定された18歳から75歳の症例と設定された.結果的に,470例が1対1の割合で除菌群もしくはプラセボ群に治療前に割り付けられた.本研究の主要評価項目は,治療1年後以降に内視鏡的に発見された異時性胃癌の発生率と,治療3年後の胃体部小彎の腺萎縮の改善度であった.
【結果】内視鏡切除後に追加外科手術を実施した,あるいは,切除標本内に腫瘍が認められなかったなどの理由から,除菌群で42例,プラセボ群で32例がランダム化後に解析から除外された.最終的に,計396症例がthe modified intention-to-treat解析の対象となった(除菌群:194例,プラセボ群:202例).治療後観察期間の中央値は5.9年で,異時性胃癌は除菌群で14例(7.2%),プラセボ群で27例(13.4%)に認められた(除菌群のハザード比は0.50,95%信頼区間:0.26-0.94,P=0.03).治療3年後の生検で,胃体部小彎の萎縮が評価できた327例のサブグループ解析では,除菌群の48.8%,プラセボ群15.0%において萎縮の改善が認められた(P<0.001).両群において重篤な有害事象の発生はなく,軽微な有害事象については除菌群で多く認められた(42.0% vs. 10.2%,P<0.001).
【結語】プラセボ群に比べ,H. pylori除菌を実施した早期胃癌症例は,異時性胃癌発生率が低下し,胃体部萎縮の改善がより多くの症例で認められた(ClinicalTrials.gov number, NCT02407119.).