共焦点レーザー内視鏡とは,蛍光色素でラベルされた組織を顕微鏡レベルの解像度で観察できる内視鏡のことである.以前は内視鏡一体型であったが,現在はプローブ型,ニードル型となり内視鏡の鉗子孔や穿刺針から挿入し,目的とする部位に接触させることでリアルタイムに組織構造が観察可能である.消化管に限らず,胆道・膵管,肝臓,気管支・肺胞,膀胱,甲状腺などの臓器の組織画像も得ることができる.蛍光色素の投与経路には経静脈的投与と局所散布がある.その造影態度や形態異常をリアルタイムに観察することで,通常の内視鏡では検出できない病態も解明しうる.また今後,蛍光標識プローブによる分子イメージングも期待される.
本稿では,共焦点レーザー内視鏡の原理,機種,観察法と特徴を概説し,その後文献的考察を交えて臨床応用例を紹介する.
症例は75歳男性.食道癌に対し術前化学療法が施行された.1コース終了後に発熱,頸部の腫脹,圧痛が出現し,CTで上部後縦隔および咽頭後に広がる膿瘍が認められた.保存的加療で改善が得られなかったため,縦隔膿瘍に対してEUSガイド下経食道ドレナージが施行された.縦隔膿瘍は消失し,臨床症状の改善が得られた.縦隔膿瘍に対するEUSガイド下経食道ドレナージは本邦では報告がなく,貴重な症例と考えられた.
近年,白色球状外観(white globe appearance;WGA)は,胃癌診断に有用な内視鏡的マーカーとして注目される.一方で,非癌病変におけるその臨床的有用性は未だ明らかでない.そこで今回われわれは,多発性のWGAがみられたA型胃炎の1例を報告する.白色光観察にて萎縮粘膜に複数の白点が視覚的に捉えられ,狭帯域併用拡大内視鏡下にてWGAであることが示唆された.白点部の生検では,拡張した腺管内に好酸球性の壊死物質が貯留した病理学的所見を認め,intraglandular necrotic debris(I N D)に合致する所見であった.本例は,非癌病変におけるWGAの臨床的意義を検討する上で,学術的に問う貴重な症例と思われる.
70歳代男性.1カ月間持続する黒色便にて当科紹介となった.上下部消化管内視鏡検査では,明らかな出血源を認めなかった.小腸出血を疑いカプセル内視鏡検査を施行したところ,全小腸にわたり多発する隆起性病変を認めた.ダブルバルーン小腸内視鏡検査を行いジャンボバイオプシー目的の内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection:EMR)にて海綿状血管腫と診断した.後日多発する血管腫に対してpolidocanol(AethoxysklerolⓇ)による硬化療法を行った.4日後の内視鏡観察では,血管腫は縮小を認め,以後黒色便も消失した.小腸に多発する血管腫に対して内視鏡的硬化療法が有用であった1例を経験したので報告する.
内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)や内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)は食道静脈瘤に対する標準的な治療として普及しているが,治療後に異所性静脈瘤の出現・増悪を招くことがある.中でも,胆管静脈瘤は稀な異所性静脈瘤であるが,出血のみならず静脈瘤の胆管圧排により閉塞性黄疸を来すことがある.特に肝外門脈閉塞症では側副血行路として胆管静脈瘤を有することが多く,食道静脈瘤に対するEISにより胆管静脈瘤が増大し,胆管狭窄を惹起することが危惧される.今回,肝外門脈閉塞症による食道静脈瘤に対するEIS後に胆管静脈瘤の出現・増悪を来し,これによる難治性閉塞性黄疸に対して持続的な胆道ドレナージを必要とした2例を経験したため報告する.
十二指腸乳頭部(乳頭部)は胆管・膵管が開口するという他の消化管にはない解剖学的な特徴がある.胆膵管内進展をともなわない腺腫に対しての内視鏡的乳頭切除を含む局所切除についてはコンセンサスが得られつつあるが,癌についてはOddi筋層への浸潤の診断が困難であることを理由に,基本的には膵頭十二指腸切除術に準じた外科手術が勧められている.また,生検組織病理診断と切除後の最終病理診断がしばしば異なるという診断上の問題もある.内視鏡的乳頭切除術の可否については,内視鏡所見から腫瘍の悪性度を推察し,ERCP所見,管腔内超音波(IDUS)所見で進展度診断をして生検組織病理診断を参考にして決定するしかないのが現状である.今回は,内視鏡的乳頭切除術の適応診断を中心に乳頭部腫瘍(腺腫,癌)診断の実際について症例を提示しながら解説する.
大腸CT検査は,健診および精密検査を大腸内視鏡検査で行うことが困難な場合に補完する検査法である.大腸内視鏡検査の実施が適さない場合,または内視鏡検査で全大腸の観察ができなかった場合には大腸CT検査の実施が推奨されている.
標準的読影法の一つ目としてのprimary 3D readingは,内視鏡類似像によるfly-throughで腸管内腔を飛行するようにして粘膜面を観察し病変を拾い上げる.二つ目としてprimary 2D readingは2次元画像で直腸から腸管の内腔を直腸から順に近位側に向けて腸管粘膜面を追跡するlumen tracking法で病変を拾い上げる.両読影法ともに病変を疑った場合,2次元・3次元画像の両方を活用し指摘領域が病変として矛盾しないか判断する.
エビデンスに基づいた標準的読影法に基づいて読影を行うことは精度を担保するうえで重要である.
【目的】女性内視鏡医キャリアサポート体制に関する女性内視鏡医の意見を明らかにする.
【方法】本学会女性会員4,281名に対し「女性内視鏡医のキャリアサポートに関するアンケート調査」を行った.
【結果】169名(3.9%)より回答を得た.キャリアサポート研修受講者は14%のみであった.運営されている研修内容は充実しているが,受講機会・受講者数が少ない.キャリアサポート体制について多数の改善点が指摘された.復職支援体制が十分な場合には,多くが市中病院常勤を希望した.
【結論】女性内視鏡医のキャリアサポート体制は未だ不十分である.解決すべき点としては,研修施設の増加・情報整備,各地方での研修施設整備,保育所・託児所の整備等である.
【背景と目的】大腸ポリープに対する内視鏡的切除において,熱凝固を加えないでスネアで切除するコールドスネアポリペクトミー(CSP)と熱凝固を加えながらスネアで切除するホットスネアポリペクトミー(HSP)の比較研究がなされてきた.CSPとHSPの有効性と安全性をシステマティックレビューとメタ解析を用いて評価した.
【方法】大腸ポリペクトミーに関してCSPとHSPを比較したランダム化比較研究(RCT)のみを解析の対象とした.評価項目は,完全切除率,ポリープ回収率,遅発性出血率,穿孔率および所要時間である.Mantel-Haenszel random effect modelを用いてpooled risk ratio(RR)と95%信頼区間(CI)を算出した.
【結果】8つのRCT(症例数1,665名,切除ポリープ3,195個)に対しメタ解析を行った.完全切除率において,CSPとHSPは同程度であった(RR 1.02,95%CI 0.98-1.07,p=0.31).ポリープ回収率もCSPとHSPは同程度であった(RR 1.00,95%CI 1.00-1.01,p=0.60).遅発性出血率は,統計学的有意差を認めなかったもののHSPのほうがCSPより多い傾向にあった(症例単位:RR 7.53,95%CI 0.94-60.24,p=0.06,ポリープ単位:RR 7.35,95%CI 0.91-59.33,p=0.06).すべてのRCTで穿孔は報告されなかった.大腸内視鏡時間はHSPでCSPより有意に長かった(平均差 7.13分,95%CI 5.32-8.94,p<0.001).ポリペクトミー時間もHSPでCSPより有意に長かった(平均差 30.92秒,95%CI 9.15-52.68,p=0.005).
【結論】今回のメタ解析ではHSPと比較してCSPで所要時間が有意に短かった.また,遅発性出血率もHSPと比べてCSPで低い傾向にあった.したがって,小さな大腸ポリープに対するポリペクトミーにおいてCSPを標準的治療として推奨する.
日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「早期胃癌の内視鏡診断ガイドライン」を作成した.内視鏡での早期胃癌診断は精度の高い検査としてその有用性が認知され,近年普及してきている.この分野の情報はエビデンスレベルが低いものが多く,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決定しなければならないことが多かった.本診療ガイドラインは,[Ⅰ]内視鏡検査施行前の胃癌のリスク層別化,[Ⅱ]早期胃癌発見,[Ⅲ]早期胃癌の質的診断,[Ⅳ]胃癌の治療方針を決定する診断,[Ⅴ]内視鏡検査後のリスク層別化,[Ⅵ]早期胃癌のサーベイランスの6つの項目に分け,現時点での指針とした.
大腸腫瘍の内視鏡治療の適応病変としては,早期大腸癌のみでなく前癌病変としての腺腫性病変も多く存在し,大腸EMRとESDの棲み分け,そのための術前診断,実際の内視鏡治療の有効性と安全性を第一線の臨床現場で確保するための指針が重要である.そこで,日本消化器内視鏡学会では,大腸癌研究会,日本大腸肛門病学会,日本消化器病学会の協力を得て,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として「大腸ESD/EMRガイドライン」を2014年に作成した.本ガイドラインでは,手技の具体的な手順や機器,デバイス,薬剤の種類や使用法など実臨床的な部分については,すでに日本消化器内視鏡学会卒後教育委員会編「消化器内視鏡ハンドブック」が2012年5月に刊行(2017年5月に改訂)されているので,技術的内容に関しては可能な限り重複を避けた.
大腸ESDは2012年4月に保険適用となったが,2018年4月には保険適用範囲と診療報酬点数が改訂された.「大腸ESD/EMRガイドライン」発刊後,SSA/Pの病態解明やESD症例のさらなる集積もなされており,ガイドライン初版発刊から5年目の2019年に最新情報を盛り込んだ改訂版を発刊するに至った.
【背景】内視鏡的乳頭切除術(Endoscopic papillectomy:EP)は,良性疾患のみならず早期乳頭部癌に対しても施行されている.しかし,早期乳頭部癌に対するEPの有用性については,十分な検証がなされておらずコンセンサスが得られていない.
【対象と方法】1999年5月から2016年12月の間に,乳頭部腫瘍と診断されEPを施行した177例を対象に,臨床像と病理組織学的データを遡及的に検討した.
【結果】EPを施行した177例中,腺腫は136例,腺癌が35例であり,腺癌の内訳はTis-T1a 27例,T1b 4例,T2 4例であった.Tis-T1aの大きさは平均14.1mm,T1bは平均17.0mmであった.病理組織学的には,T1bの50%が中分化型であったが,Tis-T1aでは96.3%が高分化型乳頭腺癌であり,T1bでは1例(25%)にリンパ管侵襲を認めたが,Tis-T1aでは認めなかった.最長5年間の経過観察をしているが,EP後の乳頭部癌再発を認めなかった(Tis-T1aが平均48.5カ月間,T1b平均は26.5カ月間).
【結語】T1a乳頭部癌に対するEPは,有用且つ治癒が期待できる治療法と考えられた.今後,大規模かつ長期間の前向き検討が必要と考えられる.