日本地球化学会年会要旨集
2009年度日本地球化学会第56回年会講演要旨集
選択された号の論文の348件中1~50を表示しています
口頭発表(第一日)
海洋地殻中の移流と生物地球化学作用
  • 鈴木 勝彦
    セッションID: 1A01 10-01
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    海洋地殻中には,大規模な熱水・低温湧水流体の循環が存在することが指摘されている。その流体の規模は,熱水・低温湧水を合わせれば,全陸上河川の総流量に匹敵すると考えられる。従来,海底下からのフラックスとしては,中央海嶺での高温熱水が主たる担い手と考えられてきた。しかしながら,低温湧水に溶存している化学成分を考慮に入れれば,熱水・低温湧水は陸上の全河川と同程度の化学フラックスを持っているという仮説が唱えられている(たとえば,リンに関するWheat & Mottl (2004)の試算)。我々はこの海洋地殻中の大規模な熱水・湧水循環を「海底下の大河」と名付けた。そして,科研費新学術研究領域を基に研究グループを組織し,固体地球と水圏の境界層としての海底面を横断するフラックスは,大河と呼べるほどの大規模なものであるかどうかの検証を目指している。今回の発表では,この大河プロジェクトにおける熱水実験の研究計画と現在までの進捗状況について報告する。
  • 奥村 輔, 佐藤 文寛, 内田 乃, 豊田 新, 石橋 純一郎, 中井 俊一
    セッションID: 1A02 10-02
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    熱水活動の時間変動を解明するための熱水性重晶石を用いたESR年代測定の実現に向け,海底熱水系における自然放射線の年間線量率の評価と重晶石のESR測定を行った.重晶石は短冊状結晶でチムニー全体に広く分布しており,放射線の放出が確認された.低バックグラウンドGe半導体検出器を用いて重晶石中の放射性元素の量を測定した結果,226Raが7.62 Bq/g含まれていた.この結果からチムニー中心部における年間線量率は,300 mGy/yと求められた.ESR測定の結果,重晶石はg値からSO3-中心と考えられる信号を示した.この信号の線量応答を調べたところ,X線 (2kGy) 照射した重晶石のESR信号強度は未照射のものと比べ約2倍増加した.この結果から,南部マリアナトラフから採取されたチムニーの重晶石のESR年代測定が可能であることがわかった.
  • 柏原 輝彦, 高橋 嘉夫
    セッションID: 1A03 10-03
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    海水-鉄マンガン酸化物間におけるモリブデンおよびタングステンの固液分配は、海水中の両元素の溶存濃度および同位体比を規定する重要な反応である。本研究では、XAFS解析を用いた表面錯体構造の解析により、モリブデンおよびタングステンの鉄マンガン酸化物への吸着機構について調べた。その結果、両元素の海水への溶解性の違いは、鉄水酸化物に対する結合様式の違いに対応することが明らかとなった。また、溶存種と吸着種の構造の違いから、吸着に伴って生じるモリブデンの同位体分別を説明できた。
  • 佐藤 暢, 中村 謙太郎, 町田 嗣樹, 淡路 俊作, 加藤 泰浩, 熊谷 英憲
    セッションID: 1A04 10-04
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    中央海嶺での拡大様式や海嶺の構造は、拡大速度とメルト供給のバランスで決まっており、メルト供給量はマントルソースの温度や組成を反映していると考えられる。従って、拡大速度がほぼ等しい中央海嶺での拡大様式・海嶺の構造は、マントルソースの温度・組成条件の違いの結果であると推測される。このことを検証する目的で南西インド洋海嶺の東経34°から40°の海域で岩石採取を行った。採取された玄武岩の微量元素組成に基づくと、近接するセグメントの間や同一セグメント内でも異なる岩石組成が得られた。このことは、マントルソースの組成や温度について非常に小さいスケールでの不均質さを予想させる。このような変化が拡大方向にも拡張されると、オフリッジに異なる組成の岩石が分布し、熱水の通過する流域では中央海嶺とは異なる岩石との反応が生じている可能性も考慮する必要がある。
  • 西尾 嘉朗, 町山 栄章, 稲垣 史生, 戸丸 仁, 松本 良
    セッションID: 1A05 10-05
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    Li同位体ツールを用いて,ガスハイドレートに関与する流体の生成温度(深度)を推定する事を試みた。試料は日本海直江津沖で採取されたものを用いた。その結果,分析試料のLi同位体比は海水と深部流体の2成分混合で説明できる事が明らかとなった。その際に,推定される深部流体端成分のδ7Li値は約+7‰であった。ここでガスハイドレート試料に含まれる泥のLi同位体比が本地域の堆積物相の値を反映していると仮定した場合,δ7Li値が+7‰の深部流体を作り出すためには約150℃程度が必要となる。この温度は日本海の地温勾配では,海底下1400~1900mに相当する。
  • 川口 慎介, 高井 研
    セッションID: 1A06 10-06
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    沖縄トラフに存在する高温熱水サイトでは、総じて1mmol/kg以上の高濃度メタンが観測される。沖縄トラフで最初の熱水(JADEサイト)が観測された当初は、沖縄トラフの豊富に堆積物が存在する地質背景を踏まえ、堆積物(有機物)の熱分解反応によってメタンが付加されることが、高いメタン濃度の原因であると考えられた(Ishibashi et al., 1995, Chem. Geol.)。しかしその後、沖縄トラフ内の各サイトにおいて観測が実施され、たとえばメタンの13C値(-55‰~-25‰)やH2/CH4比(下右図: Kawagucci et al. submittedを改変)に大きなバリエーションが観測された。この事実は、沖縄トラフ熱水で観測される高濃度メタンが、すべて同様に堆積物の熱分解のみに由来しているわけではないということを示している。たとえば、熱水循環の涵養域および噴出口直下に存在する堆積層内での微生物メタン生成代謝も、メタンの起源として想定しなければならないだろう。本講演では、海底下で考えられるメタンの起源(反応・場)について、メタンの起源推定に用いられる指標に影響を与えるファクターを勘案した上で、各指標がどのような値を取り得るかを考察し、沖縄トラフを流れる「メタンの大河」の起源について包括的な議論を行いたい。沖縄トラフ熱水のメタンの大河についての議論を通じて、地殻内環境におけるメタンの挙動指標の再構築が行われることは、熱水活動以外の地殻内現象、たとえば冷湧水やメタンハイドレートなどの研究に対しても有効な知見を与えるだろう。
  • 中村 謙太郎, 高井 研
    セッションID: 1A07 10-07
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    海底熱水の化学組成を決める最も主要なプロセスは,岩石と海水との反応である.例えば,一般的な中央海嶺の熱水系は玄武岩にホストされており,その熱水組成は玄武岩-海水反応に支配されている.これに対して,低速度拡大海嶺などに認められる超マフィック岩にホストされる熱水系においては,蛇紋石化作用に伴って発生する水素によって,一般的な中央海嶺熱水に比べて一桁以上高い水素濃度を持った熱水が噴出している.一方,熱水はリアクションゾーンでの加熱や上昇時の減圧に伴ってしばしば塩濃度の低いvaporと高いbrineの二相に分離しており,このとき化学合成微生物が利用するH2S, H2, CH4などの溶存ガスがvaporへ選択的に分配されることが知られている.すなわち,熱水の相分離は熱水生態系に影響を与える可能性が高い.しかし,相分離による熱水組成の変化が熱水生態系に与える影響は,これまでほとんど研究されていない.そこで本発表では,相分離が熱水生態系にどのような影響を与え得るのかについて議論する
  • 加藤 真悟, 柳川 勝紀, 砂村 倫成, 高野 淑識, 石橋 純一郎, 掛川 武, 内海 真生, 山中 寿朗, 土岐 知弘, 野口 拓郎, ...
    セッションID: 1A08 10-08
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    海洋地殻内部の帯水層には,微生物圏が広がっていると考えられている。しかしながら,地殻内微生物生態系の全貌を把握するには至っていない。近年、南部マリアナトラフ熱水域において海底掘削が行われ、それらの掘削孔から熱水(<40C)を採取することに成功した.その熱水試料の16S rRNA遺伝子解析の結果,熱水試料中にZetaproteobacteriaに近縁な真正細菌が存在することがわかった.新たに設計したプローブを用いたFISH法によって,この分類群が,熱水試料中の全原核生物(約10^5 cells/ml)の最大32%を占めることが示された.Zetaproteobacteriaが鉄酸化菌を含む分類群であることを考えると,この分類群は海洋地殻内の鉄酸化に重要な役割を担っている可能性がある.
現世の有機物、微生物、生態系の地球化学的動態と過去の生命史の解明
  • 西澤 学, 宮崎 淳一, 高井 研
    セッションID: 1A09 05-01
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    本研究では2009年4月に鹿児島県菱刈金山の地下320mに噴出している地熱水渓流系の各流域で採取したバイオマットを試料として、インキュベーションを行い同位体トレーサー法によって活性測定した。発表では、活性測定で得られた異化的アンモニア酸化、異化的亜硝酸酸化速度、アナモックス速度、脱窒速度を報告する。さらにバイオマットの微生物種組成、各流域の渓流水の化学組成の情報と組み合わせることで熱水生態系における窒素循環について議論する。
  • 金子 雅紀, 石橋 純一郎, 平尾 真吾, 西澤 学, 宮崎 淳一, 奈良岡 浩, 高井 研
    セッションID: 1A10 05-02
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    菱刈金山の地下320 mには約70Cの温泉水が湧出する地点があり、そこから下流に向かって長さ7 mの温泉小川が形成されている。その小川には酸化鉄に覆われた膜状の微生物マットが形成されており、地下の熱水から供給される還元剤(硫化水素、アンモニア、水素、メタンなど)を酸素で酸化することでエネルギーを得る微生物群集が繁茂している。また、微生物群衆の組成は上流から下流に向かって変化しており、それに伴ってアンモニアや硝酸などの間隙水成分の増減が見られる。特に、上流の微生物マットでは、菱刈金山で新規に発見されたHot water crenarchaotic group (HWCG I and III)と呼ばれる未知のアーキアが優占している。これらのアーキアは環境遺伝子解析の手法から一酸化炭素を炭素源・エネルギー源とする非常に特異なアーキアであることが予想されているが、その実際は明らかになっていない。そこで本研究では無機、有機地球化学的手法をさらに用いて、HWCGを含め、この小川に生息する微生物の代謝活動を解明する。
  • 大庭 雅寛, 佐藤 誠悟, 石田 章純, 掛川 武, 海保 邦夫, 古川 善博, 坂田 将
    セッションID: 1A11 05-03
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    古細菌やバクテリア由来のエーテル脂質を存在状態別に分析する手法を用いて、水曜海山の人工熱水噴出孔中の試料について有機地球化学的研究を行った。水曜海山の人口熱水孔から採取された沈殿物中のエーテル脂質を分析した結果、メタン生成古細菌やANMEに特徴的なエーテル脂質や、硫酸還元菌由来であると考えられる非イソプレノイドエーテル脂質を検出した。それらの炭素同位体比を測定した結果、人工熱水噴出孔中では、熱水孔より下から湧出しているメタンと海水中の硫酸イオンを基質として、ANMEと硫酸還元菌の共生による嫌気的メタン酸化が起きていたと推測された。
  • 高野 淑識
    セッションID: 1A12 05-04
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    海底堆積物あるいは海底地殻に存在する原核生物は、「生きているのか、死んでいるのか」。その問いは、地球全体のバイオマスを推定する上で解決すべき根源的な問いである。古細菌を構成するバイオマーカー分子は、微生物の成育・増殖とともに新たに産生されるため、同位体トレーサー基質を取り込んだ場合、その代謝のシグナルは、微生物細胞やそれを構成するバイオマーカー分子に反映される。堆積物から古細菌の細胞のみを単離するのは困難なため、古細菌を構成するバイオマーカー分子を解析することで13C-基質の取込みや代謝の活性を評価できる。海底表層と堆積物浅層で同位体ラベルを使った現場培養実験を最大405日間行い、海底堆積物に棲む古細菌が「生きている」直接の証拠を得た。
  • 吉岡 秀佳, 中村 孝道, 東 陽介, 丸山 明彦, 坂田 将
    セッションID: 1A13 05-05
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    IODPによる研究掘削航海311「カスカディアマージンハイドレート」では、カスカディア縁辺域において掘削調査が行われた。本研究では、ガスハイドレートの分布するサイトとガスハイドレートのなかったサイトにおいて、メタン生成菌によるメタン生成活性と嫌気的メタン酸化菌によるメタン酸化活性を調べた。その結果、ガスハイトレートの分布する深度においてメタン活性が高く、メタン酸化活性は、表層のみならず100mbsf以深でも活性があることが分かった。これらの結果は、遺伝子解析の結果とも調和的であった。また、ガスハイドレートのないサイトにおいてもメタン生成活性が同じように検出されたことから、ガスハイドレートの形成には、微生物によるメタン生成活性より、岩相の違いが関係していると考えられる。
  • 古賀 洋介
    セッションID: 1A14 05-06
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    私は、古細菌の脂質の構造と生合成を専門にこの30年間研究してきた。地球科学はまったく素人であるが、古細菌を研究していると必然的に超好熱古細菌と熱水鉱床とプレートテクトニクスの関係、高度好塩菌と塩湖と地溝帯の関係など地球科学との関連に気づかされる。海底堆積物中の脂質分析により、古細菌脂質あるいはその類似物質が発見されている。残存物から何らかの議論をする場合、そのもののintactな状態を正確に知っておく必要があるだろう。その意味で生きた古細菌の脂質に関する構造、生合成などの最新の情報を提供し、地球化学専門の皆様の参考にしていただきたいと思う。<参考文献>[1] Koga, Y., and H. Morii. 2005. Recent advances in structural research on ether lipids from archaea including comparative and physiological aspects. Bioscience Biotechnology and Biochemistry 69:2019-2034.[2] Koga, Y., and H. Morii. 2007. Biosynthesis of ether-type polar lipids in Archaea and evolutionary considerations. Microbiology and Molecular Biology Reviews 71: 97-120.
  • 井上 聡, 山中 寿朗, 下山 正一, 市原 季彦
    セッションID: 1A15 05-07
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    かつて豊潤の海と呼ばれ、アサリを代表とする二枚貝の大きな漁獲を誇っていた有明海は、近年漁獲量の低迷が社会問題となっている。しかし、有明海がその歴史を通じてずっと豊潤の海であったのか、ということについては疑問の余地があり、時代を通じて二枚貝の個体数がどのように変化してきたか検証が必要である。また、その個体数を支配する要因について解明することが、近年の個体数減少の原因を探る上で不可欠である。そこで本研究では有明海沿岸で採取された各堆積層の堆積年代が決定されているジオスライサー試料(下山ら,2009)を用いて、二枚貝の個体数変化とその貝殻中に残された硬タンパク(コンキオリン)のCN同位体比を用いて二枚貝の食性変遷史を明らかにすることを目的とした。
  • 柏山 祐一郎, 小川 奈々子, 大河内 直彦
    セッションID: 1A16 05-08
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    ヘムはあらゆる生物に存在する炭素・水素に加えて窒素を含むテトラピロール化合物であり,それらの安定同位体組成は,それを合成した生物のフィジオロジーを反映・保存すると考えられる.本講演では,様々な現世生物のヘムの安定同位体組成のデータの基づいて生物界におけるヘム生合成プロセスの多様性・普遍性を議論し,白亜系の黒色頁岩から単離されたヘムを起源とする化石ポルフィリンの炭素・窒素同位体組成の研究成果を紹介する.
  • 朝比奈 健太, 大塚 直也, 三田 肇, 野本 信也
    セッションID: 1A17 05-09
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    地層中にC33 以上のポルフィリンの存在が確認されている。本研究では、数種類のモデルポルフィリンを用いて加熱実験を行ない、続成過程におけるトランスアルキレーションのプロフィールの解明を目指した。また、堆積岩の分析を行ない加熱実験の結果と比較した。
    加熱実験は基質にビニル基を持つポルフィリンとエチオポルフィリンを用いて行ない、生成物をクロム酸酸化して得られたマレイミド類の異性体比はそれぞれ異なる比を示した。この結果は、トランスアルキレーションにより地層中で、 C33 以上のポルフィリンが生じる場合は、続成過程の初期とそれ以降で生成物の分布が異なることを意味している結果となった。
  • 山田 健太郎, 上野 雄一郎, 山田 桂大, 吉田 尚弘, 丸山 茂徳
    セッションID: 1A18 05-10
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    エディアカラ紀/カンブリア紀境界(E/C境界)近辺の時代の大きな環境変動や生物進化は関連性を知るため、当時の古環境変動を調べることは重要である。本研究では南中国のE/C境界近辺の地層から採取された掘削試料を用い、32点について分析した。検出されたn-アルカンの分布は i) 短鎖側 (nC18)に分布の極大を持つ短鎖卓越型、また ii)短鎖側と長鎖側(nC27)に極大を持つバイモーダル型、まれに iii) 長鎖側に極大を持つ長鎖卓越型もあった。長鎖n-アルカンは一部の硫酸還元菌や真核藻類に由来した可能性がある。厳しい環境の時期に長鎖卓越型の分布がみられることから、ブルーミングが起こった可能性が示唆される。トモチアン以降の時代はプリスタン・フィタン量と短鎖n-アルカン量が相関を示し、長鎖とは示さない。従って、光合成生物の割合が一定であった生物相が維持されていたことが示唆される。
  • 海保 邦夫, 古賀 聖治, 大庭 雅寛, 高橋 聡, 福田 良彦
    セッションID: 1A19 05-11
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    浅海層の炭酸塩中の硫酸塩の硫黄同位体比変動と、深海堆積物の硫化物硫黄同位体比変動は、大量のH2Sがペルム紀末の100万年間で強還元的海洋に蓄積し、蓄積されたH2Sのほとんどが大量絶滅と同時に2万年間で海洋中深層から海洋表層と大気へ放出されたことを示唆する。また、南中国で、硫酸塩硫黄同位体比の増加期と減少時に、緑色硫黄細菌起源と考えられるアリルイソプレノイドの濃集が認められた。緑色硫黄細菌の存在は、光合成帯が還元環境であったことを示すので、深海に蓄積されたH2Sが表層へ出て来たことを示す。大気化学反応モデルを用いて、H2S 大量放出時のO2 濃度の変化を計算した結果、大気酸素濃度は、硫化水素の大気への放出時に相対的に約40%減少したことになる。硫化水素の酸化に伴うこの大気酸素濃度の急減は、海洋無酸素水塊の発達を助長し、ペルム紀末の生物大量絶滅に加担したかも知れない。
古気候・古環境解析の地球化学
  • 長島 佳菜, 西戸 裕嗣, 豊田 新, 山本 裕哉, 谷 篤史, 五十嵐 康人, 多田 隆治
    セッションID: 1B01 12-01
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    河川や風によって陸上や海底へと運搬される砕屑物粒子は、その量や供給源の変化を調べることで、粒子の運搬に関わる諸現象(例えば河川流量や風の強さ、向きなど)の変動を解明することができる。そこで我々は、砕屑物粒子の供給源推定に向けた指標開発に取り組んできた。石英は地球上の様々な岩石に多く含まれ、また風化に強いという特性を持ち、運搬・堆積過程での変質を受けにくいため、供給源推定に用いるのに適している。特に我々が注目したのは、石英の結晶中の構造欠陥(不対電子や格子欠陥)や不純物元素を測定する、石英の電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance:ESR)分析とカソードルミネッセンス(Cathodoluminescence : CL)分析である。本発表では、これらの指標が供給源推定にどれだけ有効であるのか、またSEM-CLを用いた分析で一石英粒子からの供給源推定が可能かどうかについて述べる予定である。
  • 木元 克典
    セッションID: 1B02 12-02
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    2006年に海洋地球研究船「みらい」によって、オホーツク海から採取されたPC4コアを用いて、浮遊性および底生有孔虫化石の安定同位体比と微量金属元素を測定し、過去約3万年以降の中層水環境の復元を行った。底生有孔虫の炭素同位体比は、最終氷期からハインリッヒ事件(H1)まで、そしてYDに相当する時期に炭素同位体比が約0.5‰大きくなる変動を示していた。底生有孔虫のMg/Caは、完新世と最終氷期で0.6-1.3mmolの範囲で変動していた。このMg/Caの値を水温に換算すると、最終氷期から完新世初期の間で約0~4℃の水温変動幅に相当した。つまり最終氷期からH1の時期に、栄養塩に乏しく、低水温の海水が水深1,200m付近にまで及んでいたことを示している。
  • 山本 裕哉, 豊田 新, 磯崎 裕子, Sun Youbin, 多田 隆治, 長島 佳菜, 谷 篤史, 五十嵐 康人
    セッションID: 1B03 12-03
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    過去の気候変動を知るためにそれぞれの時代における大気循環システムの再現は重要な課題である。それを調べるため、過去の風送塵が研究されてきた。風送堆積物中の石英のE1’中心の信号強度によって示される酸素空孔量(Toyoda and Ikeya, 1991)の測定から、最終氷期と完新世とでその起源が異なることが報告された(成瀬他1997; Ono et al., 1998; Toyoda and Naruse 2002)。この後、石英中の酸素空孔量に加え、石英の結晶化度を指標として日本海堆積物の起源地の変動と気候変動との相関について議論された (Nagashima et al., 2007)。一方、石英中にはE1’中心のほかに不純物中心も観測される。今回、これまで用いられてきた指標に加えて不純物中心を用いる可能性について検討した。
  • 石村 豊穂, 野崎 莉代, 千代延 俊, 角皆 潤, 尾田 太良, 鈴木 紀毅
    セッションID: 1B04 12-04
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    生息水深を変化させて炭酸カルシウム殻を形成する浮遊性有孔虫「中層種」を研究対象に,炭酸塩の高感度安定同位体分析システムをもちい,安定同位体組成と殻重量を個体別に定量した.結果,δ13Cは殻重量と共に変化し,このδ13Cは明確に2つのδ13C端成分に分離可能であることがわかった.付加成長殻が持つδ13Cは中層水のDICを反映すると考えることが可能であり,今後のさらなる複合化学分析を通じて古水塊に関する理解を深めることができる.本研究での手法は水塊構造復元へとつながる新たな知見である.
  • 丸岡 照幸
    セッションID: 1B05 12-05
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    鍾乳洞に硫化水素を含む地下水が湧出することがあり、この壁面には石膏が見つかる。この石膏の硫黄同位体比は湧水の硫化水素の同位体比と一致することが報告されている。このことは、石膏に含まれる硫酸が水面よりも高い位置で酸化された硫化水素を起源とすることを意味している。硫化水素は硫酸還元バクテリアにより生成され、その同位体比は硫酸還元の起こる環境に依存している。特に湧水温度に強く依存しており、石膏の硫黄同位体比から地下水温度変遷が得ることができる。本講演ではこの方法の利点と問題点を議論する。
  • 河村 卓, 渡邊 剛, 岨 康輝, 坂本 竜彦, 入野 智久, 島村 道代, Hyeong Kiseong, 杉原 薫, 山野 博哉
    セッションID: 1B06 12-06
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
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    造礁性サンゴ骨格を用いた古環境復元においては、これまで塊状の群体を形成するハマサンゴ属が主に用いられてきた。キクメイシ属の塊状群体は、ハマサンゴ属のそれよりもさらに高緯度の地域でみられることから、ハマサンゴ属よりも低水温に適応していると考えられている。したがってキクメイシ属の骨格は、従来造礁性サンゴ骨格があまりターゲットにしてこなかった温帯地域での古環境指標として広く利用できる可能性を秘めている。鹿児島県甑島は温帯性の気候帯に属し、ハマサンゴ属とキクメイシ属がどちらも生息している。本研究では、甑島産のハマサンゴとキクメイシの軟X線画像による密度バンドと骨格中の酸素安定同位体比を用いて、両種のサンゴの温帯地域における骨格成長の季節性と、古水温指標としての可能性を比較・検討した。
  • 阿部 理, 杉原 薫, 森本 真紀, 山田 桂大, 吉田 尚弘
    セッションID: 1B07 12-07
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    過去の水温復元の新たな指標として利用されつつある炭酸塩中の炭素・酸素の安定同位体結合度を、異なる平均水温で生育した同種のサンゴ及び同一場所で生育した異なる種のサンゴを用いて評価した。西表から対馬にかけての五地点から採取されたキクメイシ属のサンゴ骨格の13C-18O結合度を測定したところ、生育水温と負の相関が見られた。骨格成長速度の影響を調べるため、同一場所で同時に採取された様々なサンゴの結果と併せて紹介する。
  • 三ツ口 丈裕, ダン フォン, 北川 浩之, 柴田 康行
    セッションID: 1B08 12-08
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    メコンデルタから約90 km沖に位置するコンダオ島からサンゴコア試料を採取した。この試料のX線写真および長波長UV写真には1948年~1999年の年輪が見られた。長波長UV写真で見られた年輪は蛍光バンドと呼ばれるものであり,蛍光の原因として (1) サンゴ骨格に取り込まれた陸源有機物や (2) サンゴ骨格の孔隙が考えられる。この試料のBa/Ca, Sr/Ca, Mg/Caを約1ヶ月の時間分解能で測定した。Ba/Caの変動はコンダオ島の塩分変動と強い逆相関を示した。コンダオ島周辺の塩分の第一支配要因はメコン川からの淡水流出であると考えられる。また,河川流出によって沿岸海水のBa濃度が顕著に増加することは広く知られている。以上のことから,Ba/Caの変動はメコン川からのプルームを反映していると推測される。この推測は蛍光バンドとBa/Caデータの対比からも支持されている。すなわち,蛍光バンドはBa/Caの極大と同時発生であり,更に,Ba/Caの極大値と蛍光強度の間には正の相関が見られる。
  • 大森 一人, 渡邊 剛, 谷水 雅治, 松岡 淳, 井上 麻夕里, 白井 厚太朗
    セッションID: 1B09 12-09
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    硬骨海綿とは塊状の炭酸塩骨格をもつ海綿動物の総称であり、その多くは海底洞窟やサンゴ礁付近のクレバスなどの暗がりに生息している。硬骨海綿は生息深度が幅広い(5~600m)・成長速度が遅い(0.2~1.5mm/year)・長寿命である(700年以上)という固有の特徴を有することから、新たな古環境記録媒体としての有用性が検討されている。演者は本研究に先駆け、硬骨海綿の1種である(Acanthochaetetes wellsi)のHigh-Mg calcite骨格を沖縄県久米島で採取し、骨格内の多元素濃度測定を行なった。その結果、硬骨海綿骨格内には他の生物源炭酸塩骨格と比較して鉛元素が非常に高濃度(2~11ppm)で濃集されていることが明らかとなり、さらに特徴的なピークが確認出来た。このような生物源炭酸塩骨格内の鉛元素は、主に鉛鉱山の採掘や有鉛ガソリン等による人為起源の鉛が起源であると考えられている(Desenfant et al.,2006ほか)。これを踏まえ、本研究ではさらに硬骨海綿骨格内の鉛同位体比測定を行ない、生息域周辺の鉛放出源の特定及び時系列での放出源の推移を推定した。
  • 島村 道代, ヒョン キソン, 渡邊 剛, ソ インア, ユ チャンミン, 入野 智久, 杉原 薫, 山野 博哉
    セッションID: 1B10 12-10
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    世界で最も高緯度に位置する、日本の壱岐サンゴ礁より採取されたキクメイシ属サンゴ骨中の酸素・炭素同位体比を分析し、中緯度域における高時間分解能古気候アーカイブとしての可能性を検討した。まず試料は莢壁と軸柱の骨格構造別に分析し、その結果を生育時の環境記録と対比・検討を行った。この結果、軸柱と莢壁は形成のタイミングが異なっており、キクメイシ属サンゴの場合、莢壁の方がより正確に環境を記録することがわかった。また本研究で用いたサンゴ骨格は、骨格構造自体にも成長パターンの季節的変化が見られた。これらの成果を基に、さらに長期に渡る骨格分析を行い、これらを周辺の環境と対比・検討したのでその成果を報告する。
  • 中尾 武史, 園山 幸希, 冨田 麻囲, 栗崎 弘輔, 藤川 将之, 中村 久, 天日 美薫, 能登 征美, 吉村 和久
    セッションID: 1B11 12-11
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    石筍は生成当時の古環境情報を保存する。秋吉台、北山北の横穴の石筍における現在成長中の部分が分析を行った滴下水と共沈平衡にあると仮定して求めた、Mg2+とSr2+の濃度商はDMg = 0.025、DSr = 0.030であり、温泉沈殿物に対して得られた値とほぼ同じであった。このことから、石筍と滴下水の間のイオンの分配はイオン交換平衡反応に支配され、濃度商はイオン交換平衡定数とみなすことができる。北山北の横穴周辺部の植生は1700年頃に森林から草原へと変化したことが炭素安定同位体比より推定されている。植生変化によるバイオマス量の変化のため、1700年頃より石筍のMg濃度は増加傾向を示し、Srの濃度は減少傾向を示した。炭素安定同位体比に加えて、Mg、Srからバイオマス量の変化を読み取ることで、より正確な植生の復元が可能である。
  • 青木 雅美, 栗崎 弘輔, 園山 幸希, 冨田 麻井, 藤川 将之, 池田 善文, 岡本 透, 山田 努, 眞崎 美穂, 松田 博貴, 吉村 ...
    セッションID: 1B12 12-12
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    山口県秋吉台長登銅山の銅は奈良の東大寺大仏建立の際に用いられたと伝えられている。鉱業活動初期には酸化帯、後には硫化帯の銅鉱石を利用したと推定されており、硫化帯の銅鉱石製錬による硫黄酸化物の発生により局地的に酸性降下物量が増大し、それに伴い植生変化が生じたと予測される。石筍は年縞を持つため絶対年代が決定可能であり、イオン交換平衡により共沈する硫酸イオン、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオンの含量や、炭素安定同位体比から植生情報を抽出することができる。復元した滴下水中に含まれる硫酸イオン濃度の変動から硫化帯の銅鉱石製錬由来の人為的な局地的酸性雨の影響を読み取った。炭素安定同位体比、マグネシウムおよびストロンチウム濃度の変動からは酸性雨に伴う変化が読み取れた。これらの結果は現存する発掘資料や古文書などとも合致しており、石筍を用いることで連続的な過去の人為的環境変遷を復元することができた。
  • 中塚 武, 大西 啓子, 河村 公隆, 尾嵜 大真, 光谷 拓実
    セッションID: 1B13 12-13
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    弥生時代末期に生じた倭国大乱や邪馬台国の卑弥呼の登場など、日本の古代社会の変動と気候変化の関係を解析するため、長野県南部で発掘された2個体の埋没ヒノキから、紀元前1世紀~紀元3世紀の1年毎に年輪セルロースを抽出し、その酸素同位体比を測定して、当時の夏季の水環境の経年変動を復元した。変動の周期や振幅は時代と共に大きく変化し、特に2世紀後半の倭国大乱の時期には、長周期の大きな水環境の変動が生じ、その収束と共に、卑弥呼の時代が到来したことなどが明らかとなった。こうした結果は、初期稲作社会からなる弥生時代の日本において、気候、特に水環境の変化が、社会に大きな影響を与えていた可能性を強く示唆する。
  • 尾嵜 大真, 坂本 稔, 今村 峯雄, 小林 紘一, 伊藤 茂, 丹生 越子, 中塚 武, 光谷 拓実
    セッションID: 1B14 12-14
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    弥生時代全般にわたる日本の資料について炭素14年代測定による精確な暦年代を得るために日本産樹木年輪試料についての高精度炭素14測定を行ってきた中で、北半球の平均的な炭素14濃度とされるIntCal04と比べて日本産樹木年輪試料の炭素14濃度がAD1~2世紀において低くなっていることを確認することができた。このような炭素14濃度の違いがどのようにして起こったのかは非常に興味深く、何らかの地球規模での大気環境変動に対応していることは確実である。そして、このような違いがどのような時間的および空間的な拡がりをもっていたかを詳細に調べることにより、過去の地球環境変動についての鍵を提供する可能性を示している。ここでは、日本産樹木年輪試料についての高精度炭素14測定の結果とIntCal04との違いおよび二つの異なる日本産樹木の違いの有無を検討し、そこから考察できうる当時の環境についての考察を試みる。
  • 大木 誠吾, Franzén Lars G., Mcculloch Robert, Skrzypek Grzegorz, 辛島 ...
    セッションID: 1B15 12-15
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    発表者らは、北アイルランド・ポーランド・およびアルゼンチンにおける、泥炭ミズゴケ層のミズゴケ中の有機物の炭素同位体比を分析し、その気候要因と大気中二酸化炭素濃度の変動について考察した。その結果、ミズゴケの炭素同位体比に、南北両半球の気温に関する情報と南北両半球共通の影響を与える大気中二酸化炭素濃度の2つの情報が存在することと、大気中二酸化炭素濃度の変動と海水準の変動は連動した関係性を持つことを強く示唆する結果が得られた。
  • 原田 尚美, Lange Carina, 佐藤 都, 阿波根 直一, Ninnemann Ulysses, Pantoja Silvio
    セッションID: 1B16 12-16
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 フィヨルド域を含めチリ沖は現在のみならず過去においてもダイナミックに海洋生産性を変化させてきた海域である。本研究では、チリ・マゼラン海峡の太平洋側において採取された海底堆積物に記録された過去12000年にわたるδ15Nを分析し、有機炭素含有量や窒素含有量変化、C/N比や有孔虫殻の炭素同位体比変化とともに考察した結果について報告する。
  • 関 宰, Meyers Philip, 河村 公隆, 中塚 武, Zheng Yanhong, Zhou Weijian
    セッションID: 1B17 12-17
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    バイオマーカーの水素同位体比は水循環に関する情報を保持していると考えられ、過去の気候(降水量や気温、相対湿度等)を復元する手法として近年注目を集めている。同位体比から過去の水循環を復元する他の手法としては、年輪や泥炭中のセルロースの水素・酸素同位体比や鍾乳石の酸素同位体比などが挙げられる。年輪や鍾乳石といった古気候記録媒体は比較的年代を正確に決めることが出き、高時間分解能の解析が可能な点で優れている。しかしながら、それらに記録された同位体比は有効降水量だけでなく、過去における水蒸気の起源の変化によっても影響されるため、同位体記録が主にどの変動を反映しているかを識別することが困難という問題点も抱えている。本研究では中国の泥炭コア中の水生植物と陸上植物由来n-アルカンの水素同位体比の分析から、過去の相対湿度変動の復元を試みた。
  • 公文 富士夫, 田原 敬治
    セッションID: 1B18 12-18
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    湖沼堆積物は,中緯度地域の陸域の古気候・古環境情報を長期間にわたり,かつ,連続的に記録することができるという点で,得難い記録媒体である.しかしながら,海洋堆積物に比較して利用できるプロキシーが限られており,また,熟練と時間を要する分析手法が用いられてきたことから,高時間分解で,かつ長期間をカバーする十分な古気候情報が得られているとは言えないのが現状である.その中で,我々は有機炭素(TOC)・全窒素(TN)含有量を指標として古気候の解析を進めてきた.湖沼堆積物中の有機炭素量は,直接的には湖沼内での生物生産と湖外から流入する有機物を起源としており,湖水柱や湖底付近での分解を免れた有機物が還元的な環境の堆積物中に,長期間保存されているものと考えられる.中緯度地域では,有機物の供給量は気候,特に気温との相関が高いと考えており,また,湖水中の保存ポテンシャルも気温との正の相関がある可能性が高い.TOCがどのような気候要素にもっとも支配されているか,その増減のメカニズムはどうであるのか,といった点の厳密な解明にはまだ課題が残されているが,TOCが生物生産性を介して,過去の気候情報を表す有力なプロキシーであると考えている.過去16万年間の解析はほぼ完了しており,より古い時期(約40万年前)まで遡る研究を進めている.
  • 松崎 哲也, 塚本 真伍, 小島 淳, 北 逸郎, 長谷川 英尚, 千代延 俊, 佐藤 時幸
    セッションID: 1B19 12-19
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    典型的な湧昇地域である赤道太平洋ペルー沖およびアラビア海の第四紀堆積物コアに含まれる石灰質ナンノ化石の透光帯種と下部透光帯種の相対量と堆積有機物のδ15N値とδ13C値の変動関係を検討した。ペルー沖では透光帯種と下部透光帯種の相対存在量は、55万年前から約30万年前までは高く、約25万年前から現在まで低く、堆積有機物のδ15N値にも同様な変化があることを明らかにし、ペルー沖では約25万年前を境にして海洋水塊構造に大きな変化があったことを報告する。さらに、アラビア海における透光帯種と下部透光帯種の相対存在量にも、約20万年前で明確な相違があることが確認された。これらの変動と水塊構造の変化について報告する。
  • 飯塚 芳徳, 鈴木 利孝, 平林 幹啓, 三宅 隆之, 本山 秀明, 藤井 理行, 本堂 武夫
    セッションID: 1B20 12-20
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    年平均気温が-50℃以下になる南極内陸地域はほぼすべての主要な水溶性エアロゾル塩が固体として存在するため、南極内陸の氷床コアは水溶性エアロゾルの良い保存媒体となる。発表者らは南極ドームふじで採取された氷コアを-50℃環境で昇華させ、残渣の不揮発性粒子の元素組成を分析した。その結果、不溶性粒子の99%にはSiが含まれ、主にシリカ鉱物であること、水溶性粒子のほとんどにはS、Clが含まれ、それぞれ硫酸塩や塩化物塩であることが示唆された。また、最近の氷期-間氷期サイクルにおける水溶性エアロゾルは、1)間氷期や氷期初期の硫酸ナトリウムが水溶性エアロゾルの主成分でエアロゾル濃度の低い時期、2)氷期中期の硫酸カルシウムが主成分で濃度の低い時期、3)氷期末期の硫酸カルシウムが主成分で濃度の高い時期という周期的な変遷をしていることが示唆された。
  • 小島 淳, 北 逸郎, 長谷川 英尚, 千代延 俊, 佐藤 時幸, 林 辰弥
    セッションID: 1B21 12-21
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    カリブ海バハマ沖の深海底コア(130万年-35万年前)の水銀含有量の測定を行った結果、その変動パターンはTOC量とともに下部透光帯種数の変動と相関することが明らかとなった。さらに、アラビア海オマーン沖の深海底コア(現在から50万年前)では、透光帯種数と比較して下部透光帯種数の割合が高い比較的成層化した期間において、湧昇強度が高い期間よりも堆積水銀量が高いことが明らかになった。このようなカリブ海バハマ沖とインド洋オマーン沖の深海底コアの水銀含有量変動のメカニズムと気候変動の関係等について報告する。
  • 石川 智子, 上野 雄一郎, 小宮 剛, 吉田 尚弘, 丸山 茂徳
    セッションID: 1B22 12-22
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    後期原生代エディアカラ紀から顕生代初期カンブリア紀にかけて、生物進化と地球化学の両面で大規模な変動が起きたと考えられいる。特に先カンブリア紀/カンブリア紀境界(Pc/C境界)前後において海洋の無機炭素同位体比は大きく変動しており、当時の海洋の炭素循環の著しい変化が予想される。一般に、海洋の炭素循環の定量化には当時の海洋の有機炭素同対比の情報も必要不可欠であるが、Pc/C境界前後の有機炭素同対比が無機炭素同位体比と共に一地域で報告された例はほとんどない。そこで我々は、南中国・三峡地域において掘削により採取された連続試料を用いてPc/C境界前後の高時間分解能の有機炭素同位体比化学層序を求めた。得られた無機・有機炭素同位体比の関係性を基に、数値計算を行い当時の海洋の炭素循環について定量的に議論する。
地球化学から教育界へのキャリアパスの模索
放射性廃棄物と地球化学
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