胃内視鏡検診は2016年度から新たに対策型胃がん検診としての実施が承認された.しかしながら,対策型胃内視鏡検診の場合,検診と同時に実施する鉗子生検が精密検査として扱われ,記録画像のダブルチェックが必須となっている点などで,検診に参加する臨床医の戸惑いも大きく,他の検診に比べて検診のアルゴリズムが複雑な点が精度管理上の大きな問題となっている.現役世代のがん検診として中心的役割を果たす職域がん検診については,検診プログラムの標準化や検査精度の均霑化,精度管理基盤の整備などが進んでいないのが現状である.胃内視鏡検診についても,今後は統一したデータ管理ができるように精度管理基盤を整備し,地域と職域を合わせた組織型の胃がん検診の実現を目指していくべきと考える.診療と検診の違いを横断的に理解したスクリーニング認定医が胃内視鏡検診全般の精度向上や精度管理に中心的役割を果たすことが期待される.
ループ形成や屈曲を招きやすいS状結腸は大腸内視鏡の挿入困難部位とされる.初学者では過送気によってS状結腸を拡張させてしまい,軸保持短縮法を用いても挿入困難となることがある.日本で開発された注水法では,少量の水の注入により短縮直線化が容易となるメリットがある.注水法に直腸S状結腸部での脱気を追加して改良した浸水法では,水と空気の境界面が解消され,視野の改善が得られた.初学者でも修得しやすく,ループ形成抑制による盲腸到達率の向上,患者の苦痛軽減が示されている.また,S状結腸軸捻転解除,過敏性腸症候群や腸管形態異常の評価などにも応用されている.欧米にも浸水法は普及し,腺腫発見率の向上につながるWater Exchangeや,内視鏡挿入手法に留まらず治療時に活用する浸水下内視鏡的粘膜切除術へと応用されている.浸水の特性を生かし,送気法における困難を克服する注水関連手技は,今後ますます普及することが期待される.
症例は85歳男性,脳出血発症翌日に吐血をきたしEGDで多発深掘れ食道潰瘍を確認した.EGD後の胸部CTで食道穿孔と診断し,食道抜去術を施行した.多発潰瘍の背景は広範なlong segment Barrettʼs esophagus(LSBE)であり,また全域で癌化していた.Barrett食道腺癌の深達度は粘膜下層浸潤にとどまり,いずれの潰瘍底にも癌細胞の筋層浸潤はなく,急性の非癌性潰瘍であった.LSBEを背景にした広範囲Barrett食道腺癌が認められ,脳出血後に多発性急性深掘れ潰瘍が穿孔した稀な病態が合併した症例を経験したので報告する.
症例は93歳男性,腹痛を主訴に当院を受診した.肝胆道系酵素の上昇と炎症所見を認めることから胆管炎を疑い,第4病日にERCP及び内視鏡的結石除去術を施行した.採石時にバスケットカテーテルが胆囊管に数回挿入,展開されたが,周囲に造影剤漏出は認めなかった.ERCP4時間後に心窩部痛が出現,第5病日のCTで胆囊管壁と肝内の門脈右枝末梢にガス像を認め,門脈ガス血症(hepatic portal venous gas:HPVG)を呈していた.HPVGは保存的治療で治癒した.HPVGの原因として内視鏡的乳頭バルーン拡張術(endoscopic papillary balloon dilatation:EPBD)+バスケット操作や胆囊管損傷が考えられた.ERCP関連手技後のHPVGの報告は少ないが,ERCP後に腹痛を認めた際にはHPVGも考慮して対処すべきである.
症例は73歳,男性.腹痛を認め来院.腹部造影CT検査で回盲部の腸重積と診断された.内視鏡的に整復後に腹腔鏡下回盲部切除術を施行された.病理結果は小腸平滑筋肉腫による腸重積であった.術後のCSで隆起性病変を認め,内視鏡的粘膜切除術を行ったところ,病理結果は大腸平滑筋腫であった.小腸平滑筋肉腫と大腸平滑筋腫が同時期に存在した症例はこれまでになく,まれであると思われるので報告する.
症例は19歳男性.動悸,血便を主訴に来院し,Hb 5.2g/dLと重度の貧血を認め入院となった.頻回の鮮血便あり,CSを施行したところ歯状線に接して乳頭状構造を呈する隆起性病変を認め,直腸粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome;MPS)が疑われた.精査中も排便時出血が持続したこと,形態から腫瘍性病変の可能性も否定できないことより,同病変に対し準緊急的にESDを施行した.ESD後貧血はみられなくなり,半年後のCSでは再発を認めなかった.ESDは低侵襲で正確に病変切除ができ,MPSの治療に難渋する際に有用と考えられた.
自己組織化ペプチド溶液(ピュアスタットⓇ)が消化管内視鏡における止血材として本邦で新しく薬事承認・販売された.ピュアスタットⓇは3種類のアミノ酸(R:アルギニン,A:アラニン,D:アスパラギン酸)から成る完全人工合成ペプチドであり,体液との接触で,ペプチドが酸性から中性になることによってペプチド同士が規則的な集合体となり,ゲル化(自己組織化)し,出血点の圧迫止血をする医療用デバイスである.ピュアスタットⓇは噴出性出血には効果が乏しく,漏出性出血に対する使用に限定されるが,従来の止血材と比べ,塗布後長時間ゲルとしてその場に留まること,透明な物質であり,必要があれば洗浄で容易に除去できるため塗布後の手技の継続を妨げないこと,そして感染症の危険性がないことなどのメリットが存在する.ピュアスタットⓇは内視鏡的粘膜下層剝離術の術中出血の止血のみならず,後出血予防や創傷治癒促進や,消化管出血に対する止血材として有用である可能性がある.本編では,ピュアスタットⓇによる内視鏡的止血術について概説する.
腺腫性ポリープを内視鏡切除することで将来的に大腸がんの罹患や死亡のリスクを減らすことができるとされており,大腸内視鏡が大腸がん予防のために果たす役割は重要である.また大腸内視鏡がしっかりとその効果を発揮するためには検査の質も求められており,腺腫発見率などの向上は内視鏡医に求められている.一方Post-colonoscopy colorectal cancer(PCCRC)の原因の多くが見逃し病変に起因することを考えると,今後は病変の発見だけでなく,見逃しの要素も考慮されるべきである.光デジタル法による画像強調観察(Imaged-enhanced endoscopy;IEE)はデバイスや染色も不要でボタン操作だけで施行可能である.近年の内視鏡技術の進歩や新たなIEEの開発に伴い,IEE観察が大腸病変の発見や見逃しの防止など拾い上げ診断に有用であることが示されてきている.本稿では大腸ポリープの拾い上げ診断の現状からIEE観察の手順やエビデンスについて述べた.今後もIEE観察も併用した最適な大腸内視鏡の観察方法を模索することが求められている.
【背景と目的】維持療法として抗TNF-α抗体(anti-tumor necrosis factor alpha antibodies:anti-TNF)投与中のクローン病(Crohnʼs Disease:CD)患者の腸管狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)の有用性は明らかではない.そこで,われわれは,anti-TNF投与中のCD患者の腸管狭窄に対するEBDの長期的な有用性と安全性を調査した.
【方法】2008年から2017年までの期間,anti-TNFを維持投与したCD患者のうち,EBDを施行し,6カ月以上経過を追えた症例を対象とした.主要評価項目は累積手術回避率とした.主な副次的評価項目は,技術的成功率,再EBD施行率,外科手術に影響したリスク因子,安全性とした.
【結果】解析対象は,72例のCD患者であった.EBD後の観察期間の中央値は50カ月であった.技術的成功率は67%であった.累積手術回避率は,3年で81.1%,5年で73.5%であった.再EBD施行率は74%であった.多変量解析の結果より,16歳以下の若年発症者(HR 3.69;95% CI,1.36-10.01;p=0.011)が外科手術のリスク因子と判明した.外科手術を要する重篤な合併症は3例で認めた.
【結語】anti-TNF維持投与中の腸管狭窄を有するCD患者において,EBDは短期的に有効かつ安全で,長期的にも有用な治療であった.
【背景】消化管上皮下病変(gastrointestinal subepithelial lesion:GI-SEL)に対する超音波内視鏡ガイド下の針生検(EUS-FNB)の位置づけは明確ではない.そこで,GI-SEL診断におけるEUS-FNBの有効性,実行可能性,安全性を評価することを目的に本研究を施行した.
【方法】2015年1月以降に発表されたものを対象にPubMedとEMBASEで検索し,システマティックレビューならびにメタアナリシスを行い,診断率,手技成功率(検体採取率),有害事象を算出した.試験の質の評価にはJadadスケールとNewcastle-Ottawaスケールを用い,出版バイアスの測定にはFunnelプロットとEggerの検定を用い,不均一性の分散と感度を探るために感度とサブグループ解析を行った.
【結果】969例の患者を分析した16編の研究が解析対象となり,13編は質が高い研究と判断された.診断率,手技成功率,有害事象は,それぞれ85.69%(95%信頼区間(CI):82.73-88.22,I2=41.8),98.83%(95% CI:96.73-99.97,I2=54.3),1.26%(95% CI:0.35-2.54,I2=0.0)であった.サブグループ解析では,臨床的な影響因子は同定されなかった.
【結論】EUS-FNBは,診断率,手技成功率,安全性に優れており,GI-SELの診断に最適な選択肢となる有望な手技である.