大腸内視鏡検査実施後のサーベイランスの大きな目的の1つは,検査実施後の大腸癌の罹患と死亡を抑制することである.大腸癌の罹患・死亡抑制効果とサーベイランスの負荷・コスト,検査のキャパシティーなどのバランスを加味して最適なサーベイランス・プログラムを構築することが求められる.日本においては従来,臨床現場において欧米よりも頻回なサーベイランスがなされてきたが,新たに発刊された「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」において初めてリスク層別化に基づくサーベイランス・プログラムが提唱された.今後,臨床の現場で広く普及することが期待される.
近年の胆管結石に対する治療の進歩は目覚ましく,様々なデバイスが開発されるとともに,新たな内視鏡治療方法が出現してきている.巨大結石や嵌頓結石などの様に以前は内視鏡的,経乳頭的に治療可能であっても難渋していた症例が,内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(endoscopic papillary large balloon dilation:EPLBD)や経口胆管鏡下結石破砕術(peroral cholangioscopic lithotripsy:POCSL)により,より簡便に治療可能となっている.また,術後再建腸管症例や肝内結石などの様に,以前は経皮的または外科的な治療に移行せざるを得なかった症例においても,バルーン内視鏡下ERCP(balloon enteroscopy-assisted ERCP:BE-ERCP),超音波内視鏡ガイド下順行性治療(endoscopic ultrasound-guided antegrade treatment:EUS-AG)などの新たな治療方法が出現した事により,その治療戦略は劇的に変化している.様々な内視鏡治療が出現してきている中で,胆管結石を安全かつ効率的に治療するためには,それぞれの治療方法の特徴をよく理解した上で,それぞれの施設の設備状況,患者の状況,結石の状況に応じて適切な治療方法を選択し,慎重かつ臨機応変に治療を行う事が重要である.
症例は41歳女性.健診目的の上部消化管内視鏡検査にて下部食道に限局した白斑所見を認め,生検組織にて高倍率1視野あたり最大78個の好酸球浸潤があり好酸球性食道炎(EoE)と診断した.当センター受診の15日前から標準化スギ花粉エキスによる舌下免疫療法を受けており,EoE診断までは舌下後の薬液は飲み込んでいた.舌下後に薬液を吐き出すようにしたところ,治療継続3カ月後の内視鏡検査では,下部食道の白斑は消失し,生検所見でも改善を認めた.舌下療法を継続しているにもかかわらず,1年6カ月後の検査では,内視鏡所見,組織所見ともEoEの所見を認めなかった.また,スギ花粉症の症状も軽快傾向となっている.
症例は37歳,男性.重症筋無力症に対して胸腺摘出術を施行され,その後は内服加療とされていた.今回,検診目的に施行した上部消化管内視鏡検査により胃体上部大彎後壁に20mm大の褪色調の陥凹性病変を指摘された.生検での病理組織診断により印環細胞癌と診断され,当科紹介となった.術前精査によりESDの適応拡大の早期胃癌と診断し,ESDを施行した.重症筋無力症に対するESD施行時の鎮静方法はベンゾジアゼピン系薬剤が禁忌であり,筋弛緩作用を有しない薬剤の使用が求められる.そこで,デクスメデトミジン,ペンタゾシン,ヒドロキシジンを併用し,良好な鎮静下に安全にESDを施行し得た.鎮静剤が限られる重症筋無力症患者において,デクスメデトミジンは内視鏡治療時の選択肢となり得ると思われ,ここに報告する.
75歳男性,一過性脳虚血発作で入院経過観察中にS状結腸による左鼠径ヘルニア嵌頓を併発.大腸内視鏡施行しヘルニア嚢内のS状結腸内容を可及的に吸引減圧しヘルニア嚢は著明に縮小,用手的にS状結腸還納可能となり緊急手術を回避し後日待機的に根治術を施行し得た.鼠径ヘルニアの嵌頓は比較的実臨床で遭遇し得る疾患であり緊急手術の適応であるが,高齢者では様々な併存疾患による手術リスクが問題となり待機手術が望ましく有用な処置と思われ文献的考察を含め報告する.
症例は60歳代の男性.健康診断でPSA上昇を指摘され,骨盤部MRI検査では悪性所見は認められず,左側骨盤内腫瘤を指摘された.諸検査では骨盤内腫瘤について診断に至らなかった.直視型コンベックス型超音波内視鏡を用い経大腸的に超音波内視鏡下穿刺吸引法を施行し,組織診断より腺癌成分が検出された.細胞の形態から前立腺癌パターンと類似していたため前立腺生検を施行した.骨盤内腫瘤の生検病理標本と類似した組織が採取され,最終的に前立腺癌の骨盤内リンパ節転移と診断し得た.画像診断のみでは診断困難であった骨盤内腫瘤に対して,経大腸的に直視型超音波内視鏡下穿刺吸引法を行い,より低侵襲に病理組織学的診断に至ることができた.
安全で効率的な内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を行うには,剝離部の良好な視野の確保と的確なカウンタートラクションを得ることが有用であり,これまで種々の牽引法が報告されてきた.今回,われわれは,より有効な牽引を行うために,複数のリングと伸縮性を有する牽引糸を2本内蔵した新規先端フードを使用して深部大腸腫瘍のESDを施行した.今回,経験した3症例の各々に,種々の高周波ナイフ,クリップを使用したが,スコープの抜去や再挿入を要することなく2箇所で牽引し,偶発症なく一括切除をし得た.今回,その実際と本フードの特徴について若干の考察を加えて報告する.
近年,咽喉頭領域に表在癌が多く発見されるようになり,咽喉頭表在腫瘍に対する内視鏡治療に注目が集まっている.ELPS(endoscopic laryngopharyngeal surgery)は内視鏡医と耳鼻咽喉科医が合同で咽喉頭腫瘍を切除する手技であり,他の内視鏡手技と同様に臓器温存が可能な術後QOLに優れた安全性の高い手技である.また,ELPSはスピーディーな切開剝離が可能であり,喉頭展開下における良好な視野で治療方針を耳鼻咽喉科医と相談しながら治療ができるなど利点も多い.特に放射線化学療法後の遺残再発病変に対してELPSは有用な手技であり,咽喉頭癌の治療の選択肢の一つとして期待される.
Zenker憩室(ZD)は比較的稀な疾患であるが,嚥下障害や摂食困難による体重減少,逆流による誤嚥性肺炎などによりQOLの低下の原因となる.これまで外科的外切開術や硬性内視鏡を用いた憩室隔壁切開術が施行されてきたが,近年欧米を中心として経口軟性内視鏡を用いた憩室隔壁切開術(Flexible endoscopic septum division:FESD)が広まり,2020年の欧州消化器内視鏡学会(ESGE)ガイドラインでは第一選択の治療法に位置付けられた.本邦でも2020年7月より先進医療として承認され,今後標準治療としての保険収載が期待される.そこで本稿では,ZDの病態およびその治療法としてのFESDの手技,治療スケジュールとフォローアップについて詳細に解説する.
【背景と目的】胃癌に対する外科的胃切除術後の異時性多発胃癌の発生に関する多施設・多数例での検討は行われていない.本研究では,多施設から集積した症例を用い,胃切除術後の異時性多発癌の発生状況と治療内容を明らかにし,胃切除術後の適切なフォローアップ法を考察することを目的とした.
【対象と方法】本研究は,胃外科・術後障害研究会の施設会員・個人会員を対象にアンケート調査を行い,各施設の結果を集計する後ろ向き疫学調査である.対象は各施設で2003年から2012年の期間に胃癌に対する手術が施行された症例とし,術式別の異時性多発胃癌の実数や発生時期,治療内容などが評価項目とされた.
【結果】52施設から33,731例の胃切除例が集められ,うち,5年を越える期間でフォローアップされていた症例は24,451例であった.異時性多発胃癌の発生率は,幽門側胃切除術で2.4%,幽門保存胃切除術で3%,噴門側胃切除術で6.3%,機能温存胃切除術(分節切除術と局所切除術)で8.2%であった.幽門側胃切除術においては,Roux-en-Y再建における異時性多発胃癌の発生率は他の再建法(Billroth-Ⅰ法,Billroth-Ⅱ法)より有意に低率であった(それぞれ1.6%,2.7%,3.2%).他の術式では,再建法による異時性多発胃癌の発生率に有意差は認めなかった.36.4%の症例で,異時性多発胃癌発生のタイミングは術後5年を越えていた.また,異時性多発胃癌に対する治療としては,噴門側胃切除術や機能温存胃切除術で高率にESDが選択されていた(それぞれ50.8%,67.9%).
【結論】残胃を大きく残す術式(噴門側胃切除術や機能温存胃切除術)における異時性多発胃癌の発生頻度は幽門側胃切除術後より有意に高率であるが,ESDで治療可能な場合も多い.また,異時性多発癌の発生は,術後5年を過ぎてもなお高率に認める.したがって,胃癌術後では長期の内視鏡サーベイランスによる残胃モニタリングが重要であることが示唆された.