日本消化器内視鏡学会雑誌
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65 巻, 12 号
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総説
  • 山岡 𠮷生
    2023 年 65 巻 12 号 p. 2371-2381
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
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    私が,2010年以来,アジアの発展途上国で実際に内視鏡調査に出かけた国は13カ国である.これらの国での内視鏡検査の経験を紹介し,さらにブータンにおける胃癌撲滅対策について概説する.これらの国では,内視鏡検査を受けられるのは大都市に限られており,胃癌の発症率と死亡率に大きな差はなく,胃癌は今でも不治の病と考えられている.Helicobacter pyloriに関する理解も医師も含めて不十分で,早期胃癌という概念すら浸透しておらず,早期胃癌を見たことがない,という国がほとんどであった.日本のように,多くの胃癌は早期で発見され,内視鏡的に治療が行われ,さらにすべてのH. pylori感染胃炎患者に内視鏡検査を行った上で除菌治療を行うことが常識になっている国は皆無である.日本では,胃癌死亡率が徐々に減少していることからも,この日本モデルはぜひ世界に浸透していかなければいけない.そこで,まずブータンという人口わずか80万人の国をモデル国として,迅速にH. pylori診断や抗菌薬耐性を診断できる系を確立させ,全成人住民を対象に,感染診断を行い,抗菌薬耐性を考慮した除菌治療,さらには内視鏡検査も取り入れた胃癌撲滅プロジェクトをブータン政府と共同で開始した.まずは内視鏡医の育成が急務で,常にブータンに内視鏡医を派遣して指導を行いたいと考えているので,興味のある方は連絡していただきたい.

  • 橋元 幸星, 矢野 智則
    2023 年 65 巻 12 号 p. 2382-2393
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
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    小腸出血の原因として血管性病変,潰瘍性病変,腫瘍性病変などが代表的な疾患であるが,その中でも血管性病変が23~52%を占めると報告されている.

    小腸血管性病変は肝硬変や血液透析,弁膜症性心疾患,虚血性心疾患などの基礎疾患を有する患者に発症することが多い.拍動性の有無に着目した血管性病変の内視鏡分類である矢野-山本分類に基づいて止血方法を選択する.Type 1a,1bは静脈・毛細血管の特徴をもつ病変(angioectasia)に相当し,Argon plasma coagulation(APC)やポリドカノール局注療法による止血術が行われる.Type 2a,2bは動脈の特徴をもつ病変(Dieulafoy病変)に相当し,クリップ止血術が一般的である.Type 3は動脈と静脈の特徴をもつ病変(arteriovenous malformation)に相当し,小さな病変では流入血管を止血クリップで結紮しての内視鏡治療やinterventional radiology(IVR)も可能だが,原則的に外科的治療を選択する.

    血管性病変は異時性,異所性に多発することが多く,再出血率は38.5%と報告されている.女性,遺伝性出血性毛細血管拡張症,心疾患,顕性出血,多発病変,肝硬変などが再出血の予測因子である.このようなリスク因子に応じた適切なフォローアップと基礎疾患のマネジメントによる出血予防が重要である.

症例
  • 平田 哲, 中川 昌浩, 平尾 謙, 河原 聡一郎, 大林 由佳, 高田 斎文, 宮原 孝治, 森藤 由記, 國弘 真己, 岩室 雅也
    2023 年 65 巻 12 号 p. 2394-2400
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
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    症例は75歳男性.50年前に食道腫瘤を指摘され,2年前にEGD,生検を施行され石灰化を伴う平滑筋腫と診断された.嘔吐が続くためEGDを実施したところ,胸部下部食道に,一部が正常粘膜に覆われた,黄白色調で硬く,表面に凹凸を伴った30mm大の腫瘤を認め,石灰化を伴う食道平滑筋腫の露出と診断し,通過障害の原因と判断した.腫瘤は観察時の送気で食道内腔に脱落し嵌頓したため,種々の内視鏡処置を複数回行い,腫瘤を縮小させた後,最終的に胃内で電気水圧衝撃波結石破砕装置にて破砕し除去した.病理組織所見は平滑筋腫の石灰化であった.内視鏡デバイスを駆使して非侵襲的に治療しえた症例は稀と考え報告する.

  • 田口 健一, 室 信一郎, 持田 浩志, 武 進, 石木 邦治, 浜田 史洋
    2023 年 65 巻 12 号 p. 2401-2406
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
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    びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)の内視鏡所見は潰瘍形成を伴う軟らかい隆起病変であることが多いが,今回,非典型的な所見を呈したDLBCLの1例を報告する.患者は76歳男性,右頸部の腫脹と倦怠感を主訴に受診した.精査の結果,右頸部リンパ節原発のDLBCL,Lugano分類Ⅳ期と診断した.上部消化管内視鏡検査で胃体部に7mm大の白色扁平隆起の散在および十二指腸下行部に中心部が陥凹した白色調の隆起病変を認め,病理学的には粘膜固有層のリンパ球系細胞の増殖があり,CD20陽性,CD3陰性,CD10陽性,CD5陰性でKi-67 labeling indexは90%であったことから,DLBCLの節外病変と診断した.

  • 土井 真由実, 鷹尾 俊達, 小松 正人, 迫 智也, 鷹尾 まど佳, 森田 圭紀, 豊永 高史, 児玉 裕三
    2023 年 65 巻 12 号 p. 2407-2412
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
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    80歳男性.2018年8月に施行した上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部下面に6mm大の不整な陥凹性病変を認めた.生検結果は印環細胞癌であり,内視鏡所見から異所性胃粘膜を背景とする粘膜内癌と診断した.CT検査では明らかな転移を認めず内視鏡的治療対象病変であるとされ,腹腔鏡内視鏡合同手術の方針となった.しかし,同年11月の治療時には病変は著明に増大していた.内視鏡的に一括切除されたが,病理組織学的診断は腫瘍径10×8mm,adenocarcinoma(por>sig),pT1b,Ly1,V0,pHM0,pVM1と非治癒切除であった.未分化型癌の早期十二指腸癌の報告は極めて少なく,短期間に急激な増大を示した報告はないことから,文献的考察を加えて報告する.

  • 勝又 理沙, 金子 俊, 小林 正典, 中川 美奈, 勝田 景統, 加藤 祐己, 桐村 進, 大塚 和朗, 朝比奈 靖浩, 岡本 隆一
    2023 年 65 巻 12 号 p. 2413-2420
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
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    症例は71歳,男性.55歳からC型肝硬変にて当院通院中であった.肝細胞癌再発に対して肝動脈塞栓術やラジオ波焼灼療法を複数回行われており,70歳時には陽子線治療,肝動脈塞栓術が行われた.その後の画像検査では再発所見なく経過していたが,門脈血栓を生じ抗血栓療法が開始された.今回,胆道出血による閉塞性胆管炎を発症し,出血源の精査目的に行った経口胆道鏡で前区域枝根部に白苔の付着した易出血性の腫瘤を認めた.生検では壊死・変性を伴うGlypican-3陽性の異型細胞を認め,肝細胞癌胆管浸潤と診断して肝癌薬物療法を導入した.肝細胞癌の再発を経口胆道鏡でのみ診断しえた症例は稀であり文献的考察を加えて報告する.

手技の解説
資料
  • 七條 智聖, 阿部 展次, 竹内 弘久, 大圃 研, 港 洋平, 橋口 一利, 平澤 欣吾, 萱場 尚一, 新海 洋彦, 小原 英幹, 山階 ...
    2023 年 65 巻 12 号 p. 2436-2446
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
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    電子付録

    【背景】胃腫瘍に対する内視鏡治療が盛んな本邦において,胃粘膜下腫瘍に対する内視鏡切除の有効性と安全性を検討した報告は少ない.

    【方法】本邦の内視鏡診療における胃粘膜下腫瘍に対する内視鏡切除の現況を明らかにするために本検討を行った.12施設で2020年8月までに胃粘膜下腫瘍に対する内視鏡切除が行われた症例を登録した.

    【結果】117例118病変が登録された.症例数は経年的に増加傾向にあった.平均腫瘍径は20±7.2(8-40)mm,90%は内腔発育型だった.平均切除時間は58±38(range,12-254)分,閉鎖時間は31±41(3-330)分だった.内視鏡的完全切除は117病変(99%)で,全層切除割合は44%だったが脱気のために腹腔穿刺を要したのは12病変(10%)だけだった.内視鏡治療は115病変(97%)で完遂された.3例で内腔虚脱,出血,閉鎖困難のため腹腔鏡手術にコンバートした.最終病理診断はgastrointestinal stromal tumor(GIST)が74%だった.4.3±2.9年の経過観察中に再発は認めず,5年生存率は98.9%(95%信頼区間,97.8-100%)だった.

    【結論】本邦における胃粘膜下腫瘍に対する内視鏡切除例は増加傾向にあり,実施可能と考えられた.前向き試験での検証が望まれる.

内視鏡室の紹介
最新文献紹介
  • 引地 拓人
    2023 年 65 巻 12 号 p. 2453
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/20
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    【背景】内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)における術中のにじみ出る(oozing)出血に対する新規止血ペプチドTDM-621の有効性を,従来の止血法と比較することを目的とした.

    【方法】ESD適応である胃および直腸の上皮性腫瘍227例を対象に,多施設共同非盲検無作為化比較試験が施行された.ESD術中に,ウォータージェットによる洗浄でもoozing出血部位の同定が困難で,止血鉗子による止血が必要と判断された病変を,TDM-621群と対照群に無作為に割り付けた.TDM-621群ではTDM-621で止血を行い,必要に応じて止血鉗子で凝固止血が行われ,対照群では止血鉗子での止血が行われた.主要評価項目は止血鉗子による平均止血回数で,盲検化された第三者評価委員会によって判定された.副次的エンドポイントは,TDM-621のみによる止血達成率,TDM-621の投与量,TDM-621群における有害事象であった.

    【結果】止血鉗子による平均止血回数は,TDM-621群(1.0±1.4回)が対照群(4.9±5.2回)に比べて有意に少なかった(P<0.001).TDM-621のみによる止血達成率は62.2%であり,TDM-621の平均投与量は1.75±2.14mLであった.グレード3以上の有害事象の発現率はTDM-621群で6.2%,対照群で5.0%であった.

    【結論】TDM-621は,胃および直腸のESD時のoozing出血の止血において,有用かつ簡便に使用できる止血ペプチドである.また,安全性にも問題はない.

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