胃癌とH. pylori感染との関連は明白であり,内視鏡所見からH. pylori感染の有無を診断することは胃癌リスクを評価する上において重要である.「胃炎の京都分類」は19の特徴的な内視鏡所見からH. pylori感染を未感染,現感染,除菌後を含む既感染に分類し,その組織学的胃炎の診断までをほぼ可能とした胃炎分類である.H. pylori未感染者の特徴的な内視鏡所見としてRAC(regular arrangement of collecting venules)が重要であり,現感染者の所見としてびまん性発赤や白濁粘液付着に伴う萎縮,腸上皮化生,鳥肌,皺襞腫大など,既感染者の所見としてびまん性発赤の消退,これに伴う地図状発赤の顕在化を認めることがある.さらに,本分類改訂版ではこれからの胃粘膜を考慮してH. pylori感染以外の胃炎・胃粘膜変化を取り上げている.
「胃炎の京都分類」は内視鏡診療におけるH. pylori感染診断や胃癌リスク評価において有用であり,さらに内視鏡医育成・学生教育においても期待されている.
内視鏡医が日常診療で遭遇する機会の増えている直腸神経内分泌腫瘍(NET)であるが,診断,治療から治療後の対応に至るまで,十分にコンセンサスが得られていない事項が多く,その取り扱いに苦慮することが経験される.内視鏡治療適応についても,腫瘍径1~1.5cmの病変の扱いなどさらなる検証を要するが,少なくとも,最も高頻度に遭遇する,粘膜下層にとどまる1cm未満の直腸NETが内視鏡治療の適応であることについてはコンセンサスが得られている.そのような病変に対する内視鏡治療手技としては,有効性,安全性,患者負担の観点から,ESMR-LやEMR-Cといった通常のEMRに工夫を加えた手技が推奨される.内視鏡治療後には,切除病変の病理評価に基づき追加手術の必要性を判断するが,細胞増殖能や脈管侵襲などの結果によって判断に迷う症例も多い.特に脈管侵襲については,病理における免疫・特殊染色の使用に伴い,粘膜下層にとどまる小さなNET G1病変でも脈管侵襲陽性例が高頻度に見られることが報告されており,その取り扱いについてさらなる議論が望まれる.
74歳男性.切除不能の頸部食道進行癌に対し化学放射線療法を施行中,左披裂上に2mmのBrownish area(BA)を認めた.当初は微小なBAであり,癌を示唆する所見に乏しかったが,約601日にわたり経時的変化を観察する過程で,内視鏡的,組織学的に扁平上皮癌と診断した.BAの経過観察の重要性の理解,喉頭癌の初期像の共有,内視鏡所見と生検結果を総合した質的診断を考える上で貴重な症例であり,報告する.
症例は69歳男性.前庭部大彎の胃腺腫に対して内視鏡的粘膜下層剝離術(以下ESD)を施行した.病理結果はtubular adenomaであり,病理組織学的に治癒切除であった.ESD時に認めたH. pylori感染は経過の中で自然除菌されたものの,ESD瘢痕部に過形成性ポリープが発生し,1年後に40mm大,3年後に50mm大へと増大傾向を示したため同腫瘍をESDにて切除した.しかし同部位に過形成性ポリープの再発を認め,悪性疾患が否定できないため再度ESDを行うとともに,再発予防のためにトリアムシノロンアセトニド80mgの局注療法を施行した.その後は1年8カ月の経過観察で再発は認めず,胃ESD後瘢痕部に生じる過形成性ポリープに対して,ステロイド局注療法が有用である可能性が示唆された.
症例1は18歳の男性で,主訴は下痢と右下腹部痛であった.症例2は21歳の女性で,主訴は下痢と高熱であった.いずれも腸液培養でCampylobacter jejuniが検出され,内視鏡で終末回腸の腫大したPeyer板上の広範囲に浅い潰瘍を認めた.大腸では,2例とも全域に粘膜内出血と浮腫を認め,カンピロバクター腸炎に合致する所見であった.回腸に広範な潰瘍を形成したカンピロバクター腸炎の文献報告は1例しかなく,自験の2例は稀な症例と考えられた.
IT knife nanoは,食道・大腸の内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)用のデバイスとして開発され,IT knife 2と比較して先端のセラミックチップが小さくなり,ブレードが短くなった.IT knife nanoはスペースの狭い食道においても粘膜下層への挿入が容易であり,筋層方向へのスパークを抑え穿孔を予防しつつスピーディな切開剝離操作が可能である.
当科では,C字型の粘膜切開を行った後にIT knife nanoのロングブレードを用い左壁側の粘膜下層を直視下に内側から外側に引き上げて粘膜下層剝離を行っている.その後全周切開を行った後に糸付きクリップを用いると,良好なトラクションが得られ粘膜下層の辺縁が明瞭に認識できるため,安全かつ短時間での粘膜下層剝離が可能となる.
デバイスの改善,手技の工夫によって食道ESDは安全に行われるようになってきた.しかし,線維化が強い症例は技術的に難しく穿孔のリスクが高いため,熟練医によってなされるべきである.
【背景と目的】ダブルピッグステント(double pigtail stent)を用いた超音波内視鏡下ドレナージ術(Endoscopic ultrasound-guided drainage;EUS-D)における被包化壊死(Walled-off necrosis;WON)の治療には限界がある.EUS-Dで改善しない場合にしばしば内視鏡的ネクロセクトミーが行われる.しかしながら,内視鏡的ネクロセクトミーは重篤な合併症や致死率を伴う手技である.私たちは今回,経鼻経消化管的持続洗浄療法(transmural naso-cyst continuous irrigation;TNCCI)を内視鏡的ネクロセクトミーの代替療法として行った.今回の研究の目的はWONに対するTNCCIの有用性を明らかにすることにある.
【方法】2009年4月から2018年3月まで間にWONで入院した39人の患者のうちEUS-Dを行った19人を対象とした.2015年5月から2018年3月の間の患者10人に対してTNCCI療法を行った(TNCCIグループ).TNCCIはEUSガイド下に経胃もしくは経十二指腸的にWON内に留置された外瘻チューブから生理食塩水を40ml/hで継続的に流し,WON内の洗浄を行った.2009年4月から2015年4月の間の患者9人に対してTNCCIを併用せずEUS-Dを行った(対照群).TNCCI群と対照群におけるさまざまな治療指標について比較検討した.
【結果】WONの縮小までの時間(6 vs. 32days,p=0.001),内視鏡的ネクロセクトミーの施行率(0% vs. 55.6%,p=0.01),回数(0 vs. 0.8±1.0,p=0.008)はともに対照群と比較してTNCCI群の方が有意差をもって少なかった.
【結語】内視鏡的ドレナージ術にTNCCIを併用するのはWONに対する効果的かつ安全な治療である.この方法は,内視鏡的ネクロセクトミーを行う前に行う代替療法になり得ると考えられる.
【背景】胃mucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫は稀な疾患であり,そのデータの大半は拠点医療機関にて加療された限られた患者の臨床研究に拠る.
【目的】フランスの住民ベース研究における胃MALTリンパ腫患者の臨床像,治療および生存率を解析すること.
【方法】がん登録が行われているフランス国内11地域で2002-2010年に新規登録された胃MALTリンパ腫を対象とした.病理報告書を照合し,必要であれば病理専門医が再鑑定した.全臨床データをカルテより後方視的に集積し,STATA V.14ソフトウェアを用いて解析した.
【結果】416症例の胃MALTリンパ腫を確認した(男性50%,年齢中央値67歳).このうち44例は早期にdiffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)に形質転換しており,高悪性度リンパ腫の誤診例と考えられた.診断時の臨床病期はⅠ/Ⅱ期76%,Ⅲ/Ⅳ期24%であった.Helicobacter pylori感染は57%の症例で認め,76%の例で除菌が行われ,39%の例で完全寛解(complete remission;CR)が得られた.全体で70%の例でCRが得られ,5年生存率は79%(95%信頼区間75-83)であった.
【結論】臨床ケースシリーズと異なり,一般住民においては,胃MALTリンパ腫は進行病期で診断される例が多い.このため,様々な治療が行われており,誤診や過剰治療のリスクがある.本症に対する適切な診療ガイドラインが必要である.