言語研究
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150 巻
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特集 日本語アクセント記述研究の新展開
  • 窪薗 晴夫
    2016 年 150 巻 p. 1-31
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/17
    ジャーナル フリー

    本稿では鹿児島県甑島方言のアクセントについて,その特徴と多様性を論じる。甑島は鹿児島県の西40キロの東シナ海に浮かぶ孤島であり,その方言は母語話者が推定で約3000人しかいない危機方言である。鹿児島方言や長崎方言と同じ二型アクセント体系を有しているが,これらの姉妹方言とは異なる特徴がいくつも観察される。たとえば鹿児島方言とは違い,モーラを数える体系であり,また一つの語に複数のアクセントの山(重起伏)を持つ。甑島方言のアクセントはさらに地域差が大きいという特徴を有しており,音節の役割や重起伏の形,文レベルにおける高音調削除規則などの点において多様な体系を有している。本稿では鹿児島方言や東京方言と比較しながら,この方言の特徴と多様性,そして一般言語学的意義を考察する。

  • 五十嵐 陽介
    2016 年 150 巻 p. 33-57
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/17
    ジャーナル フリー

    琉球語南琉球語群宮古語の方言である池間方言と多良間方言は3種類のアクセント型が対立するいわゆる三型アクセント体系を有する。両方言のアクセント型の区別は広範な環境で中和する。また両方言は,日本語諸方言と比較して複雑なアクセント型の実現規則を有する。本稿は,両方言の韻律構造を記述するためには,2モーラ以上の語根および接語が写像される韻律範疇である韻律語を仮定しなければならないことを示す。また本稿は,韻律範疇を扱う理論的研究の知見を踏まえながら,問題の韻律範疇に韻律語の地位を与えることの妥当性に関する予備的な議論を行う。

  • ――その韻律範疇PWdと下がり目の出現条件――
    松森 晶子
    2016 年 150 巻 p. 59-85
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/17
    ジャーナル フリー

    本稿は,琉球八重山諸島の黒島方言に焦点を当てて,この方言のアクセントの仕組みを明らかにする試みを行う。まず本稿では,黒島方言には(一見したところ)原因不明なアクセントの型の交替が見られる,という事実の指摘から始め,このような交替の原因を明らかにするためには,これまで多良間島や池間島などのいくつかの宮古諸島の体系において,そのアクセント位置の算出に機能していることが分かっている「韻律語(音韻語)(PWd)」という韻律範疇を想定することが必要になることを論じる。あわせて本稿では,これまで二型アクセント体系として記述されてきた黒島方言は,実は3種類の型の対立を持つ三型アクセント体系であることも報告する。そして,どのような条件のもとでその3種類の型の区別が明瞭に出現するのかを予測・説明するためにも,やはり上述のPWdという韻律範疇の想定が不可欠であることを論じる。

  • 麻生 玲子, 小川 晋史
    2016 年 150 巻 p. 87-115
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/17
    ジャーナル フリー

    本稿では,南琉球八重山語波照間方言(以下,波照間方言)の三型アクセント体系について論じる。これまで波照間方言のアクセントは主に二型アクセント体系とされてきたが,近年,三型(Ogawa and Aso 2012,小川・麻生2015),あるいは四型(松森2015a)のアクセント体系を持つという報告が相次いだ。本稿では,まず共時的なアクセント体系についての調査結果をもとに,波照間方言が三型アクセント体系を持つと主張する。次に,現在の波照間方言の各アクセント型に所属する語彙には語頭音による偏りが認められるという事実を報告するとともに,白保方言との比較から,そのような偏りが250年以上前から存在したであろうという通時的な分析の結果を示す。

  • ――舞阪方言からの証拠――
    ポッペ クレメンス
    2016 年 150 巻 p. 117-135
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/17
    ジャーナル フリー

    本論文では,舞阪方言のアクセント体系を妥当に記述するために弱強格と強弱格という二種類のフットが必要であることを指摘する。フットを仮定せずに名詞のアクセント体系における体系的空白と,名詞・動詞ともに見られるアクセント交替を説明することはできない。興味深いことに,舞阪方言においては,東京方言と違い,強弱格より弱強格が優先される。強弱格も現れ得るが,語末モーラへのアクセント付与を回避するためだけであり,これ以外の場合は弱強格が選ばれる。これは,二種類のフットが同一言語のアクセント体系の中に共存し得ることを示す。

論文
  • 西垣内 泰介
    2016 年 150 巻 p. 137-171
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/17
    ジャーナル フリー

    この論文では,日本語の「指定文」および「カキ料理構文」と呼ばれている構文について,特定の構造を持つ名詞句を中核として,その構造と派生を示す。本論文の分析では「中核名詞句」は2つの項をとり,外項が主要部名詞の意味範囲を限定(delimit)し,内項がその意味内容を「過不足なく指定する」(exhaustively specify)という関係を持つ。「中核名詞句」の内項が焦点化されることで「指定文」が,その指定部を占める外項が主題化されることで「カキ料理構文」が派生される。焦点化された要素が変項を含む構成素の意味を「過不足なく指定する」という関係が「指定文」の根幹をなすものだが,これは疑問文とその答えの間に求められる関係に由来するものである。「中核名詞句」の内部での項のc統御関係が,対応する「指定文」に「連結性」によって反映され,「自分」の逆行束縛と見える現象などが説明されるる。「XをYに…する」という付帯状況を表す副詞節も「中核名詞句」から派生する分析を提案している。

  • 難波 えみ, 玉岡 賀津雄
    2016 年 150 巻 p. 173-181
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/17
    ジャーナル フリー

    副詞は文中で複数の位置に生起する。小泉・玉岡(2006)の文処理実験は,4種類の副詞(陳述の副詞,時の副詞,様態の副詞,結果の副詞)について,処理にかかる時間に基づき基本語順を示している。その際,様態と結果の副詞はともに動詞句副詞とされ,SAdvOV(Advは副詞)またはSOAdvVが基本語順であるとして,両副詞を区別してはいない。本研究では,毎日新聞9年間分の新聞コーパスを使って,様態と結果の副詞が文中でどのような位置に出現するかを検索した。その結果,様態の副詞は,(S)AdvOVが48.4%,(S)OAdvVが50.0%で,両方の語順がほぼ同じ頻度となった。一方,結果の副詞は,(S)OAdvVの語順が80.7%で,(S)AdvOVの語順は18.0%で,動詞句内の動詞の前の位置に頻繁に出現し,(S)OAdvVの語順を作ることを示した。

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