胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)診断について,胃・食道の逆流防止機構(anti-reflux barrier:ARB)は,壁外と壁内に分けて考えることができる.壁外ARBとして横隔膜食道裂孔と食道横隔靭帯がある.壁内ARBとして,Phase Ⅰ 胃側(Collar sling muscle fibers,Clasp muscle fibers),Phase Ⅱ 食道側LES,Phase Ⅲ 食道側(upper esophageal sphincter(UES),Peristalsis)がある.これらは,内視鏡的内圧測定統合システム(endoscopic pressure study integrated system:EPSIS)とhigh resolution manometry(HRM)を組み合わせることにより,GERDの病態生理を推測することができる.GERD治療については,GERDの70%は非びらん性胃食道逆流症(non-erosive gastroesophageal reflux disease:NERD)であり,NERDの大半はヘルニアがない.そのような病変は,内視鏡的逆流防止術(endoscopic anti-reflux therapy:EARTh)の良い適応となる.逆流防止噴門粘膜切除(anti-reflux mucosal resection:ARMS)から始まり,逆流防止粘膜焼灼術(anti-reflux mucosal ablation:ARMA),逆流防止粘膜形成術(anti-reflux mucoplasty:ARM-P),逆流防止粘膜形成術(anti-reflux mucoplasty with valve formation:ARM-PV)でValve形成を伴うものまである.ARMS/ARMAについては,3本のSystematic reviewにて,安全で有効な治療法であることのエビデンスが報告されている.今後は,理想を追求したARM-PVと,手技の簡便性が魅力のARMAの2本立てで,手技が展開されていくと考えている.
胃底腺型胃癌は,第15版胃癌取扱い規約,WHO分類第5版で新たに追加された胃腫瘍であり,著者らが2010年に“gastric adenocarcinoma of fundic gland type”という名称で提唱した稀な低悪性度の胃上皮性腫瘍である.胃底腺型胃癌は,Helicobacter pylori未感染胃癌の一つと考えられており,病理組織学的に胃底腺型腺癌と胃底腺粘膜型腺癌に分類され,臨床病理学的特徴,内視鏡的特徴も明らかになってきた.遺伝子異常に関する報告は複数あるが,発癌リスク因子,発癌機序や発育進展様式に関しては解明されていない.また,胃底腺型腺癌は低異型度・低悪性度であることが多く,内視鏡治療後の追加外科切除適応を含め,臨床的取扱いに関しては議論の余地がある.今後は,病理組織学的分類をもとに治療成績と長期予後解析を行い,胃底腺型胃癌に対する内視鏡診療指針の確立が望まれる.
経皮内視鏡的胃瘻造設術は安全性が高いが合併症として門脈ガス血症が生じることがあり死亡例の報告もある.当院で経皮内視鏡的胃瘻造設術を施行した266例中7例に門脈ガス血症を認めたが,全例で全身状態は安定しており消化管の虚血や腹膜炎所見は見られず保存的に改善した.症状は発熱,嘔気嘔吐が多く認められた.経皮内視鏡的胃瘻造設術後に発熱,嘔気嘔吐を認めた場合は門脈ガス血症を鑑別に挙げる必要がある.また,消化管の虚血や腹膜炎症状などを認めず全身状態が安定している場合は保存的治療で改善を期待できる可能性があると考えられた.
73歳男性.十二指腸球部に0-Ⅰ型様病変を認めた.生検で軽度核異型を伴う細胞からなる異型腺管の密在を認めneoplasm of uncertain malignant potential(NUMP)に相当すると考えられたが,腺癌も否定できず,EUSで粘膜下層浸潤が疑われた.膵体尾部に膵管内乳頭粘液性腫瘍も伴うため亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.NUMPは十二指腸胃型腫瘍のうち良悪性の区別が困難な境界病変と定義され,病理像では軽度異型上皮細胞が癒合または分枝状腺管パターンで増殖し,しばしば粘膜下層への進展を伴う.NUMPに関する報告は少なく,診断基準・治療方針の確立のため症例の蓄積が望まれる.
症例は20歳代男性.肛門部痛と血便の訴えあり施行した内視鏡検査で直腸下部前壁に易出血性潰瘍,回腸末端部にリンパ濾胞過形成と縦走のびらんを認めた.生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め,クローン病が鑑別に挙がった.血液検査で梅毒血清反応陽性,病理標本で梅毒トレポネーマ抗体免疫染色が陽性であった.男性との肛門性交歴が判明し,皮膚・陰部所見と合わせ梅毒第2期と診断した.AMPC 1,500mg/日の内服を開始し皮疹と腹部症状は消失し,3カ月後に直腸潰瘍の瘢痕化を確認した.梅毒は本邦で増加しており,梅毒性腸炎に遭遇する機会も増えると考えられる.病態や内視鏡像の理解と疑った際には詳細な生活歴の聴取と全身診察が重要である.
症例はパーキンソン病のため胃瘻管理中の77歳の男性で肝S5の感染性肝囊胞(IHC:infected hepatic cyst)を繰り返し発症し経皮的ドレナージを施行していた.今回,増大再燃したIHCにより発熱に加えて胃前庭部の圧排をきたし胃瘻からの逆流を認めた.IHC内部は粘稠性が高いことが疑われたため,従来の経皮的ドレナージではなくOne-Step処置可能な大口径のLAMS(Lumen apposing metal stent)が有用と考え,倫理委員会・未承認医療機器審議で認可されたLAMSを用いた経胃EUS下肝囊胞ドレナージを施行した.LAMS留置によりIHCからの化膿性内容物の胃内への排液を確認し,施行直後より発熱や胃瘻からの逆流は改善し偶発症も認めなかった.
EMRは世界中に広く普及してきたなかで,病変を断端陰性で確実に切除するため従来法に工夫や改良を加えた“modified EMR”としての様々な手技が開発されてきた.近年,筆者は新たなmodified EMRとして,エムロ(EMR with an Over-The-Scope Clip(OTSC):EMR-O)を考案した.EMR-Oはあらかじめ病変の下に消化管全層縫合デバイスであるOTSCを留置し,その直上をスネアによって切除する手技である.いわば「穿孔させない内視鏡治療」であるため,十二指腸や大腸などの壁の薄い臓器の病変の切除に適している.さらに症例によっては全層切除も可能である点は従来のmodified EMRにはない特徴である.EMR-Oは使用するOTSCの規格により,切除可能な病変はおよそ10-15mmまでに制限されるが,従来の内視鏡治療では切除困難な消化管腫瘍に対する治療の選択肢の1つになる可能性がある.本稿ではEMR-Oの実際と手技のコツ,治療成績などについて解説する.
【目的】本研究は,表在性十二指腸上皮性腫瘍(superficial duodenal epithelial tumor:SDET)に対する内視鏡的切除術(endoscopic resection:ER)後の有害事象(adverse event:AE)の臨床経過とマネジメントを明らかにすることを目的とした.
【方法】日本の18施設で2008年1月から2018年7月までにSDETに対するERを受けた連続患者を後方視的に登録した.研究アウトカムは,SDETに対するER後の臨床経過,マネジメント,周術期AEに伴う手術移行のリスクなどであった.
【結果】AEを呈した226例のうち,手術移行率は8.0%(18/226例)であり,その内訳は術中穿孔が3.7%(4/108例),遅発性出血が1.0%(1/99例),遅発性穿孔が50.0%(12/24例)であった.多変量ロジスティック解析では,乳頭部浸潤(オッズ比[odds ratio:OR],12.788;95%信頼区間[confidence interval:CI],2.098-77.961,P=0.006)および遅発性穿孔(OR,37.054;95%CI,10.219-134.366,P<0.001)が,AE後の手術移行の有意な危険因子であった.遅発性出血は術後1~14日目以降に発生したが,遅発性穿孔は全例で3日以内に発生した.
【結論】SDETに対するER後AEの中で,遅発性穿孔は他のAEよりも手術移行率が高かった.乳頭部浸潤と遅発性穿孔は,AE後の外科手術移行の有意な危険因子であった.また,外科的介入の必要性を防ぐためには,十二指腸ER後3日間は遅発性穿孔の確実な予防が必要である.
【背景】炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease,IBD)において生物学的製剤の開発や患者への適切な治療選択のためには,作用機序と標的結合の明確化が必要であり,それにより個別化治療戦略が可能となる.蛍光標識したベドリズマブ(vedo-800CW)を静脈投与後に蛍光分子イメージングを用いることで,肉眼的および顕微鏡レベルで薬剤の分布を可視化し,標的細胞を特定することを目的とした.
【方法】43件の蛍光分子イメージングが実施され,内視鏡検査による生体内評価と,生体外で肉眼かつ顕微鏡的画像撮影を行った.フェーズAでは,患者は内視鏡検査前に,4.5mg,15mgのvedo-800CW,もしくはトレーサーなしの静脈内投与を受けた.フェーズBでは,ベドリズマブの非標識(サブ)治療用量を先行投与した後に,患者はvedo-800CW 15mgを投与された.
【結果】蛍光分子イメージングの定量化により,炎症組織におけるvedo-800CWの蛍光強度が用量依存的に増加することが示され,15mgが最適なトレーサー用量であることが示された.さらに,vedo-800CWを治療用量の非標識ベドリズマブ投与後に投与したところ,蛍光シグナルが61%減少したことから,炎症組織における標的飽和が示唆された.蛍光顕微鏡および免疫染色により,ベドリズマブが炎症粘膜に浸透し,複数の免疫細胞型と関連していることが示されたが,最も顕著なのは形質細胞であった.
【結語】蛍光分子イメージングを用いることにより,炎症を有する組織における薬剤の局所分布を特定し,薬剤の標的細胞を同定する可能性を示した.炎症性腸疾患の治療薬としての標的薬剤に関する新たな知見をもたらす.