ジェンダー史学
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10 巻
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論文
  • ──日米合作の性政策と女性の分断──
    平井 和子
    2014 年 10 巻 p. 5-16
    発行日: 2014/10/20
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    2001 年の「9.11 事件」に端を発する、対イラク戦争開始に当たって、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、過去の数ある占領の中から、民主化の成功例として「日本モデル」を取り出して、占領を正当化しようとした。攻撃に際しては、「女性解放のため」という理由が付け加えられた。これを、わたしは日本の女性史研究が大きく問われていると受け止めた。
    アメリカによる日本占領をひとたび、敗者‐勝者の男性間で取引された女性たち(占領軍兵士へ「慰安」の提供をさせられた売春女性たち)の体験から見直せば、軍事占領と女性解放を安直につなげることの矛盾は明らかである。具体的にいえば、敗戦直後、日本政府によってつくられたRAA(Recreation and Amusement Association)などの占領軍「慰安所」や、冷戦期に激化した基地売春下で、女性たちが強いられた性管理の実態は、日米合作による軍隊維持のための組織的性暴力であった。
    さらに、売春禁止運動を担った廃娼運動家や女性国会議員・地域婦人会の女性たちと、売春女性たちの間には大きな分断があり、これが米兵の買春行為と矛盾しない売春防止法を生み出す要因の一つとなった。つまり、二分化された女性たちの対立と反目が、結果として軍事化(日米安保体制・軍事基地)を支えることにつながった。ここに、女性を、「護られる女性=『良家の子女』」と、売春女性(「転落女性」「特殊婦人」)に二分化する男性中心的な「策略」の罠がある。米兵の買春行為の激しさは、朝鮮戦争勃発とリンクする。そのため、軍事組織は売春女性を「活用」して、兵士の性をこそコントロールする必要があったのである。
  • ──朝鮮における女性植民者──
    広瀬 玲子
    2014 年 10 巻 p. 17-32
    発行日: 2014/10/20
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    1945 年の敗戦時日本帝国の支配は東アジア・東南アジア・太平洋地域に及んでいた。朝鮮半島もその一地域である。そこに約75 万人の日本人が移動・定着して家族を形成し、植民地での特権的生活を送った。35 年間の植民地支配の過程で、植民者一世・二世(あるいは三世)という世代形成がなされた。
    本稿は、朝鮮で植民者として暮らした日本女性に焦点を当てた。被植民者に対し抑圧者・支配者であった女性に関する研究は少ない。まず、朝鮮における日本女性の人口・職業構成を明らかにし、彼女たちの植民地での位置を概観した。続いて、女性たちのあり様を、一世の経験としての愛国婦人会の結成と活動を通して考察する。朝鮮における愛国婦人会の結成は併合以前の1906 年であり、それも内地の愛国婦人会結成と歩みを揃えて行われた。これは日本の支配層が植民地化推進に女性の力を不可欠としたことを示している。愛国婦人会は「文明化の使命」の理念を掲げ、朝鮮王室や支配層の女性の多数を組織しながら活動を展開していった。
    さらに女性たちのあり様を、二世の経験としての女学校生活という側面から明らかにした。具体的には京城第一公立高等女学校生の植民地経験をとりあげた。朝鮮で生まれ育った彼女たちは高等女学校生として「幸せな」学園生活を送るが、それは支配者としての特権の享受のうえに成り立っていた。彼女たちの大半は、自らが「植民者= 侵略者」であるという自覚なしに生活した。そこには支配を支配と感じさせない暴力、被植民者を不可視化する暴力が働いていていた。日本の敗戦により、「自分が侵略者であった」とつきつけられ、引揚げたのちに、内なる植民地主義をいかに解体するのかが課題となるが、いまだに果たされたとは言えない。
    さいごに、少数ではあるがこの課題に応えようとする女性植民者の事例を紹介し、植民地主義解体の可能性について考察した。
海外の新潮流
  • ──ディアスポラの中国フェミニスト──
    王 丹凝, 王 政, 徐 午
    2014 年 10 巻 p. 45-56
    発行日: 2014/10/20
    公開日: 2015/12/29
    ジャーナル フリー
    要旨中国女性学協会(CSWS)は非営利団体として1989 年以来、中国のジェンダー研究および女性学の発展に積極的に関わってきた。CSWS は世界中の優れた研究者の協力を得て学術的資源を蓄積し、ジェンダー理論、フェミニスト実践および女性開発のフェミニスト批判の議論を中国本土に紹介してきた。またフォード財団やヘンリー・ルース財団など著名な財団による資金援助の下、本土とディアスポラのフェミニスト研究者やアクティビストらの情報交換や相互の学びをサポートしてきた。本論は、トランスナショナル・フェミニズムの枠組みを通じてCSWS の経験を理解し、その歩みを振り返る。第一に、国家の関心事がいかにグローバルおよびトランスナショナルな性質を持つのかを考察する。第二に、国境横断的な経験がいかにディアスポラと本土の中国人フェミニストたちのアイデンティティの一部を構成するようになったかを論じる。第三に、最も重要な課題として、ローカルな利益とグローバルな重要性の両方を備えた社会活動・社会運動としてのCSWS の経験がいかに重要な国際的協働の事例であるかを検討する。「大きな出来事や変化過程は本質として確かにトランスナショナルであるが、それらは特定のローカル/ナショナルな文脈を介した方法で知覚され、経験され、交渉される。」リーラ· フェルナンデスディアスポラの中国フェミニストの活動に20 年以上参与し観察してきた者として、この紙面を借りて、独自性のあるトランスナショナルな女性組織、中国女性学協会(Chinese Society forWomen’s Studies / CSWS)の発展の歴史を振り返ってみたい。このように批判的に回顧することで、中国と世界のフェミニズムをさらに発展させるための道筋を模索できればと願っている。言い換えれば、この願いはローカルな特有性をそなえつつ、明らかにトランスナショナルな展望をもっている。私たちの分析のレンズのほとんどは中国製ではない。さらに、私たちが批判的な検証を行う対象は、国境によって規定されるものではない。このことはすでにグローバル時代の特徴を示しているといえよう。つまり、私たちはローカルとグローバルな文脈の両方に同時的に属している。グローバルな趨勢というものは多様な地点を横断し、まったく同じかたちで経験されることはないのだが、私たちディアスポラのようにトランスナショナルな媒介者たちは、明らかに類似した現象をグローバルに共有することができる。
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