名古屋市東部から岐阜県東濃地方の丘陵には, 河成の上部中新統~下部更新統東海層群が分布する. 東海層群の中でも, 領家花こう岩類, その中でも苗木花こう岩を基盤岩とし, それを直接不整合に覆う瀬戸陶土層やその相当層には, 古くから自形の石英巨晶(水晶)が砕屑粒子として産出することが知られている(中山, 1987など). 中山は, 中津川市八幡鉱山で, 久保と中山は瀬戸市丸藤鉱山と珪組第一鉱山で, 瀬戸陶土層とその相当層の基底部から数多くの自形石英巨晶を発見した. 特に丸藤鉱山は, 露頭状況が良好な上, 長径30cm以上の大型の石英巨晶が複数観察できた.
ところで, 八幡鉱山と丸藤鉱山の河成層から産出した石英巨晶の多く, 特に長径30cm以上のものの全てには, 黒色基底部のまわりに乳白色部が重なるという特徴が認められる. これは, 苗木花こう岩中の石英巨晶がいわゆる「黒水晶・煙水晶」として黒色部だけを呈することと異なる. そこで, 黒色部と乳白色部からなる石英巨晶, それに比較のために岐阜県恵那郡田原の苗木花こう岩の石切り場から得た黒色の石英巨晶, そして瀬戸市珪組第一鉱山から得た黒色の石英巨晶について, 酸素同位体組成を測定した(Mizota et al., 1998). その結果は, 黒色部と乳白色部からなる巨晶は, 黒色部をテンプレートとして乳白色部が異なる温度および溶液組成条件のもとで後に成長したことを示唆している.
ここで紹介する石英巨晶は, 河成層の中から産出することと, 成因的に二重成長しているという点で他に類をみないものといえる. なお, 中津川市八幡鉱山は, 現在埋め立てられ工場用地となっている. また, 丸藤鉱山も陶土の採掘に伴い巨晶の採取は現在困難である. なお, 中津川市に隣接する恵那郡の博石館には, 同郡の岩本鉱山産の類似の石英結晶が数点展示されている.
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