Cold polypectomyは,偶発症の少なさや手技時間の短さに加え,コストの面においても従来の通電を行うポリペクトミー(Hot polypectomy)に対して優れており,欧米はもとより国内でも徐々に普及しつつある.手技やデバイスの進歩により,Cold polypectomyの治療成績や安全性は向上しており,最近では抗血栓薬内服症例に対する安全性も報告されている.一方で,本法には病変の病理組織学的な断端評価が困難となることや,切除深度が浅くなりやすいというデメリットがあり,遺残再発率や長期予後が十分に明らかになっていないという問題点もある.こうした問題点を十分に把握したうえで,適切な病変に対してCold polypectomyを行っていくべきである.現在の本邦におけるガイドラインでは,Hot polypectomyの偶発症発生率を基に,5mm以下の病変に対する摘除は推奨されていないが,Cold polypectomyを用いることで,今後欧米のように腺腫性病変は大きさに関係なく摘除することが推奨されるようになるかもしれない.
炎症性腸疾患(inflammatoy bowel disease:IBD)の診断において,腸管病変が非典型的所見を示し,潰瘍性大腸炎とCrohn病の鑑別困難症例や両者のいずれにも合致しない診断困難症例が存在する.近年,バルーン内視鏡検査やカプセル内視鏡検査の普及による小腸病変の診断力向上や遺伝診断学の進歩により,IBDおよびIBD類縁疾患診断において新しい知見や疾患概念が報告され,診断体系にも変化が生じている.本稿ではIBD類縁疾患のうち近年,特に注目度が高い疾患として,①腸管ベーチェット病(単純性潰瘍,trisomy 8関連腸炎),②非特異性多発性小腸潰瘍症/chronic enteropathy associated with SLCO2A1 gene(CEAS),③家族性地中海熱遺伝子関連腸炎(familial Mediterranean fever:FMF)について,疾患概念から診断,治療の現状について解説した.
症例は,再生不良性貧血に対する骨髄移植後の58歳,女性.嚥下困難を主訴に当科に紹介となった.内視鏡検査にて下咽頭完全閉塞と診断し外科的胃瘻造設術が施行された.その後,全身麻酔下に佐藤式彎曲型喉頭鏡による喉頭展開も併用した経口内視鏡,経胃瘻的内視鏡双方向からの内視鏡アプローチを用いて内視鏡的切開拡張術を行い,嚥下可能となり良好な経過を得た.双方向的内視鏡アプローチは侵襲も少なく有用と考えられる.
51歳男性.上部消化管内視鏡検査にて胃体部に多発する粘膜下腫瘍(SMT)様病変を認め,病理生検でneuroendocrine tumor(NET),WHO分類G2だった.胃体部は広範に萎縮を認め,血清ガストリン著明高値,抗胃壁細胞抗体陽性で,CT・PET-CTでは明らかな異常所見は認めず,A型胃炎に伴った計8個の多発胃NET(Type Ⅰ)と診断した.内視鏡治療か外科的治療かで方針選択に苦慮するも,最終的には本人とも相談し胃全摘術+リンパ節郭清術を選択した.術後病理では胃体部に合計14カ所(最大径7mm)のNETを認め,多くはG1で一部G2だった.本症例では胃全摘術を選択したが近年はより低侵襲な治療(内視鏡的切除や縮小手術)の報告も多くなってきており,Type Ⅰ多発胃NETに対する治療法の選択を中心とした文献的考察を加え報告する.
症例は49歳女性で,健診の上部消化管X線造影にて穹窿部にポリープを指摘され精査目的に当院を受診した.上部消化管内視鏡にて穹窿部に5mm大のラズベリー様の外観を呈する隆起性病変を認め,腺窩上皮型過形成性ポリープに類似した外観であった.
NBI(narrow band imaging)併用拡大観察では,表面微細構造は大小不同のある乳頭状構造で,開大した窩間部の内部には口径不同を伴う拡張した微小血管を認めた.生検組織病理所見では,軽度の異型性を示す腺管構造を認め,早期胃癌が疑われたためESDを施行し,低異型度高分化型腺癌であった.MUC5AC陽性,MUC6陰性,CD10陰性,MUC2陰性であり腺窩上皮型胃癌と診断した.Helicobacter pylori(H. pylori)除菌歴はなく,各種検査結果からH. pylori未感染と考えられた.
症例は83歳,男性.以前より完全内臓逆位を指摘されていた.上部消化管内視鏡検査で胃前庭部前壁に20mmの0-Ⅱc型早期胃癌,前庭部大彎に15mmの0-Ⅱc型早期胃癌,10mmの0-Ⅱa型早期胃癌を認めた.初回の内視鏡検査は左側臥位で行ったところ,前庭部に空気が溜まらず,体部に空気が流れ過送気となり噴門部小彎に粘膜裂傷が生じた.精査時,右側臥位にすることで,前庭部に空気が溜まり詳細観察が可能となった.ESD施行時は,患者の体位を右側臥位とし,術者および機器の位置を通常と反対側にすることで通常のESDと同様の動きで処置が可能であった.完全内臓逆位の前庭部病変の観察およびESDは患者体位,術者と機器の位置を工夫することで平易となった.
70歳男性,肺炎で入院中,腹痛が認められたために当科に紹介となった.腹部単純CTでは回腸末端に複数の腸石が認められた.また,下部消化管内視鏡を実施したところ,バウヒン弁の狭窄が認められた.バウヒン弁を18ミリバルーンにて拡張術を施行したものの腸石を回収できなかった.拡張径をより大きくする目的で2本拡張バルーン(15ミリと20ミリ)を同時に使用するダブルバルーン拡張術を試みたところ,計7個の腸石を胆道用砕石バスケット鉗子で回収した.バウヒン弁に対しダブルバルーン拡張術の報告がなく,手術を回避できた腸石嵌頓の1例を報告する.
ダブルバルーン内視鏡は,小腸,術後腸管,大腸内視鏡挿入困難例の診断・治療に幅広く使用されるようになったが,腹部手術既往による癒着をはじめとした特殊な条件では,挿入困難を来し検査に難渋することもある.無理な検査は重篤な偶発症を引き起こしかねないが,いくつかの工夫で越えられる困難もその経験が不足していると診断・治療の機会を失いかねない.本稿では,ダブルバルーン内視鏡の基本手技と困難な状況での工夫や対策について解説する.
Endocytoscopy(以下EC)は消化管上皮を520倍の拡大倍率で観察することにより,生体内で細胞異型の評価が可能となった新世代の内視鏡である.ECの開発は,2004年のプローブ型内視鏡(XEC-300,450倍;XEC-120,1,100倍)による食道観察からその歴史が始まった.その後10年以上の開発期間を経て,2018年に大腸超拡大内視鏡(CF-H290ECI)が上市され,一般臨床で使用することが可能となった.ECによる大腸病変の診断には,NBIを併用し血管所見を評価するendocytoscopic vascular pattern(EC-V)分類と,メチレンブルー染色後に腺腔と核の形態で評価するEC分類を用いる2つの手段がある.EC-V分類は前染色をする必要がなく,非常に簡便であり,EC分類は構造異型に加えて細胞異型を評価することで病理診断に迫る診断が可能となる.本稿では基本的な観察方法から診断方法まで開設しており,これをきっかけとしてECが普及することを期待している.
【背景】消化管粘膜下腫瘍(SET)の病理学的診断において,超音波内視鏡(EUS)下穿刺吸引生検は広く普及した方法である.しかし,SETの確定診断には免疫組織化学染色が不可欠であり,より構造の保たれた十分量の検体が必要となるため,その診断能は十分とはいえない.一方で,近年使用可能となったコア生検針(FNB針)は,組織採取能に優れるためSET診断能を向上させる可能性がある.本研究はSETに対するFNB針の診断能を明らかにすることを目的とした.
【方法】2010年から2017年にSETに対してEUS下穿刺吸引生検を施行した160例を対象とし,従来針を使用した群(FNA群)とFNB針を使用した群(FNB群)の2群に分け,確定診断率,良性切除率(良性疾患で切除を施行された症例の割合)に関して比較検討を行った.対象の選択においては傾向スコアによるマッチングを行い,交絡因子を調整した.
【結果】確定診断率はFNA群60%,FNB群82%であり有意にFNB群で良好であった(P=0.013).良性切除率はFNA群14%,FNB群2%であり,有意にFNB群で低値であった(P=0.032).FNB針の確定診断に関連する因子の検討では,単変量解析では小病変(病変径≦20mm)にて有意に確定診断率が低い結果であり(67% vs 97%,P=0.004),また多変量解析においても病変径は独立した関連因子として同定された(オッズ比14.20,95%信頼区間1.61-125.00,P=0.017).
【結論】SETに対するEUS下穿刺吸引生検では,FNB針を使用することにより診断能向上を期待し得る.一方で小病変においては,FNB針による診断率向上効果は少ないかもしれない.
【背景と目的】大腸ポリープの切除法として粘膜下局注を行う内視鏡的粘膜切除術(以下EMR)は確立された手技であるが,10mmを越える大きさのポリープでは一括切除率が低下する.分割切除になると局所再発リスクは高くなる.無茎性大腸ポリープの有効な治療法である水浸下EMR(UEMR)について,従来のEMR(CEMR)に対する優越性を調査した.
【方法】日本の5施設による多施設ランダム化試験を行った.10-20mm大の無茎性大腸ポリープを有する患者が無作為にUEMR群とCEMR群に振り分けられた.最も近位側にある病変のみが対象とされ,UEMRでは腸管内に水を充満し粘膜下局注なしに切除された.UEMR群108個のポリープとCEMR群102個のポリープが解析された.R0切除は組織学的に断端陰性の一括切除と定義され,プライマリーエンドポイントは両群間でのR0切除率の差とされた.
【結果】R0切除率はUEMR群で69%(95%CI:59%-77%),CEMR群で50%(95%CI:40%-60%)(P=.011)で,一括切除率はUEMR群で89%(95%CI:81%-94%),CEMR群で75%(95%CI:65%-83%)(P=.007)と有意にUEMR群の手術成績が良好であった.治療時間の中央値および合併症発生率には両群で差がなかった.
【結語】多施設無作為化試験の結果から,10-20mmの無茎性大腸ポリープに対してはCEMRよりも明らかにR0切除率が高いUEMRが推奨される.(UMIN000018989).