本邦の食道癌の9割は扁平上皮癌であり,欧米と比しより早い病期で発見されている.Ⅰ期食道癌のうち,粘膜内癌には内視鏡的粘膜切除術(ER)が適応だが,粘膜下層浸潤癌や粘膜筋板までとどまっていてもリンパ管・静脈への浸潤がある場合はリンパ節転移の可能性があり,外科切除や化学放射線療法(CRT)が必要である.しかし,外科切除は食道切除および再建による大きな侵襲や合併症が無視できず,CRTでも外科切除に比し局所制御が不良であるとの問題点がある.食道表在癌に対して先に内視鏡切除を行い,病理組織学的診断に基づいてリンパ節転移の危険性を判断し,その後の追加治療(経過観察または選択的にCRTを追加する)を考慮する治療戦略は,臓器温存や個別化治療の点から有望と考えられ,後ろ向き解析や前向き臨床試験でその安全性と有効性が評価された.今後は追加CRTを行った症例での再発の危険因子の検討や,治療前内視鏡診断の精度向上などが課題である.
症例は66歳男性.十二指腸潰瘍の経過観察目的で行った上部消化管内視鏡検査で,胃前庭部小彎に10mm大の0-Ⅱa病変を認めた.生検結果がGroup 4で中分化型管状腺癌が疑われ,ESDを施行した.病理組織型所見は粘膜内癌で粘液癌を含む管状腺癌であったが,粘膜内のリンパ管に侵襲を認めた.追加外科手術が必要と考えられたが,経過観察を希望され,術後1年の経過で再発を認めていない.管状腺癌に粘液癌を伴った粘膜内癌でリンパ管侵襲陽性の稀な1例を経験したので報告する.
症例は75歳男性.頸髄損傷のため入院となった.嚥下困難にて胃管を挿入し,経管栄養を行っていたが,第22病日に嘔吐が出現し,翌日胃管より血性排液を認めた.造影CT検査で胃壁内気腫像及び門脈ガス像を認め,上部消化管内視鏡検査(EGD)で粘膜の発赤及び皺襞の腫大,びらんを認めたが,粘膜壊死像は認めなかった.胃液培養からガス産生菌であるKlebsiella pneumoniaeが検出された.気腫性胃炎と診断し保存的加療を行った.第28病日に再検した造影CT検査では,門脈ガス像及び胃壁内気腫像は消失し,第34病日に再検したEGDでは,所見の改善を認めた.今回,われわれは保存的加療で軽快した門脈ガス像を伴った気腫性胃炎の1例を経験したので報告する.
症例は68歳,男性.突然発症の心窩部痛を主訴に前医へ救急搬送され,横行結腸の腸重積を診断され,当院へ転院搬送となった.身体所見では心窩部に軽度圧痛を認め,腹部造影CT検査を施行し,横行結腸を中心とした浮腫と腸重積を認めた.精査加療目的に,緊急下部消化管内視鏡下造影検査を施行し,粘膜の浮腫状変化を認めた.整復は不可能で,大腸癌等の悪性腫瘍の可能性も否定出来ず,腸閉塞予防及び精査加療目的に,緊急開腹手術を施行した.手術所見は,腸重積は容易に解除出来,腸管浮腫が腫瘤状に触知されたが,悪性腫瘍も否定出来ず,結腸部分切除術を施行した.摘出標本にアニサキス虫体を発見し,アニサキスが原因で腸管の局所浮腫が起こり,これが先進部となって腸重積・腸閉塞を来したと診断した.
症例は44歳女性.下腹部痛,嘔気と血便で当院を受診した.精査目的でCTやMRI,下部消化管内視鏡検査を施行し,S状結腸に粘膜下腫瘍様隆起を認めた.月経時に腹痛や血便を認めていたため腸管子宮内膜症が疑われた.しかし内視鏡下生検や画像診断では診断に至らなかったため,EUS-FNAを施行し,子宮内膜組織を確認できたため,臨床症状や各種画像所見と併せて腸管子宮内膜症と診断.ジエノゲストの投与を開始し,その後症状は消失,内視鏡で病巣の著明な縮小を経時的に確認した.
十二指腸の内視鏡治療は,消化管の内視鏡治療の中で最も難しいとされている.現在,内視鏡的粘膜下層剝離術(Endoscopic submucosal dissection;ESD)は日本において広く普及しており,筆者らの施設はESDのパイオニアのひとつであるが,十二指腸においては積極的にESDを施行しない立場であり,バイポーラスネアを用いた十二指腸EMRを主に選択している.バイポーラスネアは,高周波電流がスネアとシース先端部にのみ流れるため,筋層方向への焼灼=組織のダメージがほとんどない.スネアを絞扼したあとに,5-10秒かけてかなりゆっくりと切除する.バイポーラスネアEMRの最大のメリットは後出血割合が低いことであると考えている.内視鏡手技としては通常のEMRと同様であり,使用するスネアやセッティングが異なるのみである.後出血リスクは非常に低く,安全な内視鏡治療が可能であり,多くの施設で汎用できると考えている.
潰瘍性大腸炎の患者数増加や長期経過例増加,内科治療進歩による手術回避例増加により,サーベイランス内視鏡(SC)の必要性は今後益々高まり,手技の効率化が必要である.narrow band imaging(NBI)によるSCは,欧米の過去のstudyでは有用性が示されていなかったが,2012年に第2世代のNBI機器が市販化され,画質の向上や遠景が明るくなることにより,日常臨床で全大腸NBI観察によるSC(NBI-SC)が行い易くなった.われわれは本邦の多施設前向きランダム化比較試験(Navigator Study)で,世界で最もエビデンスがあり高精度とされている全大腸色素内視鏡によるSCに対し,NBI-SCは腫瘍性病変やUC関連腫瘍の発見率が劣らず,検査時間は有意に短いことを示した.本稿ではNBI-SCの手技の手順やコツに留まらず,その前提となる患者の診療方針やSCの目標についても述べた.
Epstein-Barrウイルス関連胃癌(EBVGC)は,胃癌全体の約9%を占め,リンパ節転移(LNM)頻度が低いことが報告されている.しかしEBV関連の早期胃癌におけるLNM頻度に関するデータは限られており,EBVステータスは内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の治療適応及び根治性の基準には取り入れられていない.本総説では早期胃癌におけるEBVGCとリンパ球浸潤胃癌(GCLS)のLNM頻度に焦点を当て,ESDの治療適応及び根治性基準の適応拡大の可能性に関する検討を行った.病理学的粘膜下層浸潤EBVGCではLNM頻度は低く(3.3%(6/180),95%信頼区間[CI]:1.2-7.1),特に脈管侵襲陰性例で低い結果であった(0.9%(1/109)).また病理学的粘膜内EBVGCではLNMを有する症例は認められなかった(0%(0/38),95%CI:0-7.6).一方GCLSのLNM頻度は低い結果であったが(5.0-10.6%),EBV陰性のGCLSにおけるLNM頻度は比較的高い結果であった(10.0-20.0%).従ってLNM頻度を考慮する場合,EBVステータスはGCLSよりも重要な要素であると考えられた.EBVGCの臨床病理学的特徴は一般型の胃癌とは異なり,LNM頻度は有意に低い.このグループはESDの有望な治療対象であると考えられ,早期胃癌のESD治療適応及び根治性の基準にEBVステータスを含めた新たな治療ガイドラインの策定が望まれる.
【背景と目的】大腸ポリープ切除後出血予防のための内視鏡クリップの利点は不明である.予防的クリップの有効性を明らかにするために,対象ポリープ全体およびポリープサイズと部位別に,ランダム化試験に対する最新の手法によるメタ分析を行った.
【方法】MEDLINE / PubMed,Emase,Scopusデータベースを用いて,大腸ポリープ切除後出血予防の内視鏡クリップ効果についてクリップ実施 vs 非実施をランダム化比較した試験(RCT)を検索した.登録基準は,年齢制限のないRCTで後出血(内視鏡/IVR/外科処置を要した切除後の血便,またはHb 2g/dl以上低下した血便)を一次評価項目とした研究.95%信頼区間(95%CI)でプールされた相対リスク(RR)を生成するために,変量効果モデルによるメタ分析を行った.マルチレベル変量効果メタ回帰分析を使用して後出血率とポリープの特徴との関連を推定した.
【結果】検索された1,112研究の中から,2003年から2019年に報告された71,897結腸直腸病変を含む9つのRCTのデータを分析した(日本5,米国2,スペイン1,中国1).解析病変の22.5%は20mm以上の大型病変,49.2%は近位大腸病変(盲腸から横行結腸).クリップ実施は非実施と比較して,切除後出血の全体としてのリスクを減少させなかった(実施群後出血率2.2% vs未実施後出血率3.3%;RR,0.69;95%CI,0.45-1.08;P=.072).層別解析を行うと,20mm以上の大型病変切除後出血のリスクはクリップ実施によって有意に減少した(実施群後出血率4.3% vs 未実施後出血率7.6%;RR,0.51,95%CI,0.33~0.78,P=.020).または近位大腸病変切除後出血のリスクはクリップ実施によって有意に減少した(実施群後出血率3.0% vs 未実施後出血率6.2%;RR,0.53;95%CI,0.35-0.81;P<.001).病変サイズと病変部位を調整したマルチレベル変量効果メタ回帰分析では,大型近位大腸病変に対して,予防的クリップは切除後出血のリスクを有意に減少されたが(RR,0.37;95%CI,0.22-0.61;P=.021),小型近位大腸病変ではリスクの低減はみられなかった(RR,0.88;95%CI,0.48-1.62;P=.581).
【結論】無作為化試験の最新手法によるメタ解析では,予防的内視鏡クリップを日常的に使用しても大腸ポリープ切除後出血のリスク全体が低下しないことがわかった.しかし,予防的内視鏡クリップは20mmを超える大型の近位大腸病変切除後出血を軽減すると考えられた.