小腸はその長い管腔や腸間膜による固定性の乏しさのため,上下部消化管と比べて内視鏡挿入の難しい臓器であるが,2000年代からは小腸カプセル内視鏡,ダブルバルーン小腸内視鏡,シングルバルーン小腸内視鏡およびスパイラル小腸内視鏡という有効性,安全性の高い手法が登場し,小腸観察は従来よりも容易となりつつある.更に,2016年には電動スパイラル小腸内視鏡(Motorized spiral enteroscopy:MSE)が登場し,2021年より本邦でも一部施設において使用可能となっている.MSEはバルーン補助小腸内視鏡と同等の診断能,挿入能を有していながら,短時間で挿入できる可能性が示唆されており,既存の小腸内視鏡と併せて小腸疾患の診療を更に向上させていくことになるだろう.
有茎性早期大腸癌の病理組織学的特徴として粘膜筋板が錯綜する場合も多く,早期大腸癌の治療方針を決定する上で重要な粘膜下層(submucosa:SM)浸潤度の評価法において,他の肉眼型と区別が必要とされる.実際のSM浸潤度の測定法は,粘膜筋板の走行が同定または推定可能な症例は,病変の粘膜筋板下縁から浸潤最深部を測定する.また,粘膜筋板の走行が同定・推定できない部分は病変表層から測定するとされている.しかし有茎性病変の場合は,粘膜筋板が錯綜し,同定できないことがある.その場合,SM浸潤距離は頭部と茎部の境を基準線とし,そこから浸潤最深部への浸潤距離を測定するとしているが,この粘膜筋板の同定・推定においては病理医間でも評価にばらつきがあるのが実際である.一方,現在の大腸癌治療ガイドラインでは,cTis癌・cT1軽度浸潤癌(SM垂直浸潤距離が1,000μm未満の浸潤)と診断できれば内視鏡治療の適応となり,cT1高度浸潤癌(SM垂直浸潤距離が1,000μm以深の浸潤)と診断した際は,リンパ節郭清を含む外科的手術が推奨されているが,有茎性早期大腸癌を含む隆起型病変の深達度診断の精度は表面型病変に比較し劣るとする報告が多い.同時に,有茎性T1b癌のリンパ節転移リスクにおいては,非有茎性pT1b癌と比較し,転移リスクが少ないとの報告もある.実際,有茎性早期大腸癌は他の肉眼型の早期大腸癌と比較し,内視鏡による一括切除は容易ではあり,内視鏡治療が先行して行われる機会も多い.今後は無茎性大腸癌と区別した,有茎性大腸癌における内視鏡診断,治療適応とともにSM浸潤度評価法を含めたさらなる検討が必要と考える.
66歳,男性.検診の胃X線検査で異常を指摘され当科を紹介された.内視鏡所見では胃体上部大彎に24mm大,広基性,立ち上がりは粘膜下腫瘍様の形態を呈する隆起性病変を認め,頂部に発赤粘膜及び浅い潰瘍を認めた.生検では診断がつかず悪性腫瘍の可能性も否定できないため,診断的治療として内視鏡的切除術(EMR併用ESD)が施行された.組織学的に隆起はhamartomatous inverted polyp(HIP)の所見であった.HIPは癌合併の報告もあり,潰瘍を有する場合は良悪性の鑑別に難渋しうる.今回,術前診断が困難であった胃HIPに対してEMR併用ESDを行い一括切除及び病理診断が可能であった.
症例は64歳男性.生来健康で,3年前まで検診で定期的に胃X線検査を受けていた.食欲不振を主訴に当科を受診し,腹部CT検査にて,直腸に7cm大の糞石と思われる石灰化像を認めた.画像検査および臨床所見において腸閉塞や穿孔の所見を認めず,内視鏡治療目的に入院.スネアを用いて砕石することで糞石は除去可能であった.赤外分光法と走査電子顕微鏡にて解析を行い,バリウム糞石と診断した.バリウム糞石は腸閉塞や消化管穿孔をきたしやすく,重症化することが多い.内視鏡的に治療しえた症例を経験したので報告する.
症例は41歳,女性.胆囊結石症の術前検査の造影CTで盲腸に隆起性病変が疑われ,CSを施行したところ,虫垂開口部に30mm大の有茎性病変を認めた.Inflammatory fibroid polypを疑うも腫瘍性病変を否定できず,診断目的で内視鏡切除の方針となった.茎は太く根部近傍をendoloopで2重に結紮しスネアで切除した.術後37度台の発熱がみられたが改善し,切除後3日で退院となった.切除標本の病理結果で完全内反型重積を呈した虫垂子宮内膜症と診断した.1年後のCSで虫垂開口部に異常は認めなかった.虫垂子宮内膜症に対する内視鏡的切除はきわめて稀であり,貴重な症例と思われた.
症例は69歳男性.膵頭部癌に対し亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行したが,術後10カ月目に吻合部の完全閉塞を認めた.シングルバルーン小腸内視鏡(single balloon enteroscopy:SBE)や経皮経肝胆管ドレナージルートを用いた胆道鏡による治療も成功せず,内瘻化目的に超音波内視鏡下胆管胃吻合術(EUS-hepaticogastrostomy:EUS-HGS)を行った.しかしながら,胆道鏡での観察で肝内結石を認め,胆管炎のリスクが高いと考えられた.そこで,直視コンベックス型EUS(forward-viewing linear endoscopic ultrasound:FV-EUS)を用いて空腸側から吻合部の狭窄解除を行い,後日SBEを用いた吻合部の拡張と結石除去を行った.胆管空腸吻合部の完全閉塞に対し,FV-EUSを用いた吻合部拡張術を行うことで,その後の結石除去や吻合部のメンテナンスが問題なく施行可能となった.
HookKnifeは2003年に小山らにより開発されたESDのデバイスである.シンプルなデザインにもかかわらず,咽頭,食道,胃,十二指腸,大腸等のあらゆる臓器に有用である.先端部のHook partでの細かい操作のみならず,根本部のArm partでの大胆な操作が特徴的であり,また他のナイフの苦手な垂直病変へのアプローチや瘢痕合併症例で剝離に対しての繊細な操作も可能である.2015年には送水機能を完備し,HookKnifeJ(オリンパス社)と生まれ変わり,その有用性はさらに進化した.難易度の高いESDの際には使用することが多いデバイスであり,是非,普段からメインデバイスとして手技を熟練し習得しておくべきであり,その手技を解説する.
クローン病患者の7割以上が小腸病変を有するとされ,小腸病変のモニタリングとその制御は患者のQOLに直結する.従ってクローン病診療では,全小腸を高精度でかつ手軽に,そして低侵襲にモニタリングすることが求められるが,残念ながらすべてを兼ね備えた検査やマーカーは未だ存在しない.ダブルバルーン内視鏡検査は,クローン病小腸病変に対するモニタリング検査の1つとして,また時に内視鏡的拡張術目的に広く使用されている.当科ではダブルバルーン内視鏡検査の際に通常の観察に加えて先端バルーンを拡張させて逆行性造影を行い,それまでは難しかった深部小腸の評価をルーチンで行っている.本稿では,クローン病小腸病変に対するダブルバルーン内視鏡下逆行性造影の手順やコツを解説する.
2019年10月より約2年間,ブータン国立病院(Jigme Dorji Wangchuck National Referral Hospital)にて内視鏡勤務を経験した.コロナ禍と重なる期間ではあったが,上部消化管内視鏡約4,000例,大腸内視鏡約350例,ERCP約140件施行した.ブータンでは,Helicobacter pylori(H. pylori)感染率は70%を超え,若年者の陽性率も高く,悪性疾患のうち,死亡率の第一位は胃癌である.見つかる胃癌の多くは進行胃癌である.現在,国家プロジェクトとして,胃内視鏡検診が行われ,H. pylori除菌と早期胃癌発見に向けて進行中である.今回,発展途上の医療資源の少ない国で,上部消化管・大腸内視鏡やERCPはどのように行われているのかについて報告した.今後一人でも多く発展途上国の医療について関心を寄せる内視鏡医が生まれることを期待する.
【背景と目的】この前向き多施設共同研究は,膵癌とその他の膵腫瘍の鑑別におけるティッシュハーモニック(Tissue harmonic endoscopic ultrasonography;TH-EUS)と造影ハーモニックEUS(Contrast-enhanced harmonic endoscopic ultrasonography;CH-EUS)の正診率を比較検討することを目的とした.
【方法】2013年8月から2014年12月の間にかけて,固形膵腫瘍の連続症例を前向きに登録した.TH-EUSとCH-EUSの正診率を評価するため,TH-EUSの4所見(境界不明瞭,辺縁不整,内部低エコー,内部エコー不均一)とCH-EUSの4所見(早期相および後期相のそれぞれでhypoenhancement, heterogeneous enhancement)を比較し,各手法のどの所見が最も膵癌の診断に適しているか検討した.また,TH-EUSとCH-EUSにおける膵癌の診断についての観察者間一致度も評価した.
【結果】204名の患者が本研究に登録された.膵癌の診断において,エキスパートと非エキスパートによる観察者間一致度は,TH-EUSではそれぞれ0.33-0.50と0.35-0.50,CH-EUSではそれぞれ0.72-0.74と0.20-0.54であった.TH-EUSの所見のうち膵癌の鑑別において最も正診率の高い所見は辺縁不整であり,感度,特異度,正診率はそれぞれ95.0%,42.9%,78.9%であった.CH-EUS所見のうち膵癌の正診率の高い所見は後期相hypoenhancementであり,感度,特異度,正診率はそれぞれ90.8%,74.6%,85.8%であった.CH-EUS(後期相hypoenhancement)の膵癌の正診率は,TH-EUS(辺縁不整)よりも有意に高かった(p<0.001).
【結語】CH-EUSはTH-EUSと比較して,膵癌診断能および診断における再現性を向上させた.UMIN(000011124).
【背景】これまで,大腸憩室出血の治療法として内視鏡的バンド結紮術(以下EBL:endoscopic band ligation)とクリッピングの両方の有効性が報告されてきた.しかし,大規模な研究はなく,多施設での長期データについて有効性と安全性を評価した.
【方法】大腸憩室出血に対し2010年1月から2019年12月の間に施行されたEBL群638例とクリッピング群1,041例,合計1,679例のデータが日本の49施設から収集された.多変量解析でアウトカムが評価された.
【結果】ロジスティック回帰分析の結果,EBLはクリッピングに比べ早期再出血(30日以内の再出血)を有意に減少させた(調整odds比0.46;P<0.001).また,後期再出血(1年以内の再出血)も同様に減少させた(調整odds比0.62;P<0.001).初回止血成功率や死亡率は両群で差がなかったが,EBLはinterventional radiology(IVR)での止血を回避でき(調整odds比0.37;P=0.006),1週間以上の入院を有意に減少させた(調整odds比0.35;P<0.001).合併症については憩室炎がEBL後に1名(0.16%),クリッピング後2名(0.19%)で発生し,穿孔がEBL群で2名(0.31%)発生した.
【結論】本大規模コホート研究からEBLは憩室出血に有効で安全な治療であることが示された.EBLはクリッピングと比較して再出血のリスクを短期長期ともに低下させ,IVR治療への移行を要さず,入院期間も短い点で有利であった.