本邦における消化性潰瘍の2大要因は,H. pylori感染,およびNSAIDsなどの薬剤服用である.従って,前者に対してはH. pylori除菌治療が,後者に対しては薬剤服用中止が根本的な治療法になる.薬物治療ではプロトンポンプ阻害薬などの酸分泌抑制が重要な役割を演じることに異論の余地はないが,近年多くの臨床的エビデンスが蓄積されてきた.とりわけ,抗血栓薬服用者に対しての出血性潰瘍予防について多くの臨床研究結果が示されており,それらに基づく効果的な治療戦略の再構築が求められる.一方,特発性消化性潰瘍は近年報告例が増えており,有効な治療法確立が急務となっている.
近年,次世代シ―ケンシング(NGS:next-generation sequencing)技術に基づく腫瘍のゲノムプロファイリングにより,進行癌に対するprecision medicineが実用化している.EUS-FNAは膵癌における病理診断において重要な役割を果たしてきたが,近年こうしたprecision medicineの導入を背景に,より多くの良質な“組織採取”という方向性のもと穿刺針や穿刺法などの検討が行われている.EUS-FNA検体を用いた膵癌NGS解析は解決すべき課題も多くその有用性は確立されたものではないが,近年,遺伝子パネル解析によるドライバー変異の同定にとどまらず,全エクソン/全トランスクリプトーム解析などの網羅的解析や患者由来オルガノイドモデル構築など,さらなる先進的な検討も試みられている.本稿ではEUS-FNA検体を用いた膵癌ゲノムプロファイリングについて文献的なレビューを行い,現状と課題について考察する.
症例は83歳,男性.嚥下時違和感を主訴に受診した.内視鏡検査にて下咽頭右梨状陥凹に表面平滑で黄色調の粘膜下腫瘍を認めた.CT検査では右梨状窩付近に境界明瞭な低吸収腫瘤を認め,MRI検査ではT1及びT2強調画像で高信号,脂肪抑制T1強調画像で低信号を呈し,著明な拡散異常や内部造影効果は認めなかった.以上の検査結果より脂肪腫の診断で,耳鼻咽喉科の協力の下,彎曲型喉頭鏡にて喉頭展開を行い,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)で一括切除した.摘出標本は45×13×15mmであり,病理組織学的に脂肪腫と診断した.術後経過は良好で,術後数日で嚥下時違和感は消失した.
症例は61歳男性.血液透析中.食思不振ならびに胃病変精査目的に受診された.上部消化管内視鏡検査では胃体部に13mm径の中央陥凹を有する発赤色調の腫瘤と多発する粘膜下腫瘍様隆起を認めた.同時に胃体部優位の慢性萎縮性胃炎(木村・竹本分類O-Ⅲ)を認めた.
内視鏡生検の病理組織は,胃神経内分泌腫瘍(G-NET G2)と診断した.血液検査では壁細胞抗体・内因子抗体は陰性で,Helicobacter pylori(HP)抗体陽性(40.4U/ml),血清ガストリン値16,030pg/mlと高値であった.
Rindi分類Type ⅠのG-NETと診断し,胃全摘出術・リンパ節郭清術を施行した.切除標本の病理組織所見も生検病理組織同様G-NET G2であり,1カ所のリンパ節転移を認めた.腫瘍周辺の粘膜に多数のEndocrine cell micronest(ECM)やEnterochromaffin-like(ECL)細胞の過形成が確認された.
HP慢性胃炎から高ガストリン血症を来し,リンパ節転移を伴うRindi分類Type Ⅰの多発性胃神経内分泌腫瘍を発症した症例は稀である.
症例は80歳代女性.上部消化管内視鏡検査で,噴門部直下に丈の高い乳頭状隆起と周囲に裾野を広げるような平坦隆起を伴った巨大な腫瘍を認めた.幽門腺腺腫と考えられたが,担癌の可能性が否定できないため外科的切除を選択した.病理組織学的には,隆起部分は幽門腺腺腫の領域と乳頭管状構築を示す胃腸混合型の高分化型腺癌から構成されていた.丈の低い領域は,表層は腺窩上皮に,中層付近は幽門腺・粘液細胞への分化を示す幽門腺腺腫であった.以上より,幽門腺腺腫から発生した高分化型腺癌と診断した.幽門腺腺腫から発生した胃腸混合型腺癌の報告は少なく,また,本例は特異な肉眼形態を呈しており貴重な症例と考えられた.
症例は62歳の男性.60歳時に後天性血友病Aと診断され,ステロイドとリツキシマブの併用療法によって寛解を得た.ステロイド中止後に第Ⅷ因子インヒビターの再陽転化を認め,ステロイドが再開された.同時期より認めた血便に対する大腸内視鏡検査で直腸に60mm大の側方発育型大腸腫瘍を認めた.出血傾向が存在したが,治療適応病変と判断し,血液凝固因子製剤補充下での内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を行った.ESD後に連日の血便と貧血の進行を認め,切除部位からの出血を繰り返したが,血液凝固因子製剤補充,輸血および計9回の内視鏡的止血術を繰り返し,約3週間の経過で完全止血に成功した.
1年間の健診受診者の中で,胃粘膜生検を施行された298例のうち,14例(4.7%)にNon-Helicobacter pylori Helicobacter感染胃炎(Non-Helicobacter pylori Helicobacter gastritis;NHPHG)を指摘した.本検討で得られたNHPHGの発生頻度は,従来報告されている同胃炎の頻度より高率であり,これまで指摘されているほど希少な疾患ではない可能性が示唆された.
食道アカラシアは,食道運動障害性疾患の代表的な疾患である.経口内視鏡下筋層切開術(per-oral endoscopic myotomy:POEM)が考案されると,それまで外科的に行われていたHeller筋層切開術に代わりうる低侵襲治療法として世界中に普及した.治療の奏効率も高く,優れた治療である一方で,その新規性からPOEM導入にあたっては様々なハードルが存在する.稀な疾患であるなどといった臨床的問題に加え,保険請求における施設基準など制度的問題も存在するため新規導入は簡単ではない.どちらの問題も決して簡単にクリアできるものではないが,治療により症状が劇的に改善することも多いPOEMは,術者にとってやりがいの大きい治療でもある.また,POEMは様々な新規治療に発展する将来性を持った優れた治療であることから,これらのハードルを乗り越えて新規導入する意義は大きい.
バレット食道は食道腺癌の発生母地であり,その発癌プロセスの初期段階にあるバレット上皮および異型粘膜に対しては,内視鏡的切除および内視鏡的焼灼法を併用した多角的なアプローチが必要である.現在欧米では内視鏡的焼灼法を施行するにあたり,主にラジオ波焼灼法,内視鏡的凍結療法,そしてアルゴンプラズマ凝固が用いられている.この中から治療法を適切に選択し,安全に施行しそして有効な治療効果を得るには,それぞれの治療法に使用されるデバイスの種類やその構造,使用法,治療適応,そして発生し得る偶発症に関し理解を深めることが重要である.本稿ではこれらの内視鏡的焼灼法に関し,主に手技的な側面に焦点を合わせて解説する.
【目的】胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)にはある一定数のプロトンポンプ抑制薬(proton-pump inhibitor:PPI)抵抗性患者が存在している.内視鏡的噴門形成術(Anti-Reflux Mucosectomy:ARMS)はGERDに対する低侵襲内視鏡治療である.本研究ではわれわれの施設で行われたPPI抵抗性難治性GERD患者に対するARMSの効果を後方視的に検討した.
【方法】ARMSが行われたPPI抵抗性難治性GERD患者109例を後方視的に検討した.ARMS術前後に問診票スコア,酸曝露時間,DeMeester score,近位側逆流回数,PPI中止率などを比較した.
【結果】自覚症状は有意に改善しており(p<0.01),ARMS後に40~50%の患者でPPIを中止できていた.また3年間の経過観察例において自覚症状の改善が維持できていた.酸曝露時間やDeMeester scoreはARMS後に改善していたが(p<0.01),近位側逆流に有意な改善は認めなかった(p=0.0846).
【結語】ARMSはPPI抵抗性難治性GERD患者に対して有用な低侵襲治療である.治療の有効性は噴門の瘢痕形成により酸逆流を抑制することによるものである.
【背景と目的】新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは医療全体にも重大な影響を及ぼしている.イタリアにおいては,パンデミックが起こって以来,大腸癌スクリーニングプログラムの運用が延期を余儀なくされている.本研究の目的は,スクリーニング自体が遅れることによって大腸癌スクリーニングプログラムのアウトカムにどのような影響があるか評価をすることであった.
【方法】筆者らは大腸癌診断の遅れに関するメタ解析モデルを作成した.イタリアにおける大腸癌統計をベースに,大腸癌診断の遅れ,大腸内視鏡までの期間など既報を収集したうえでモデルに当てはめて時間経過による大腸癌の進行に伴った生命予後への影響を評価した.
【結果】集積されたスクリーニングプログラムの既報によって発見された大腸癌患者の5年生存率は,ステージⅠ,Ⅱ,ステージⅢ,Ⅳで各々0.85(0.81-0.88),0.39(0.33-0.44)であった.プログラムの0-3カ月の遅れであればステージⅠ,Ⅱ,ステージⅢ,Ⅳの大腸癌は各々74%,26%であるが,7-12カ月,12カ月以上ではステージⅢ,Ⅳが各々29%,33%とその割合が有意に増えた.12カ月以上遅れた際には全大腸癌死亡が有意に増え(12%,P=0.005),生存曲線が有意に変化した.
【結論】4-6カ月のプログラムの遅延は進行癌の増加リスクを認め,12カ月以上の遅延は生命予後に影響を与えるかもしれない.本研究では新型コロナウイルス感染症や他のパンデミック状況下における大腸癌のような重要な疾患の診断過程を含めたマネッジメントの強化の必要性を提言した.