河西秀夫教授(故人)は露頭で観察した地質体の接触関係を「構造グラフ」,新旧関係を「層序グラフ」で表現する方法を提案した.構造グラフは地質体(頂点)の集合と隣接する地質体の順序対(辺)の集合および辺にラベル(接触関係の種類)を与える写像で定義されるラベル付き有向グラフである.層序グラフは構造グラフから導かれる新旧関係を表現するラベル付き有向グラフである.2つのグラフは露頭での観察結果を数学的に取り扱うことを可能にする独創的な方法である.故人の提案の意義が広く理解されることを目的にして,提案の概要を総括するとともにその発展形を試案として提示した.まず,単純な数学モデルと基礎にして,整合,不整合,貫入,断層という4種類の接触関係を含む地質構造に対する2つのグラフの諸特性および構造グラフを層序グラフに変換する推論規則とともに総括した.さらに,その発展形として,グラフの和とよばれる集合演算によって,露頭でえられた構造グラフの組から地域層序を求める処理の流れを提案し,その意義を地質構造の3次元モデリングの観点から考察した.