Helicobacter pylori陰性胃癌とは主にH. pylori未感染胃粘膜から発生する胃癌と除菌後に発見される除菌後胃癌がある.H. pylori未感染胃癌は未分化型腺癌と胃型形質を有する超高分化型(低異型度)腺癌(胃底腺型胃癌,腺窩上皮型胃癌)が報告されている.未分化型腺癌の多くは印環細胞癌で褪色調のⅡc,Ⅱb病変であることが特徴である.胃底腺型胃癌は胃底腺領域に発生し,粘膜下腫瘍様の形態を呈することが多く,腺窩上皮型胃癌は白色調の側方発育型腫瘍様の扁平隆起性病変やラズベリー様の発赤調の隆起性病変である.除菌後胃癌の多くは強い萎縮性胃炎を伴う分化型癌であり,Ⅱc病変が多い.除菌後分化型癌では表層粘膜を非癌上皮が覆い,生検診断や範囲診断が難しい症例が報告されている.強い萎縮を認める症例では発がんのリスクが高く,除菌後も内視鏡検査による注意深い経過観察が必要である.
症例は41歳女性,便潜血検査陽性のため行われた大腸内視鏡検査で,虫垂開口部に径20mmの正常粘膜に覆われた弾性,硬の隆起性病変を認めた.腹部CTでは腸管内腔に突出した隆起性病変として描出され,粘膜下腫瘍の術前診断で腹腔鏡下回盲部切除術を行った.術中観察では虫垂は盲腸内に反転しており虫垂重積を疑う所見であった.病理組織学的検査では,割面で虫垂粘膜の内反を認め,筋層内には円柱状の細胞からなる腺管が内膜様間質を伴って散見され,虫垂子宮内膜症に矛盾しない所見であった.虫垂子宮内膜症を原因とした虫垂重積症は稀であるが,特徴的な内視鏡所見を把握することで,盲腸切除などの縮小手術を施行できる可能性がある.
症例は75歳女性.閉塞性黄疸の精査目的でERCPを施行し,肝門部領域胆管癌と診断した.検査後にERCP後膵炎を発症し,感染性被包化膵・膵周囲壊死(WON)を合併した.超音波内視鏡下および経皮的ドレナージを施行するも,感染のコントロールに難渋した.さらにWONとS状結腸に瘻孔形成を認めたため,低侵襲治療としてover-the-scope clip(OTSC)Systemによる縫縮術を行った.膵結腸瘻は閉鎖可能であり,結果的にWONの消失も得られた.急性膵炎での結腸瘻の合併の頻度は多くはないが治療に難渋する.ERCP後膵炎の膵結腸瘻にOTSC Systemが有効であった1例を経験したので報告する.
68歳,女性.急性膵炎を繰り返すため,造影CTを施行したところ,膵頭部背側に乏血性腫瘤を認めた.EUSで膵頭部に12×11mm大の低エコー性腫瘤を認め,同膵腫瘤に対してEUS-FNAを施行したところ,悪性を疑う異型細胞集塊と破骨型巨細胞を認めた.以上より破骨型多核巨細胞を伴う退形成性膵癌と診断した.幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行したところ,腫瘍は13×12mmであり本邦報告例で最小であった.患者は半年間S-1による術後補助化学療法を受け,術後4年9カ月経過した現在も無再発生存中である.
症例1は膵・胆管合流異常症の精査目的にERCPを施行した61歳女性,症例2は左肝内胆管拡張の精査目的にERCPを施行した77歳男性.いずれの症例もERCP後膵炎の予防目的に膵管ステントの留置を行ったが,症例1は留置する際に迷入,症例2は膵管ステント留置後の経過観察中に迷入が判明した.いずれの症例もプレローデッド胆管ステントのプッシャーカテーテルを挿入し,細径生検鉗子を誘導することで迷入膵管ステントの回収に成功した.迷入膵管ステントを回収する際に主膵管内でのデバイスの操作が困難であるため,難渋する症例も多い.今回,プレローデッド胆管ステントのプッシャーカテーテルを利用して細径生検鉗子での迷入膵管ステントの回収に成功した2症例を経験したため報告する.
食道アカラシアは,下部食道括約筋の弛緩不全と食道体部の蠕動運動の障害をきたす良性疾患である.しかし,食事摂取が困難であることの苦痛度は高く,治療の必要性が高い疾患といえる.これまでの治療は,バルーン拡張術やHeller筋層切開術が行われていたが,内視鏡的治療として,Inoueらにより経口内視鏡的筋層切開術(Per-oral endoscopic myotomy:POEM)が開発された.POEMは,筋層切開術を低侵襲である経口内視鏡的に行う手技であり,1回の治療で長期的な効果を得ることができる.現在,日本国内でPOEMを施行可能な施設は限られているが,その普及により食道アカラシア自体の関心や認知度も高くなっている.本稿では,POEMの術前診断ならびにPOEMのコツと,さらにトラブルシューティングについて述べる.
【背景】食道扁平上皮癌の治療方針決定に正確な深達度診断が重要であるが,MM/SM1の正診率は低く解決すべき課題となっている.本研究の目的はLED光源を用いたLCIにおける食道表在癌に対する色と深達度の関連性について検討することである.
【方法】表在型食道癌と診断された病変に対し白色光につづいてLCIで観察を行った.色合いの評価についてはCIE-L*a*b*空間を用いて色値を算出し,深達度ごとの癌部と非癌部の色差を算出した.血管径およびintrapapillary capillary loopの分岐角を病理的に算出し,色合いとの相関を検討した.
【結果】48症例52病変が登録された.深達度別の正常と病変部の色差において,MM/SM1以深群ではEP/LPM群に比べて有意に色差が大きかった(P=0.025).血管径はb*値と弱い正の相関を認めた(相関係数=0.302,P=0.033).
【結論】LED光源を用いたLCI観察は,表在型食道癌における深達度診断の向上に有用である可能性があるが,その有用性を示すのにはさらなる検討が必要である.
消化器内視鏡分野における鎮静のニーズがさらに高まり日常診療において重要度の高い医療行為となっている.この度,日本消化器内視鏡学会は日本麻酔科学会の協力のもと「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版)」の作成にあたり,安全に検査・治療を遂行するためには何が問われているかを実地診療における疑問や問題として取り上げた.そのうえで,20項目のクリニカルクエスチョンを決定した.作成にあたっては「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」に従い,推奨の強さとエビデンスの質(強さ)を示した.現在日常的に行われている消化器内視鏡診療(以下,内視鏡)における鎮静の臨床的疑問と問題に関して現時点でのステートメントを示すことができた.なお,この領域における本邦からのメタアナリシスなど質の高い報告は少なく,専門家のコンセンサスを重視せざるを得ない部分も多かった.また,鎮静に主に使用されているベンゾジアゼピン系の薬剤は保険適用外であるのが現状で,費用負担に関する不利益の検討ができなかった.また,診療ガイドライン作成にあたって受益者である患者・市民の視点を反映することが今後の課題である.
なお,ガイドラインは現時点でのエビデンスの質(強さ)に基づいた標準的な指針であり,医療の現場で患者と医療者による意思決定を支援するものである.よって,個々の患者の希望,年齢,合併症,社会的状況,施設の事情や医師の裁量権によって柔軟に対応する必要がある.
【目的】新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染患者の消化管症状を95例で検討した単一施設後方視的研究である.
【方法】新型コロナウイルスの診断は咽頭スワブからRNAを抽出し,リアルタイムRT-PCR法を用いて行われた.また,便検体や内視鏡検査によって得られた食道,胃,十二指腸,直腸粘膜の生検組織からもRNAを抽出した後,RT-PCR法により新型コロナウイルスの有無を検出した.
【結果】95例中,58例が消化管症状を呈した.11例は入院当初から症状があり,47例は入院後に症状が出現した.主な消化管症状は下痢が最も多く(24.2%),次いで食欲不振(17.9%)および悪心(17.9%)が多く,他にも嘔吐(4.2%),胃食道逆流症(2.1%),心窩部不快感(2.1%),上部消化管出血(2.1%)が出現した.また,入院中に下痢症状が出現した患者は,抗菌薬使用の影響が考えられた.入院患者65例の便検体を検査し,消化管症状があった42例中22例(52.4%)で便検体からSARS-CoV-2ウイルスが検出され,消化管症状がない患者でも23例中9例(39.1%)からウイルスが検出された.消化管症状のある6例に内視鏡検査を実施したところ,重症患者1例で,食道にびらんと円形の小潰瘍(直径4-6mm)が散在しており,ごく少量の出血を伴っていた.重症患者2例においては生検した食道,胃,十二指腸,直腸すべての検体からSARS-CoV-2ウイルスが検出された.また,非重症患者4例中,1例で十二指腸検体からウイルスが検出された.
【結論】消化管はSARS-CoV-2の伝染経路であり標的臓器ともいえる.