飛躍的なテクノロジーの進化に伴い,内視鏡医が取得する画像の質・データ量は格段に向上している.しかし,求められる診断技術のハードルも同時に向上しており,高精度の内視鏡診断が一部のエキスパート医師に限られているのも事実である.このような先端機器と医療技術のギャップを解決し,「いつでも,だれでも」高パフォーマンスな内視鏡診断を提供できる環境を作ることを目的として,人工知能(AI)を用いたコンピュータ診断支援システムの研究開発がにわかに注目を浴びており,本邦でも2019年3月から内視鏡AIの一部製品の市販が始まっている.本稿では,食道・胃・大腸の臓器別に内視鏡AIの研究状況を概観すると共に,内視鏡AIが直面している課題および,薬事承認の状況についても紹介し,今後の診療現場に内視鏡AIがどのような影響を与えうるのか,考察していきたい.
カプセル内視鏡は2000年に小腸疾患診断目的で開発され,様々な消化管疾患の診断に用いられてきた.その後,2006年に大腸カプセル内視鏡(CCE;Colon Capsule Endoscopy)が,報告された.さらに改良された第2世代のCCE(CCE-2と記載)が開発され,2014年よりCCE-2が本邦において保険適用となった.CCE-2の炎症性腸疾患に対する有効性はいくつか報告されており,大腸に炎症が起こる潰瘍性大腸炎(UC;Ulcerative colitis)がその中心となっている.UCは大腸に原因不明の炎症が起こり,寛解と増悪を繰り返す疾患である.診断,治療の際に大腸検査を繰り返し要し,低侵襲に大腸粘膜の観察をすることができるCCE-2はUCのモニタリングツールに適しているといえる.本稿ではUCに対するCCEの現況に関して概説する.
症例は76歳女性で,吐血・黒色便を主訴に入院となった.オスラー病にて当院外来通院中であった.胃毛細血管拡張部より頻回にoozingを認め,輸血療法や内視鏡的止血術(高周波止血鉗子法・アルゴンプラズマ凝固など)を繰り返されていた.潰瘍瘢痕形成による胃毛細血管拡張の消失と処置時間の短縮を期待して内視鏡的バンド結紮術(endscopic band ligation:EBL)を施行した.EBLによる潰瘍瘢痕形成が得られた部分には胃毛細血管拡張の再発が消失した.オスラー病の胃毛細血管拡張に対するEBL治療は有用な治療法と考えられた.
症例は79歳,男性.血便,意識障害で当院緊急入院,出血性ショックの診断で下部消化管内視鏡検査を施行した.上行結腸に腫瘤性病変を認め同部位より出血を認めた.診断,止血治療目的に内視鏡的粘膜切除術(以下EMR)を施行したところ,病理学組織学的所見でmixed adenoneuroendocrine carcinoma(以下MANEC)と診断された.腫瘍は固有筋層まで浸潤しており追加切除で腹腔鏡下回盲部切除術(D3郭清)を施行した.(pT2 pN1 M0 stageⅢa)の診断で,術後補助化学療法としてXELOXを8コース施行,術後無再発で経過観察中である.大腸MANECは早期にリンパ節転移,遠隔転移を認めるなど予後不良な疾患で,集学的治療に抵抗性があるとされている.今回出血を契機に発見された大腸MANECの1例を報告する.
症例は83歳女性.40歳時に胆嚢結石で開腹胆嚢摘出術の既往あり.右季肋部痛を主訴に受診し,肝胆道系酵素上昇あり,CT,MRIでは胆嚢管合流部に胆管内へ突出する腫瘤を認めた.ERCPおよび管腔内超音波では遺残胆嚢管内に充満する低エコー腫瘤を認め,経口胆道鏡で胆嚢管合流部に粘膜下腫瘤を認めた.断端神経腫を疑い,腫瘤部よりボーリング生検を4回施行.生検組織診断はS-100蛋白陽性の神経線維を含む線維性組織を認め,断端神経腫に矛盾しない所見であった.胆管閉塞による症状をきたしていることから肝外胆管切除,肝管十二指腸吻合術を施行.術後病理診断は9mmの断端神経腫であった.生検組織で術前診断できた遺残胆嚢管断端神経腫は稀であり報告する.
症例は76歳,女性.総胆管結石除去目的にてERCPを施行した.25×16mmの結石をナイチノール製機械的砕石具にて把持し,専用の砕石用シースを用いて砕石を試みた.しかし,シース部の破損と金属線の断裂を生じバスケット嵌頓をきたし,嵌頓の解除に難渋した.そこで,スネアをバスケットの金属線に被せてロープーウェー式に胆管内へ挿入し,バスケットの先端を確実に把持した.次に,スネアを牽引してバスケットの先端を胆管内で反転させ,バスケットを変形させることで結石把持の解除に成功した(バスケット反転法).今回,スネアを用いたバスケット反転法がバスケット嵌頓解除に有用であった1例を経験したので報告する.
【目的】Cold Snare Polypectomy(CSP)の切除深度に関して検討した.【方法】CSPにて切除した腫瘍径10mm以下の大腸ポリープ503病変を対象とした.切除深度を粘膜(m群)と粘膜筋板+粘膜下層(s群)の2群に分類し,各々の腫瘍径,腫瘍存在部位,腺腫・癌の水平断端評価,切離面の内視鏡像,術者を後方視的に比較検討した.【結果】粘膜274病変(55%),粘膜筋板193病変(38%),粘膜下層36病変(7%)だった.腫瘍径,術者,切離面の内視鏡像は差がなかった.腫瘍存在部位は,盲腸はm群が,直腸はs群が有意に多かった.断端陰性となる病変はs群で有意に多かった.【結論】CSPの切除深度は腫瘍存在部位,水平断端評価で差はあるが,粘膜から粘膜下層の範囲で一定しない.CSPの腫瘍径拡大は慎重にすべきである.
小腸血管性病変は小腸出血の原因として頻度の高い疾患である.血管性病変の中でもangioectasiaは大部分を占め,小腸血管腫は稀ではあるが,時に出血の原因となりうる.現在,両病変に対する治療法・取り扱いについては一定のコンセンサスが得られていない.われわれは小腸angioectasiaと小腸血管腫に対してダブルバルーン内視鏡(Double-balloon endoscopy:DBE)下のポリドカノール局注法(Polidocanol injection therapy:PDI)を行い,良好な治療成績が得られている.
歯状線に接した下部直腸腫瘍に対するESDは,①粘膜下層に静脈叢が発達している,②歯状線を境に扁平上皮領域には知覚神経が存在する,③狭い管腔により良好な視野が得られない,④痔核の存在などの理由で通常の大腸とは異なった背景がある.しかし,先端フードでの肛門側視野の展開,局所麻酔薬の使用,病変肛門側からの切開・剝離開始と,その際の浅い周辺粘膜切開と静脈叢の予防的止血などの手技の工夫により痔核の有無に関わらず安全に施行可能である.
【背景】高齢化社会に伴い抗血栓薬使用者に合併した胆管大結石が増加している.胆管大結石の治療に,内視鏡的乳頭大口径バルーン拡張術(endoscopic papillary large balloon dilation;EPLBD)は有用であるが,内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy;EST)を先行しないことにより,出血リスクを減少させる可能性がある.しかしながら,このEPLBD without ESTの抗血栓薬内服者に対する安全性は確立されていない.
【方法】今回の多施設共同後ろ向き研究は,2008年3月から2017年12月の間に胆管結石に対してEPLBD without ESTを施行した症例を対象とした.抗血栓薬(抗血小板薬または抗凝固薬)使用者および非使用者間で,EPLBD without ESTの早期偶発症および治療成績を比較した.
【結果】144例(抗血栓薬使用者47例および非使用者97例)を解析対象に含めた.抗血栓薬使用者において,EPLBD without EST施行時の抗血栓薬は13%で継続,62%でヘパリン置換された.臨床的に問題となるような出血もしくは周術期の血栓塞栓症は,使用者群および非使用者群いずれにおいても認めなかった.早期偶発症率は2群間で有意差を認めなかった(使用者群6.4%,非使用者群7.2%,P=0.99).治療成績に関しては,結石破砕率(28% vs. 29%),初回治療での完全結石除去率(72% vs. 71%)と,使用者および非使用者群において有意差を認めなかった.
【結語】EPLBD without ESTは抗血栓薬使用者においても,術後出血のリスクを増やすことなく,安全に大結石を除去しうる可能性がある.個々の抗血栓薬周術期管理については,さらなる大規模研究で検討する必要がある.
【背景と目的】海外における経口内視鏡的筋層切開術(peroral endoscopic myotomy:POEM)に関する多施設前向き研究 2)では,POEM施行1年後の奏効率(Eckardt score≦3)は82%と示されているが,日本における1,300例を越える症例を検討した後ろ向き研究3)では95%とされ,国内外でその奏効率に乖離がみられる.本研究は,日本におけるPOEMの真の有効性を明らかにすることを目的とした多施設共同前向き試験(single-arm)である.
【方法】2016年4月から2017年3月の期間で8施設において前向きにPOEMが行われた食道アカラシア症例を検討し,その安全性と有効性を検討した.適応および除外基準は海外における多施設前向き研究 3)における基準を踏襲した.Primary outcomeはPOEM施行1年後の奏効率(Eckardt score≦3)とし,secondary outcomeはPOEM施行1年後の逆流性食道炎・胃食道逆流症の有無やプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor;PPI)服用率などとした.
【結果】233症例にPOEMが施行され,手技成功率は100%であった.粘膜損傷などの偶発症は24例(10.3%)に認められたが,外科的介入を要した症例は認められなかった.海外の多施設前向き研究 2)の適応基準を満たした207例における1年後の奏効率は97.4%(95.3-99.7%)であり,術前Eckardt score(6.6±2.0)はPOEM後に有意に低下(1.1±1.1)した.POEM施行1年後の逆流性食道炎,有症状胃食道逆流症,PPI内服はそれぞれ54.2%(高度食道炎は5.6%),14.7%,21.1%の症例で認められた.
【結論】海外から発信された多施設前向き研究結果に比べ,日本での優れたPOEMの治療成績が示された.POEMは少なくとも術後1年間は安全で奏効率がきわめて高い治療法と言える.