人工知能(AI)を用いた画像認識は,機械学習とディープラーニングという革新的技術により飛躍的に発展した.現在は,画像認識ではAIが人間の能力を超えたと言われている.胃癌診療でもAIによる内視鏡観察部位診断,H. pylori感染診断,胃癌の存在診断・質的診断の研究が進められおり,医師と同等レベルの精度が報告されている.さらに人間の能力を超えるようなAIも出現してくるであろう.しかし,医療AIは既存の医療機器とは異なる問題点もあり,臨床現場の導入までには大きなハードルが存在する.また,現時点の医療AIは「医師の仕事の効率を上げる情報を提示する支援ツール」としての位置づけであり,最終診断は医師が行うとされている.
近未来の医療現場では医師のサポートツールとして当たり前のようにAIが導入され,医療の質が向上すると期待される.
【目的】ピコプレップⓇ配合内用剤(P/MC)はポリエチレングリコール製剤と比べ,高い患者受容性と腸管洗浄効果の非劣性が報告されたが腸管洗浄効果に乏しい印象がある.前処置の強化で,患者受容性を保ったまま腸管洗浄効果が向上するかを明らかとすることを目的とした.
【方法】P/MC通常投与群(P/MC群)と,ピコスルファートNa内用液0.75%5mlを追加する前処置強化群(P/MC強化群)の2群を最小化法を用いて無作為に割り付けた.主要評価項目は2群間の腸管洗浄度の比較,副次的評価項目は臨床的背景と患者受容性の比較.
【結果】腸管洗浄度スコアは,P/MC強化群(n=49)はP/MC群(n=49)と比較し有意に低く(4.6±0.5 vs 6.6±0.5;P<0.001)洗浄度が高かった.受容性は2群間で有意差はなかった.
【考察】ピコプレップⓇ配合内用剤にピコスルファートNa内容液の追加で患者受容性を保ったまま腸管洗浄効果が向上した.
症例は59歳,男性.房室伝導障害に対してペースメーカー植え込み術を施行された6年後,人間ドックにて偶発的に上~中部食道の静脈瘤(F1,Cw,RC1(CRS))が確認された.造影CTでは右内頸静脈の拡張と,右内頸静脈から右腕頭静脈にかけて長径7cmの血栓,奇静脈から上大静脈流入部までの血管拡張,上大静脈の狭小化を認めた.ペースメーカー植え込み術後の上大静脈症候群により発症したdownhill esophageal varices(DEV)と診断した.血流うっ滞の改善を期待し,血栓の溶解を目的としてリバーロキサバンによる抗凝固療法を開始した結果,右内頸静脈血栓の縮小と静脈瘤の改善を認めた.DEVは稀な疾患で,治療については一定の見解はない.今回,抗凝固療法にて静脈瘤の改善を認めた稀な1例を経験したので報告する.
大腸肉芽性ポリープは術後の吻合部や内視鏡治療後の創にみられることが多く,憩室に関連して発生した肉芽性ポリープの報告は少ない.今回筆者らは憩室関連肉芽性ポリープの3例を経験したので報告した.3例ともにS状結腸に憩室内から突出する発赤調ポリープを呈し,表面に白色付着物と蛇行する毛細血管を伴っていた.また拡大観察で表面構造は不明瞭または消失といった特徴を有しており,生検により肉芽性ポリープと診断した.また,1例ではポジトロン断層法検査でポリープに集積を認めた.上記の内視鏡所見を認める場合は,憩室関連肉芽性ポリープを鑑別に挙げるべきと考えられた.
症例は10カ月男児,胆道閉鎖症にて葛西手術後経過観察中に下血を認め,緊急内視鏡を施行した.食道静脈瘤からの出血を認めたため内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)を試みたが,食道入口部が狭いためにEVLデバイスが通過せず,内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS)により止血を得た.その後,残存した静脈瘤に対し反復的に血管内外EISを施行した.血管外EIS後に食道潰瘍に伴う浮腫性狭窄が生じ,経口摂取不良を認めた.経腸栄養剤による栄養療法の併用を要したが保存的に軽快し,最終的に静脈瘤の退縮が得られた.乳幼児の食道胃静脈瘤に対する血管内外EISは有効な治療法であるが,術後の狭窄には十分に注意する必要がある.
症例は82歳男性.膀胱小細胞癌に対して化学放射線療法を施行された.8カ月後,黄疸と食思不振を主訴に受診した.血液生化学検査で閉塞性パターンの黄疸と肝胆道系酵素の上昇があり,画像検査では膵頭部に腫瘍を認めた.超音波内視鏡下穿刺術(EUS-guided fine needle aspiration:EUS-FNA)を施行し,組織学的に膀胱小細胞癌の膵転移と診断した.化学療法を施行したが効果なく,治療後2カ月で永眠された.転移性膵腫瘍は稀な疾患であり,原発巣としては腎癌が最も多い.今回,膀胱小細胞癌の膵転移という稀な症例を経験したので報告する.
腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞は,一定の頻度で発生する医原性合併症である.しばしば,人工肛門造設によるQOLの低下や重篤な転帰を来すことが問題となっている.このような症例では,大腸ステント留置により緊急手術を回避できる可能性がある.当院で経験した腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞12例のうち8例にステント留置を試みた.このうち全周性2型病変による狭窄例は安全にステント留置が可能であった.経口腸管洗浄剤内服後の大腸閉塞例のうち,全周性2型病変による狭窄例ではミニガイドラインに準拠してステント留置を行うことで緊急手術を回避し,閉塞を解除できる可能性があると考えられた.
上部消化管の色素内視鏡において頻繁に用いられるのはインジゴカルミンとルゴールである.インジゴカルミンは胃や十二指腸のような円柱上皮に覆われている消化管で用いられ,細胞表面や細胞内物質と化学反応を起こさず,粘膜の凹凸が強調されることにより微細な変化を認識しやすくする,いわゆるコントラスト法である.そのため粘膜表面の粘液をしっかり落として,丁寧に撒布することが肝要である.ルゴールはヨウ素(ヨード),グリセリンなどを含んだ液体で,ヨウ素と正常食道扁平上皮に含まれるグリコーゲン顆粒によりヨウ素―でんぷん反応が起こり褐色を呈するが,食道癌はグリコーゲン顆粒を持たないため発色せず,その差異により食道癌を認識しやすくする染色法である.まだら食道症例においては撒布後数分ぐらいで癌部は桃色を呈する,いわゆるpink color signが癌と非癌の鑑別に有用である.
胆管癌の診断は主病巣の診断の他に,垂直方向と水平方向への進展度診断が必要となる.進展度診断は肉眼分類に応じて適切に選択する必要がある.特に,水平方向進展度診断が術式決定のために重要である.乳頭型や結節膨張型では粘膜上皮を癌が置換する表層進展が多く,結節浸潤型や平坦浸潤型は壁内進展が多い.したがって,乳頭型や結節膨張型では胆管内腔の所見が重要視されるが,結節浸潤型や平坦浸潤型では胆管の壁内(粘膜下)と壁外進展の所見が重要である.本稿では遠位胆管癌に対する診断の実際を内視鏡的診断を中心に解説する.
【背景・目的】全国規模かつ人口ベースの内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)関連手技データベースに関する報告は少ない.日本消化器内視鏡学会は全国規模の内視鏡データベース構築のためにJapan Endoscopic Database(JED)Projectを2015年に立ち上げた.今回,われわれは全国規模の内視鏡データベースを構築するにあたり,まずは多施設でのERCP関連手技データ登録システムを評価した.
【方法】最終的に,2015年1月1日から2017年3月31日の間の4施設で行われたすべての患者のERCP関連手技データをJEDプロトコールに基づき収集・解析した.
【結果】4施設にて2,173人の患者,4,104件のERCP関連手技が行われた.データ入力率は,4施設から正確に抽出された(年齢;100%,性別;100%,ASA-PS;74.5%,スコープ情報;92.7%,ERCP関連手技回数;100%,抗血栓薬;55.0%,最初の胆管へのアプローチ法;73.0%,胆管挿入までの乳頭へのアプローチ回数;67.6%,最終的な深部挿管へのアプローチ法;68.9%,手技時間;66.3%,透視時間;65.1%,偶発症;74.9%,手技翌日のアミラーゼ値;36.5%).ERCP難易度別による胆管挿管成功率は,Grade 1,2,3にてそれぞれ98.5%,99.0%,96.4%であった.造影法,ガイドワイヤー法,クロスオーバー法における最終的な深部挿管へのアプローチ法別での偶発症率はそれぞれ5.6%,7.6%,10.5%であった.
【結語】今回のJEDプロジェクト,多施設ERCP関連手技データベース登録のデータから全国規模データベース設立の可能性と課題を示した.
【背景と目的】H. pylori除菌とビタミン,ガーリックによる胃がん死亡抑制効果をエンドポイントとして,1995年に中国の山東省で無作為化介入試験が実施された.約15年経過観察期間では,除菌で胃がんの発生は減少したものの,除菌による胃がん死亡の抑制とサプリメントの効果に有意な結果は得られなかった.本研究は,その後の追跡結果である.
【方法】山東省の13の村に居住する35-64歳を対象とした.上部内視鏡検査(EGD)と生検,採血を施行された対象のうち,H. pylori陽性者は除菌とビタミン,ガーリックの介入(各7年間服用)の有無で計8群に,H. pylori陰性者はビタミンとガーリックの有無で4群に振り分けられた.EGDは1999年と2003年は全員に実施され,2003年に腸上皮化生やdysplasiaを認めたものを対象に2007年にもEGDが行われた.2008年から2017年は,腸上皮化生やdysplasiaが強い人を対象に半年ごとのEGDが実施された.死亡の確認はナショナルシステムや大学スタッフが村を訪問し情報を収集した.
【結果】1995年から2017年の観察期間中に151例の胃がんが発生し,94名が胃がんで死亡した.除菌による胃がん発生の抑制効果はオッズ比で0.48(95%CI:0.32-0.71),ビタミンは0.64(0.46-0.91)で有意な抑制効果を認めた.一方,ガーリックでは抑制効果はなかった.死亡においては,いずれも有意な抑制効果を認めた(除菌:ハザード比0.62(95%CI 0.39-0.99),ビタミン:0.48(0.31-0.75),ガーリック:0.66(0.43-1.00)).これらの介入と他の癌の発生や心血管系イベントには関係がなかった.
【結語】H. pylori除菌と7年間のビタミンとガーリックの投与は22年以上の長期にわたり有意に胃がんの死亡リスクを減少させた.除菌とビタミンの摂取は胃がんの発生も有意に抑制した.