十二指腸腺腫・腺癌は大きく乳頭部/非乳頭部に分けられ,臨床病理学的特徴や臨床的対応が異なる.非乳頭部十二指腸腺腫・腺癌はその粘液形質から腸型/胃型に分類される.腸型は十二指腸のどこでも発生しうるが,胃型は十二指腸近位側(乳頭より口側)に好発し,悪性度が高いことが示唆されている.非乳頭部十二指腸腺腫や粘膜内癌に対する内視鏡的切除はその合併症の頻度や重篤性から積極的には行われていなかったが,近年の内視鏡治療法の開発により徐々に普及しつつある.一方で低異型度腺腫では長期間の経過観察がなされている症例においても癌化のリスクは高いものではない.治療方針は切除による合併症と経過観察による癌化リスクならびに患者の全身状態や予後を含めて検討されるべきであり,十二指腸腺腫・腺癌の特徴や自然史を考慮し,病変への適切な評価をもとにした治療方針の選択が必要である.
膵疾患の診療において特に重要な役割を担っているのが,超音波内視鏡(Endoscopic Ultrasonography;EUS)である.近年,EUSスコープや超音波診断機器の開発・進歩によって,膵疾患に対し存在診断のみならず質的診断が行われるようになってきた.カラードプラやパワードプラ法,超音波造影剤や超音波造影法の登場により,診断困難な膵疾患に対する診療は新たな展開を迎えている.本稿では膵疾患に対する造影EUS (Contrast-enhanced endoscopic ultrasonography:CE-EUS)についてその役割と有用性について,EUS機器の開発とその進歩も含めて報告した.
CE-EUSの適応は,膵充実性腫瘍や膵嚢胞性病変の鑑別診断,その中でも特に腫瘍性嚢胞内の結節か粘液塊かの鑑別,さらには膵悪性腫瘍の病期診断,主に血管浸潤の評価である.膵疾患のEUS診断において,超音波造影剤を用いた血流情報を加味する(CE-EUS)ことにより質的診断が可能となり,診断精度が向上する(感度のみならず特異度の上昇).これらの報告は多数あり,その有用性が蓄積されている.膵充実性腫瘤,特に膵癌のCE-EUS鑑別診断における2つのメタ解析では,感度93-94%,特異度88-89%と報告され,膵癌診療ガイドライン2019においてもその有用性が記載されている.膵嚢胞性病変,特に腫瘍性嚢胞におけるCE-EUS診断では,壁在結節と粘液塊の鑑別において感度100%および特異度80-97%と報告されている.またIPMNの悪性か良性かの鑑別診断では,壁在結節のサイズや結節/膵実質の染影比分析,壁在結節の形態と血管分布パターン分析が有用であると報告されている.このように膵疾患に対しCE-EUSを施行することで,これまで以上に迅速かつ正確な診断が期待できる.
【背景・目的】内視鏡的な胃ランタン沈着様式と胃粘膜萎縮の関係を明らかにする.
【方法】胃ランタン沈着症症例の内視鏡所見を後ろ向きに解析した.
【結果】ヘリコバクター・ピロリ未感染の4症例のうち3例で白色病変を認め,びまん性白色病変が体部後壁と小彎に優位に分布していた.萎縮性胃炎を認める10症例のうち9例で白色病変を認めた.萎縮を伴う領域では前庭部(5例),角部(5例)に白色病変がみられる頻度が高く,環状白色病変と顆粒状白色病変がみられた.また体部の萎縮領域にも3例で白色病変がみられ,内訳は環状1例,顆粒状1例,びまん性1例であった.胃ランタン沈着は,非萎縮粘膜では体部後壁~小彎のびまん性白色病変として捉えられた.萎縮粘膜では,前庭部~角部に環状白色病変または顆粒状白色病変を呈する症例が多かった.
【結論】内視鏡的な胃ランタン沈着様式は萎縮の有無によって異なると考えられた.
症例は70歳代,女性.以前より胃噴門部に淡い黄色調の5mm大の粘膜下腫瘍を認めていた.上部消化管内視鏡検査,超音波内視鏡検査で神経内分泌腫瘍の可能性を指摘されるも生検では確定診断ができず,完全摘除生検目的でligating device使用による内視鏡的粘膜切除術(EMR-L)を行った.最終病理組織診断結果はリンパ上皮性嚢胞であった.リンパ上皮性嚢胞は胃での報告は非常に少なく,方法に関わらず切除例はまれであり,内視鏡的に切除したとする報告は他にはない.非常に貴重な症例であり,同様の症例に遭遇した際の一助とするために今後さらなる症例の蓄積が必要である.
膵十二指腸動脈瘤は腹腔内動脈瘤全体の2%と非常に稀な病態である.内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)施行に引き続く結石除去後に後上膵十二指腸動脈瘤を形成した1例を経験した.症例は70歳男性,慢性腎不全にて維持血液透析中.上腹部不快感を契機に総胆管結石を指摘された.ESTにより結石除去術を施行した.術直後は出血は認められていなかったが,術後4日に後出血を来した.著明な貧血の進行により循環動態が不安定となったため,腹部造影CTを撮像した.後上膵十二指腸動脈に動脈瘤の形成を認めたため,同部位を血管造影下に金属コイルを用いて塞栓した.その後,再出血なく経過した.EST後出血の成因として動脈瘤の破裂は非常に稀であるが,経カテーテル的動脈塞栓術は有効な止血法であった.
症例は74歳女性.便秘精査に対し大腸内視鏡検査が施行された際,横行結腸に径10mm大の顆粒型側方発育型腫瘍(Laterally spreading tumor-gllanutar type:LST-G)が認められたため内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection:EMR)を行った.退院日に悪心を伴う腹痛を訴えたため腹部超音波検査・腹部単純CT検査を施行したところEMRを施行した部位に腸重積が疑われた.理学所見及び炎症反応上昇より手術療法を行う方針となった.開腹時所見では,止血クリップ及びその周囲に形成された血腫部分により嵌頓閉塞を来たしていたため用手的にそれを解除し同部位を切除した.腸管穿孔や壊死は認められなかった.EMR後の腸重積に関し若干の文献的考察も含め報告する.
症例は60歳男性,3年前より発熱と下痢のエピソードを繰り返していたが,近医より発熱,腹痛,および下痢の精査目的の依頼で入院になった.感染性腸炎が疑われたが有意な病原菌は検出されず,大腸内視鏡では盲腸から横行結腸にかけてcobble stone様病変と浅い潰瘍が多発していた.Crohn病を疑い5-アミノサリチル酸などで治療したが無効であった.しかし,自然に改善して退院となった.4カ月後再び39.2度の半日程度の発熱,下痢,腹痛で再入院し,家族性地中海熱を疑い遺伝子検査でMEFV遺伝子に変異があり診断が確定し,コルヒチンの長期服用で内視鏡像や症状も改善した.この例では2箇の胃潰瘍瘢痕とその後結腸粘膜にintestinal Spirochetosisを合併していた.
超音波内視鏡(endoscopic ultrasound;EUS)ガイド下ドレナージ術では改善しないwalled-off necrosis(WON)の症例に対して,内視鏡的ネクロセクトミーが行われている.しかしながら,内視鏡的ネクロセクトミーは合併症の頻度も高く,侵襲的な処置である.EUSガイド下ドレナージ術に経消化管的経鼻嚢胞持続洗浄療法(transmural naso-cyst continuous irrigation;TNCCI)を加えることは,内視鏡的ネクロセクトミーを回避するのに有用である.TNCCIは,EUSガイド下に内瘻チューブと外瘻チューブをWONに留置し,外瘻チューブより生理食塩水でWON内を持続的に灌流し,洗浄を行う.無効あるいは効果が不十分な場合には,内瘻チューブをWON内に内視鏡的に追加留置し,再度TNCCIを行う.TNCCIでは,WON内を持続的に灌流することで壊死物質を内視鏡的ネクロセクトミーを行わずに除去できる.EUSガイド下ドレナージ術にTNCCIを併用することで安全に内視鏡的ネクロセクトミーの回避ができる可能性があり,内視鏡的ネクロセクトミーを施行する前に検討すべきであると考えられる.
【背景】非切除中下部悪性胆道閉塞に対する逆流防止弁付き金属ステントは十二指腸胆管逆流を抑制することでステントの開存期間(TRBO,time to recurrent biliary obstruction)を延長することが期待されている.しかし,従来型カバー付き金属ステントに対する優位性は十分に検証されていない.
【方法】漏斗型の逆流防止弁付き金属ステントにより従来型カバー付き金属ステントに対して長いTRBOを得られるかを検証するため,金属ステントを留置されたことのない非切除中下部悪性胆道閉塞患者を対象にした多施設共同無作為化比較試験を実施した.副次評価項目として,RBO(recurrent biliary obstruction)の原因,有害事象,患者生存期間を検証した.
【結果】本邦の11施設において,104例(各群52例)を登録した.TRBOは,逆流防止弁付き金属ステント群と従来型カバー付き金属ステント群で有意差は認めなかった(中間値,251日 vs. 351日;P=0.11).胆泥あるいは食物残渣によるRBO率も,逆流防止弁付き金属ステント群と従来型カバー付き金属ステント群で有意差は認めなかった(13% vs. 9.8%,P=0.83).逆流防止弁付き金属ステント群では,従来型カバー付き金属ステント群と比較して逸脱を認めることが多かった(31% vs. 12%,P=0.038).全有害事象率は,20% vs. 18%であった(P=0.97).患者生存期間は有意差を認めなかった(P=0.26).
【結論】今回検証した漏斗型の逆流防止弁付き金属ステントの従来型カバー付き金属ステントに対するTRBOの延長効果は認めなかった.この形状の逆流防止弁付き金属ステントを非切除中下部悪性胆道閉塞に対して第一選択で使用するためには,逸脱防止機構を始めとしたさらなる改良が必要である(UMIN-CTR臨床試験登録番号:UMIN000014784).
【背景】ヨード散布による色素内視鏡は,表在型食道扁平上皮癌の検出目的に頻用されているが,使用されているヨード溶液の濃度については報告によって違いが見られる.本研究の目的はヨードの濃度による患者の不快感の違いを検証することである.
【方法】本研究は前向きランダム化二重盲検比較試験である.症例登録対象は,2018年3月から2019年1月の期間,上部消化管内視鏡検査が予定された食道扁平上皮癌のハイリスク症例77例,全例,1%ヨード使用群(A群)もしくは2%ヨード使用群(B群)に振り分けられ,痛みに関する評価の比較が行われた.主要評価項目は,両群の痛みの評価の違い,副次評価項目は,各群の安全性,病変検出率,内視鏡医による色調の評価および国際照明委員会の色度図を用いたヨード染色性不良領域と濃染領域の明度とした.
【結果】A群ではB群に比べ胸焼けや胸骨後の痛みが有意に少なかった(p=.02).計11例が胸焼けおよび胸骨後の痛みを訴えた(group A,2;group B,9).うち4例が胸骨角より上部の,7例が胸骨角より下の痛みを訴えた.病変検出率,内視鏡医による色調評価,明度において両群間で差はなかった.いずれの症例においても有害事象はなく,安全に本研究を終了することができた.
【結語】2%ヨード使用は1%ヨード使用に比べ痛みを誘発する可能性が高く,本研究では両群とも色調は同等であった.故に,食道におけるヨードを用いた色素内視鏡には1%ヨード溶液を使用することを推奨する(Clinical trial registration number:UMIN000029796.).