言語研究
Online ISSN : 2185-6710
Print ISSN : 0024-3914
146 巻
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
特集 アジア・アフリカの手話
  • スーザン フィッシャー
    2014 年 146 巻 p. 1-12
    発行日: 2014年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    手話における構成要素の順序は,その手話の周りで話される音声言語のものとしばしば類似する。このことは,手話の言語的系統と,音声言語の系統が異なる場合にも起こりうる。構成要素の順序は,豊かな一致要素やゼロ照応といった,手話の文法規則に関わる要因,あるいは主題化などのプロセスに因り,必ずしも固定していない。本論文では,視覚によるコミュニケーションによって,構成要素の順序の違いが制約されたり,可能性が増えたりする場合をいくつか取り上げて論じる。

  • A. スムル オズソイ, メルテム ケレピル, デルヤ ヌフバラオール, エムレ ハクギュデル
    2014 年 146 巻 p. 13-30
    発行日: 2014年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    本稿はトルコ手話(TİD)における命令構文の特徴を扱う。命令構文の超分節的,形態論的,形態音韻論的特徴を明らかにするため,命令構文に見られる手指要素および非手指要素の性質や機能を検討する。通言語的な観察から,命令構文の動詞サインは,対応する陳述的構文における動詞サインに較べ,より緊張し急激な状態で現れることが,すでに知られている。また,形態論的レベルにおいては,受け手一致動詞(addressee-agreement verb)における一致要素の省略が,いくつかの手話言語で見られること,さらに,多くの手話言語において,発話の最後に現れるPALM-UPの手形が,命令構文で見られることが知られている。本稿では,これらの知見を踏まえつつ,トルコ手話の命令構文の詳細な記述を提供する。

  • 今里 典子
    2014 年 146 巻 p. 31-50
    発行日: 2014年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    手話言語の主語/目的語標示を行う助動詞(AUX1やAUX2)については,まずSmith(1990)が,日本手話(JSL)と源を同じくする台湾手話(TSL)でその存在を指摘し,後にFischer(1996)が日本手話東日本方言(JSL-e)にもAUX1のみ存在する事を認めた。AUX2が動詞「見る」から派生した事は,2つの語の形状の類似性からSmithが示したが,どちらの研究者もAUX1の生成過程は明らかにしていない。Sapountzaki(2012)らは,指差し手形の「代名詞の連続」から派生したと仮定するが,十分な証拠が示されていない。本論では,日本手話西日本方言(JSL-w)にはAUX1とAUX2が存在することを見た上で,データの詳細な観察と分析から,JSL-wのAUX1は「「見る」→AUX2→AUX1の順に文法化により生成された」という仮説を提案し,その妥当性を検証する。

論文
  • 平沢 慎也
    2014 年 146 巻 p. 51-82
    発行日: 2014年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    本稿は,英語のHe’ll be back here by five.やHe was dead by then.などに現れる前置詞byの時間用法(by [TIME])について,以下の記述を提示する。

     by [TIME]は,「時間軸上で[TIME]よりも前の何らかの時点からスタートした心的走査の終点としての[TIME]において,by [TIME]の修飾する動詞句が表す状態(より正確には,状態性動詞句が指示する状態,または非状態性動詞句が含意する結果状態)が成立している」ということを述べるための形式である。センテンス内ないしディスコース内のby [TIME]以外の箇所でも時間軸に沿った(過去側から未来側への)心的走査が行われており,かつ,by [TIME]が修飾する動詞句が,変化の結果状態を指示していると解釈できる状態性動詞句であるような環境(即ち言語的コンテクスト)で用いられるのが,プロトタイプ的な用法である。

     時間義のbyの振る舞いは,このようにby内部の意味とbyを包むコンテクストの性質の両面からアプローチして初めて適切に記述できる。コンテクストを考慮に入れた前置詞の意味分析の一つのあり方として,本稿の分析を提示したい。

  • 平田 未季
    2014 年 146 巻 p. 83-108
    発行日: 2014年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    本稿では,2000年前後から類型論的な指示詞研究に導入された注意概念を用いて,日本語指示詞研究で残された問題とされる「中距離指示」のソ系を分析する。自発的な相互行為場面を見ると,従来「中距離指示」とされてきたソ系は,トルコ語のşuとは対照的に,発話時に聞き手の視覚的注意が向けられている対象,もしくは発話時以前に一度注意が向けられた対象を指す。従って,このソ系は「聞き手の注意の不在」を示すşuとは反対に,「聞き手の注意の存在」を示す形式であると考えられる。şuとソ系は談話・テクスト内でも対照的な分布を示す。ソ系が聞き手が注意を向けうる前方の言語的対象を指すのに対し,şuは発話時にまだ談話に導入されていない後方の言語的対象を指す。この事実は,「聞き手の注意」という概念を用いることで指示詞の直示用法と非直示用法の統一的な分析も可能になることを示唆している。

  • ――「自分」の束縛と「視点投射」――
    西垣内 泰介
    2014 年 146 巻 p. 109-135
    発行日: 2014年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー

    中国語などで観察され,重要な問題領域を作っている阻止効果について考察する。視点投射とそれにもとづく「自分」束縛のメカニズムを提示し,日本語で阻止効果が顕著に見られるのは「自分」の先行詞が「視点焦点」である時で,「意識焦点」が関わるケースで起こる「有意識条件」の効果と相補分布をなすことを示す。

     本論の分析では,日本語に見られる阻止効果はエンパシーの制約の違反であり,これに関わるさまざまな言語現象についてKuno and Kaburaki(1977),久野(1978)などで「視点の一貫性」という概念のもとで分析された現象を,「基準クラス」の視点投射の「指標の一貫性」によって説明する分析を提示する。

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