薬剤に起因する胃粘膜傷害および胃粘膜変化は,日常診療で頻繁に遭遇する消化管病変の一つである.多くの薬剤が胃粘膜に影響を及ぼすが,その発症機序や内視鏡所見,病理組織所見は薬剤ごとに異なる.本総説では,非ステロイド性抗炎症薬,プロトンポンプ阻害薬およびボノプラザン,ビスホスホネート,鉄剤,抗生物質,酢酸亜鉛,免疫チェックポイント阻害薬,オルメサルタン,炭酸ランタンなど,代表的な薬剤による胃粘膜病変について,内視鏡所見の特徴を中心に概説する.
4年前に胃穿孔性腹膜炎に対して幽門側胃切除術ならびにRoux-en-Y再建術の既往がある80歳男性が,腹痛と嘔吐を主訴に受診した.腹部CTで輸入脚の拡張,膵周囲の脂肪組織濃度上昇,膵型アミラーゼ値上昇を認めたため,急性膵炎を合併した輸入脚症候群と診断した.EGDでは,Y脚吻合部が狭窄し,腸石が嵌頓していた.腸石をカニューレで輸入脚側へ押し込み,吻合部狭窄に対して内視鏡的バルーン拡張術を施行したところ,大量の腸液が流出した.回収した腸石を分析すると真性腸石であった.狭窄したY脚吻合部に嵌頓した腸石が輸入脚症候群を引き起こしたものの,内視鏡的に治療しえた貴重な症例と思われた.
症例は23歳女性.解離性障害などの基礎疾患があり精神科病棟に入院していた.入院中に筒形の単3乾電池を誤飲したため,緊急でEGDを施行した.しかし,胃内には多量の食物残渣が認められたため,乾電池を直接視認することが不可能であった.そこで,鉗子口から挿入した回収ネットに小型磁石を把持した状態で内視鏡を再度挿入した.胃内で愛護的に内視鏡を操作することで,磁石に乾電池が接着し,摘出が可能であった.磁石を用いた乾電池の摘出法は,食物残渣に埋没した胃内金属異物に対する内視鏡的摘出術として有用であると考えられた.
症例は76歳男性,吐血を主訴に受診した.緊急上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部前壁に頂部から出血するなだらかな粘膜下隆起を認め,内視鏡的止血術(エピネフリン局注)を施行した.その後胆道出血を契機として胆囊動脈の仮性動脈瘤破裂を診断し,血管塞栓術で止血した.十二指腸への塞栓物質の露出や十二指腸浸潤部からの生検で胆囊癌を認めたことから,消化管出血は胆囊癌に合併した胆囊動脈仮性瘤および十二指腸への穿破であったと考えられた.胆囊癌によって形成された胆囊動脈仮性瘤の十二指腸穿破はきわめてまれであるが,球部における出血性十二指腸潰瘍の原因として本病態も鑑別診断として念頭におく必要性が示唆された.
症例は36歳,男性.血便を主訴に救急外来を受診.緊急大腸内視鏡検査で回盲弁上唇に類円形の潰瘍性病変と潰瘍内の露出血管から湧出性出血を認め,止血鉗子で凝固止血を施行した.約1カ月前の鶏肉生食後の腸炎症状と回盲弁上の潰瘍を認めたことから,カンピロバクター腸炎を疑った.その後の入院中,潰瘍内の別部位の露出血管から出血を認め,追加の内視鏡的止血術を2度要した.便汁培養からはCampylobacter jejuniが検出され,クラリスロマイシン(CAM)内服を開始したところ,血便は消失した.カンピロバクター腸炎罹患後,腸炎症状の改善後も回盲弁上の潰瘍は残り稀に多量の血便の原因となることがある.
膵癌の早期発見が困難な状況が続いており,それに有用とされているEUSも普及には至っていない.当院では開院時より直視ラジアル型EUSを導入し,クリニックにおける膵臓診療の裾野を広げる取り組みを行ってきた.1cm以下の早期膵癌の診断は叶わなかったが,多数の膵癌の診断に至った.また同時に行う通常観察でも0.47%の割合で胃癌診断に至っている.直視ラジアル型EUSは,膵臓精査と合わせて消化管も同時に精査が可能であり,クリニックにおいても施行可能な有用なmodalityと考えられたため,その使用実績を報告する.
2008年にAkermanらが従来のバルーン内視鏡(balloon assisted endoscopy:BAE)とは全く異なるコンセプトの小腸内視鏡であるスパイラル内視鏡を開発した.このスパイラル内視鏡を改良し,らせん状のフィンを電動化した内視鏡がパワースパイラル内視鏡である.電動化したらせん状のフィンが腸管をたぐりよせることで深部小腸への挿入を可能にし,従来のBAEよりも効率よく深部小腸への挿入を可能としている.海外では2019年から臨床使用が開始されているが,本邦ではまだ導入初期であり,本邦におけるパワースパイラル内視鏡の位置付けについては今後の検討課題である.
【背景と研究の目的】食道扁平上皮癌(squamous cell carcinoma;SCC)のリスクを,食道を刺激するヨード染色を用いずに内視鏡所見で予測することは有益である.以前のレトロスペクティブ研究で,われわれは,narrow band imaging(NBI)/blue laser imaging(BLI)で認められる食道粘膜の多発拡張血管の小集簇(multiple foci of dilated vascular areas;MDV)が,ヨード不染帯と関連し,食道扁平上皮癌の予測因子となりうることを明らかにした.この前向き研究では,MDVと異時性食道扁平上皮癌との関連を検討することを目的とした.
【対象および方法】食道扁平上皮癌に対する内視鏡的切除歴のある患者を対象とした.まず,初回内視鏡検査時にNBIまたはBLIを用いてMDVの評価を行った.その後,内視鏡的サーベイランスにより異時性食道扁平上皮癌の有無を調べた.MDVの数と異時性食道扁平上皮癌の発生率との関連を検討した.
【結果】2018年2月から2019年5月までに206例が登録され,201例が解析対象となった.患者は2022年10月まで追跡された.内視鏡追跡期間の中央値(四分位範囲)は1,260(1,105~1,348)日であった.2年後の異時性食道扁平上皮癌の発生率は,MDV≦4の患者で7.1%,MDV≧5の患者で13.9%であった(P<0.01).多変量解析では,MDVは異時性食道扁平上皮癌の独立した予測因子であり,オッズ比(95%信頼区間)は2.37(1.06-5.31)であった.
【結論】MDVは異時性食道扁平上皮癌のリスクを層別化する有用な予測因子である.
【臨床試験番号】UMIN000031342.
【背景】胃腫瘍の早期発見は良好な治療結果をもたらす.最新の内視鏡システムEVIS X1には,第3世代Narrow-band imaging(3G-NBI),Texture and colorenhancement imaging(TXI),高精細白色光(WLI)が搭載されている.この無作為化第Ⅱ相試験は,胃腫瘍検出においてWLI,3G-NBI,TXIのいずれが最も有望な画像観察法であるか同定することを目的とした.
【方法】食道癌または胃腫瘍の既往後にサーベイランス内視鏡検査が予定されている患者,または既知の食道癌または胃腫瘍に対する術前内視鏡検査を受ける予定の患者を,3G-NBI群,TXI群,WLI群に無作為に割り付けた.各群で内視鏡観察が行われ,新たな胃腫瘍病変が疑われる病変はすべて生検された.主要評価項目は,一次観察中の胃腫瘍検出率であった.副次的評価項目は,胃腫瘍の見逃し率,早期胃癌発見率,胃腫瘍診断の陽性適中率であった.有望な画像観察法の判定基準は,3G-NBIとTXIの間で胃腫瘍検出率がより高く,かつWLIを1.0%以上上回った観察法とした.
【結果】最終的に901例が登録され,3G-NBI群,TXI群,WLI群に割り付けられた(それぞれ300例,300例,301例).3G-NBI群,TXI群,WLI群における胃腫瘍検出率は,それぞれ7.3%,5.0%,5.6%であった.胃腫瘍の見逃し率は1.0%,0.7%,1.0%,早期胃癌の検出率は5.7%,4.0%,5.6%,胃腫瘍診断の陽性適中率は3G-NBI群,TXI群,WLI群でそれぞれ36.5%,21.3%,36.8%であった.
【結語】TXIおよびWLIと比較して,3G-NBIは胃腫瘍検出においてより有望な観察法である.