超音波内視鏡下穿刺吸引法(Endoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration;EUS-FNA)は,体腔内の腫瘍性病変に対する病理組織学的診断には,その安全性と確実性から,必須の手技であるといえる.近年,高齢化に伴い,虚血性心疾患や脳血管障害の治療や予防目的に抗血栓薬を内服する患者は増加し続けている.このような患者に対し,EUS-FNAを施行する機会も増えてきており,適切な周術期服薬マネージメント,および出血性偶発症に対する対処が必要となってくる.
家族集積性胃癌は胃癌全体の10-20%,遺伝性腫瘍症候群としての胃癌は胃癌全体の1-3%と少数ではあるが,胃癌が関連する遺伝性腫瘍症候群は複数存在し,それぞれの遺伝表現型相関を理解することが診断には重要である.内視鏡検査は表現型の詳細な把握ツールとして有用であると推察されるが,遺伝性びまん性胃癌(Hereditary Diffuse Gastric Cancer;HDGC)を例に挙げると,内視鏡スクリーニング・サーベイランスの確立には発展の余地がありそうである.ただし,最近の本邦の報告によると,HDGCの早期胃病変は内視鏡的に多発の小褪色調病変として認められることが多く,同部の狙撃生検により印環細胞癌と病理診断され,遺伝医療につながる場面も見受けられる.HDGCをはじめとした遺伝性胃癌では,内視鏡診断プロセスの標準化の仕組みの構築が今後重要になり得るであろう.
【目的】アスコルビン酸含有高張ポリエチレングリコール液(Asc-PEG)とグリセリン浣腸(GE)を使用した大腸カプセル内視鏡検査(CCE)の前処置の有効性を検討した.【方法】多施設でAsc-PEGとGEを用いた前処置によるCCEを施行し,洗浄度・全大腸観察率および関連因子・大腸ポリープ検出率・有害事象の有無を前向きに検討した.【結果】82例を解析した.洗浄度は適切(優・良)が82%(67/82例)であった.全大腸観察率は83%(68/82例)であった.全大腸観察例で小腸通過時間が有意に短かった(p=0.025).カプセル排出困難27例にGEが使用され,78%(21例)で肛門排出を誘導できた.大腸ポリープ検出率は49%(40/82例)であった.全例有害事象は認めなかった.【結論】Asc-PEGとGEを用いたレジメンは,CCEの有用で安全な前処置法となる可能性が示唆された.
症例は49歳男性.関節リウマチに対しメトトレキセート(Methotrexate:MTX)で加療中,検診で胃体下部大彎に約5mmの粘膜下腫瘍(Submucosal tumor:SMT)様の隆起性病変を指摘された.4週後,7週後と病変は増大し,頂部に潰瘍形成がみられた.生検・免疫染色・フローサイトメトリーおよび経過から,MTX関連Diffuse large B cell lymphoma(DLBCL)と診断した.MTXの中止では腫瘍は退縮せず,CHOP療法にて完全寛解となった.約3年,再発は認めていない.検索しえた限りでは,胃DLBCLの初期像をとらえ経過を追えた報告はなく,貴重な症例と思われた.胃で粘膜層深層に主座を有するSMT様腫瘍がみられた際,悪性リンパ腫の初期像である可能性も念頭においた,慎重な診断や経過観察が必要と思われた.
症例は80歳代男性.胃角大彎に,陥凹性病変を指摘し,生検にて中分化型管状腺癌の診断となった.分化型の粘膜内癌と診断し胃粘膜下層剝離術(ESD)の方針とした.ESD時の観察では,陥凹部に連続する褪色調領域を認めた.NBI拡大観察では陥凹部の表面は無構造で,密度の高い不整な微小血管構造を認めた.褪色調の領域は大小不同の乳頭状構造で密度の低い微小血管像であった.ESD切除標本の病理組織学的所見は,陥凹部に神経内分泌マーカー陽性の大細胞神経内分泌癌を,褪色域は神経内分泌マーカーが陰性の高分化型管状腺癌を認め,mixed adenoneuroendocrine carcinoma(MANEC)と診断した.今回,われわれが経験した早期胃 MANEC症例を,拡大内視鏡所見の詳細と合わせ報告する.
症例は69歳男性.上部消化管内視鏡検査にて,胃体上部から体中部大彎に中心部に陥凹を伴い軽度に隆起する病変が散見された.病変からの生検で,粘膜固有層内に慢性炎症細胞浸潤に加えて非乾酪性肉芽腫を認められた.PAB抗体による免疫染色で,肉芽腫内は陽性所見を示し,さらに,胃に肉芽腫を発生し得るほかの疾患は除外されることから,胃限局性サルコイドーシスと診断された.7カ月後の経過観察目的の内視鏡検査で,肉芽腫性病変近傍に早期胃癌が発見され,内視鏡治療を実施された.肉芽腫性病変の内視鏡像は,多彩な形態を呈し,また,経時的に形態変化を示すことがあることが知られており,まれではあるが,胃癌の併存にも留意する必要がある.
78歳男性.腹痛を主訴に受診.上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行部に多数のびらんを伴う浮腫状変化を認めた.入院3日目,四肢に紫斑が出現し,十二指腸生検病理所見で壊死性血管炎を認め,IgA血管炎と診断した.入院6日目腹部所見が増悪し,閉塞起点を伴わないイレウスを認め,機能的イレウスと診断後にイレウスチューブを挿入した.その後プレドニゾロン投与で症状及び消化管・皮膚所見は改善した.消化管の内視鏡像及び内視鏡組織生検所見が本症の診断に有用となり,腸重積または腸穿孔を伴わないイレウスを合併したIgA血管炎の1例を経験したので報告する.
内視鏡の進歩に伴い,内視鏡像と組織像の関連についても多くの検討がなされてきた.しかしながら,内視鏡像と病理組織像の対比について,系統立てた方法で対比されている例は少ない.われわれは,内視鏡像と病理組織像の一対一対応法をKOTO methodとして報告しており,本稿ではその詳細を解説する.対比の方法は,次の3段階からなる.1)検体の切り出し時に水浸下で全体写真および実体顕微鏡による拡大写真を撮影し,2)組織ルーペ像と全体像を重ね合わせによる病変部位の位置合わせを行った上で,実体顕微鏡写真と組織像を重ね合わせ,1腺管単位で対応させる.3)更に実体顕微鏡写真と内視鏡写真を対応させることで,組織像と内視鏡写真の対比が可能となる.このような系統立てた詳細な対比が内視鏡診断の更なる向上に役立つと期待したい.
ESDは,大きな病変でも一括で切除することが可能であり,詳細に病理診断をしていただくことが可能である.しかし,標本の取り扱い方を誤ると,一括切除された標本でも正確な病理診断ができない.切除標本は,可能な限り早くかつ適切に取り扱う必要がある.内視鏡医は,標本処理に関わるため,標本の取り扱いの知識が必要である.内視鏡医は,ESDで,病変を切除したら終わりではない.内視鏡画像診断所見と病理診断所見を正確に対比することで,術前診断の妥当性や問題点を検証することができる.そのため,内視鏡と病理の対比を繰り返し行うことが,内視鏡診断能力の向上には必須である.
【背景と目的】大腸カプセル内視鏡検査(CCE)の問題点は下剤の量が多いこと,記録時間内排泄率が低いことである.本研究の目的はヒマシ油のブースターとしての有効性を調べることである.
【方法】日本の4病院で,CCE検査を行った319人が遡及的に登録された.ヒマシ油の導入前後で,他の薬剤は変えなかった.
【結果】319人中,152人(2013年11月~2016年6月)がヒマシ油なし,167人(2015年10月~2017年9月)がヒマシ油有りのレジメンを使用した.ヒマシ油群とヒマシ油未使用群の記録時間内カプセル排泄率は97%と81%であった(P<0.0001).多変量解析で年齢65歳未満(調整オッズ比3.00;P=0.0048),男性(調整オッズ比3.20;P=0.0051),ヒマシ油使用(調整オッズ比6.29;P=0.0003)が記録時間内カプセル排泄の予測因子であった.また,ヒマシ油群は小腸通過時間が有意に短く,腸管洗浄剤および水分摂取総量は有意に少なかった(P=0.0154,0.0013).ヒマシ油群とヒマシ油未使用群の適切な内視鏡的腸管洗浄は,それぞれ74%と83%で達成されており,有意差はなかった(P=0.0713).ヒマシ油の有無にかかわらず6mm以上のポリープに対する被験者当たりの感度は83%および85%,特異度は80%および78%であった.
【結論】ヒマシ油を用いた腸管洗浄は,記録時間内カプセル排泄率を向上させ,腸管洗浄剤の減量に有効であった(UMIN 000031234).
【背景と目的】Ⅰ期の食道扁平上皮癌(ESCC)の標準は外科的食道切除術である.内視鏡的切除(ER)の結果に基づき,選択的化学放射線療法(CRT)を追加する治療法の有効性と安全性を確認する.
【方法】2006年12月から2012年7月にかけて,cT1b(SM1-2)N0M0胸部ESCC患者の単群前向き研究を実施した.ERを受けた176人をERの所見に基づいて3群に振り分けた.A群;切除断端陰性で脈管侵襲陰性pT1a(MMまで)患者は追加治療なし.B群;切除断端陰性pT1bまたは脈管侵襲陰性陽性pT1a患者は原発巣局所領域リンパ節に41.4 Gyの予防的CRTを実施.C群;垂直断端陽性患者はER局所の9 Gyブーストを含む予防的CRT(50.4 Gy)を実施.照射野の設定は,UtのESCCでは鎖骨上・上縦隔・気管分岐下リンパ節,Mt/LtのESCCでは縦隔・胃周囲リンパ節.化学療法は5-FU(700mg/m2/d,days 1-4 and 29-32)+シスプラチン(70mg/m2/d,days 1 and 29).主要評価項目はB群の3年全生存,副次評価項目は3群合計の3年全生存.主要・副次評価項目の90%信頼区間(CI)の下限が80%の閾値を超えた場合,ERと選択的CRTの組み合わせの有効性を確認とする.
【結果】登録患者176例はA群74人,B群87人,C群15人に分類された.1)3年間の全生存率は,B群90.7%(90%CI,84.0%-94.7%),全患者で92.6%(90%CI,88.5%-95.2%)2)B群C群全例でRTと化学療法1コースは完遂したが,B群15%,C群13%で化学療法2コース目が実施できなかった.CRTのgrade4有害事象なし.3)15例(A群1例,B群10例,C群4例)で転移再発が確認された.3例の食道局所再発のうち2例は追加ERが行われた.リンパ節転移は頸部2例・胸部8例・腹部6例(*重複あり).遠隔転移5例(肝2,肺1,胸膜1,骨1).リンパ節転移のみであった7例はサルベージ手術が実施された.4)期間中に11例が現病死(A群1,B群7,C群3),5例が他病死,2例は死因不明.
【結論】ER+選択的CRTは手術治療と有効性は同等であり,ER+選択的CRTはcT1b(SM1-2)N0M0胸部ESCCの標準的な低侵襲治療となる.