日本消化器内視鏡学会雑誌
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63 巻, 1 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
年頭所感
新年の御挨拶
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総説
  • 佐野村 誠, 樋口 和秀
    2021 年 63 巻 1 号 p. 7-17
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
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    便秘症は一般診療で遭遇する機会の多い疾患であり,近年,慢性便秘症が生命予後に影響することが示され,便秘症診療が注目されている.慢性便秘症と大腸癌の関係について,便秘という要因だけで大腸内視鏡検査を施行した場合,大腸癌など有意所見の発見率は増加しない.大腸黒皮症患者では,大腸内視鏡検査による大腸腫瘍の発見率は増加する.また慢性便秘症と大腸憩室症について有意な関連はないとされている.慢性便秘症診療における大腸内視鏡検査は,大腸癌をはじめとする器質的疾患および大腸黒皮症,孤立性直腸潰瘍症候群/粘膜脱症候群,宿便性潰瘍など便秘症に関連する大腸疾患の診断に有用である.また内視鏡的バルーン拡張術,大腸ステント留置術,内視鏡的盲腸瘻造設術など便秘症に対する内視鏡治療の役割も担っている.

  • 山本 章二朗, 芦塚 伸也, 河上 洋
    2021 年 63 巻 1 号 p. 18-30
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
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    炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)の診断時には腸管感染症との鑑別は最も大切である.その後の経過が全く異なるため,誤診することはあってはならない.またIBDの再燃兆候がみられた場合,IBDの再燃か,感染症の発症か,またはその両者の合併かを的確に鑑別することは重要である.腸管感染症はIBDの増悪因子としても知られており,IBDを診療する上で腸管感染症は常に念頭に置くべき疾患である.そこで,本稿では,IBDを診療する上でIBDと鑑別を要する主な腸管感染症について,疾患概念や内視鏡所見について解説した.

症例
  • 米澤 瑛美, 河上 洋, 三池 忠, 坂元 一樹, 野田 貴穂, 鈴木 翔, 山本 章二朗, 河野 文彰, 七島 篤志, 武野 慎祐
    2021 年 63 巻 1 号 p. 31-37
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
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    症例は40歳,男性.夕食時に鶏の丸焼きを摂取後,前胸部痛を認めた.CTで胸部下部食道に4cm長の線状の高吸収域を指摘され,周囲には縦隔気腫も併発していた.鶏骨による食道穿孔が疑われ,当科紹介受診.外科のバックアップの下,上部消化管内視鏡による異物摘出を試みたところ,胸部下部食道の左右両側壁に穿孔する鶏骨と思われる異物を認めた.把持鉗子を用いて下行大動脈に近接する左側から抜去し,先端アタッチメント内に引き込んで摘出した.摘出後は絶飲食下に経鼻胃管を留置し間歇的陰圧吸引療法で管理し,手術を回避し得た.食道穿孔は重篤な合併症を引き起こし,手術を余儀なくされることが多い.また,鋭利な異物の場合,摘出操作中に大出血を生じることがあり,内視鏡で摘出する場合は工夫を要する.

  • 杉山 智彦, 手塚 隆一, 小木曽 富生, 田尻下 聡子, 奥野 充, 中山 千恵美, 小木曽 英介, 杉山 昭彦, 加藤 則廣, 冨田 栄 ...
    2021 年 63 巻 1 号 p. 38-44
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
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    症例は88歳,男性.上腹部痛精査のため当院へ紹介された.腹部CT検査で十二指腸水平部の穿孔が疑われた.上部消化管内視鏡検査で,十二指腸水平部の腸管壁にPTPの刺入がみられた.内視鏡的にPTPを摘出したが,十二指腸壁に約15mm大の穿孔を認めた.治療は内視鏡的にOver-The-Scope Clip(OTSC)を用いて穿孔部の閉鎖術を施行した.その後,一時的に誤嚥性肺炎を併発したが経過良好で転院となった.PTP誤飲による十二指腸穿孔に対しOTSC治療が有用であった稀な症例を報告した.

  • 中内 脩介, 岡野 裕行, 池内 香子, 河野 泰博, 小野寺 正征
    2021 年 63 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
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    症例は68歳の男性で,排便時出血を主訴に当院を受診した.大腸内視鏡検査では,上部直腸に表面の大部分が白苔で覆われた粗大結節状の隆起性病変を認め,一部に黒褐色調の色素沈着を伴っていた.生検では,メラニン色素を含む円形の異型細胞が充実性に増殖しており,S-100蛋白,HMB-45,Melan Aによる免疫組織化学染色でいずれも陽性所見を示したことから,悪性黒色腫と診断した.皮膚には悪性黒色腫を疑う色素沈着はなく,PET検査では直腸と胆嚢に集積を認めた.低位前方切除術と胆嚢摘出術を施行し,直腸原発悪性黒色腫と胆嚢転移の診断となった.

  • 岩佐 悠平, 岩下 拓司, 市川 広直, 三田 直樹, 上村 真也, 戸田 勝久, 金山 知弘, 宮崎 龍彦, 清水 雅仁
    2021 年 63 巻 1 号 p. 52-60
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
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    78歳女性.抗AQP4抗体陽性視神経脊髄炎に対しプレドニゾロン5mgで加療されていた.発熱,右季肋部痛を認め,血液検査で肝胆道系酵素,炎症反応の高値と,好酸球数割合の上昇があり,腹部造影CTは胆管壁の肥厚,濃染を認めた.ERCで肝外胆管壁の不整を認め,胆道鏡では胆管壁の浮腫,凹凸はあったが,悪性所見は認めなかった.胆管生検,肝生検では胆管への好酸球浸潤を認めたため好酸球性胆管炎と診断.プレドニゾロン25mgに増量し,その後は経時的に肝機能障害,炎症反応は改善.後日ERCの再検で肝外胆管の壁不整は改善し,胆管生検でも好酸球の浸潤は消失した.胆道鏡による観察は好酸球性胆管炎とPSC,胆管癌との鑑別に有用である可能性がある.

経験
  • 岩田 悠嗣, 松崎 一平, 泉 千明, 山内 浩揮, 五藤 直也, 横井 太紀雄, 服部 昌志
    2021 年 63 巻 1 号 p. 61-67
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
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    早期消化管癌に対するESDにおいて,さまざまなトラクションデバイスが開発されている.ネオジム磁石を用いたMagnetic anchor-guided ESDの有用性をわれわれは報告してきたが,体内磁石のデリバリーや内視鏡と内部磁石の干渉が課題であった.今回鉗子孔を通過可能な形状にしたステンレス鋼を用いて胃16例,大腸17例でMagnetic anchor-guided ESDの有用性を検討した.胃は切除時間中央値90(27-205)分で,すべての症例において良好なトラクションが得られた.大腸は切除時間中央値90(18-259)分で,15例(88%)で良好なトラクションを得ることができた.全例で一括切除され,有害事象は認めなかった.ステンレス鋼を用いたMagnetic anchor-guided ESDは,任意の方向と力で良好なトラクションが得られる理想的な手技である.

手技の解説
  • 伊藤 謙, 岡野 直樹, 五十嵐 良典
    2021 年 63 巻 1 号 p. 68-83
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
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    膵石症に対する内視鏡治療は,主膵管または副膵管内に膵石が存在し,消化器症状を訴える症例が良い適応である.また症状がなくとも若年者や膵石除去により膵機能の温存が期待される症例は適応となる.前処置として内視鏡的膵管口切開を施行する.膵石が5mm未満の症例では,第一選択としてバスケット鉗子やバルーンカテーテルを用いて結石除去を行う.膵石が5mm以上の場合は,ESWLにより膵石を破砕した後に内視鏡的に除去する.その際結石より十二指腸側に主膵管狭窄を伴う場合が多く,狭窄を拡張し,膵管ステントを留置する.内視鏡的膵石除去の手技は,バスケット嵌頓,出血,穿孔などの重篤な偶発症も危惧されるため,手技を熟知する必要がある.内視鏡治療の限界を考慮して,外科治療への移行の時期を逃さないようにする必要もある.

  • 平野 賢二, 中井 陽介
    2021 年 63 巻 1 号 p. 84-94
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
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    自己免疫性膵炎の内視鏡診断の中心的役割を果たすのが内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)による特徴的な主膵管不整狭細像の確認と超音波内視鏡下穿刺吸引生検(EUS-FNAB)による組織診断である.膵管狭細所見はびまん性,限局性のいずれの場合もあり,またスキップして存在することもある.膵病変が膵尾部に限局している場合には,途絶様所見を呈する頻度が高くなる.EUS-FNABによる自己免疫性膵炎の診断能はまだ十分とは言えないものの,穿刺針の改良により以前と比べれば大幅に向上している.

資料
  • 平澤 俊明, 池之山 洋平, 横山 知子, 青山 伸郎, 藤崎 順子
    2021 年 63 巻 1 号 p. 95-103
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
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    【背景・目的】新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Disease 2019:COVID-19)の流行により,2020年4月16日から5月14日にかけて,日本全国に緊急事態宣言が発出された.内視鏡診療はCOVID-19の感染リスクが高いとされ,現場ではこれまで以上の感染予防対策が求められた.本研究の目的は,緊急事態宣言期間の内視鏡診療の実態を明らかにすることである.

    【方法】日本国内の内視鏡医にアンケート調査を行った.

    【結果】534名の有効回答が得られた.学会の提言はほぼすべての医師が知っており,9割以上が妥当と考えていた.内視鏡が平常通りに行われていたのは1割程度の施設であり,多くの施設で検査が中止,縮小されていた.個人防護具の在庫は十分ではなく,連続使用されることが多かった.

    【結論】全国緊急事態宣言期間中の内視鏡診療はCOVID-19により大きな制約を受けた.今後も継続的な感染予防策を講じる必要がある.

  • 矢根 圭, 桒谷 将城, 吉田 真誠, 後藤 拓磨, 松本 隆祐, 庵原 秀之, 奥田 敏徳, 多谷 容子, 江平 宣起, 工藤 大樹, 安 ...
    2021 年 63 巻 1 号 p. 104-116
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
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    【背景と目的】膵体尾部癌に対する術前の超音波内視鏡下穿刺吸引法(Endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration:EUS-FNA)後のneedle tract seedingが報告されている.本研究では,術前にEUS-FNAで診断され,膵体尾部切除術を受けた膵体尾部癌症例のneedle tract seeding発生率を含めた長期予後を検討することを目的とした.

    【方法】この後ろ向きコホート研究では,3つの大学病院と11の高次医療機関の症例を対象とした.2006年1月から2015年12月までの間に膵体部および膵尾部の浸潤性膵管癌に対する膵体尾部切除術を受けた全症例を同定し,レビューした.Needle tract seeding発生率,無再発生存期間(RFS),全生存期間(OS)を評価した.

    【結果】解析した301例のうち,術前にEUS-FNAを受けたのは176例(EUS-FNA群),受けなかったのは125例(非EUS-FNA群)であった.EUS-FNA群と非EUS-FNA群の観察期間中央値はそれぞれ32.8カ月,30.1カ月であった.EUS-FNA群では6例(3.4%)がneedle tract seedingと診断された.Fine and Gray’s methodを用いて推定した5年累積needle tract seeding発生率は3.8%(95%CI:1.6%~7.8%)であった.RFSおよびOSの中央値は,EUS-FNA群と非EUS-FNA群で有意差はなかった(23.7カ月 vs 16.9カ月,P=0.205;48.0カ月 vs 43.9カ月,P=0.392).

    【結語】膵体尾部癌に対する術前EUS-FNAはRFSやOSに悪影響を及ぼさないが,EUS-FNA後のneedle tract seedingは無視できない率で発生していた.(UMIN000030719)

内視鏡室の紹介
最新文献紹介
  • 岡 志郎
    2021 年 63 巻 1 号 p. 125
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
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    【背景】画像強調内視鏡観察の1つであるLinked Color Imaging(LCI)による上部消化管腫瘍性病変の拾い上げ診断能に関する多施設前向きの大規模臨床研究はない.

    【目的】LCIによる上部消化管(咽頭・食道・胃)腫瘍性病変の拾い上げ診断能を従来の白色光(White Light Imaging:WLI)と比較検討する.

    【方法】2016年11月から2018年7月までに本邦19施設(大学病院16施設,がん専門病院3施設)において,20歳以上89歳までの消化管がんの既往または現在保有している患者を対象に,咽頭,食道,胃の各部位ごとにLCIで観察してからWLIで見直す群(LCI群)とWLIで観察してからLCIで見直す群(WLI群)のランダム化比較研究を実施した.主要解析項目は,WLI群とLCI群別の咽頭・食道・胃の腫瘍性病変の診断患者割合とし,副次解析項目として各群の見落とし率,病変の部位,形態,大きさ,腫瘍か非腫瘍かの確信度,観察時間について検討した.

    【結果】最終的な解析対象は1,502人で,WLI群752人,LCI群750人であった.両群間で年齢,性別,手術既往の有無,担がんか否かに差を認めなかった.腫瘍性病変患者発見割合は,LCI群60人(66病変)/750人(8.0%)に対し,WLI群36人(37病変)/752人(4.8%)で,LCI群で有意に高い発見率であった(P=0.01,相対発見比1.67).各群でLCI/WLI観察を合わせた総合の診断割合は,LCI群65人71病変,WLI群60人63病変で,両群間で有意差を認めなかった.見落とし率はLCI群7.0%(5/71),WLI群41.3%(26/63)で,LCI群で有意に低かった(P<0.001).確信度の検討では,腫瘍性病変を強く疑う割合がLCI群86.4%(57/66),WLI群54.1%(20/37)で,LCI群で有意に高かった.検査時間は食道では両群間で有意差を認めなかったが,胃ではLCI群がWLI群に比べて16秒長かった.

    【結語】上部消化管腫瘍性病変の拾い上げにはWLIよりLCIが優れていた.

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