特発性胃潰瘍は,潰瘍の2大成因であるHelicobacter pylori感染や非ステロイド系抗炎症薬服用と稀な疾患を除外した原因不明の潰瘍性病変と定義され,特発性十二指腸潰瘍と合わせて特発性消化性潰瘍(idiopathic peptic ulcer disease:IPUD)とされる.近年,H. pylori感染率の低下とともにIPUDの消化性潰瘍に占める割合が明らかに増加している.IPUDの特徴として,高齢者,基礎疾患の合併が多いこと,病変は前庭部から球部に多いこと,再発率の高いことが挙げられる.治療はプロトンポンプ阻害薬やカリウム競合型アシッドブロッカーが用いられるが,H. pylori潰瘍に比べて治癒率は低い.IPUDの病態は明らかではないが,ストレスや加齢に伴う胃粘膜防御機構の低下などが示唆されている.
EUSはCTやMRIと比較して空間・時間分解能に優れており,胆囊疾患の診断において有用な検査である.胆囊疾患では,大きさや形態に基づいて良悪性の鑑別を行うのが一般的であるが,形態学的診断には限界がある.超音波造影剤を用いた造影EUSは,EUS観察下にリアルタイムな血行動態の評価を可能にした.特に第二世代超音波造影剤を用いた造影ハーモニックEUSの登場によって,造影効果をより詳細かつ長時間にわたって観察することができるようになった.この総説では,これまでの文献的報告をもとに胆囊疾患に対する造影EUSの有用性について解説した.胆囊疾患における造影EUSは存在診断のみならず,質的診断,病期診断,さらにはEUS-FNAにおける補助といった役割も果たす.ただし,胆囊疾患に対する造影EUSに関する大規模な研究はこれまでに行われておらず,さらなる知見の蓄積が望まれる.
症例は72歳女性.1年前に急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)と診断され,化学療法施行中であった.来院1カ月前より全身倦怠感を認め,その後食思不振及び嘔気が出現したため入院となった.上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃体部に多発する白色扁平隆起を認めた.Narrow band imaging(NBI)拡大観察では微小腺管構造は不明瞭化し,拡張・蛇行した不整な微小血管の増生を認めた.生検病理結果は胃粘膜表層で腺管構造を破壊しながら浸潤する異型細胞を認め,免疫組織化学染色所見と併せて,白血病細胞の胃浸潤と診断した.化学療法強化後に内視鏡再検し,白色扁平隆起は一部残存するも改善傾向を認めた.AML治療中に胃に髄外病変を来し,詳細な内視鏡観察が施行できた貴重な症例であったため報告する.
61歳男性.掻痒感,褐色尿を主訴に2020年5月前医を受診した.血液検査で肝胆道系酵素の上昇を認め,造影CTで遠位胆管~乳頭部に40mm大の腫瘤と上流胆管拡張,主膵管拡張を指摘された.乳頭部癌が疑われるも乳頭部生検や胆管生検で確定診断がつかず,当院へ紹介され,乳頭部腫瘤に対し超音波内視鏡下生検が行われた.病理診断はT細胞性リンパ腫であり,血清抗HTLV-1抗体陽性と組織検体中のHTLV-1 proviral DNA陽性であったことから,成人T細胞白血病・リンパ腫(リンパ腫型)と確定診断された.閉塞性黄疸を契機に十二指腸乳頭部に生じた成人T細胞白血病・リンパ腫を超音波内視鏡下生検で診断でき,適切な治療につなげることができた.
症例は69歳,女性.便潜血検査陽性のため大腸内視鏡検査を施行した.検査中に横行結腸で強い抵抗を感じたため,腹部の診察を行った.臍部に腫脹認め内部にスコープを触知した.スコープは抵抗があり抜去困難だった.臍ヘルニアにスコープが嵌入したと診断し,ヘルニア門を確認した後,慎重に用手圧迫を行いヘルニア内容を腹腔内へ還納した.用手圧迫を継続して,全大腸を観察できた.大腸内視鏡検査では,腹部のヘルニアの病歴聴取が重要である.そして臍ヘルニアを確認した時は,検査開始時からヘルニア内容を腹腔内へ還納しておくことで,安全な全大腸観察が可能となる場合がある.また,挿入中に違和感を感じた場合は,腹部の診察が重要である.
症例は64歳女性.既知の大腸ポリープ経過観察目的に施行した大腸内視鏡検査で肛門管に12mm大,7mm大と4mm大の扁平隆起性病変を認めた.Narrow band imaging(NBI)拡大観察では3病変ともに日本食道学会拡大内視鏡分類B1相当の血管であった.メチレンブルー染色による超拡大内視鏡観察では12mm大,7mm大の病変で核異型を伴う著明な核密度の上昇を認め,熊谷らの食道ECS Type分類Type3相当と診断した.生検結果はhigh grade intraepithelial lesionであったが,内視鏡上は粘膜内に留まる扁平上皮癌を疑いESDを施行した.病理結果は,粘膜内に留まる扁平上皮癌を3病変認めた.12mm大の病変の粘膜下層に導管内進展を疑う所見を複数認め垂直断端が評価困難であり,また4mm大の病変の水平断端も評価困難であった.NBI拡大観察および超拡大観察が早期癌診断に有用であったが,正確な水平進展範囲診断は困難であった粘膜内肛門管扁平上皮癌の1例を経験したので報告する.
赤色光観察(Red dichromatic Imaging:RDI)は比較的長い二つの波長を用いて深部血管の視認性を上昇させる新しい画像強調内視鏡技術である.これを用いることで,食道静脈瘤の視認性が上昇し,その具合で静脈瘤の深さが予見できる.また,RDIによって内視鏡的硬化療法時に確実な静脈瘤内硬化剤注入や出血点の早期発見が可能となり,術後の静脈瘤再発率,治療時間の改善に繋がる.
近年内視鏡診断の進歩により,十二指腸乳頭部腫瘍の発見機会が増えている.腺腫に対する完全生検および根治を目的とした内視鏡的乳頭切除術が広く行われるようになっている.癌に対する基本治療は外科的手術であるが,近年早期癌に対する内視鏡的乳頭切除術の報告も増えている.しかし術前の早期癌の診断が完全ではなく,術後局所再発の問題などもあり早期癌に対する内視鏡的乳頭切除術は慎重に検討する必要がある.また,起こり得る偶発症について十分に理解し,その予防と対策について熟知しておく必要がある.
ERCPは,胆膵疾患のために確立された内視鏡の診断・治療モダリティである.しかしながら,術後再建腸管(Surgical altered anatomy;SAA)を有する患者に対するERCPは技術的に困難であったため,より侵襲的な治療法が主に選択されてきた.バルーン式内視鏡(Balloon assisted Endoscope;BAE)が開発されたことにより,このような患者に対するERCPが現実的となった.また昨今のBAEの進歩により,BAEを用いたERCP(BAE-ERCP)の成功率は大幅に向上してきた.さらに,超音波内視鏡を用いた処置(EUS-intervention)が,SAAを有する患者の胆膵疾患に対して有用であるとの報告もなされるようになり,内視鏡治療の選択肢が広がりBAE-ERCP困難症例に対するRescue Therapy(RT)としても期待されている.SAAを有する患者の胆膵疾患に対する内視鏡治療を完遂するため,BAEの特徴に基づいたBAE-ERCPの手技の標準化とBAE-ERCP困難症例の分析やRT対象症例の選択などを含めた治療戦略を確立させることが重要である.さらに,内視鏡治療を安全に行うためには,起こりうる有害事象の特徴を事前に理解し,対処できるように準備しておくことが重要である.
【目的】消化管出血直後の出血源同定の有無を考慮した大腸憩室出血に対する治療戦略は標準化されておらず,内視鏡治療方法や治療戦略の有効性を評価した大規模な研究はない.今回,消化管出血直後の出血源同定と内視鏡治療戦略の組み合わせの中から大腸憩室出血症例に対する最良の治療方法を選定することを目的に本検討が行われた.
【方法】本邦の49病院を対象に大腸内視鏡検査を受けた5,823人の大腸憩室出血症例を後方視的に検討した(CODE-BLUE-J研究).本検討では対象者を(1)出血源が同定可能で内視鏡治療を施行した群,(2)出血源が同定可能で保存的加療を施行した群,(3)出血源を同定することができずに保存的加療をした群の3群に群分けをした.群間差の背景的特徴を調整するために傾向スコアマッチング分析にて検討した.
【結果】出血源未同定の保存的治療群と比較して,出血源同定可能な内視鏡治療群では,治療後早期および晩期ともに大腸憩室出血の再発率は有意に低率であった(30日未満:19.6% vs. 26.0%,p<0.001,1年以内:33.7% vs. 41.6%,p<0.001).出血源同定群内での検討では,内視鏡観察後早期における大腸憩室出血の再発率は,内視鏡治療群の方が保存的治療群と比較して再発率は有意に低率であった(17.4% vs. 26.7%,p=0.038).内視鏡観察後晩期における大腸憩室出血の再発率は,内視鏡治療群の方が低率であったが,両群間で有意差は認めなかった(32.0% vs. 36.1%,p=0.426).出血源同定可能な内視鏡治療群では,活動性出血を伴う出血源の同定が可能な症例,非活動性の出血を伴う出血源が同定可能な症例,右側大腸からの出血例において内視鏡治療を行わない保存的治療群と比較して,内視鏡観察後早期および晩期ともに大腸憩室出血の再発率は低率であった.
【結語】出血源が同定可能な大腸憩室出血例への内視鏡的治療は,出血源同定の有無にかかわらず保存的治療を選択した症例と比較して早期および晩期の憩室出血再発率を有意に減らすことが明らかである.そのため内視鏡医は大腸憩室出血例に対して出血源を速やかに同定し,適切な内視鏡治療介入を行うことが憩室出血再発の予防には重要と考えられる.