日本地球化学会年会要旨集
2021年度日本地球化学会第68回年会講演要旨集
選択された号の論文の213件中1~50を表示しています
G01 大気とその境界面における地球化学
  • 梅澤 拓, 寺尾 有希夫, 遠嶋 康徳, 丹羽 洋介, 伊藤 昭彦, 森本 真司, Naveen Chandra, Prabir Patra
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 1-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    メタンは重要な温室効果気体であり、その全球循環の理解のため多くの研究が行われてきた。過去約40年間にわたる大気中メタン濃度の変動要因はまだ十分に理解されていない。現在では、ボトムアップとトップダウンの両方を組み合わせた統合解析がメタンの全球収支の理解に向けた国際的な取り組みとして組織されている。大気中のメタンの同位体測定は、特に放出源の分離推定のために数十年前から展開されてきた。しかし、観測技術の進歩によるデータ数の増加や、放出源の同位体比の特徴がより詳細に調査されたこと、前述の国際統合解析の進展などで、同位体観測を取り巻く研究背景は大きく変わった。本発表では、全球メタン循環の研究や大気中のメタン濃度の変動を概観するとともに、メタン同位体の大気観測データの最新の活用例も紹介しながら、今後の大気メタンの同位体観測を実施する上での注意点や可能性について議論したい。

  • 黄 天政, 角 皆潤, Kim Yongwon, 中川 書子, 伊藤 昌稚
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 2-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    温室効果気体である一酸化二窒素 (N2O) の多くは、土壌中においてアンモニア (NH4+) の酸化反応である硝化や、硝酸 (NO3-) の還元反応である脱窒などの微生物反応により生成される。従来はδ15Nやδ18Oという安定同位体比を指標に用いて土壌由来N2Oの生成過程を解析するが、これらの同位体比はN2Oの生成・分解の各過程で同位体分別してしまうため、解析が困難となる問題があった。これに対して、三酸素同位体組成 (Δ17O) であれば、同位体分別の影響がキャンセルされて、N2O中のO原子の起源が直接的に反映されるため、ここからN2Oの生成過程に関する情報を引き出せる可能性がある。そこで本研究は、土壌から放出され、積雪に蓄積していたN2OのΔ17Oを分析してN2Oの生成過程を解析した。その結果、積雪に蓄積したN2Oは周辺大気中のN2OよりΔ17O値が低下する傾向が見られ、積雪に蓄積したN2Oの多くは、硝化反応により生成したものと結論した。

  • 谷本 浩志, 松永 恒雄, 三枝 信子, 杉田 考史, 八代 尚, 森野 勇, 齊藤 誠, 大山 博史, 池田 恒平, 染谷 有, 藤縄 環 ...
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 3-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    現在、温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)の開発が進められており、二酸化炭素やメタンに加え二酸化窒素が観測される予定であり、GOSAT及びGOSAT-2に引き続いて二酸化炭素の全大気平均濃度を監視していくこと、パリ協定に基づいて世界各国が作成・公表する二酸化炭素及びメタン排出量の検証において正確性、透明性および信頼性を向上させること、二酸化窒素観測の援用により大都市や大規模固定排出源からの排出について未知の排出源の検知や推計の高精度化を行うこと、が科学的な目標となっている。こうした成果は、パリ協定のもとで実施されるグローバルストックテイクにおいて、各国が自ら設定する排出削減目標を適切かつ野心的に目標設定する上で必要となる「現状の排出量の正確な把握」に重要な貢献となるため、国際的に大きな役割が期待されている。

  • 秋田谷 美乃, 松山 阿孝, 吉仲 由季子, 野尻 幸宏
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 4-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    全国環境研協議会では全国の降水の無機イオンの化学分析結果を全国酸性雨データベースとして公開している。演者らは、弘前市街で継続的に降水を採取し無機イオン分析を行っており、その結果を全国データベースと比較したところ、全国1.2に対して2程度と弘前の試料中の硝酸/非海塩性硫酸比が全国平均より明らかに高いと分かった。 その要因等を調べるべく’20年12月から翌4月にかけ、弘前市山間部の大和沢地区及び岩木山中腹で積雪を層別に採取しイオンクロマトグラフィーで無機イオン分析を行ったところ、大和沢地区の試料中の硝酸/非海塩性硫酸比は弘前市街の観測に近く、岩木山の試料でも硝酸の地域的発生源の影響が示唆された。また、降水用にアレンジしたトリリニアダイアグラムへのプロットにより、岩木山積雪はMg/Ca比が全国平均の0.13に対し1程度と顕著に高いことが分かった。

  • 今町 海斗, 名取 幸花, 栗栖 美菜子, 宮本 千尋, 高橋 嘉夫
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 5-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    近年、船舶由来の硫黄酸化物 (SOx) やシュウ酸を含むエアロゾルなどの環境・気候への影響に注目が集まっている(Wang et al., 2014)。硫酸エアロゾルやシュウ酸エアロゾルは吸湿性が高いため、雲凝結核として働き間接的冷却効果をもたらすが、その影響は大きな不確実性を伴っている。例えば、硫酸・シュウ酸エアロゾルが石膏(CaSO4・2H2O)やシュウ酸カルシウム(CaC2O4)などの難溶性塩を形成し間接的冷却効果が低下することが示唆されている(Furukawa and Takahashi, 2011; Miyamoto et al., 2020)。そこで本研究では、国内で最も船舶交通量が多い場所のひとつである浦賀水道(観音崎)で夏と冬のふたつの時期に採取したエアロゾル中の硫酸・シュウ酸エアロゾルの化学種をXAFS法などを用いて分析し、船舶由来の硫酸・シュウ酸エアロゾルの吸湿性や雲凝結核活性を調べた。

  • 名取 幸花, 藤原 将智, 谷水 雅治, 栗栖 美菜子, 髙橋 嘉夫
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 6-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    大気中の亜鉛の起源と挙動を考察し、揮発性の異なる元素の気化に伴う同位体分別の程度を系統的に理解することを目的に、エアロゾル試料中の亜鉛および鉄の化学種・同位体比分析を実施した。都市大気および亜鉛排出源近傍試料の亜鉛同位体比と大気中の濃縮係数から、完全燃焼由来、部分燃焼由来、非燃焼由来の3種類の亜鉛の起源が推定された。このうち、完全燃焼由来についてガソリン発電機を用いた室内燃焼実験を実施した。鉄・亜鉛同位体比を実験前後の試料で比較した結果、どちらも実験後の方が重い同位体比を示した。この傾向は特に微小粒子の鉄同位体比で顕著であり (-2.19‰→-0.48‰)、これは、ガソリン燃焼における同位体分別効果が小さいことを示唆する。亜鉛は揮発性が高いため、鉄と比較すると実験前後の変化の程度が小さかった。このような鉄と亜鉛の特徴の違いを利用することで、確度の高いエアロゾルの起源同定が可能になることが期待される。

  • 栗栖 美菜子, 坂田 昂平, 小畑 元, 西岡 純, Tim M. Conway, 鈴木 勝彦, 柏原 輝彦, 高橋 嘉夫
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 7-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    本研究では、白鳳丸KH-17-3次航海で採取したエアロゾル・海水を対象とし、鉄安定同位体比を指標として、北太平洋亜寒帯域におけるエアロゾル・海水中の起源別の鉄の寄与を推定することを目的とした。日本沿岸の鉄濃度の高い海域や北アメリカ西海岸付近において、エアロゾル中の微小粒子は、燃焼起源に由来する低い同位体比を示した。一方、外洋域においては粒径に関わらず地殻平均値に近い同位体比を示し、自然起源鉄の影響が支配的であった。表層海水の溶存鉄の同位体比は、沿岸域では地殻平均値に近い一方、中央・東部太平洋域ではそれよりも高い値を示した。表層海水とエアロゾルの同位体比には関係性が見られず、エアロゾル以外の供給源(沿岸堆積物由来の溶存鉄)からの寄与があることや、生物の取り込みによる同位体分別が起きていることが示唆された。

  • 崔 羽皓, 宮﨑 雄三
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 8-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    脂肪族アルコールは脂質の主要成分であり大気有機エアロゾルの大気反応や粒子の寿命、雲の生成にも影響を及ぼすと考えられる。生物起源一次有機エアロゾルの指標ともなり得るが、特にエアロゾル中の第二級脂肪族アルコールについては観測データが乏しく、起源等がよく分かっていない。本研究は森林総合研究所札幌支所の研究林において、通年で得られた粒径分級されたエアロゾル試料から、第二級脂肪族アルコールを同定し、その粒径分布と季節性から起源について考察した。第二級脂肪族アルコール濃度は植生の成長期にあたる春季に濃度が最大となり、その大半は粗大粒子に存在した。また、同定した化合物ではn-nonacosan-10-olが支配的であった。本研究の結果と過去の文献等から、エアロゾルの第二級脂肪族アルコールは、植物ワックスに由来することが示唆された。

  • 清水 南帆, 井上 徹, 奥田 祐樹, 橋本 伸哉
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 9-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    海洋由来のVOCsにはハロゲン元素を含む化合物が多く含まれており、大気中のオゾンの分解に関与する化合物(モノハロメタン等)も知られている。しかし海洋由来のVOCs生成については、まだまだ知見が乏しいのが現状である。自然界では季節や天候による雲量変化等で光量が変化するため、光量の変化が植物プランクトンのVOCs生成に及ぼす影響について調べた。本実験では、円石藻Calyptrosphaera sp.を対象に、モノハロメタンの生成やその生成への光量の影響について実験した。光量を50~90µmol/m2/secに変化させると、モノハロメタンCH3Cl、CH3Br、CH3Iの生成量が変化した。また、VOCsの生成時期が植物プランクトンの成長期から定常期に移動した。結果より、本株は光量が変化するとVOCsの生成量や生成時期が異なる可能性が示された。

  • 奥田 祐樹, 齋藤 健志, 橋本 伸哉
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 10-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    モノハロメタン(クロロメタン(CH3Cl)、ブロモメタン(CH3Br)、ヨードメタン(CH3I))は、自然起源(植物プランクトンやバクテリア)からの放出量が比較的多く、対流圏・成層圏における重要なハロゲン供給源である。本研究では貧栄養の海域で主要な一次生産者である藍藻Synechococcus elongatusを研究対象とし、培地に含まれるリン濃度がモノハロメタン生成に与える影響について調べた。本研究の結果、CH3Clの生成速度に変化は見られなかったが、CH3BrおよびCH3Iの生成速度はリン制限を行った方が数倍高くなったことから、モノハロメタン生成に対してリン濃度が関与していると考えられる。

  • 大木 淳之, 宮下 直也, 梅澤 沙知, 戸澤 愛美, 野村 大樹
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 11-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    北海道噴火湾では、春の珪藻ブルームの後、海底面に堆積した珪藻由来の有機物からヨードエタンが発生する。6月にかけて、底層水と中層水でヨードエタン濃度が高まり、その後、濃度が減衰することがわかった。このとき水塊の入れ替わりは確認されなかったので、水中でヨードエタンが分解していることが推測された。アンモニア酸化細菌のような微生物による作用の可能性が考えられた。

  • 渡辺 幸一, 楊 柳, 中村 賢, 大谷 卓也, 長村 遥, 増田 竜之
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 12-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    富山県射水市上空においてヘリコプターを利用し、大気中の過酸化水素、ホルムアルデヒド、オゾン、二酸化硫黄濃度やエアロゾル粒子個数濃度の測定を行ってきた。2020年8月5日の観測日は、小笠原諸島の西之島の噴火活動の影響を大きく受けており、二酸化硫黄や微小粒子個数濃度が高く、過酸化水素は夏季としては非常に低かった。ホルムアルデヒドは過酸化水素よりも濃度が高かった。2021年3月17日の観測日は、比較的規模の大きい黄砂現象が観測され、粗大粒子個数濃度が低高度で非常に高かったが、高度約2400mでは低く、黄砂粒子の影響が高高度には及んでいなかったと考えらえる。過酸化水素濃度は非常に低く、寒候期であることに加えて、黄砂粒子表面での分解が起こっていた可能性も考えられる。

  • 伊藤 彰記, Baldo Clarissa, Shi Zongbo
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 13-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    鉱物及び燃焼起源のエアロゾルは、海洋表層へと供給される重要な栄養塩(鉄)濃度を変化させることで、植物プランクトン(一次生産者)を起点とした食物連鎖を通して海洋生態系および気候へ影響を与える。本発表では、室内実験を基に開発したエアロゾル化学モデルにおける燃焼起源エアロゾル鉄溶出過程を報告する。

  • 海塚 収英, 岩本 洋子, 竹田 一彦, 三浦 和彦
    専門分野: G01 大気とその境界面における地球化学
    p. 14-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    本研究では国内の郊外サイトにおける季節毎の雲凝結核特性の把握を目的に、東広島において大気エアロゾル観測を行った。2020年4−12月の間、2ヶ月毎に凝縮粒子計測器、光学式粒子計測器および雲凝結核計数器を用いて、大気中の全エアロゾル数濃度と複数の水蒸気過飽和度下における雲凝結核数濃度を測定した。また、粗大および微小粒子を24時間間隔で捕集し、主要イオン成分と水溶性有機炭素の質量濃度を分析した。雲凝結核数濃度は、エアマスが大陸起源の時は高く、海洋起源では低い傾向が得られた。また4月に黄砂、8月には西之島火山噴火の影響を確認し、イベント時の雲凝結核数濃度は非イベント時に比べ増加した。雲凝結核数濃度の日内変化は、火山噴火の影響下と冬季の逆転層形成時に限定的に観測された。よって、観測サイトにおける雲凝結核数濃度は、ローカルな発生源よりは長距離輸送の影響を強く受けることが示唆された。

G02 環境地球化学・放射化学
  • Baasansuren Gankhurel, 福士 圭介, Davaadorj Davaasuren, 今井 英吾, 北島 卓磨, Tuvs ...
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 15-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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  • 石水 浩喜, 板井 啓明
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 16-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    湖水中のリン (P) は、様々な有機態・無機態化合物として存在し、生物への取り込み・沈降、懸濁物質への吸着などにより湖底堆積物へ輸送され、続成作用にともない湖水中へと再溶出する。湖水中Pレベルの定量的な解釈には、堆積物への固定機構解析に加え、湖盆に対する流出・流入フラックスの推定、定常状態に達するまでの速度論的解析など、巨視的なパラメータを含めた考察も必要である。本研究では、東日本に分布する13の貧~中栄養型湖沼を対象に、湖水-堆積物間のP挙動を観測的・実験的に調べることで、湖水中P濃度規制要因の一般則を帰納的に導出することを目標とした。

  • 田柳 紗英
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 17-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    湖沼は、表層のケイ素サイクルにおいて、ケイ酸のシンクとして働く。東日本に分布する9湖沼におけるケイ酸濃度を調べたところ、湖沼間でのケイ酸濃度変動は小さく (13.5%)、支配的な規制要因の存在を示唆している。そのため我々は、Ge/Si比や、ケイ素安定同位体比などの地球化学ツールを応用し、湖沼のケイ素サイクルの詳細解析を志向して研究を進めている。本発表では、研究の第一段階として、富士五湖、仁科三湖、裏磐梯三湖の溶存ケイ酸レベルを比較した結果を示し、湖沼間でのケイ素動態の差についての考察を示す。

  • 伊藤 茜, 谷水 雅治, 中川 卓樹, 根田 直哉, 室田 桃果
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 18-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    本研究では,2018年4月19日に発生した霧島火山群硫黄山の噴火に伴い火山性流体が混入した長江川におけるヒ素およびホウ素の河川水-堆積物間の分配挙動の理解を目的とし,河川水および河床堆積物の主要・微量元素の定量と逐次抽出による存在形態分析を行った. 最上流地点の河川水試料は強酸性かつ高As,B濃度を示したが,流下に伴いpHが中性に近づくにつれ,Fe,Al,Si濃度とともに減少する傾向を示した.逐次抽出の結果より,これらの元素は主に低結晶性鉄鉱物相画分に存在する事が示された.また,この画分中のFe濃度は流下に伴い増加,As濃度はFe濃度の増加が始まる地点で最大値を示し,Feの酸化沈殿に伴う吸着・共沈により河川から除去された事が示唆された.一方,Al,Si,B濃度はpHが大きく上昇する下流域で増加し,その後徐々に減少する傾向を示した.これは,BはAl-Si鉱物の沈殿に伴い河川水から除去されたことを示唆している.

  • 田嶋 翔太, 淵田 茂司, 所 千晴
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 19-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    バーネス鉱(δ-MnO2)は土壌や帯水層などで重金属イオンに対する優れた吸着材として知られている。特に,Mn酸化速度が十分速い環境ではδ-MnO2生成時に共存する金属イオンを結晶構造内に取り込む共沈反応が生じる。本研究では中性pH条件下(pH 6.0, 7.5)においてδ-MnO2生成に伴うZnの共沈と表面錯体生成反応機構について,表面錯体モデルおよびX線吸収微細構造(XAFS)分析結果をもとに考察した。その結果,共沈機構はδ-MnO2層間におけるZnとの表面錯体形成に加え,δ-MnO2表面でのZn-Mn系鉱物生成に伴うZnの3次元的な取り込みであることが明らかとなった。また生成するZn-Mn系鉱物はpHやZn/Mnモル比によって異なり,収着量にも大きな違いが確認された。これはXAFS解析から,わずかなpHの違いによって生成する鉱物組成や結晶構造に変化が生じるためであると考えられる。

  • Zubair Yusuf Olalekan, 所 千晴, 淵田 茂司, Mauricio Cordova-Udaeta
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 20-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    ヒ酸は毒性が高く発がん性があり、飲料水中の安全レベル(0.01 mg / L)を超えると深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。ヒ素の移動性を阻害するために、いくつかの有望な吸着剤が開発されています。ここでは、二成分分離係数と現象論的速度論モデルを使用して、塩化物、硫酸塩、リン酸塩などの一般的な陰イオンがヒ酸塩の選択性と表面の錯形成に及ぼす影響を定量化しました。具体的には、ヒ酸塩除去に対する吸着剤の選択性に対する陰イオンの干渉効果は、塩化物>硫酸塩>>リン酸塩の順です。速度論的分析から得られた結果は、塩化物および硫酸塩がヒ酸塩表面錯化の速度論に無視できる影響を与えることを示した。一方、リン酸塩の共存は、競合吸着によるヒ酸塩表面の錯形成の速度論を大幅に阻害します。その上、自由系におけるヒ酸塩の全吸着に対する内球複合体形成のより高い寄与は、共存する媒体のそれと同様である。この研究からの発見は、ヒ素隔離のための有望な材料の実用的なアプリケーションを作成する上で不可欠です。

  • 長谷川 菜々子, 板井 啓明, 高橋 嘉夫
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 21-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    本研究では、鉄安定同位体比 (δ56Fe) を指標とした海洋生態系における鉄循環解明を目標に、様々な海洋生物の同位体比変動幅評価を最初に実施した。次に、同位体分別機構の評価のため、魚類臓器別のFe化学形態分析および負荷量計算を実施し、代謝に伴う同位体分別について考察した。δ56Feは、動物プランクトン> 魚類筋肉> 小型鯨類筋肉となった。変動幅は種差が大きく、同位体分別機構として、(1) 腸管における鉄吸収効率の差、(2) 臓器間でのδ56Fe分配、の精査が必要と考えた。肝臓中の鉄の主要な形態はFe(III)、筋肉中はFe(II)と推察され、XANESによる分析もこの予測と整合的であった。以上の結果から、今後臓器分配に基づくδ56Feの変動幅の評価が可能になると期待される。

  • 板井 啓明
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 22-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    ホメオスタシスとは、「生物体の体内諸器官が、外部環境の変化や主体的条件の変化に応じて、統一的・合目的的に体内環境をある一定範囲に保っている状態、および機能」として定義される。元素濃度制御機能が十分に強ければ、環境中の元素濃度に依らず生体内濃度が一定に保持されるが、実際には高次生物や藻類で、ある程度環境中濃度の差を反映することがわかっている。多くの必須元素は、必須要求量とともに毒性発現閾値を有すため、生物にとっては、元素濃度や化学量論比が環境中での物質循環過程において許容範囲に調整されることが望ましい。演者は、陸水の停滞場である湖沼がその役割を担っていると考え、湖沼の有する微量元素恒常性維持機能を評価することを着想した。本発表では、東日本に分布する9湖沼について、水柱における溶存態・懸濁態の微量元素プロファイルと変動性について報告する。

  • 吉田 英一, 山本 鋼志, 丸山 一平, 淺原 良浩, 刈茅 孝一
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 23-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    地層処分などの地下空洞、坑道を掘削することで必ず周辺岩盤には緩み領域が発生し、地下水の水みちとして機能することが確認されている。この水みち亀裂をシーリングすることは地層処分などの地下環境を長期かつ安全に活用する上で不可欠である。本研究では、炭酸塩球状コンクリーションの岩石空隙シーリングプロセスをナチュラルアナログ的に応用し、長期水みち亀裂方法の開発研究を行なっており、その成果を報告する。

  • 石水 浩喜, 板井 啓明, 高橋 嘉夫
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 24-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    湖水中のリン (P) は、様々な有機態・無機態化合物として存在し、生物への取り込み・沈降、懸濁物質への吸着などにより湖底堆積物へ輸送され、続成作用にともない湖水中へと再溶出する。湖水中のリン濃度には、湖水-堆積物間のPの分配が影響するが、天然試料に対する複数のリン化合物の分配挙動を比較した研究は限られている。本研究では、富栄養湖の代表として霞ヶ浦、貧〜中栄養湖の代表として琵琶湖を選択し、(1) オルトリン酸 (IP)・リン酸モノエステル添加系でのインキュベーション、(2) 非晶質鉄水酸化物に対する各種リン酸化合物の吸着実験、(3) 堆積物に対するIPの吸着実験、を実施し、観測による湖水-堆積物間の見かけのリン分配比との関係を考察した。

  • 益木 悠馬, 勝田 長貴, 横山 裕矢, 梅村 綾子, 吉田 英一
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 25-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    姉川(滋賀県東部)上流部には、伊吹山の山体崩壊で生じたせき止め湖(約5000年前)の湖成層が分布し、そこには1年に1枚の縞が刻まれる年縞が発達する。走査型X線分析顕微鏡を用いたµ-XRFマッピング分析から、年縞に沿ったヒ素の分布が見出された。バルク試料の逐次抽出法の結果は、ヒ素の主要な起源はケイ酸塩態(69%)、次いで非晶質硫化物態(16%)であることを示す。また、放射光を用いたµ-XRFマッピングとXANES解析から、夏季の菱鉄鉱の葉理の上下に分布するAs2S3(III)の濃集層(層厚約1 mm)は、春と秋の循環期に生じた鉄水酸化物が水塊中の亜ヒ酸塩(H2AsO3-(III))やヒ酸塩(H2AsO4-(V))を吸着、湖底に堆積したのち、間隙水中での硫酸還元で生じたものと推察される。一方、堆積物中に散在する粗粒のヒ素濃集(径0.3 mm)のAsS(II)とAs2S3(III)の共存は、生物起源H2SによるAs2S3(III)の還元で生じたことによると考えられる。

  • Aye Myint Myat Soe, Aye Aye Mu, 豊田 和弘
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 26-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    ヤンゴン近郊のイラワジデルタの農家から収集された120個の白米(Oryza sativa)粒中の重金属(As、Pb、Cd、Cr、Mn、Fe、Zn、Cu、Ni、Mo、Co)を測定した。それらの総AsおよびNi濃度は、未汚染地域の文献値の世界平均レベルに近く、一部は最大許容レベルを超えていました。それらのPb、Cd、およびCrの平均濃度は、最大許容レベルより1桁以上低く、世界で最も低いレベルでした。無機ヒ素が全体の100%であると仮定して、米の消費に関連する健康リスクを推定すると、各元素の非がんリスク(HI)の合計値は基準値の7.6倍であり、ヒ素が主な要因(58%)であり、Mn、Zn、Cu、Mo、Co(5〜9%)およびPb、Cd、Cr、Fe、Niは4%未満でした。ヒ素(33%)、Cd(12%)、およびNi(51%)が、総がんリスク(TCR)値(2.5±0.7×10-3)の主な要因でした。

  • 豊田 和弘, 中野 翔太, 田中 俊逸, Kawawa BANDA, Imasiku A. NYAMBE, 石川 剛志, 中山 翔太, 石塚 ...
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 27-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    中央アフリカのザンビアのカブウェの鉱山エリア内には鉛が高濃度な大きな尾鉱(スラグ)の丘が存在する。居住地域の17の浅井戸と5つの深井戸、鉱山地域の6つの池/ボアホール水、周辺地域の15のサイトの2つの表層土壌と1mの深さの土壌の化学組成と鉛同位体比を分析しました。17の浅い地下水サンプルで、溶存濃度は低いが、粒子状のPb濃度(2–100 µg/L)は高いことがわかりました。 5つの浅い井戸は、総Pb濃度のWHOガイドライン(10 µg/L)を超えています。ただし、半数は溶存Znおよび硫酸イオン濃度が低く、帯水層を通過するPbの移動がなかったことを示唆する。同位体水と土壌サンプルのデータは浅い地下水中の鉛汚染が尾鉱堆積物に由来することを示し、井戸水中の粒子状物質は主に最近の井戸サイトの風成ダストに由来すると結論した。

  • 片岡 賢太郎, 南 雅代, 高橋 浩, 淺原 良浩, Asrin Mohammadi, Hossein Azizi
    専門分野: G02 環境地球化学・放射化学
    p. 28-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    大気エアロゾルは、大気中に浮遊している微小な液体や固体粒子のことであり、その主成分は炭素成分である。エアロゾル中の炭素成分については、化石燃料起源炭素(FC)と非化石燃料起源炭素(non-FC)に分類する方法がある。大気エアロゾル中の炭素成分の14C濃度を測定することで炭素成分における FC(0 pMC)とnon-FC(100 pMC)の比を導出することができ、都市大気によるnon-FCの発生源の解析や季節毎の寄与の差異の推定が試みられている。 本研究では、特に冬季の大気汚染の問題が深刻なイラン国内で、イラクの国境に近いクルディスタン州の都市で2019年10月~2020年6月に採取した大気エアロゾル試料について、そのバルク試料の14C濃度、δ13Cを測定した。試料採取時の気象データ(風向、風速など)も考慮して、大気エアロゾル中の炭素成分の発生源、季節変動について考察する予定である。

G03 海洋の地球化学
  • 重光 雅仁, 内田 裕, 横川 太一, 村田 昌彦
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 29-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    空間解像度の高い蛍光性有機物(FOM)データを得るために、現場型蛍光センサーを使用することを試みた。本研究では、インド洋の北端から南極大陸近傍まで当該センサーを用いてFOMの子午面分布を明らかにした。得られたFOM濃度については、センサーの温度依存性の補正を施し、また手分析で別に測定したFOMデータを用いてキャリブレーションを実施した。このデータを解析した結果、海盆スケールでのFOM回転時間は410±19年であることが分かった。また、インド洋北部深層で、海盆スケールのFOM変動とは異なる変動を発見し、いくつかの可能性を議論した。

  • Idha Yulia Ikhsani, Wong Kuo Hong, 小川 浩史, 小畑 元
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 30-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    Trace metal micronutrients in seawaters play vital roles in many enzymatic reactions, for example, in photosynthesis by oceanic phytoplankton. However, reported trace metal distributions in the eastern Indian Ocean are scarce. We determined trace metal concentrations, including dissolved iron, manganese, lead, cadmium, copper, and zinc, entire depth water column in the eastern Indian Ocean from Bay of Bengal to the southern hemisphere.

  • 山中 紘輝, 近藤 能子, 小畑 元
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 31-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    海水中の溶存鉄の大部分は有機錯体鉄として存在すると考えられているが、貧酸素水塊などの還元的環境では溶解度の高いFe(II)として存在することが指摘されている。本研究では、貧酸素水塊が発達する夏季の有明海湾奥部においてFe(II)の経時変化を調べ、潮汐がもたらす還元環境の変化が鉄の化学形態へ与える影響を調査した。2020年8月4日に日の出前から日没後まで1時間ごとにFe(II)と栄養塩濃度を測定した。観測の結果、水柱は成層化しており、溶存酸素濃度は中層以深では低濃度となっていた。Fe(II)濃度は、表層や海底直上より中層で高くなる傾向が見られ、高濃度のFe(II)は満潮の1時間後の中層で観察された。硝酸塩+亜硝酸塩、リン酸塩は引き潮時の中層で高くなる傾向があり、干潮時の表層ではいずれも低濃度であった。これらの結果、貧酸素水塊が発達する夏季の有明海湾奥部では、潮汐が鉄の化学形態や栄養塩濃度に影響を及ぼしていたことがわかった。

  • 高野 祥太朗, 乙坂 重嘉, 宗林 由樹
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 32-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    海洋においてFe,Ni,Cu,Zn,Cd,Pbなどの重金属は,生物地球化学的過程によって循環している.現代海洋における重金属の循環を知れば,重金属の濃度や同位体比を過去・現在の海洋環境における生物地球化学的トレーサーまたはプロキシとして利用できる.これまでの海洋の重金属に関する研究は,溶存態の研究が主であり,粒子態の研究は少なかった.しかし,海水中重金属の循環には,粒子を介した過程が深く関わるため,海水中重金属の循環を完全に理解するには,溶存態だけでなく粒子態重金属の分析が重要である.本研究では,日本海で採取された沈降粒子中重金属の濃度および同位体比を用いて,それらの起源を明らかにした.

  • 祝 嗣騰, 張 勁, 松野 健, 堤 英輔, 神林 翔太, 高山 勝巳, 井上 睦夫, 長尾 誠也, 安田 一郎
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 33-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    亜熱帯モード水を起源とする海水(STMW*)は、地形に沿って上昇する西太平洋境界流域(WPBCA)において、物質・エネルギーの交換を通して、浅層の生態系に影響を与える。しかしながら、海水の混合によってSTMW*の「モード」が不明瞭になり、WPBCAでの直接観測は困難である。本研究では、137Csを用いてWPBCAにおけるSTMW*の存在の直接的な証拠を初めて示し、鉛直混合の度合いを定量した。その結果、ルソン海峡では強い鉛直混合があり、比較的短い時間スケールでSTMW*の割合は半分以下になっていた。一方、対馬海峡におけるSTMW*の保持率は高く、流れてくる途中では鉛直混合の影響をあまり受けていなかったことが示唆された。観測された拡散係数と時間積分された情報が得られる化学トレーサーを用いて、WPBCAおよび周辺海域における浅層/有光層への亜熱帯循環中の栄養塩寄与量が定量できることから、生態系モデルの改善につながり、さらに全球規模の他の境界流域にも応用が期待できる。

  • 小松 大祐, 富所 春奈, 成田 尚史, 三野 義尚, 脇田 昌英, 角皆 潤
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 34-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    NO3-の濃度と安定同位体組成は,硝化, 同化, 脱窒といった微生物活動に伴って変化するため,微生物活動を停止させ,試料の長期保存を目的として,殺菌剤である飽和HgCl2を試料に対して0.1~0.4 %加える場合がある.HgCl2によって殺菌済みの海水試料を,通常の海水試料と同様にカドミウムカラムに通水したところ,通水前後でNO3-からNO2-への還元率は98%から83%に著しく低下したため,添加されたHg2+を除去する必要があることが分かった.そこでキレート樹脂を用いて選択的にHg2+を吸着処理する方法を検討し,バッチ法で樹脂を加えて処理したところ,還元率98 %以上を維持できた.さらに安定同位体組成は,HgCl2の添加の有無に有意な差はみられず,非滅菌試料分析時と遜色ない結果が得られた.以上を踏まえ,西部北太平洋亜熱帯定点S1(北緯30度, 東経145度)に1年間係留して得られたRASを用いて採取した試料に応用した結果を紹介する.

  • 岡部 宣章, 武内 章記, 多田 雄哉, 丸本 幸治, 土屋 正史
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 35-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    人への水銀の曝露源としては、海産物中のメチル水銀の影響が大きい。そのため、海洋中の水銀挙動、特にメチル水銀の生成と消失の過程を明らかにすることは重要である。しかし、海洋中で水銀は、モノメチル水銀、ジメチル水銀、2価の無機形態の水銀及び金属水銀といった形態で共存しており、メチル化の過程は複雑である。本発表では、報告例の少ないジメチル水銀について、水銀同位体トレーサーを用いた実験を行った結果を報告する。 結果として、加熱脱着炉付-ICP-MS/MS測定において、安定的な値を得ることが出来ない試料が複数存在した。これはジメチル水銀の生成速度が遅いため、添加した水銀同位体の量では定量下限値以下となったことが原因と考えられる。次回の実験では添加量を増やして実験を行う予定である。信頼性のある測定値を得ることが出来た試料の中では、過去の研究と同様に溶存酸素極小層での試料で、最もジメチル水銀の生成率が大きい結果となった。

  • 神林 翔太, 張 勁, 成田 尚史, 青野 辰雄
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 36-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    陸域と海洋をつなぐ河口域や沿岸域は、河川水と海水が混在することによる物理拡散、物質の不溶化、沈降や再溶出などが展開される場であることから、同域における物質循環、特に陸域から海洋への物質輸送過程を理解することは重要である。しかしながら、河口域を通じて海洋へ輸送される粒子の実態は理解されていないことも多い。本研究では、幅広い塩分変動をもつ海跡湖「松川浦」を対象として、陸域から海洋への粒子の輸送過程の実態把握を行った。

  • Welti Sophia Elisa, 赤木 右
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 37-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    アルミニウムをトレーサーとして使用して、珪藻が長石からシリカを取得する可能性を培養実験にて調査した。珪藻はAlbiteまたはAnorthite粉末の有無の異なる三つの条件下で培養し、シリカ濃度とTEPの個体数を1か月の培養期間を通して週に2~3回測定した。さらに、珪藻ケイ酸殻内のアルミニウム分布をEPMAで測定した。長石の存在は、珪藻の成長を阻害しつつも、生育期間を広げる原因となったと推察された。実験終了時において、生きている珪藻と死んだ珪藻の総数は、3つのボトルすべてでほぼ同じであり、これら2つの効果が互いに釣り合っていることを意味する。 TEP濃度は、実験の20日目、珪藻ブルームのピークが終わるまでは3つの培養条件において低かったが、その後ピークを示し、その濃度はAlbite区ではるかに高く、対照区では最低であった。

  • 河口 温子, 堀 真子, 成田 一人, 井尻 暁, 池原 実
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 38-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では、シリカと水との間の同位体分別過程の一般法則を明らかにすることを目的に、10℃から40℃に調整した溶媒中で非晶質シリカを合成した。合成はゾルゲル法で行った。溶媒の酸素安定同位体比は二酸化炭素平衡法で、シリカの同位体比は炭素還元法を用いた連続フロー質量分析計で分析した。また、分析に先んじて形態観察を行った。水:エタノール比がほぼ1:1の割合で合成したシリカは、0.2µm前後の球状体を示し、同位体比は、28.8‰から34.6‰の間でばらついた。一方、水の割合を全体の80%以上に増大させた試料は薄い破片状の形態を示し、同位体比は、30.1‰から25.8‰へと、水温上昇とともに連続的に低下する傾向を示した。これから求めた同位体分別係数は、明瞭な水温依存性を示した。

  • 田中 さき, 松中 哲也, Rodrigo Mundo, 井上 睦夫, 谷内 由貴子, 黒田 寛, 熊本 雄一郎, 滝川 哲太郎, 守田 晶 ...
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 39-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    化石燃料やバイオマスの不完全燃焼、および原油を起源とする多環芳香族炭化水素類(PAHs)は、発癌性や変異原性をもつ有害有機物である。東アジア縁辺海と周辺海域において、PAHsの動態や生態リスクに関する研究が必要とされている。本研究は日本近海を中心とした北太平洋における広域的なPAHs水平分布を明らかにすると共に2017年以降のPAHs経年変動を解析した。各緯度帯における平均Σ14PAHs(粒子態+溶存態)は、基本的に中緯度域で高く、高緯度域で低くなる傾向を示した。沿岸海域では燃焼起源PAHsの寄与が高かったのに対し、外洋海域では原油起源PAHsの寄与が高かった。一方、2020年における日本海のΣ14PAHsは、2019年と比べ有意に低下した。塩分や海水シミュレーションの結果を基にすると、2020年における日本海のPAHs濃度減少は、黒潮系海水のPAHs濃度低下と、PAHs濃度の高い浅層海水の寄与の低下によって引き起こされた可能性が示唆された。

  • 安川 和孝, 木野 聡志, 大田 隼一郎, 浅見 慶志朗, 田中 えりか, 見邨 和英, 藤永 公一郎, 中村 謙太郎, 加藤 泰浩
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 40-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    超高濃度レアアース泥を含む南鳥島周辺の深海堆積物からマイクロマンガンノジュールを分離回収し,ICP-MSを用いて化学組成分析を行った.得られた化学組成データのk-meansクラスター分析により,これらのマイクロノジュールは異なる地球化学的特徴を持つ5つのグループに分類された.各コアにおけるマイクロノジュールの特徴の深度方向変化に注目すると,超高濃度レアアース泥の下部では強い続成起源のマイクロノジュールが見られ,レアアース濃度ピーク付近から上部にかけては海水起源寄りの,相対的に酸化的な環境を示唆するマイクロノジュールに遷移することが分かった.この結果は,堆積物中でレアアースホストとなる魚骨片の濃集と関連した海底への有機物供給の増減や底層流の強度変化を反映していると考えられ,先行研究で提案された超高濃度レアアース泥の生成過程と調和的である.

  • 漢那 直也, 杉山 慎, 安藤 卓人, 浅地 泉, Wang Yefan, 櫻木 雄太, 西岡 純, 山下 洋平
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 41-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    海洋における腐植様蛍光物質(FDOMH)は、海洋の微量栄養物質である鉄と有機錯体を形成し、海水中に鉄を溶解させる役割を担う。FDOMHは、陸由来のものと海洋自生性のものに区別されるが、北大西洋では、北極海に注ぐ河川からのFDOMHの影響が大きいため、塩分とFDOMHの蛍光強度に負の相関がみられる。北大西洋に面するグリーンランド沿岸では、河川水に加えて陸氷(氷河、氷山)の融解水が流入する。この融解水が、海洋におけるFDOMHや鉄の動態にどのような影響を与えるかは不明である。本研究では、グリーンランド北西部のフィヨルドにおいて、氷河の融解水が海水中のFDOMHと鉄の動態に与える影響を調べた。

  • 田副 博文, 天川 裕史, 鈴木 勝彦, 西岡 純, 原 拓冶, 小畑 元
    専門分野: G03 海洋の地球化学
    p. 42-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    国際GEOTRACES計画により海洋全体のマッピングが進められている。本計画の中でNd同位体比は分析必須項目に位置づけられているものの煩雑な化学分析法を改善する取り組みが続けられている。本研究では固相抽出剤DGAレジンを用いた新規迅速前処理法を開発した。DGAレジンのNd分離ではFeの妨害を受けないため、水酸化鉄共沈法による前濃縮法を組み合わせることにより前処理時間の短縮や低ブランク化をはかることができる。

G04 初期地球から現在までの生命圏の地球化学
  • 鹿島 裕之
    専門分野: G04 初期地球から現在までの生命圏の地球化学
    p. 43-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    地球における全生命活動は、元をたどれば光合成と化学合成によるエネルギー獲得で支えられていると考えられてきたが、環境中では金属硫化物などの導電体を介した遠隔的な酸化還元反応の共役による自発的な電子の流れ(=環境電流)が発見され、この電気エネルギーを利用した電気合成微生物活動が予見された。もし電気合成が生態系一次生産に寄与していれば、新たなエネルギー生態系として我々の生命圏観を更新させる可能性があるが、電気合成微生物の報告はほとんどなく、その環境中での実態は未解明である。そこで私は、海洋環境において電気合成微生物を探索しその代謝分子機構を解析することで、電気合成微生物活動の実証とその生態学的役割の解明を目指している。ここでは、電気合成環境から見出された微生物たちの生きざまを紹介するとともに、生命利用可能な環境中の電気エネルギーについて考察することで、電気合成微生物活動の生命圏における役割について議論する。

  • 山口 保彦
    専門分野: G04 初期地球から現在までの生命圏の地球化学
    p. 44-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    細菌(バクテリア)が生産した有機物は、天然環境中の有機物リザーバー中で大きな割合を占めることが指摘されており、地球表層の物質循環において重要な役割を果たしている可能性が注目されている。特定のD-アミノ酸(D-アラニン、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸、D-セリン)は、細菌由来有機物のバイオマーカーとして、様々な環境中有機物への細菌由来寄与度の推定に用いられてきた。しかし、堆積物や土壌など、千年スケール以上での年代経過を経験している試料では、D-アミノ酸バイオマーカー濃度に、年代経過に伴う非生物的ラセミ化反応の効果が有意に影響しうる。本発表では、複数種類のD-アミノ酸を組み合わせ、年代経過による非生物的ラセミ化を補正することで、堆積物や土壌などの試料でも、細菌由来のD-アミノ酸バイオマーカー濃度を推定でき、細菌由来有機物寄与度を推定できる新手法の可能性を提案する。

  • 伊左治 雄太, 吉川 知里, 小川 奈々子, 松本 和彦, 眞壁 明子, 豊田 栄, 石川 尚人, 小川 浩史, 斎藤 宏明, 本多 牧生, ...
    専門分野: G04 初期地球から現在までの生命圏の地球化学
    p. 45-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    植物プランクトンの窒素源は、海洋一次生産に占める新生産と再生生産の割合を表す重要なパラメータである。本研究では、東インド洋88°E測線のクロロフィル極大深度において懸濁態有機物を採取し、クロロフィル色素のδ15N分析を行った。生理生態の異なる植物プランクトンそれぞれの窒素源を同定するために、真核藻類とシアノバクテリアに由来するクロロフィルaに加えて、プロクロロコッカスに特有のジビニルクロロフィルaのδ15N分析を行っている。得られたデータの解析により、測線を通じてプロクロロコッカスが有機物分解由来の還元態窒素に依存している一方で、一部の測点では真核藻類が下層から供給される硝酸を同化していることが明らかになった。発表では、複数種のクロロフィル色素のδ15Nに基づいて解析を行うことが、現在や過去の植物プランクトンの窒素源や海洋表層の窒素循環を詳細に明らかにする上で重要であることを示す。

  • 角野 浩史
    専門分野: G04 初期地球から現在までの生命圏の地球化学
    p. 46-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    ハロゲン(F、Cl、Br、I)は揮発性、液相濃集性が高いため、海洋、堆積物、地殻などの表層のリザーバーに高濃度で存在し、その元素比もリザーバーごとで大きく異なることから、地球表層-マントル間での物質循環、とくに水循環のよいトレーサーになると期待される。マントル物質中のハロゲンはその低い濃度から従来の手法では分析が困難であったが、近年、原子炉内で試料に中性子を照射し、核反応によりハロゲンを希ガス同位体に変換し、その希ガス同位体を高感度希ガス質量分析により定量する手法によって高感度分析が可能になり、それを用いて得られた中央海嶺やホットスポットの玄武岩ガラス、マントルかんらん岩やダイヤモンド、蛇紋岩のハロゲン組成を指標として水を主とした揮発性成分の、地球内部での物質循環が明らかになりつつある。本講演では主に、かんらん岩と蛇紋岩のハロゲン組成から示唆されるマントル中の揮発性成分循環について紹介する。

  • 宗石 啓輔, 奈良岡 浩
    専門分野: G04 初期地球から現在までの生命圏の地球化学
    p. 47-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    会議録・要旨集 フリー

    始原的な炭素質隕石は水や有機物を含み,原始太陽系での化学進化過程を記録している.隕石中の有機物の空間分布は化合物種や同族体間で異なる場合があり,鉱物-有機物-水の相互作用の寄与が考えられるが,水質変成前の隕石の主要な無水ケイ酸塩であるカンラン石と有機物の水環境下での相互作用については明らかになっていない.本研究では,カンラン石粉末を充填した液体クロマトグラフィー用のカラムを作成し,4種類の有機物の保持時間を比較した.実験の結果,陽イオンとして存在しやすい有機物ほど保持時間が長く,水溶液中のプロトンと結合し正の電荷を帯びた有機物と,カンラン石を構成する負の電荷を帯びたケイ酸塩の酸素イオンとの相互作用が考えられた.このイオン的相互作用が,隕石上の有機物の空間分布に影響を与え得る.

  • 須田 好, 阿瀬 貴博, 宮入 陽介, 横山 祐典, 松井 洋平, 上田 修裕, 齋藤 拓也, 佐藤 友彦, 澤木 佑介, 中井 亮佑, 玉 ...
    専門分野: G04 初期地球から現在までの生命圏の地球化学
    p. 48-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    本研究は放射性炭素(14C)濃度、メタンのクランプト同位体および希ガス同位体を含む複数の地球化学的指標を組み合わせて、蛇紋岩に関連したメタンの炭素源および生成した場所の制約を行った。研究対象は蛇紋岩体直上に位置する水素とメタンガスに富む強アルカリ性温泉である。メタン中の14C濃度が検出限界付近であるのに対し、揚湯パイプ壁面上に形成した炭酸塩中には50pMC以上の14Cが含まれていることが分かった。メタンのクランプト同位体から見積もられたメタンの生成(あるいは最終平衡)温度は200℃以上であり、メタン生成が起きた場所は天水が循環する深度よりも深部であると推定された。希ガスの同位体組成は深部起源ヘリウムの高い寄与率を示し、白馬八方温泉に深部起源ガスの浸入があることを支持する。本研究の結果は、メタンが主に地下深部で生成され、その後に浅部で循環する天水に取り込まれたことを示唆する。

  • 廣瀬 丈洋, 中田 亮一, 岡崎 啓史, 渋谷 岳造
    専門分野: G04 初期地球から現在までの生命圏の地球化学
    p. 49-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    地震発生時には断層沿いに摩擦発熱が生じて、断層帯内部で岩石と水の物理化学反応が劇的に進行する。オリビンを用いた地震性高速摩擦実験とX線吸収端近傍構造(XANES)分析の結果、(1)地震時の数秒程度の剪断破壊によってオリビン中の鉄の酸化反応が進行すること、(2)この動的酸化反応はナノスケール破壊粒子と摩擦発熱によって超臨界状態となった水との反応に起因すること、(3)剪断エネルギーと酸化反応量に相関があることがわかった。本研究で明らかとなった剪断エネルギー(地震マグニチュードに変換可能な量)と酸化反応量の相関と、地震観測のデータを組み合わせれば、今後、地下生命の代謝に必要な酸化還元エネルギーが地震によってどの程度生み出されているのかを評価することが可能となる。

  • 赤堀 愛香, 渡辺 泰士, 田近 英一
    専門分野: G04 初期地球から現在までの生命圏の地球化学
    p. 50-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
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    初期の太陽は現在より20-30%暗かったが,当時の気候は温暖であったと示唆されており,高濃度の二酸化炭素(CO2)に加え,メタン菌の活動によって生成されるメタン(CH4)が重要な役割を担っていたと考えられている.Ozaki et al.(2018)では,大気光化学-海洋微生物生態系結合モデルを用いて,初期地球大気に必要とされるCH4濃度を実現可能な条件を検討した.そして水素や鉄を利用する複数の嫌気性光合成細菌が共存する場合には,高いCH4濃度をもたらす高いCH4フラックスが実現可能なことが示された.本研究では,大気光化学―海洋微生物生態系のそのような挙動及びCH4濃度がCH4フラックスの2乗に比例して増加する理由を詳細に解析するとともに,さらに幅広いCH4フラックス領域におけるCH4濃度の関係についても調べ,基本的に両者は比例関係にあることを明らかにした.さらに,海洋微生物生態系活動の有無が初期地球の大気組成に与える影響についても議論する.

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