言語研究
Online ISSN : 2185-6710
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136 巻
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会長就任講演
  • 影山 太郎
    2009 年 136 巻 p. 1-34
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/15
    ジャーナル フリー

    構造的な制約を追求する従来の統語論・形態論では,構造制約に合う表現を文法的,合わない表現は非文法的としてふるい分けてきた。しかしながら,構造制約に違反しているにも拘わらず当該言語として成立する特異な表現がしばしば観察される。本稿はそのような「例外的」現象として,日本語の外項複合語,英語・日本語の異常受身文,スペイン語の非人称再帰構文,ロシア語等の絶対再帰接辞,日本語の「青い目をしている」構文,マニプル語の能格標示など,様々な言語における統語論と形態論の多種多様な事例を取り上げ,一見,何の繋がりもないように見えるこれらの諸現象に共通する意味特徴を導き出す。その意味特徴とは,主語の一般的・恒常的な属性を表すという性質である。すなわち,従来の構造制約が「いつどこで誰がどうした」という時間軸に沿って展開する出来事ないし状態を表す「事象叙述」に当てはまるのに対して,一般的制約に違反するのに適格となる例外的事例は,時間の流れと関係なく恒常的に成り立つと認識される主語の特性を描写する「属性叙述」に見られる。このことから,人間言語においては事象叙述と属性叙述の両者が意味機能の根幹を形成し,各々が異なる構造制約によって成り立っていることが明らかになる。更に,事象叙述文が属性叙述文に変わると,自動詞化や非人称化が起こって他動性が低下することを観察し,この意味と統語の相関を捉えるために「出来事項の抑制」というメカニズムを提案する。

特集 言語構造のインターフェイス
  • エリザベス セルカーク
    2009 年 136 巻 p. 35-73
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/15
    ジャーナル フリー

    日本語の文プロソディーの研究では最近Kawahara and Shinya(2008)が日本語の並列節のプロソディーを,Deguchi and Kitagawa(2002),Ishihara(2002),Hirotani(2003)がwh疑問文のプロソディーをそれぞれ分析し,統語的な節(clause)が一部の音韻・音声現象の適用範囲と一致することを示唆するデータを示した。本稿はこれらの研究成果を概説し,日本語が示す統語構造とプロソディー構造の対応関係が統語論と音韻論のインターフェースに関する普遍的な理論から導かれることを示す。本稿ではまた,統語構造と音韻構造の一般的な対応関係を構築する新しいインターフェース理論(Match理論)の概要を紹介し,この理論がChomsky(2001)が提唱するSpelll-Out理論の一部門となりうることを示す。さらに,この理論が再帰的(recursive)なイントネーション構造が一定の条件下で起こることを予測し,Itô and Mester(2007)が提唱する新しい韻律構造分析とも相容れることを論じる。

  • ノーヴィン リチャーズ
    2009 年 136 巻 p. 75-92
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/15
    ジャーナル フリー

    Holmberg and Hróarsdóttir(2003)は,アイスランド語の主語上昇は経験者(experiencer)の存在により阻止されるが,経験者要素がwh移動により文頭に移動するなら阻止されないという興味深い事実を指摘した。この事実は,wh移動が主語上昇よりも先に適用されることを示しており,循環(cycle)範疇を最大投射とするこれまでの考え方では説明がつかないものであるが,Hiraiwa(2005)とChomsky(2005)はcycleをphase(位相)とする新しい考え方を提示し,主語上昇もwh-移動も同一phase内の操作となるので局所性違反は免れるとした。本稿ではアイスランド語と形式的に同様の事実を示すキナンデ語(コンゴ民主共和国で話されているバンツー諸語の一つ)を考察し,キナンデ語の事実は局所性(locality)により分析されるのではなく,同一Spell-out境界内では同じ標識を持つ節点が構造上近接することを禁じる「示差性(distinctness)」という制約(つまり,統語構造から発音への制約)(Richards 2001, to appear)によって捉えられることを論じる。この分析がアイスランド語の分析にも適用できるならば,循環のあり方は簡潔化できることになる。

  • 遠藤 喜雄
    2009 年 136 巻 p. 93-119
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/15
    ジャーナル フリー

    本稿では,英語の副詞節の性質を,統語と談話のインターフェイスの観点から考察する。特に,統語と談話のインターフェイスの特質の解明には,1990年中頃からヨーロッパを中心に研究がなされているカートグラフィーの視点が有効であることを示す。具体的には,話し手と聞き手が関わる談話と統語の現象として,Haegeman(2006)による英語の副詞節の分析を,日本語学における研究成果を取り入れて,カートグラフィーの観点から洗練することを試みる。さらに,副詞節に見られる局所性の効果を付加疑問文に焦点を当てて議論する。

  • 小林 亜希子
    2009 年 136 巻 p. 121-151
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/15
    ジャーナル フリー

    本稿はとりたて詞「も」「は」の統語的・意味的特徴を説明する新しい分析を提出する。「も」は否定文,「は」は肯定文において生起位置にとどまることができないが,この事実は「も」「は」が異なる極性素性を持つと想定することで説明される。また,否定文において「も」と「は」が異なるスコープ読みを持つ事実もこの「極性」の考えによって説明できる。先行分析と異なり,本稿はとりたて詞をフォーカスではなく「新情報」のマーカーであると考える。これにより,とりたて詞の統語的・意味的特徴がある種の節では見られなくなるという「節の非対称」もうまく扱うことができる。本稿の議論はフォーカス解釈の一般理論にも修正を迫ることになる。フォーカスは必ず広いスコープ読みを持ち,いわゆる再構築は適用しないと主張する。

  • 内藤 真帆
    2009 年 136 巻 p. 153-176
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/15
    ジャーナル フリー

    本論文の目的は,ヴァヌアツ共和国のツツバ語で,移動の経路を表す三つの動詞sae「のぼる」,sivo「くだる」,vano「行く,横切る」が何に依拠して使い分けられているのかを明らかにすることである。はじめにこの三つの動詞についての説明を行い,続いてツツバ語話者がツツバ島内を移動する際の移動表現,副都心の置かれるサント島内を移動する際の移動表現,ツツバ島から他島へ移動する際の移動表現について考察する。そしてツツバ語において,移動の経路を表す三つの動詞sae「のぼる」,sivo「くだる」,vano「行く,横切る」が,①物理的な上下による対立,②心理的な上下による対立,③歴史的理由により生じた対立,という三つのカテゴリーにおいて使い分けられていることを示す。さらに,これらのカテゴリーにおける三つの動詞の関係について明らかにする。

論文
  • 宮良 信詳
    2009 年 136 巻 p. 177-199
    発行日: 2009年
    公開日: 2021/09/15
    ジャーナル フリー

    本稿では,沖縄語や日本語の音韻現象を扱うにあたって,阻害性鼻音‘obstruent nasals’と鳴音性鼻音‘sonorant nasals’とを区別する必要性を論じている。前者の基底形は[+鼻音,-継続性]で,後者は[+鼻音]のみで表示され,音韻的にまず区別される。同一系統関係にある両言語においては,h音が別の子音と重なる際には*hhではなく,ppかmpのみが許容されるとか,有声子音の前では同一調音点をもつ鼻音しか許容されないという,子音結合上の制約がある。この種の制約による調整を経て,阻害性鼻音は[+鼻音,-継続性,+有声]と再表示され音韻規則の適用を受けるが,鳴音性鼻の有声性という普遍性から導かれるという立場が展開されている。沖縄語においては,阻害性鼻音は後続子音の有声化の引き金となったり,それ自体が消去されたり,有声阻害音結合から阻害性鼻音を派生する規則の適用を受けるが,鳴音性鼻音は有声化,消去,有声阻害音結合からの派生のいずれとも関わらない。日本語でも,大和系形態素の末尾(例,動詞語根yom)や,その他の大和系形態素の中腹(例,tombo)で阻害性鼻音が生起し,有声化の引き金となったり(例,/yom+ta/からyon+da「読んだ」),有声阻害音結合から規則的に派生されたりする(例,/yob+ta/からyob+daを経てyon+da「呼んだ」)。一方,漢語系形態素の末尾(例,han+tai「反対」)では鳴音性鼻音が生起し,原則として後続子音の有声化には関わらない。この鼻音二型の区別がなされてはじめて,沖縄語や日本語の音韻特性の説明において有意義な一般化が果たされると論じている。

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