悪性肝門部胆管閉塞は様々な疾患が原因となり,胆管閉塞の部位や程度も症例毎に大きく異なる.非切除例に対する胆道ドレナージとしてはステントを用いた内視鏡的ドレナージが第一選択とされ,使用ステントとしてはuncovered self-expandable metallic stent(SEMS)が良好な開存期間を示すことから広く用いられている.近年ではプラスチックステント(PS)を胆管内に留置するinside stentやcovered SEMSの使用も報告されている.しかしながら,ドレナージ範囲,両葉ドレナージにおけるSEMS留置形態に関してはエビデンスが不十分であり,一定の見解が得られていない.また,ステント再閉塞に対するre-interventionにおいては,PSが広く使用されているが,開存期間の点からSEMSが使用されることもある.
症例は,78歳男性,35mm大の後縦隔腫瘍に対してEUS-FNAを施行した.22G針にて2回穿刺し,検査翌日に退院した.退院後7日目に発熱,胸痛,意識障害を認め,救急搬送された.CTにて後縦隔気腫,後縦隔膿瘍を認め,緊急開胸下後縦隔ドレナージ術を施行した.4日間のICU管理を必要としたが,全身状態は改善し,術後28病日に独歩で退院した.EUS-FNA後に後縦隔膿瘍という重大偶発症を経験したため報告する.
症例は63歳男性.呼吸困難感に対し近医で気管支喘息の診断にてステロイドの内服,吸入が開始されたが症状増悪し,当院で心房細動,急性心不全と診断され入院となった.心房細動に対する塞栓予防として抗凝固薬を投与したところ血便が生じ,大腸内視鏡検査で肝彎曲部に多発憩室とその領域に限局して潰瘍と白苔の付着を認めた.当初は憩室性大腸炎を疑ったが,生検組織中に栄養型アメーバが確認されたためアメーバ性大腸炎と診断し,メトロニダゾールの投与にて潰瘍が治癒した.無症候性の赤痢アメーバ保有者がステロイドや抗凝固薬の使用によってアメーバ性大腸炎を発症し,その病変が大腸憩室多発領域に限局した症例を報告する.
症例は10歳男児.上腹部痛・嘔吐で発症し,前医で重症急性膵炎と診断され,当院に搬送された.集中治療により膵炎鎮静化が得られ,発症2カ月後に合併した感染性嚢胞に対して嚢胞空腸吻合術が奏効した.しかし,その後も膵炎を反復し,その誘因と考えられた主膵管狭窄に対して,内視鏡的膵管ステント留置,続いて副乳頭切開を行い,一時的に寛解したが,その後も再燃したため,発症9カ月後にFrey手術を施行した.5年後現在まで膵炎の再燃なく,膵内外分泌機能も温存されている.膵機能温存や長期予後が重視される小児例においては,内視鏡治療の限界も考慮しつつ,外科治療のタイミングを逸さない慎重な経過観察が必要である.
コンベックス走査式EUSを用いた胆膵領域の観察は,胃・十二指腸球部・十二指腸下行部の3領域からの観察を基本とする.まずは各領域で観察起点となる血管(胃:腹部大動脈または門脈,十二指腸球部:門脈,十二指腸下行部:腹部大動脈)を描出し,その後はランドマークとなる周辺臓器や血管(脾臓,腎臓,脾静脈,上腸間膜静脈,門脈,portal confluenceなど)を意識して,観察手順に則り走査することで,胆膵全域の観察すなわちスクリーニングが可能となる.コンベックス走査式EUSを用いた標準的描出法を理解・修得することは,EUS-FNAの高い能力を十分に活かすためにもきわめて重要である.
上部消化管領域のESDでは,糸付きクリップ法による外科医の左手のようなトラクションが簡便に応用できる.しかし,従来の糸付きクリップ法は装着するために内視鏡の抜去が必要であり,大腸ESDではあまり普及していなかった.そこでわれわれは,内視鏡の抜去が必要ないトラクション補助下大腸ESD(TAC-ESD)を考案した.TAC-ESDは3-0ポリエステル糸とクリップのみで実施でき,大腸ESDにおいても十分なトラクションが得られ,粘膜下層を良好に視認できる.さらにTAC-ESDでは,多くの症例で糸付きクリップ装着直後に全周切開し肛門側から剥離するため,治療ストラテジーが単純になる.また,困難部位・困難症例の治療もTAC-ESDに少しの工夫を加えることで,安全に実施できる.TAC-ESDは標準的な症例にも,困難な症例にも有効なトラクション法である.
【背景と目的】本研究では,造影ハーモニック超音波内視鏡(contrast-enhanced harmonic EUS:CH-EUS)を併用した超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography:EUS)による精査が膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)に対する外科的切除後の残膵フォローアップに有用であるかを検討した.
【方法】本研究は,単一施設で行われたレトロスペクティブな研究である.2009年4月から2015年3月までにIPMNに対して外科的切除が施行された計134人の患者を対象とした.フォローアップ中における再発率とIPMN併存膵癌の発生率を検討した.また,それらの患者の臨床所見についても検討した.
【結果】134例のIPMNのうち56例(41.8%)が良性,78例(58.2%)が悪性であった.経過観察期間中央値は29カ月であった.33例(24.6%)に対して,造影剤増強コンピュータ断層撮影法(contrast-enhanced computed tomography:CE-CT)にEUSを併用しフォローアップを行った.一方,101例(75.4%)はCE-CTのみによりフォローアップを行った.再発は13例(9.7%)に認め,うち5例が膵内再発,8例が膵外転移であった.1例において,拡張した主膵管内における造影効果のある壁在結節がEUSのみで描出された.2例において,フォローアップ中にIPMN併存膵癌が発生した.それらは小病変であり,CH-EUSでは検出されたが,CE-CTでは検出されなかった.うち1例においては,EUSでは腫瘍が不明瞭であり,CH-EUSが腫瘍の描出に有用であった.
【結語】IPMN切除後フォローアップにEUSを加えることが有用であることが示唆された.
【背景と目的】早期胃癌に対する開放型内視鏡的全層切除術では癌細胞腹膜播種のリスクがあるとされ,その手技自体が許容されるか否かは議論がある.今回の検討では,癌腫表面を触れることによって癌細胞が剥離しえるのかを検討し,開放型内視鏡的全層切除術における腹膜播種の可能性を考察することを目的とした.
【方法】内視鏡的粘膜下層剥離術が施行された単発早期胃癌48例の切除標本を用い,癌腫表面と非癌部をスライドグラスに接触させ(スタンプ細胞診),パパニコロ染色をもって癌細胞(class IV/V)検出の有無を検討した.また,癌細胞が検出されたものに対しては,癌幹細胞のマーカーであるCD44v9の免疫組織化学的検討を行い,その発現陽性率を求めた.
【結果】癌細胞(class IV/V)の検出率は,癌部で27.5%(53/192スライドグラス),非癌部で0%(0/96スライドグラス)であった.癌細胞陽性であった53スライドグラスを用いたCD44v9免疫組織化学的検討では,その発現陽性率は34%(18/53)であった.
【結果と考察】本検討により,癌腫表面の接触により容易に癌細胞や癌幹細胞が剥離することが明らかとなった.早期胃癌に対する開放型内視鏡的全層切除術では,従来言われているように医原性の腹膜播種あるいは癌移植発生の可能性が否定しきれない.したがって,早期胃癌に対して内視鏡的全層切除術を行うのであれば,これらのリスクを回避するために非開放型の内視鏡的全層切除術行うことが勧められる.