日本外科感染症学会雑誌
Online ISSN : 2434-0103
Print ISSN : 1349-5755
17 巻, 4 号
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ガイドライン
特集:外科,救急,集中治療におけるAntimicrobial Stewardship(抗菌薬適正使用支援)
巻頭言
原著
  • 熊谷 康平, 畑 裕基, 村津 圭治, 畑 啓昭
    2020 年 17 巻 4 号 p. 167-171
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    2016年に発刊された「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」において,手術部位別の予防抗菌薬の適応や,患者特性に応じた術中投与間隔および1回投与量などが勧告されている。当院外科においては,クリニカルパスによりガイドラインに従った予防抗菌薬が設定されていたが,腎機能や体重に応じた用法用量の調整は主治医に委ねられていた。2018年1月より,予防抗菌薬の適正使用割合向上のため,病棟薬剤師が電子カルテ上で主治医・手術室看護師に処方提案を行う介入を開始した。予防抗菌薬適正使用割合は介入前/後で,全群:62.0%/87.4%(P<0.001),腎機能低下群:34.0%/86.3%(P<0.001),過体重群:20%/92.3%(P=0.001)と有意に改善が認められた。病棟薬剤師の介入により予防抗菌薬の投与間隔および投与量の適正割合が向上することが示され,取り組みを継続することで,手術部位感染発症割合の減少や抗菌薬による有害事象防止につながる可能性があると考える。

  • 山田 康一, 桑原 学, 掛屋 弘
    2020 年 17 巻 4 号 p. 172-177
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    当院ではASPとして「早期モニタリングとフィードバック」と「条件付き届出制」を採用している。今回外科感染症診療への有効性を菌血症全体と外科感染症の原因菌として頻度が高いBacteroidesを対象に評価を行った。その結果血液培養2セット率は上昇し,菌血症の院内死亡率は有意に改善した(34.9%→23.1%:P=0.04)。Bacteroides菌血症においてはAST活動により,経験的治療におけるカルバペネム系薬の使用頻度の減少,TAZ/PIPCの増加がみられた。また,標的治療におけるde─escalation率が上昇した(9.7%→34.8%:P=0.04)。感受性には明らかな変化はみられなかった。菌血症の予後は改善傾向であった。以上より当院でのAST活動は外科感染症診療において有効であることが示された。

トピックス
  • 川村 英樹
    2020 年 17 巻 4 号 p. 178-181
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    世界的に薬剤耐性菌の拡大が問題となり,我が国でも2016年に「AMR(薬剤耐性)対策アクションプラン」が作成され,成果指標として耐性率や抗菌薬使用量の低下が掲げられている。外科,救急,集中治療においても,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,ESBL産生菌,多剤耐性緑膿菌・アシネトバクター,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌などの薬剤耐性菌が問題となっている一方,日常的に使用される術後感染予防抗菌薬や敗血症など重症感染症で多くの抗菌薬が使用され,AMR対策としてインフェクションコントロールチームや抗菌薬適正使用支援チームを核に,抗菌薬適正使用支援活動の充実が求められている。

  • 山下 千鶴, 川治 崇泰, 中村 智之, 石川 清仁, 西田 修
    2020 年 17 巻 4 号 p. 182-192
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    重症感染症患者の救命と耐性菌出現抑制の両立には,想定原因菌を網羅可能な初期抗菌薬の早期投与と,感受性判明後のde–escalationが重要である。De–escalationは安全で死亡率を低下させるが,集中治療領域ではその施行率は高くはない。自施設ICUに敗血症の診断で入室した76名を検討し,外科的感染症では市中感染・消化器が最多であった。初期治療には90%以上で広域抗菌薬が用いられ,外科系感染症では80%が単剤投与であった。初期治療の適正率は約95%であった。広域抗菌薬投与患者の50%でde–escalationが施行可能であった。重症患者では,原因菌不明,病態改善が得られない,重複感染巣,免疫抑制患者など,de–escalationが躊躇されるやむを得ない理由が多岐にわたっていた。集中治療領域での抗菌薬適正使用の推進には,抗菌薬適正使用支援チームや感染対策室,ICU専従薬剤師との協力のもと,重症患者においても感染症診療の基本的ロジックに即して診療を進めること,細菌の迅速診断法の普及などが望まれる。

  • 橋本 直人, 浜田 幸宏
    2020 年 17 巻 4 号 p. 193-200
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    重症感染症患者では,抗菌薬の薬物動態パラメータ,とくに分布容積とクリアランスが大きく変動することで至適投与量にならない可能性がある。その際に使用する持続的腎代替療法(以下,CRRT)や体外膜型人工肺(以下,ECMO)のような生命維持システムは,薬物動態パラメータを変動させる報告もある。本稿では,CRRTおよびECMO施行時における抗微生物薬の薬物動態の注意点を概説する。CRRTやECMO施行時で薬物動態が変動するような患者では,ガイドラインなど,データリソースが不十分であるため,TDMも含めた抗菌薬適正使用支援をすべきである。

症例報告
  • 菅原 元, 加藤 健宏, 久留宮 康浩, 水野 敬輔, 世古口 英, 井上 昌也, 秋田 直宏, 南 貴之
    2020 年 17 巻 4 号 p. 201-206
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,男性。発熱を主訴に受診し,腹部超音波検査で肝に内部不均一な低エコー域を認め,肝膿瘍と診断し,経皮経肝膿瘍ドレナージを施行した。膿瘍からの排液培養検査,血液培養検査および髄膜炎を疑って施行した髄液培養検査でKlebsiella pneumoniaeが検出された。その後の造影CT検査で複数の肝膿瘍を認め,膿瘍ドレナージを追加した。経過中に頸部膿瘍も発症したので切開排膿した。肝膿瘍の原因検索として消化管検査を行い,胃癌および直腸癌を認めた。初回入院後168日目に腹腔鏡下幽門側胃切除・低位前方切除術を施行した。術後25ヵ月の時点で,肝膿瘍・頸部膿瘍の再発や胃癌・直腸癌の肝転移を認めていない。肝膿瘍と診断した場合は,原因検索として,消化管精査を施行することが重要である。本症例は肝膿瘍の他に敗血症,髄膜炎,頸部膿瘍と複数の術前感染症を発症していたことが特徴である。

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