2020年にオリンパス社より新たなイメージプロセッサであるEVIS X1が市販化され,新たな画像強調内視鏡であるTexture and color enhancement imaging(TXI),Red dichromatic imaging(RDI)が登場した.TXIは消化管腫瘍性病変の視認性改善効果が示されており,実臨床における病変検出率の向上が期待されている.現状ではその臨床的有用性は臓器によって異なると考えられる.RDIはその特徴的な原理に基づいて,特にESD術中出血に対してストレスの少ない止血が行えることが示された.またESD以外の消化管出血に対する止血術における有用性も今後検討されるべきであると考えられる.
新たな内視鏡プロセッサおよび画像強調内視鏡の開発により日常診療におけるエビデンスが確立され,消化管内視鏡診断・治療のさらなる発展が期待される.
食道運動障害の代表的な疾患のひとつは,アカラシアである.アカラシアは,下部食道括約部の弛緩不全と食道体部の蠕動障害を認める原因不明の食道運動機能障害である.水分や食物のつかえ感,食道内容の嘔吐,胸痛,体重減少などの症状により,患者の生活の質は著しく低下する.症状よりアカラシアが疑われる時には,上部消化管内視鏡検査,食道造影検査,胸腹部CT検査を行い,食道内圧検査で確定診断となる.アカラシアの多くは,病悩期間が長くなると,食道の拡張・屈曲や1次蠕動運動の消失が起こり,食道内容物のうっ滞に伴う慢性食道炎の状態となる.このような変化は不可逆的であり,中には食道癌を併発する症例も存在するため,アカラシアと診断がついた場合には,早期の段階で,効果が高く,恒久性のある治療を行うことが望ましい.アカラシアに対する治療法として,内視鏡的バルーン拡張術,外科手術(腹腔鏡下Heller-Dor手術),経口内視鏡的筋層切開術(Peroral endoscopic myotomy:POEM)がある.現在は,POEMが中心的な役割を果たしている.国内では2023年12月までに約6,500例の症例が無事に行われた.本稿では,食道運動障害の診断とその治療法について解説する.
症例は63歳男性.嚥下困難を主訴に受診し,上部消化管内視鏡検査で胸部下部食道に全周性の疣状,角化の目立つ白色隆起性病変を認めた.また,切歯28cmに深い陥凹を認め,左気管支と瘻孔を形成していた.3回の内視鏡検査により生検を繰り返したが,癌の診断には至らず,特徴的な内視鏡像から食道verrucous carcinoma(VC)を疑った.瘻孔に沿ってボーリング生検を施行した結果,VCに矛盾しない太い釘脚の下方への進展像が確認でき,食道VCと診断し得た.本症例のように切除不能な食道VCの診断においてボーリング生検は考慮すべき手技であると考えられた.
食道良性狭窄は患者のQOLを著しく低下させる状態である.今回われわれは,複数回にわたるバルーン拡張術(endoscopic balloon dilation)も奏効せず,ステント留置を行うも逸脱を繰り返し,内視鏡治療に非常に難渋した術後良性食道狭窄症例を経験した.本症例は総拡張回数35回,ステント留置回数8回で,最終8回目にアンカバー自己拡張型メタリックステント内にフルカバー自己拡張型メタリックステントを重ねて留置するStent in Stent治療が奏効し,現在まで2年11カ月の経過が追えている.しかし複数回のステント留置術は本来は避けるべき治療であり,再手術等の他の治療を選択すべきである.本症例は患者背景による特殊な症例報告である.
症例は43歳,女性.粘血便のため施行された大腸内視鏡検査で盲腸底部に粘膜下腫瘍様隆起を認め,当院に紹介された.大腸内視鏡検査を再検すると,同部位にⅠ型pitを呈しvolcano signを呈する隆起性病変を認めた.腹部CTでは虫垂壁に層状構造を認めたが,明らかな腫瘍性病変は認めず,虫垂重積症と診断した.悪性腫瘍による重積が否定できなかったため,腹腔鏡下回盲部切除術を行った.病理組織学的検査で虫垂子宮内膜症と診断した.虫垂重積症の原因として子宮内膜症を鑑別に挙げる必要がある.
88歳,男性.黄疸を主訴に近医を受診し,精査加療目的に当院へ紹介となった.造影CTでは遠位胆管に淡い造影効果を伴う胆管壁肥厚を認め,上流胆管の拡張を認めた.ERCPでは遠位胆管に20mmの狭窄を認め,胆管擦過細胞診,胆管生検で悪性リンパ腫が疑われたが,確定診断には至らなかった.ERCPを再検し,胆管生検を行いびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(Diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)と診断した.PET-CTでは遠位胆管以外にFDG集積を認めず,総胆管原発のDLBCLと診断した.経乳頭的胆管生検により非常に稀な総胆管原発DLBCLを診断し,適切な治療選択が可能であった.
大腸憩室出血に対する内視鏡治療はクリップ法がその簡便さから広く用いられ,出血点を直接把持する直達法と憩室を閉鎖する縫縮法に分類される.本邦の急性血便症例データベース(CODE BLUE-J Study)を用いた検討では,直達法は縫縮法と比較して,術後1カ月以内と1年以内の再出血,入院中輸血の抑制効果を示したが,左側結腸での出血や活動性出血では再出血率に有意差を認めなかった.これらの結果からクリップ直達法は出血点に対する内視鏡の視野と操作性が安定した状況で効果を発揮することが示唆された.出血点に対する内視鏡の視野と操作性を安定させる工夫として,水浸下観察や先端フードの装着などがあり,これらを利用することでより多くの症例に直達法が施行できるものと考えられた.
術後再建腸管症例における肝内胆管結石は,従来経皮経肝胆道ドレナージが標準治療として行われてきたが,近年,より低侵襲な治療としてバルーン内視鏡を用いたERCPや超音波内視鏡下胆道ドレナージの有効性が報告されるようになってきた.これらの内視鏡手技は技術的難易度が高いものの,外瘻管理によるQOLを低下されることなく治療可能である.通常のERCPとは異なる内視鏡操作が必要であり,基本手技および困難例への対応法を熟知しておくことが必要である.
近年,表在型非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(superficial non-ampullary duodenal epithelial tumors:SNADETs)に対する内視鏡治療の進歩に伴い,術前内視鏡診断の重要性が増している.SNADETsの内視鏡および組織学的診断を理解する上で粘液形質は必要不可欠であり,粘液形質を想定したSNADETsと非腫瘍性病変の鑑別診断アルゴリズムも提唱されている.さらに,異型度の診断を目的とした内視鏡観察法として画像強調内視鏡併用拡大内視鏡観察や超拡大内視鏡観察なども試みられている.しかしながら,現時点でSNADETsにおける組織像や内視鏡所見は標準化されていないのが現状である.したがって,診断や取り扱いに関する世界的基準の確立が急務と考えられる.
【背景】ERCP後膵炎(post-ERCP pancreatitis:PEP)の高危険群に対するインドメタシンの直腸内投与と予防的膵管ステント留置の併用が推奨されている.予備的研究ではインドメタシンの直腸内投与が技術的に複雑で,費用がかかり,潜在的に有害になり得る膵管ステントの必要性を低減する可能性が示唆されている.
【方法】米国とカナダの20施設で無作為化非劣性試験が行われた.PEPの高危険群(18歳以上)を直腸内インドメタシン単独投与(100mg)群またはインドメタシン(100mg)と予防的膵管ステント併用群に割り付けた.主要評価項目はPEPの発生率であり,非劣性マージンはintention-to-treat(ITT)とper-protocol解析の双方で5%未満と設定された(ClinicalTrials.gov:NCT02476279).インドメタシン坐剤および予防的膵管ステントの留置を除くすべての手技関連の介入は内視鏡医の裁量に委ねられた.
【結果】2015年9月~2023年1月までに1,950人が割り付けられた.PEPはインドメタシン単独群で14.9%(145/975),インドメタシンと膵管ステント併用群で11.3%(110/975)(リスク差3.6%;95%CI 0.6-6.6;P=0.18)に発生した.事後ITT解析ではインドメタシン単独群はインドメタシンと膵管ステント併用群よりも劣っていた(P=0.011).安全性アウトカム(重篤な有害事象,集中治療室への入院,入院期間)は両群間で差がなかった.
【結語】高危険群におけるPEPの予防効果に関しては,インドメタシン単独はインドメタシンと膵管ステント併用に対して劣性であった.