消化器内視鏡は,手技の開発に並行して光学技術や治療用デバイスなどの医療機器開発により発展してきた.医療機器は,医学分野と工学分野の連携,すなわち「医工連携」により市場に投入され,消化器疾患の診断及び治療に有効活用されている.近年,消化器内視鏡のパラダイムシフトが囁かれるなか,医工連携による技術革新への期待は大きい.しかしながら,医療機器の開発には,アイデア創出に始まり,マッチングする提携企業をみつけ,薬事承認,販売に至るプロセスは,特許・知財関連事項も絡み,複雑で歳月を要する.このプロセスの遂行には,多様な職種が関わる緊密な医工連携による産学官プロジェクトチームの編成は不可欠である.本稿では,消化器内視鏡診療における医工連携の現状から今後の展望まで具体事例を挙げながら,概説する.
Red dichromatic imaging(RDI)は610nmのアンバー(琥珀)色と640nmの赤色の2つの長波長に狭帯域化した画像強調内視鏡技術である.RDIの2つの長波長はNarrow band imaging(NBI)で観察される血管よりも深い,粘膜深部から粘膜下層に存在する直径500µm以上の比較的太い血管を描出できる.RDIを使用すると,出血のリスクとなる粘膜下層に存在する血管を明瞭に視認できるため,粘膜下層を剝離中の血管損傷を回避することができる.また,出血した場合も,RDIを使用することで出血点を認識しやすく,出血の色も黄色に観察されることから,ストレスなく落ち着いて確実な止血処置が可能である.ESD中のRDIの使用による合併症の報告はなく,安全に使用できる.
症例は97歳女性.胆石性胆囊炎を繰り返していた.総胆管結石性胆管炎の診断で入院し,ERCP施行時に内視鏡スコープの挿入操作に伴い,胸部食道右壁側に穿孔を来した.97歳と高齢であり,多数の併存疾患があるため全身麻酔の耐術能が低いと判断し内視鏡的閉鎖術を選択した.穿孔部に対してクリップで間隙なく縫縮し,良好な経過を辿った.20病日に食道造影検査で漏出がないことを確認した後に,内視鏡的結石除去術を施行し38病日に退院した.内視鏡スコープ挿入時に生じた食道穿孔に対して外科手術を行わず,内視鏡的閉鎖術で穿孔部を閉鎖し保存的に経過した1例を経験したので報告する.
症例は19歳,男性.右下腹部痛のため当院を受診した.CT検査で上行結腸にtarget signを認め,腸重積症と診断した.腹膜刺激徴候や腸管壁の造影不良はなく,緊急透視下大腸内視鏡検査で重積を整復した.整復3週間後に大腸内視鏡検査を再度行い,器質的疾患がないことを確認し,盲腸結腸型の成人特発性腸重積症と術前診断した.再発予防に単孔式腹腔鏡下後腹膜固定術を施行し,術後11カ月で再発なく経過している.成人腸重積症の原因で特発性は稀であるが,腸管壊死の所見がない場合は特発性を念頭に置いて,腸切除の回避目的に内視鏡的整復を積極的に試行し,重積による粘膜傷害の改善後に十分な腸管精査を行うことが重要である.
症例は65歳,男性.検診目的でCSを施行された.下行結腸に径15mm大の扁平な粘膜下腫瘍様病変を認めた.同部位からの生検の結果,mucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫と診断した.本症例はHelicobacter pylori陰性であったが,除菌療法を施行した.除菌療法4カ月後の内視鏡検査で病変形態に著変なく,局所切除目的にESDを施行した.ESD標本の病理組織学的所見では,リンパ腫は粘膜内に限局しており,術後3年2カ月再発なく経過している.
症例は66歳男性.健康診断にて便潜血反応陽性を認め,大腸内視鏡検査を施行した.全大腸に多発するポリープを認め,後日内視鏡治療の方針となった.治療施行時,上行結腸の2つの有茎性ポリープが絡み合う状態で認められた.両ポリープとも疎血状態で色調は暗紫色を呈し,また茎部は強く牽引されていた.穿孔のリスクを考慮し,観察のみで終了として,外科的切除の方針とした.術前マーキング目的に内視鏡を挿入したところ,両病変は茎部の潰瘍を残し脱落していた.全経過を通して腹部症状は認めず,下血や腫瘍排出は確認されなかった.本例は2病変同時に脱落した大腸ポリープを内視鏡で経時的に観察しえた極めて貴重な症例であると考えられる.
近年,内視鏡診断が困難とされるHelicobacter. pylori未感染胃癌および除菌後胃癌が増加傾向であり,早期胃癌における新たな診断モダリティが求められている.筆者らは胃拡大内視鏡時に観察される微小血管内の赤血球の動きに着目し,新たな動的診断モダリティとして胃拡大内視鏡画像を用いた血流速度解析法を考案し,これまで検討を行ってきた.Pilot研究にて早期胃癌では斑状発赤や背景胃粘膜と比較して有意に胃粘膜血流速度が低下することを報告した後,より客観的な血流解析方法のため血流速度の自動解析が可能なソフトウェアを開発した.本稿では,胃拡大内視鏡画像を用いたソフトウェアによる血流速度解析方法の実際と早期胃癌の診断における有用性について概説する.
ERCPとそれに関連する処置は胆膵診療において必要不可欠な内視鏡手技である.しかし,ERCPは偶発症の危険を伴い,中でもERCP後膵炎(post-ERCP panceratitis:PEP)は,他の偶発症と比較して頻度が高く,重篤になり得る.PEPを予防するためには,PEPのリスク因子の理解が重要である.PEPのリスク因子には患者および手技によるものが存在し,膵管内圧や膵組織圧の上昇,乳頭浮腫による膵液鬱滞が要因である可能性がある.PEPの高リスク症例に対して,一時的膵管ステントの留置がPEPの予防に効果的とされている.本稿では,PEPのリスク因子などについて概説し,予防法の一つである一時的膵管ステント留置の方法について述べる.
【目的】早期胃癌の中で,リンパ節転移の可能性が極めて低い,潰瘍および潰瘍瘢痕のない2cmを超える分化型T1a(M)癌(cUL陰性群),および潰瘍もしくは潰瘍瘢痕のある3cm以下の分化型T1a(M)癌(cUL陽性群)の両者を対象とした,早期胃癌におけるESDの適応拡大病変に対する非ランダム化検証的試験(JCOG0607)において,良好な有効性が示された.しかしながら,ESD後に追加手術を要するような非治癒切除の割合が32.4%と高い結果であった.本副次的解析の目的は,ESD後非治癒切除に関連する因子を探索的に検討することである.
【方法】ESD適応拡大病変には,2cmを超えるcUL陰性群と,3cm以下のcUL陽性群の異なる2群が含まれていたため,それぞれについて対数線形モデルを用いてESD後非治癒切除の関連因子を検討した.
【結果】cUL陰性群の260例とcUL陽性群の206例の早期胃癌を解析した.ESD後に非治癒切除となった割合は,cUL陰性群で33.8%,cUL陽性群で29.6%であった.多変量解析において,cUL陰性群では治療前の生検の組織診断での中分化型(リスク比:1.93,95%信頼区間:1.34-2.77,P値≦0.001),およびU領域(リスク比:1.75,95%信頼区間:1.03-2.96,P値=0.038)が独立したESD後非治癒切除の関連因子として抽出され,cUL陽性群では2cmを超える(リスク比:1.78,95%信頼区間:1.22-2.58,P値=0.003),および女性(リスク比:1.62,95%信頼区間:1.07-2.44,P値=0.021)が独立したESD後非治癒切除の関連因子として抽出された.
【結論】ESD後非治癒切除の関連因子は,cUL陰性群とcUL陽性群で異なっていた.ESD後の非治癒切除を避けるため,ESD適応拡大病変への治療を決定する際にこれらの要因を考慮する必要がある.
WEOの前身は,国際内視鏡学会(International Society of Endoscopy:ISE)であり,1966年に設立された.1974年第3回ISEの時に正式名称がOMED(the Society of Organization Mondiale d’Endoscopie Digestive)となり,2010年OMEDの名称を世界内視鏡学会(World Endoscopy Organization:WEO)に変更して今日に至っている.2017年からWEOとしての国際学会を新たにスタートした.第1回世界内視鏡学会であるENDO 2017はインド,第2回ENDO(2020)はブラジル,第3回(ENDO 2022)は日本の京都で開催した.第4回(ENDO 2024)は韓国ソウルで開催予定である.WEOの目標・使命は,内視鏡教育・トレーニング活動を通じて安全で質の高い内視鏡医療を世界中に提供することであり,世界的なネットワークを活用した国際的な学術研究活動を推進している.これまで,東南アジア,南米などの発展途上国に対する教育活動を行ってきたが,最近では,アフリカ諸国への内視鏡教育とトレーニング活動に精力的に取り組んでいる.アフリカ各国の現地のニーズに合わせたトレーニングセンターを設立し,インドの拠点病院とも提携してトレーニングコースを行う計画を立てている.
近年,クローン病,潰瘍性大腸炎に代表される原因不明の慢性炎症性腸疾患患者は増加の一途を辿っている.炎症性腸疾患では全消化管に病変が発生しうるので,病変の性状確認,他疾患との鑑別,組織学的診断,治療効果判定など診療のすべての点において消化管内視鏡検査が必須である.また,内視鏡検査をより効率よく炎症性腸疾患の診療に用いるためには一定の指針が必要となる.さらに,本邦では小腸内視鏡を含む消化管内視鏡検査が広く普及していることから,本邦の診療に適したガイドラインが必要と考えられる.そこで,日本消化器内視鏡学会は,「炎症性腸疾患内視鏡診療ガイドライン」を作成し,炎症性腸疾患の確定診断や治療効果判定における内視鏡診療の指針を明確にし,上部消化管内視鏡検査,小腸内視鏡検査,大腸内視鏡検査の位置付けを提示した.
【背景】Walled-off necrosis(WON)に対する最適な治療アプローチは,効果的なリスク層別化分類が存在しないため,十分に解明されていない.この問題に対処するため,放射線学的および臨床的要因に基づいた新しい分類システムを提案し,将来,比較有効性試験を行うための枠組みを設定し,WONの治療戦略に対する見識を提供することを目的とした.
【方法】本研究は,超音波内視鏡を用いてlumen-apposing metal stent(LAMS)を留置されたWON患者を対象とした後ろ向きの解析である.患者は新たに提案されたQNI分類システムに従って分類された.『Q:quadrant』は病変の広がりを,『N:necrosis』はWON内の壊死の割合を,『I:infection』は感染の有無を示し,2人のブラインドレビュアーによって評価された.患者は,QNIが低いグループ(グループ1:Q≦2領域,N≦30%)とQNIが高いグループ(グループ2:Q≧3領域,またはQ=2領域でN≧30%,またはQ=1領域でN≧60%かつIが陽性)に分けられた.主要評価項目は,WONが治癒するまでの平均期間,副次評価項目は手技的および臨床的アウトカムであり,各群間で比較した.
【結果】71人の患者がQNIで層別化された.グループ1には17人が,グループ2には54人が含まれた.グループ2の患者は,ネクロセクトミーの回数が多く,入院期間が長く,再入院する回数も多かった.治癒までの平均期間は,グループ2で長かった(79.6±7.76日 vs. 48.4±9.22日,p=0.02).死亡率もグループ2で高かった(15% vs. 0%,p=0.18).
【結論】重症急性膵炎におけるWONの病態は多様であるが,提案されたQNIシステムはWONの分類を標準化し,今後の臨床試験に有用な情報を提供することが可能である.これは疾患のリスク層別化と最適な治療戦略の策定に寄与するかもしれない.