大腸内視鏡検査における画像強調内視鏡観察(image-enhanced endoscopy:IEE)は病変発見および質的診断の向上に有用であることが多数報告されている.その精度向上のため新たな内視鏡機器の開発が進んでおり,長きにわたり使用されてきたキセノン光にかわる光源としてレーザーやLEDを光源とした内視鏡が登場し活用されている.また適切な観察手技の検証も随時行われており,病変の発見や見逃しの防止についてはnarrow band imaging(NBI),blue laser imaging(BLI)およびlinked color imaging(LCI)などの特殊モードの有用性が示唆されている.一方で病変の診断においてはpit pattern観察に加えて,NBIおよびBLIを用いた表面血管や構造の観察が簡便に使用でき世界的にも普及している.特に本邦にて作成されたNBI拡大統一分類であるJNET分類はNBIおよびBLIで使用でき質的な診断が可能であり治療方針の決定に有用である.
次世代シーケンシング(NGS:next-generation sequencing)の発展により,本邦でも腫瘍組織検体を用いた包括的がんゲノムプロファイリング検査(Comprehensive Genomic Profiling,以下CGP検査),さらに血液検体を用いたリキッドバイオプシーも保険承認され,日常診療下で実施可能となった.胆道癌においても,個々の治療戦略をたてるうえで,CGP検査を考慮する必要がある.腫瘍組織検体を用いたCGP検査を施行するためには,より多くの良質な組織検体が必要であり,EUS-TA(EUS-guided tissue acquisition)にその役割が期待される.現状では,可能な限り大口径の穿刺吸引生検(FNB:fine-needle biopsy)を用いて,十分な組織採取を試みる必要があると思われる.多くの患者さんがPrecision Medicineの恩恵が受けられるようにEUS-TA検体を用いたCGP検査の標準化にむけて,今後のさらなるエビデンスの蓄積が必要である.
【背景・目的】本邦で大腸の悪性狭窄に対する大腸ステントが2012年に保険適応となり,bridge to surgeryや緩和治療が可能となったが,成績および偶発症に関しては明確ではない.そのため,当施設における大腸ステントの有用性について検討を行った.
【方法】2012年1月から2021年3月までの期間に,大腸閉塞スコアがscore 0-3の大腸悪性狭窄に対して大腸ステント留置を試みた180例を後方視的に検討した.
【結果】ステント留置成功は176例(97.8%),臨床的有効は165例(91.7%)であった.偶発症は閉塞20例,穿孔11例,逸脱4例であった.ステント留置後24時間以内の死亡を4例認めた.bridge to surgery目的は94例であり,手術までの期間に穿孔を2例認め,うち1例は緊急手術を要した.緩和治療目的86例のステント開存成功期間中央値は221日,生存期間中央値は154日であった.
【結論】大腸ステントはステント留置成功率・臨床的改善率が高く,偶発症も許容されうる範疇であり,有用性の高い治療法と考えられた.
症例は56歳女性.食後の咽頭痛,吐血により当院耳鼻科受診するも原因が分からず,精査目的で当科に紹介となった.上部消化管内視鏡検査所見では,切歯から20~23cmにかけて粘膜の剝離を認め,剝離した粘膜の隆起を認めた.出血を伴っていたため,クリッピングにて止血し,消化性潰瘍に準じて保存的加療を行った.3日後の所見では,粘膜剝離は2/3周性に広がっていたため,保存的加療を継続した.8日後の所見では,粘膜剝離部は完全に正常粘膜に覆われ,瘢痕狭窄,変形などを伴わず治癒した.
剝離性食道炎は比較的稀な疾患であるため,急性上部消化管出血では同疾患を念頭に置かないと診断が困難である.
症例は79歳男性.検診の食道X線造影検査で陥凹性病変を指摘され紹介受診.上部消化管内視鏡検査にて胸部上部食道左壁に境界明瞭な深い陥凹性病変を認め内部には複数の粗大顆粒を認めた.Narrow band imaging観察では陥凹内部はIntra-papillary capillary loopの拡張像を認めたが上皮性腫瘍を疑う所見は乏しく,初回の病変部生検でも診断には至らなかった.全身精査のため造影CT検査を行ったところ,縦隔,腹腔リンパ節の腫大と,肝臓にも複数の占拠性病変を認め,悪性腫瘍の多発リンパ節転移・肝転移を疑った.しかし,食道病変のEUSを施行したところ食道の陥凹部と連続するリンパ節と思われる低エコー腫瘤を認め縦隔リンパ節炎からの二次性食道結核を鑑別に挙げた.腫大したリンパ節に対してEUS-FNAを施行したところ,乾酪壊死を伴う肉芽腫を認め,その後の内視鏡生検の再検,肝腫瘍生検で肉芽腫やLanghans型巨細胞を認めた.以上より結核性リンパ節炎による二次性食道結核,肝結核腫と臨床診断し抗結核治療を行った.半年後の内視鏡では陥凹病変は平坦化し粗大顆粒は消失し,CT検査でもリンパ節の縮小,肝病変の消失を認めた.
症例は67歳,男性.関節リウマチに対してT細胞選択的共刺激調整剤のアバタセプトが投与された.投与開始4カ月後に腹痛・下痢・血便を認め,当科に紹介された.大腸内視鏡検査では潰瘍性大腸炎に類似したびまん性の大腸炎を認めた.他の腸管に病変は認められなかった.アバタセプトによる免疫関連有害事象と判断してプレドニゾロンを投与した.治療により大腸炎は改善した.アバタセプトの投与に伴う免疫関連有害事象の大腸炎は,稀ではあるが,念頭におくべき疾患と考えられた.
62歳女性.2度の糞便性イレウスの既往があった.左側腹部痛・嘔吐を主訴に救急搬送され,腹部X線検査にてニボー像,腹部CT検査にて下行結腸に便塊を認め,口側の便貯留・著明な腸管拡張を認めた.大腸内視鏡検査にて下行結腸に糞石を認め糞便性イレウスと診断した.透視下内視鏡検査における消化管造影にて下行結腸巨大憩室と診断し,腹腔鏡下結腸切除術を施行した.病理組織検査では憩室壁に線維性肥厚を伴う筋層を認め真性憩室と診断した.本症例は過去2度の大腸内視鏡検査で診断に至らなかったが,消化管造影検査を併用することにより巨大憩室を診断し得た.糞便性イレウスを繰り返す場合は巨大結腸憩室の存在を念頭におく必要がある.
粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)表面の粘膜を切開し,生検鉗子を用いて露出した病変から目視下に直接組織を採取する粘膜切開生検(mucosal incision-assisted biopsy:MIAB)は,病理診断のgold standardであるEUS-FNAに比し遜色ない診断能を有し,EUS-FNAで採取困難な小型のSMTに対しても高い組織採取率を示す有用な手段である.高周波デバイスがあれば施行可能であるため,特に消化管内視鏡治療医には技術的ハードルが低く,アプローチしやすい手技であるといえる.しかしながら現時点ではエビデンスが十分とはいえず,多数例での有用性評価,長期経過も含めた安全性の確認および手技の標準化が望まれる.
表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(superficial non-ampullary duodenal epithelial tumors:SNADET)の診療機会が増加している.これまで非乳頭部の小さな腺腫は生検等により経過観察されることが多かったが,生検による診断精度が十分ではなく,また生検によりその後の内視鏡切除が困難となることもあるため,安全かつ簡便に切除可能であれば早めに切除も考慮すべきと考える.cold snare polypectomy(CSP)は大腸ではすでに10mm以下の腺腫に対する標準治療の一つと考えられているが,十二指腸においても同様に「10mm以下の腺腫と考えられる病変」に対しては有効な治療法と考えられる.本稿では十二指腸CSPに関して手技の概要からコツまで概説する.
【目的】ESD中の止血処置における赤色狭帯域光観察(Red Dichromatic Imaging:RDI)の有効性と安全性について検討する.
【方法】本研究は食道,胃,結腸,直腸ESDを予定された404名の患者を対象とした多施設ランダム化比較試験である.ESD中の止血処置をRDIで行うRDI群(204名)と,白色光観察(White Light Imaging:WLI)で行うWLI群(200名)と定義した.主要評価項目は止血処置に要する時間(止血時間)の短縮効果とし,副次的評価項目は止血処置中に内視鏡医が感じる心理的ストレス,ESD治療時間の短縮効果,RDI群における穿孔率の非劣性.
【結果】RDI群(n=860)の平均止血時間はWLI群(n=1,049)と比較し短縮効果は認めなかった.(RDI群:62.3±108.1秒,WLI群:56.2±74.6秒;p=0.921).感度分析ではRDI群の止血時間はむしろWLI群より有意に長かった(RDI群:36.0(18.0-71.0)秒,WLI群:28.0(14.0-66.0)秒;p=0.001).心理的ストレスはRDI群の方がWLI群と比較し有意に少なかった(RDI群:1.71±0.935,WLI群:2.03±1.038;p<0.001).ESD治療時間はRDI群(n=161)とWLI(n=168)群で有意差を認めなかった(RDI群:58.0(35.0-86.0)分,WLI群:60.0(38.0-88.5)分;p=0.855).穿孔は4例みられたが,すべて止血処置中ではなかった.
【結語】RDI群を用いた止血処置は止血時間の短縮効果を認めなかった.しかし,RDIを用いた止血処置は安全で止血処置中の内視鏡医が感じる心理的ストレスを軽減する効果が認められた.UMIN000025134.
【背景と目的】インスリノーマは膵神経内分泌腫瘍の中でもっとも頻度が高く,温存手術が適応となる.EUSガイド下ラジオ波焼灼術(EUS-guided radiofrequency ablation:EUS-RFA)は限局性腫瘍に対する新たな治療法である.本研究は20mm未満の膵インスリノーマに対するEUS-RFAの安全性と有効性に関するプレリミナリーな臨床研究である.
【方法】三次医療センター2施設で膵インスリノーマに対してEUS-RFAを施行した臨床経過を解析した.
【結果】2017年11月~2020年12月の期間中,7例(男:女=1:6,年齢中央値:66歳)が登録された.EUS-RFA 1回の焼灼により全例で速やかに低血糖が改善し,画像診断では7例中6例が完全寛解に至り,無症候を維持していた(観察期間中央値:21カ月(範囲:3~38カ月)).3例で軽症合併症がみられた.高齢者の1例では15日目に胃後部に液体貯留を生じ,1カ月後に死亡した.
【結論】2cm未満の膵インスリノーマに対するEUS-RFAは有効で,安全性は許容範囲と考えられる.長期予後や再発に関してはさらなるエビデンスの蓄積が必要である.