本邦における大学教育や医学教育の改革の重要性が注目されている.米国や英国といった諸外国での高等教育改革の細部を見ると,良い医師を育てよう,良い研究者を育てようという理念を見て取ることができる.こうした理念は教育の研究を推進させ,新しい用語や概念を生み出した.本邦では,第三者による各大学の教育の質評価が進んでいるが,これを表面的に乗り切るために用語や概念を形だけ新しくするものがいるとすれば大変残念である.これでは真の成長にはつながらない.そこで,本稿では,そういった改革に伴い欧米で発展した教育に関するいくつかの重要な用語の背景を整理し,今後,消化器内視鏡教育のデザインをされる諸先生方にその重要性を広く紹介することを目的とした.
内視鏡的全層切除術(Endoscopic Full-Thickness Resection;EFTR)は腹腔露出法(Exposed法)と腹腔非露出法(Non-exposed法)に分類される.Exposed法ではまず腫瘍周囲を全周性・全層性に切開し,その後消化管壁欠損部を内視鏡的に閉鎖する.閉鎖法としてはクリップ・留置スネア法や内視鏡縫合器を使用した縫合閉鎖法がある.Non-exposed法ではまず,腫瘍の底部を特殊なクリップを用い全層性に閉鎖し,その後クリップの上縁で腫瘍を切除する.Exposed法は腫瘍サイズによらず施行可能なことがメリットであるが,消化管壁欠損部の完全閉鎖が必須である.Non-exposed法は安全な方法であるが,クリップの大きさに限界があり,不完全切除のリスクがある.
近年になり,米国内に数々のベンチャー企業が立ち上げられ,ロボット技術を応用した腹腔鏡および軟性内視鏡手術システムを開発している.われわれの行った前向きランダム化比較試験では,ロボットを用いた大腸Endoscopic Submucosal Dissection(ESD)は,従来のESDと比較して手技時間が短く,一括切除率が高く,そして穿孔率が低いことが示された.米国で最近開発された最新のロボットシステムでは,内視鏡および手術用デバイスの操作すべてにロボット技術が応用されており,術者が両手を用い繊細かつ正確に手術を行うことが可能である.
【背景・目的】胃癌と非癌粘膜の白色球状外観(white globe appearance:WGA)の違いを明らかにする.
【方法】胃WGA症例の内視鏡所見と臨床的特徴を後ろ向きに解析した.
【結果】胃癌18例,非癌23例にWGAを認めた.胃癌症例は7例(38.9%),非癌症例は17例(73.9%)がプロトンポンプ阻害剤(proton pump inhibitor:PPI)を内服していた.病理学的には,胃癌症例(18例)のうち腺管の嚢胞状拡張は12例(66.7%),腺腔内壊死物質は12例(66.7%),壁細胞の過形成と内腔への鋸歯状の突出(parietal cell protrusion:PCP)は1例(5.6%)でみられた.一方,非癌症例のうち14例で生検が実施され,腺管の嚢胞状拡張は8例(57.1%),PCPは7例(50.0%)でみられたが,腺腔内壊死物質は指摘できなかった.非癌群において,自己免疫性胃炎を2例,内視鏡的粘膜下層剝離術後瘢痕を2例,腺腫を1例,ランタン沈着を1例,胃MALTリンパ腫を1例に認めた.
【結論】胃癌粘膜と非癌粘膜ではWGAの成因は異なり,非癌症例ではPPI服用が関与している可能性が示唆された.
症例は,70歳代男性.喉頭癌,肺癌の術前スクリーニング目的に当科紹介となった.EGDにて,胃体上部小彎に20mm大の0-Ⅱa+Ⅱc型胃癌を認めた.諸検査から胃癌cT1N0M0,cStage Ⅰと診断した.喉頭癌,肺癌が予後規定因子と判断し両病変の外科治療を先行した.術後検体では,喉頭癌,および喉頭癌肺転移の病理診断となった.3カ月後,貧血が進行したため,EGDを再試行した結果,胃癌は50mm大に増大し1型病変に変化していた.諸検査より,cT2N0M0,cStage Ⅰと診断した.喉頭癌pStage Ⅳを併発していたが,予後が期待されたため,腹腔鏡下噴門側胃切除術を施行した.本症例は3カ月という短期間で,0-Ⅱa+Ⅱc型から1型へ形態変化をきたした.希少な症例と考えられ,若干の文献考察を加えて報告する.
症例は70歳,女性.近医で行ったEGDで前庭部大彎に10mm大の陥凹を伴った表面隆起性病変を認め,精査目的に当院紹介となった.Helicobacter pylori(以下H. pylori)の除菌歴はなく,H. pylori-IgG抗体は3U/ml未満であった.EGDで背景粘膜に萎縮はなく,H. pylori未感染と診断した.生検では管状腺腫,Group3の診断であったが,内視鏡所見では胃癌が疑われたため内視鏡的粘膜下層剝離術を施行した.病理組織学的には高分化型管状腺癌であり,免疫組織化学染色ではCD10,CDX2は陽性,MUC2,MUC5AC,MUC6は一部陽性であり,腸型優位の粘液形質を有していた.H. pylori未感染で背景に萎縮や腸上皮化生を伴わない粘膜から生じた腸型優位の高分化型管状腺癌はまれであり,報告する.
症例は66歳男性.脳梗塞と頸椎損傷から左片麻痺となり,誤嚥性肺炎を繰り返した.経口摂取不可能と診断され,当院に胃瘻造設目的で入院となった.入院時の胸部レントゲン,腹部CTにて完全内臓逆位症と診断し,経皮内視鏡的胃瘻造設術を施行した.その後特に合併症なく,問題なく胃瘻も使用可能となり,転院調整が整った術後27日目に無事転院となった.
完全内臓逆位患者は比較的稀であり,同患者に対する経皮内視鏡的胃瘻造設術は体位や胃内操作の手技が確立されていないため,報告した.
81歳女性.血便精査目的に当科紹介受診.鉄欠乏性貧血を認めたが,造影CTおよび上下部消化管内視鏡検査では出血源を同定できなかった.カプセル内視鏡にて回腸に出血を認めた.小腸内視鏡検査では回腸に8mm大の隆起性病変を認めたが,抗血小板薬内服中であったため経過観察とした.しかし,その後も緩徐に貧血の進行を認めたため,同ポリープが出血源と考え,局注併用cold snare polypectomy(CSP)を行った.病理組織所見は,炎症性ポリープであった.その後,1年半経過したが再出血なく貧血も改善している.良性の小腸ポリープに対して局注併用CSPが有用であった症例を経験した.
PillCamTM COLON 2を用いた大腸カプセル内視鏡検査は,大腸ポリープの検出のみならず,潰瘍やびらんなどの炎症性病変の評価,血管性病変の評価などにも有用であり,フレームレート調整機能(adaptive frame rate;AFR)を検査の最初から使用することで,消化管の一括観察が可能となる.AFRモードを最初からマニュアル設定して使用することの利点は,大腸病変に加えて小腸病変の観察が良好な洗浄度で可能となる他,胃通過時間や小腸通過時間の測定ができること,頻度は高くないがAFRモードの自動起動遅延による不具合を回避するためにも有効である.現時点では,クローン病を除く炎症性腸疾患,消化管ポリポーシス,消化管感染症,血管炎,GVHD,NSAIDs起因性粘膜傷害など多くの疾患の評価に有用である.将来は,大腸カプセル内視鏡が禁忌となっているクローン病の評価においても,西欧諸国と同様に小腸大腸一括観察を行うPillCamTM Crohnʼs systemが国内承認されることが期待される.当院でのこれまでの大腸カプセル使用経験を含めて,AFRモードを用いた小腸大腸一括観察法について紹介する.
膵管にガイドワイヤーを留置し,乳頭を固定し,胆管末端部の直線化を図って胆管挿管を行う,膵管ガイドワイヤー留置法(PGW法:Pancreatic guidewire法)は挿管困難症例に対するオプションとして臨床の現場で広く用いられている.一方でPGW法を用いても胆管挿管に難渋する症例はよく経験され,“膵管にガイドワイヤーが留置されることで乳頭そのものの可動性を抑えることは少し可能になるが,屈曲の強い乳頭内胆管が完全に直線化しない可能性も十分にあり得る”ことを念頭に胆管挿管に向き合う必要がある.PGW法はあくまでもオプションの一つであり,胆管挿管の成功は膵管ガイドワイヤー留置後の,対峙した乳頭の形態,口側隆起の形状,その症例でとり得るスコープポジション,を踏まえた挿管ストラテジーの構築なくしてはなし得ない.術後膵炎のリスクを常に想定しながら,安全・確実な膵管ガイドワイヤー留置,症例に応じた各種挿管手法の使い分けを,論理的に,かつ愛護的に操る必要がある.
1972年の日中国交正常化と同じ年の12月に北京協和医院において,日本人医師の支援により中国初の内視鏡検査が実施された.以来,日中の消化器内視鏡学会関係者の親交が続き,その交流の歴史は50年の長きに及びつつある.1999年には中国瀋陽にて,第1回中日内視鏡・消化器病学術交流会が開催された.中国の内視鏡技術の向上を図るため,日本消化器内視鏡学会丹羽寬文理事長(当時)と香港のWilliam Chao,中国の于中麟が交流会を企画したのが始まりである.1999年から2018年までに11回の学術交流会を行ったが,2020年4月杭州で開催予定だった交流会はコロナウイルス感染問題で延期となり,2020年11月にWebでの交流会を行った.日本消化器内視鏡学会は,中日内視鏡・消化器病学術交流会などを通じて,中国の内視鏡医療界の多くの方々と長い間,親密な交流を続けてきた.中国と日本の間には内視鏡医学の交流の長い歴史があり,先輩の諸先生方が築き上げてこられた厚い信頼関係がある.次世代を担う若い先生方におかれては,今後もさらに中国の内視鏡医療界の方々と交流を深めて,世界の内視鏡医学の発展のために貢献していかれることを期待している.
【目的】咽頭癌リアルタイム診断のための人工知能(Artificial Intelligence:AI)システムの開発.
【方法】当施設で治療された咽頭癌の内視鏡動画と静止画像を収集された.収集対象は病理学的に咽頭癌と診断された患者276人の合計4,559枚の静止画(白色光(White Light Imaging:WLI)1,243枚と狭帯域光観察(Narrow Band Imaging:NBI)/青色レーザーイメージング(Blue laser Imaging:BLI)3,316枚)で,これらの静止画をAIシステムのトレーニングデータセットとして使用した.AIシステムは,画像分析に頻用される畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network:CNN)モデルを使用し作成された.AIシステムの検証には,当院で撮影された咽頭癌の25症例と正常な咽頭の36症例の動画(トレーニングデータセットとしては用いられていないもの)が用いられた.
【結果】AIシステムは,23/25(92%)の咽頭癌を癌と正しく診断し,17/36(47%)の非癌を非癌と正しく診断した.AIシステムの処理速度は画像あたり0.03秒で,リアルタイム診断に対応できる速度であった.癌の検出の感度,特異度,および正診率は,それぞれ92%,47%,および66%であった.
【結論】単一施設の研究ではあるが,われわれが作成したAIシステムが,咽頭領域の癌を,高い感度と許容できる特異性で診断できることを示した.さらなるトレーニングにより性能を向上させるためには,多施設でより大きなデータセットの収集が必要である.
【本研究の目的】表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(superficial non-ampullary duodenal epitherial tumors:SNADETs)に対する内視鏡的切除(endoscopic resection:ER)を積極的に推進してきた施設から多数例を集積し,遡及的検討によってその成績を明らかにする.
【対象と方法】対象は,日本国内18施設で2008年1月から2018年12月までにERが施行されたSNADET患者とした(家族性腺腫性ポリポーシス症候群を除く).ERには,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR),内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection:ESD),水浸下EMR(underwater EMR:UEMR),cold polypectomy(CP)が含まれた.対象患者の臨床病理学的特徴を明らかにしたうえで,治療手技別に治療成績を検討した.
【結果】SNADETに対するERが行われた3,107例(EMR;1,324例,ESD;1,017例,UEMR;579例,CP;187例)が本研究に組み入れられた.患者の平均年齢は63歳で,男性が占める割合が高かった(69.7%).病変の平均径は13.9mm(ESDでは20.6mm),病変部位は乳頭の口側,肛門側がそれぞれ約半数であった.最終病理診断では,59%が腺腫,35.2%が癌であり,全体の1.5%(癌の3.9%)に粘膜下層浸潤癌を認めた.EMR/ESD/UEMR/CPの一括切除率はそれぞれ86.8/94.8/78.6/79.1%,R0切除率は61.2/78.7/56/40.5%,術中穿孔率は0.8/9.3/0.5/0%,遅発性出血率は2.6/4.7/2.1/0.5%,遅発性穿孔率は0.2/2.3/0.2/0%であった.遅発性偶発症発生率は,19mm以下の病変ではESDが他の術式よりも有意に高値であったが(7.4% vs 1.9%,p<0.0001),20mm以上の病変では有意差を認めなかった(6.1% vs 7.1%,p=0.6432).EMRで1例(0.07%),ESDで25例(2.5%)に偶発症に対する手術が行われた.治療関連死亡例(遅発性出血,致死性不整脈)をESD群で1例(0.1%)に認めた.
【結論】SNADETに対するERの治療成績はおおむね良好であった.ESDは他のER法に比べて偶発症発生率が高いが,一括・R0切除率は有意に高い.したがって,大型(20mm以上)の腫瘍に対しては,経験豊富な内視鏡医によるESDが治療選択肢の一つとして有力であることが示唆された.