地質学雑誌
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119 巻, 2 号
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特集 構造地質学と応用地質学の接点
総説
  • 鶴田 忠彦, 田上 雅彦, 天野 健治, 松岡 稔幸, 栗原 新, 山田 泰広, 小池 克明
    2013 年 119 巻 2 号 p. 59-74
    発行日: 2013/02/15
    公開日: 2013/05/28
    ジャーナル フリー
    日本原子力研究開発機構が岐阜県瑞浪市に建設中の瑞浪超深地層研究所では,結晶質岩花崗岩)において深地層の科学的研究を進めている.瑞浪超深地層研究所で行っている地質学的調査では,特に花崗岩中における地下水などの流体の主要な移行経路である割れ目や断層などの不連続面構造の不均質性や特性に着目して,地表地質調査,反射法弾性波探査,ボーリング調査,研究坑道における地質調査などからなる現場調査と,それらの結果に基づく地質構造のモデル化を行っている.これまでの地質学的調査により,地下水の流動を規制する低透水性の断層の特性に関する知見の蓄積や,断層の発達過程に着目したモデル化手法の整備などを進めている.本報では,地質構造に関する現場調査と,それらの結果に基づく地質構造モデルの構築に関する事例の紹介を通して,瑞浪超深地層研究所における地質学的調査について解説した.
  • 竹内 真司, 三枝 博光, 天野 健治, 竹内 竜史
    2013 年 119 巻 2 号 p. 75-90
    発行日: 2013/02/15
    公開日: 2013/05/28
    ジャーナル フリー
    高レベル放射性廃棄物の地層処分やエネルギーの地下備蓄などの分野では,地下深部の地下水流動に影響をおよぼす構造を適切に把握することが,地下施設の設計や物質の移行などを評価するうえで必要不可欠である.地下水流動を規制する地質構造要素として,透水性の高い水みちや地下水流動を遮るような構造などが考えられる.このうち水みちについては,複数の検層手法を比較検討した結果,流体電気伝導度検層が最も多くの水みちを検出できることを確認した.またボーリング孔沿いに存在する複数の水みちの連結性は,水理試験時の水圧の経時変化データの時間微分値を透水量係数の時間変化に換算した値を指標とすることが有効である見通しを得た.さらに,複数孔間の水みちの連結性については,孔間水理試験で得られる水頭拡散率が有効な指標となる可能性を示すとともに,同試験の水圧応答挙動から,遮水性の構造で囲まれた領域を推定可能であることを示した.
  • 芝崎 文一郎
    2013 年 119 巻 2 号 p. 91-104
    発行日: 2013/02/15
    公開日: 2013/05/28
    ジャーナル フリー
    内陸大地震の発生過程を理解するためには,外力としてのプレート間の相互作用による応力蓄積過程と,島弧内で応力を開放する内的な非弾性変形と断層成長過程を解明する必要がある.内的な非弾性変形と断層運動は,島弧地殻・最上部マントルの不均質なレオロジー構造に支配される.本稿では,内陸地震発生解明に向けた,不均質なレオロジー構造を考慮した東北日本および中越地域における変形と断層形成過程のモデル化を紹介する.脊梁山脈周辺では地温勾配が高く,その領域の地殻深部で非線形流動による短縮変形が生じ,それにより上部地殻で断層が形成される.他方,日本海拡大時に背弧で地溝帯形成に伴って生成された正断層が,短縮変形場の中で,逆断層として再活動することが考えられており,中越地域においては,埋没した地溝や基盤内の摩擦強度の小さな領域を考慮することで最近発生した大地震の断層成長過程を再現できる.
  • 遠田 晋次
    2013 年 119 巻 2 号 p. 105-123
    発行日: 2013/02/15
    公開日: 2013/05/28
    ジャーナル フリー
    1995年兵庫県南部地震以降,地震発生確率の低い地域で内陸被害地震が続発した.この事実は,活断層の調査結果を反映した確率予測図が必ずしも有効に機能しているわけではないことを示す.そのため,著者1923年以降の内陸地震と地震断層出現率を再検討した.その結果,震源の把握につながる地震断層の出現率はM6.5以上で20%,M7.0以上で44%となった.したがって,地震断層の同一パターンの変位の累積が活断層と等価であると仮定すると,活断層情報のみによる地震評価に過小見積もりが生じる.また,既知の活断層と確率値からの計算でも,観測された地震数の2–7割程度までしか再現できず,多数の活断層が潜在する可能性がある.一方,活断層分布・内陸地震には顕著な地域性や偏在性がある.これは断層成熟度や応力解放システムの違いを反映し,地震発生の時系列的特徴までもコントロールする.地震サイクルの理解が進んでいる海溝型地震では更新過程を考慮した確率算定が有効だが,内帯では活断層情報だけではなく広域地殻変形等を考慮した確率算定が必要であろう.
  • 當舎 利行, 奥山 康子, 石戸 経士
    2013 年 119 巻 2 号 p. 124-138
    発行日: 2013/02/15
    公開日: 2013/05/28
    ジャーナル フリー
    大気中CO2濃度の上昇が地球環境負荷と広く認識されるようになって以来,「地球温暖化」対策の速効策として「二酸化炭素分離・回収と貯留(CCS)」技術が急速に進展している.貯留方法としては,ロンドン条約96年議定書の発効以降,CO2地中貯留がほぼ唯一の選択肢となり,ここに地質学とCO2対策との接点が生まれた.いくつかのCO2地中貯留方式の中で,地質学的に貯留の可能性を示唆する構造(閉鎖構造)が必ずしも自明ではない一般(深部塩水)帯水層貯留が,わが国では最も有力視されている.2003年から2005年にかけて新潟県長岡市にて行われた岩野原圧入実証試験は,全貯留量は約1万トンであったが,陸域帯水層へのCO2地中貯留試験という点で画期的であった.2011年3月末現在10万トン規模の回収から貯留までの大規模実証試験の準備が進行中である.本稿では,世界の代表的実証試験例と産総研での基礎研究の要点,および事業化に向けた法体系の整備状況について簡単な解説を加える.
  • 徂徠 正夫
    2013 年 119 巻 2 号 p. 139-152
    発行日: 2013/02/15
    公開日: 2013/05/28
    ジャーナル フリー
    CO2地中貯留における地化学プロセスについて,最新の研究の動向とこれまでに得られた知見のレビューを行った.帯水層への貯留では,CO2の溶解による地層水の酸性化を起点として,一連の地化学プロセスが起こる.これらのプロセスは,長期にわたりCO2の形態を変換させていくことにより,貯留の安全性を強化する反面,CO2の圧入時から圧入井 周辺での漏洩リスクの増加や圧入性の低下など負の影響を及ぼす可能性もある.地化学プロセスへのアプローチとして,主としてシミュレーションを用いた評価が行われているが,現状では特に反応キネティクスに関して多くの不確定性が含まれている.したがって,計算結果の信頼性の向上は,速度論に関わる知見や高精度のパラメータの取得に依存してい る.今後は,CO2地中貯留の安全性,経済性,環境影響等の改善等を目的とした,地化学 プロセスの積極的な活用も重要な視点となる.
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