中朝・揚子地塊の衝突帯である飛騨変成帯の形成から日本海の誕生を経て,今日の共役断層系を特徴とする地質構造誕生までの相互の関係が,飛騨変成岩類や飛騨花崗岩類のジルコンのSensitive high-resolution ion microprobe 年代(SHRIMP年代)およびモナザイトや閃ウラン鉱などのU-Th-Pb electron microprobe 化学年代(EMP化学年代:補正方法の異なるCHIME 年代も含む)と,手取層群および北陸層群(八尾層群)の砕屑性ジルコンやモナザイトのEMP 化学年代とレーザーICP-MSによるU-Pb年代(ICP-MS年代)とのリンクにより明らかになりつつある.本地質巡検は,個々の地質体の形成過程だけではなく,露頭からの具体的な年代データにもとづく地質体相互の関係から,本地域の地質発達史を理解することを目的としている.
船津花崗岩類の模式地である飛騨市神岡町船津では,約3 億年花崗岩が約2.5億年をピークとする飛騨変成作用で正片麻岩(Orthogneiss)に変化する様を観察する.神岡町小谷露頭では,約3 億年から2億年にかけて繰り返し生成した単斜輝石ミグマタイト(伊西岩)と変ハンレイ岩の関係,さらにそれらを貫く白亜紀後期-古第三紀初頭の神岡鉱床と関係するヘデンベルグ輝石脈(杢地鉱)を観察する.横山衝上断層では,飛騨帯由来のジルコンを含む白亜紀手取層群と約2 億年飛騨花崗岩類の関係を見る.さらに富山市側の手取層群庵谷(いおりだに)峠礫岩層では,中朝・揚子地塊衝突帯起源ではあるが,直下の飛騨帯に由来しない赤色花崗岩礫やその産状を観察する.富山平野の山岳側の縁に位置する中新世八尾層群楡原(にれはら)層芦生(あしう)砂岩層の砕屑性のジルコン粒子は手取層群と同じ約18億年,2.5億年および2億年という年代パターンを示し,日本海拡大前段階のドーミングに伴う飛騨山地の上昇による再削剥が示唆される.それに対して,さらに上位の八尾層群黒瀬谷層の砕屑性ジルコンの年代パターンは2億年よりも古い年代がなくなり,白亜紀以降の年代が卓越しており,日本海拡大以降,砕屑性の堆積物粒子の供給源として大陸の影響がおよばなくなったことを示す.
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