本稿では,1)消化器内視鏡が関係した訴訟事例の動向,2)医療水準,3)インフォームド・コンセント,4)今後の医療訴訟,特にAIが関係した事例の扱い,について述べる.医療訴訟では,行われた医療が医療水準を満たしていたかどうか,また,説明が十分になされていたかが問題となることが多い.医療水準に関しては,診療ガイドライン等に沿った医療を行うことが重要である.説明内容は正しく,かつ,分かりやすいことが望まれている.患者が良くなることを目指した医療行為で,患者側とトラブルになることは大変残念なことである.知識や手技を常に最新のものにアップデートして,また,患者側への説明内容・方法にも配慮して,患者の満足度を高める必要がある.より良い医療を真摯に目指すことが最善の医療訴訟の予防策である.
門脈圧亢進症は,主に肝硬変や門脈血流の異常によって引き起こされる病態である.門脈圧の上昇は消化管全体にさまざまな変化を引き起こし,食道静脈瘤,胃静脈瘤などの他に,門脈圧亢進症性胃腸症(portal hypertensive gastroenteropathy:PHGE)を生じることがある.PHGEは胃を中心に消化管全体に影響を及ぼす疾患であるが,その他十二指腸,小腸,大腸の各部位においても所見が認められる.門脈圧亢進症性胃症は,胃体上部や穹窿部などに発赤,浮腫,粘膜出血を伴う粘膜病変を認め,組織学的には,粘膜層および粘膜下層の毛細血管,集合細静脈,細静脈の拡張や浮腫を特徴とし,炎症細胞浸潤を伴わない非炎症性疾患である.また門脈圧亢進症性腸症は小腸,大腸に血管の拡張を特徴とする所見が認められ,出血の原因となることがある.本総説では,門脈圧亢進症性胃腸症の内視鏡診断について解説する.
症例は65歳,男性.中部食道に憩室を認め,この辺縁から底部近くにわたり早期食道癌を認めた.EUSで憩室部分の筋層に明らかな欠損のないことが確認されたが,穿孔リスクを考慮し,耐術能評価と外科的修復準備のうえで全身麻酔下にESDを施行した.術中所見としても筋層欠損はなく,翌日のCTで異常を認めず経過良好で退院した.既報の症例と合わせ検討した結果,食道憩室部病変に対するESDの治療成績は概ね良好だが術前評価や術中管理にばらつきがみられた.EUSによる筋層の評価,CTでの周囲臓器との位置関係の確認,耐術能評価と全身麻酔または全身麻酔への移行準備,および穿孔時に外科的修復可能な体制が実施要件として挙げられると考えられた.
症例は88歳女性,繰り返す血便を主訴に受診.CSで結腸脾彎曲部に発赤を伴う粘膜下腫瘍様隆起性病変を指摘,腹部ダイナミックCTで同部位に異常血管増生と結腸壁濃染を認めた.腹部血管造影では拡張した中結腸動脈左枝と末梢の塊状異常血管増生,流出静脈早期描出を認めた.以上の所見より出血源を消化管動静脈奇形と診断,流入動脈に対して塞栓術を施行した.塞栓術後のCSでは病変粘膜に虚血性変化は認めず,隆起性病変の平坦化を確認した.術後に患者の血便は消失し有害事象なく軽快退院した.消化管動静脈奇形では血管塞栓術も治療選択肢となるが,塞栓効果と腸管虚血による有害事象確認にCSが有用と考えられた.
内視鏡的胆管ステント留置術後のステント逸脱による十二指腸乳頭口側隆起部穿孔は稀である.2021-2023年に当院で内視鏡的胆道ドレナージを施行し,十二指腸乳頭部穿孔をきたした9症例に対して臨床的検討を行った.原疾患は総胆管結石が6例と最多で,全例にストレート型プラスチックステントを留置していた.ステントによる乳頭部穿孔に対しては,全例乳頭開口部側から慎重に抜去し,治療を継続できた.抜去に伴う偶発症は認めなかった.胆管ステント逸脱による十二指腸乳頭部穿孔は安全に治療できたが,後腹膜穿孔の場合は重篤化の可能性があるため,適切なステント選択と長期留置の回避が必要である.
胆管ステント長期留置の偶発症であるstent-stone complex(SSC)は,ステントを核として形成される結石を指す.SSCを形成すると胆管内での嵌頓や結石とステントとの固着により治療困難となることがあり注意を要する.今回われわれはプラスチックステント(plastic stent:PS)を核としたSSCの2例を経験した.SSCは胆管結石残存例で形成されやすい傾向があることから,胆管結石例では可能な限りPS長期留置を避け,根治的治療もしくはPS定期交換を選択すべきである.
十二指腸ESD後には遅発性偶発症の予防の観点から創部縫縮が重要である.Over the scope clipや十二指腸腹腔鏡内視鏡合同手術による確実で強固な縫合の有用性が報告されているが,課題も多い.近年,through the scope clips(TTSC)で直接筋層を畳むModified double-layered suturing(折り紙法)が登場した.これによって,TTSCのみであるにも関わらず,十二指腸ESD後の強固かつ簡便な縫縮が実現可能となった.
【目的】表在性非乳頭部十二指腸腺癌において,粘膜内癌と粘膜下層浸潤癌の鑑別診断は治療法を適切に選択する上で重要であるが,術前深達度評価における診断アルゴリズムは未だ確立されていない.
【方法】2006年から2022年の間に当院で治療を実施した表在性非乳頭部十二指腸腺癌205例(粘膜内癌188例,粘膜下層浸潤癌17例)を対象とした.術前深達度診断に用いた臨床所見,内視鏡所見,病理組織所見について後方視的に検討を行った.また,術前にEUSを実施した85例を対象として,EUSにおける深達度の診断精度について検討を行った.
【結果】粘膜下層浸潤癌と粘膜内癌を比較すると,粘膜下層浸潤癌では病変部位が主乳頭口側(88% vs. 48%),肉眼型が隆起型または複合型(94% vs. 42%),術前生検診断で中分化・低分化腺癌(47% vs. 0%)が有意に多かった.粘膜下層浸潤癌の発生率と内視鏡所見の関係性から,粘膜下層浸潤リスクを下記に示す通り層別化を行った.1)低リスク群(粘膜下層浸潤リスク2%):主乳頭肛門側に位置するすべての病変および,主乳頭口側に位置する表面型病変.2)高リスク群(粘膜下層浸潤リスク23%):主乳頭口側に位置する隆起型あるいは複合型病変.また,術前生検診断において,中分化~低分化腺癌であった病変は全例(8/8例)が粘膜下層浸潤癌であった.一方,本検討において,EUSは深達度の診断精度の向上には寄与しなかった.
【結論】表在性非乳頭部十二指腸腺癌は,病変部位,肉眼型,術前生検診断を基に粘膜下層浸潤リスクを評価することで,適切な治療法を選択できることが示された.
【背景】無鎮静下での経口上部消化管内視鏡(EGD)は一般的な手技であるが,咽頭挿入の困難さが,内視鏡の操作性や患者の受容性に影響を及ぼす.呼吸法がこれらに与える影響については十分に検討されていなかった.
【方法】通常径(conventional endoscope:CE)または超細径(ultrathin endoscope:UE)の経口EGDを施行する252例を対象に,口呼吸(oral breathing:OB)または鼻呼吸(nasal breathing:NB)に無作為割付し,操作性・受容性をVASで評価した.使用機種はGIF-H260/H290Z/HQ290/XZ1200/EZ1500(Olympus)およびGIF-XP260NS/XP290N/1200N(Olympus),EG-L580NW7(FUJIFILM)であった.
【結果】咽頭視認性はOB群で有意に良好であり(CE:81.0%,UE:79.3%),挿入操作に関するVASスコアもOB群で有意に低かった.患者受容性スコアに大きな差はなかったが,CEではOB群で腹部膨満感・腹痛のスコアが改善した.UE+OB群は,操作性・受容性の両面で最も良好であった.
【結語】経口EGDにおいて,口呼吸は鼻呼吸に比べて操作性を改善し,とくにUEとの併用でその効果が顕著であった.