内視鏡診療において,正確な病理診断を行うことは必要不可欠であり,内視鏡医と病理医が協力して診療をしていくことが求められる.内視鏡医は,検体採取や検体処理など,病理診断全体における重要な役割の一端を担っている.“病理”とは,病理診断だけではなく,病理検体の処理から病理診断,病理診断書の解釈までの病理診断に関わるすべてを包括している.“病理”は,内視鏡医が関わる病理検体の処理から既に始まっているのである.そのため,内視鏡医も“病理”についての知識を深めることは,病理診断能の向上に役立つ.今回は,内視鏡医が覚えておくべき病理検体の取り扱い方について概説する.
症例は71歳の男性.約2カ月続く下痢と体重減少の精査目的に当院に紹介となった.精査のため施行した上部・下部消化管内視鏡検査で,食道,胃,十二指腸,回腸,結腸にそれぞれ形態の異なる多彩な病変を認めた.各病変部の生検病理組織所見から単形性上皮向性腸管T細胞リンパ腫と診断した.本疾患で全消化管に病変を認めた報告はなく,貴重な症例と考え報告する.
症例は43歳男性.2016年より年1回上部消化管内視鏡検査を受けており,胃角部から前庭部に多発する褪色斑を認めていたが生検がされていなかった.2020年に同病変を生検したところ印環細胞癌と診断された.幽門側胃切除を施行し,手術検体の病理検査では42カ所の小病変を認め,すべて粘膜内癌であった.遺伝性びまん性胃癌が疑われ遺伝学的検査を行い,CDH1遺伝子に病的変異を認め,診断に至った.
症例は26歳,女性.腹痛,発熱を主訴に前医を受診.炎症反応上昇と胃粘膜下腫瘍様隆起を認めたため,当科紹介となった.造影CTでは胃幽門側に40mm大の周囲脂肪織濃度上昇を伴う囊胞性病変を認め,EGDでは胃前庭部に頂部に陥凹を有する粘膜下腫瘍様隆起を認めた.胃壁膿瘍を疑い,絶食,抗生剤治療を開始したが症状が持続したため,超音波内視鏡下ドレナージ術を施行した.穿刺吸引した内容液は膿性で膵酵素の異常高値を認め,胃異所性膵を原発に胃壁膿瘍を発生した稀な症例と考えられた.処置後は症状改善,退院後の造影CTでは囊胞性病変は消失し,粘膜下腫瘍様隆起も縮小しており,本症例では超音波内視鏡下ドレナージが有用であった.
症例は63歳の女性.便潜血陽性を主訴にCSを施行すると横行結腸肝彎曲部寄りに約5cmの粘膜下腫瘍を認めた.内視鏡・注腸検査では典型的な脂肪腫であるため,特に症状がないことから経過観察となった.初回検査から3年半後に,再度便潜血陽性でCSを行うと,表面に潰瘍を形成し,大きさも約1.5cmと縮小し,生検では弾性硬の硬さを感じ,採取するも炎症細胞浸潤を示す大腸粘膜のみで確定診断は得られなかった.その形態から悪性腫瘍も考慮し,診断もかねて腹腔鏡補助下での切除術を選択した.病理診断では脂肪腫であった.経過中,形態が大きく変化し,診断に苦慮する大腸脂肪腫の稀な症例と考えられた.
Precutは本邦では選択的胆管挿管困難例に対して施行されることが多く,エキスパートのみが行うサルベージ手技として位置づけられている.近年,エキスパートの術者が行うearly precutの有用性が欧米から報告され,最近ではdirectすなわちprimary precutの有用性がアジア(韓国,インド)から報告された.トレイニーが習得するにはハードルが高い手技の1つであるが,今後はその有用性からエキスパートのみではなく,エキスパートの監督下であればトレイニーも行うべき手技の1つとなる大きな転換期を迎える可能性がある.しかし,precutは用語を始め,手技に至るまでその詳細は確立していない.
そこで,本稿ではprecutの用語の整理,現時点での動向などを解説する.また,precut施行時の観察ポイントや処置具の選択,具体的な手技の解説を行う.
近年,がんゲノムプロファイリング(Comprehensive Genome Profile:CGP)検査を中心としたがんゲノム医療が膵癌領域でも広く行われている.膵癌はEUSを用いた組織採取(EUS guided tissue acquisition:EUS-TA)が重要な役割を果たしてきたが,近年では,CGP検査のためのより多くの組織採取がEUS-TAに求められるようになってきた.
本邦で保険承認されているCGP検査であるOncoguideTMNCCオンコパネルシステム(NCCOP)とFoundation One CDxがんゲノムプロファイル(F-One)の違い,必要とされる解析要求基準,この基準をなるべく満たすための針の選択法,穿刺対象を知ることが望ましい.また,CGP検査の成功率を高めるためには,検体採取のみならず,検体処理の理解も重要である.がんゲノム医療は今後ますます激動の時代を迎えると思われるが,内視鏡医もこれらの変化に柔軟に対応する必要がある.
【目的】早期胃癌に対するESDにおいて,術後出血は主要な有害事象である.術後出血の止血後,再出血を経験する患者もいるが,その詳細は不明である.われわれは,再出血の頻度とリスク因子を明らかにすることを目的とした.
【方法】2013年から2016年に日本国内33施設で早期胃癌に対するESDを施行された患者11,452症例のうち,術後出血を来した489症例について解析した.まず再出血の頻度を調査した.その後,15の共変量について,ロジスティック回帰分析により再出血のリスクへの影響を評価した.
【結果】再出血は解析患者の11.2%(55/489)で認められた.多変量解析では,ワルファリン[オッズ比(OR),2.71;95%信頼区間(CI),1.26-5.84]と40mmを超える切除標本径(OR,1.99;95%CI,1.08-3.67)が再出血の独立したリスク因子であった.初回術後出血後のワルファリンの対応別の解析では,ワルファリン非服用者と比較して,ワルファリン休薬(OR,3.66;95%CI,1.37-9.78)のみが再出血と有意に関連していた.しかし,再出血の多く(75.0%)が,ワルファリン再開後に発生していた.また,再出血率は,ワルファリン休薬時が6.1%,ワルファリン服用時(継続または再開時)が20.0%であった.
【結論】早期胃癌に対するESD後に術後出血を来した患者において,再出血は稀ではなかった.切除標本径が40mmを超えた場合,および,ワルファリンが再出血のリスク因子であり,特にワルファリンを休薬した症例で再開後の時期が,ワルファリン服用を継続した症例と同様に高リスクであった.
【背景】シングルバルーン内視鏡検査(SBE)は小腸疾患に対する有効な検査であるが,診療に難渋することがある.大腸内視鏡挿入において,水浸法を使用することでその挿入がスムーズになるが小腸では十分な成果は得られていない.本研究ではSBE関連手技における水浸法の効果を評価する.
【方法】本ランダム化比較試験は中国の高次機能施設で行われた.SBE予定の患者が無作為に水浸群と二酸化炭素送気群(CO2群)に割り当てられた.すべての患者は,経口的,経肛門的アプローチの両方を受ける予定であった.主要評価項目は全小腸観察率であり,副次的評価項目は最大挿入距離,陽性所見,検査時間および偶発症であった.
【結果】合計で110名の患者が登録された(各グループ55).両者の臨床的背景は同等であった.水浸群とCO2群の全小腸観察率は各々58.2%(32/55)と36.4%(20/55)であった(P=0.02).水浸群とCO2群の平均挿入長(標準偏差)は521.2(101.4)cmと481.6(95.2)cmであった(P=0.04).挿入時間は水浸群で有意に長かった(178.9[45.1]分 vs. 154.2[27.6]分;P<0.001).内視鏡所見と偶発症は同等であった.
【結論】水浸法は,偶発症を増やすことなく全小腸観察率を高め,挿入距離を延ばした.