1cm未満の小型大腸ポリープの取り扱いについて解説する.過形成性ポリープ,腺腫,癌の鑑別のためには,画像強調内視鏡や拡大観察が有用であり,特にcold polypectomyでは癌を除外することが重要である.cold polypectomyは後出血が極めて稀であり,穿孔もほぼ皆無であり安全に実施できることが証明され急速に普及している.ただし,微小であっても癌を疑う病変においてはEMRを選択すべきである.人工知能診断を含めた最新機器の活用によって,精密な診断,治療が,より簡便に実施可能となっている.
後天的な消化管狭窄の成因は,進行癌,炎症治癒後の瘢痕,内視鏡治療後の瘢痕,外科手術の吻合など,一様でない.ところが消化管狭窄が治療の対象となるとき,その理由は一様で,通過障害を起こしたときである.上部消化管の場合は食物を,下部消化管の場合は消化吸収された後の便を通すための治療が行われる.切除適応の進行癌であれば,狭窄の解除とともに根治を目指した外科手術が第一選択として行われることがあるが,多くのケースで狭窄解除を目的とした外科手術は最後の切り札である.とりわけ良性狭窄に対しては外科手術回避のために,機械的な拡張術が第一選択の方法としてかねてから行われてきた.本稿では,下部消化管の狭窄に対して,内科的に行われる,特に内視鏡を用いた拡張術について,ブジー,バルーン拡張術,Radial incision and cutting(RIC)の順に,現状を述べる.かつてと比べて,内視鏡下に狭窄部が拡張される様子を確認しながら施行することが圧倒的に多くなっているが,機械的拡張術の方法論じたいは長年画期的なブレイクスルーがなく代わり映えしない.現状の抱えている問題点や将来展望についてもあわせて述べる.
症例は67歳男性.健診で胃穹窿部に10mm大の粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)を指摘され,経過観察とされた.その後経年的に緩徐な増大傾向を認めていたが,特に精査は追加されず,4年目の定期検査で病変部に急速な増大を認め,当院へ紹介となった.当院での生検の結果消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor:GIST)の診断となり胃部分切除術が施行され,切除検体に対する病理組織検査で高リスクGISTと診断された.経過観察とされた小サイズ胃SMTにおける急速増大の報告はこれまでに僅かであるが,その多くが高リスクGISTと診断されていることから,稀ではあるが留意すべき病態と考えられたため文献的考察と共に報告する.
右上腹部痛と発熱を主訴として来院した30歳の女性.CT,MRI,上部消化管内視鏡および超音波内視鏡検査の結果,十二指腸重複腸管と診断した.血液・生化学検査と画像検査で悪性所見を認めないため,内視鏡的開窓術を施行した.術後翌日に出血したため,内視鏡的止血術を施行した.術後8日目から経口摂取を開始し,10日目に退院した.病理組織学的検査の結果,囊胞壁は正常十二指腸粘膜に覆われ,筋層を伴っていた.十二指腸内腔側と筋層を共有していたため,十二指腸重複腸管と確定診断した.十二指腸重複腸管は稀な疾患であり,本症のように,術前診断され内視鏡治療が成功した症例は少ないため,文献的考察を加え,報告する.
B型慢性肝炎とアルコール性肝障害の57歳男性.1年半前にS3とS7の肝細胞癌(hepatocellular carcinoma:HCC)をラジオ波焼灼術で治療し,経過観察のガドキセト酸ナトリウム造影MRIでS2に増大する2cmの腫瘍を認めた.早期相は濃染不明瞭で後期相は低信号を示し,HCCを疑ったが非典型的で造影USを予定した.体外式USは肺が遮るためEUSを行い,軽度低エコーの腫瘍は造影EUSで動脈優位相が濃染し後血管相がwashoutを呈し,HCCと診断した.低侵襲治療を希望したため,EUSガイドエタノール注入療法を選択して穿刺局所療法を行った.治療は合併症なく成功し,治療後1年8カ月の経過観察で局所再発は認めていない.体外式USが困難なHCCに対しEUSは診断・治療に有用である可能性がある.
神経周膜腫(perineurioma:PN)は,消化管には稀な神経周膜細胞由来の良性腫瘍である.このPNとsessile serrated lesion(SSL)が同一病変内で認められる症例は更に稀で,どちらが先行して発生したのか,未解決のままになっている.今回われわれは,同一病変内にSSLとPNを認めた3病変を経験した.3病変共,間質に増殖した紡錘形細胞で,3種類のperineurial cell markerが陽性〜弱陽性であることからPNと診断した.3病変のうち,2病変は,5mmと小さく,laterally spreading tumor病変では,小隆起部でのみPNが認められた.今後,この様な症例の蓄積が,両病変併存理由解明の一助となるのではないかと考えられた.
ESD後の偶発症を予防するため,多くの粘膜欠損閉鎖法が考案されてきた.しかし特に胃のような壁の厚い臓器では,粘膜と筋層の間を死腔なく完全に閉鎖可能な方法は確立していない.われわれはナイロン糸とつかみ直し可能なクリップの歯の穴を利用した新しい粘膜欠損閉鎖法である,ロルム(Reopenable-clip over the line method:ROLM)を報告した.ROLMは粘膜欠損辺縁の粘膜と筋層をクリップで把持し,手元の糸を引くことで粘膜と筋層の間の死腔を減らし,完全な欠損閉鎖が可能な手技である.クリップを用いた既存の閉鎖法と大きく異なる点は,手元の糸を引くことで閉鎖を進める点であり,欠損辺縁の粘膜同士をクリッピングのテクニックで寄せる必要はない.糸を引いて閉鎖を進めるというこの特性により,スコープ操作性不良の深部結腸や管腔の狭い十二指腸のESD後粘膜欠損にも応用することが可能である.本項ではROLMの詳細について述べる.
近年,表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(superficial non-ampullary duodenal epithelial tumors;SNADET)に遭遇する機会が増えているが,十二指腸におけるESDは他の臓器に比べて技術的難易度が高く,高い合併症率が課題である.腹腔鏡内視鏡合同手術(laparoscopy and endoscopy cooperative surgery;LECS)はESDにおける課題を克服する治療法である.今回,SNADETに対するLECSの実際について解説する.
【目的】消化管内視鏡検査(Gastrointestinal endoscopy:GIE)は,多くの疾患の早期発見および治療に有用であるが,GIEはコロナウイルス病2019(COVID-19)大流行期における高リスク処置と考えられている.本研究は,医療スタッフが曝露される唾液,胃液および腸液における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性割合を明らかにすることを目的とした.
【方法】本研究は単一施設における横断研究であり,2020年6月1日から7月31日まで,横浜市立大学附属病院でGIEを受けた患者を対象とした.すべての研究参加者は3mlの唾液を提出した.上部GIEの場合,10mlの胃液を内視鏡を通して採取し,下部GIEの場合,10mlの腸液を内視鏡を介して採取した.主要評価項目は唾液,胃液および腸液中のSARS-CoV-2の陽性率とした.また,SARS-CoV-2の血清特異的抗体や患者の背景情報についても検討した.
【結果】合計783検体(上部GIE:560および下部GIE:223)を分析した.唾液検体のPCRでは,全例が陰性であった.一方で,消化管液検体においては2.0%(16/783)がSARS-CoV-2陽性であった.PCR陽性症例とPCR陰性症例の間では,年齢,性別,内視鏡検査の目的,投薬,抗体検査陽性率に有意差は認めなかった.
【結論】無症候性の患者において,唾液中に検出可能なウイルスを持たない患者であっても,消化管にSARS-CoV-2を有していた.内視鏡検査の医療スタッフは処置を行う際に感染に留意する必要がある.本研究はUMIN 000040587として登録されている.
【背景と目的】胃癌に対する胃切除後フォローアップ中の上部消化管内視鏡検査(EGD)は2次性の上部消化管癌の早期発見に寄与していると考えられるが,その重要性に関してはいまだ議論の余地がある.本検討の目的は,胃癌胃切除後フォローアップ中のEGDにおける2次性の上部消化管(咽頭から残胃)癌の検出頻度を検討し,その有用性を明らかにすることである.
【対象と方法】対象は2008年から2014年の期間に胃癌に対する手術(胃全摘を除く)が施行され,かつ術後5年間のフォローアップ中に少なくとも1回はEGDが施行された1,438症例とした.残胃,咽頭,食道における2次癌の検出頻度を検討し,さらに2次癌の危険因子の抽出を試みた.また,検出された2次癌の臨床病理学的特徴を明らかにし,EGDの施行頻度との関連を検討した.
【結果】対象症例における術後年度毎のEGD施行回数は0.7回であった.残胃癌および咽頭・食道癌の5年累積発生率は各々2.9%,1.3%であった.残胃癌の危険因子はheavy smoker(Brinkman index≧600,hazard ratio=2.24),噴門側胃切除術(hazard ratio=3.93),初発腫瘍径30mm以上(hazard ratio=3.01)であった.すべての2次癌は根治治療可能であり,うち81%の症例で内視鏡的切除が可能であった.また,定期的にEGDを施行していた症例における内視鏡的切除率は,非定期的EGD症例のそれよりも有意に高率であった(66.7 vs. 31.3%).
【結論】胃切除後の定期的なフォローアップEGDは根治治療可能な2次癌の発見に有用である.残胃癌の危険因子(heavy smoker,噴門側胃切除術,初発腫瘍径30mm以上)に注目することにより,その有用性はさらに高まると考えられた.