瀬戸内火山岩類は九州東部の大野地域から愛知県東部の設楽地域にかけて,中央構造線沿いにおよそ600 kmにわたり分布する.瀬戸内火山岩類を特徴付ける岩石種のひとつである高Mg安山岩は大野地域から紀伊半島中部の範囲で見られ,松山周辺では高縄半島から防予諸島にかけて広く分布する.本巡検対象の松山周辺では,安山岩類の多くは小規模な岩頸あるいは岩脈として産するため,貫入様式の観察には好適である.さらに瀬戸内火山岩類にはピッチストーンなどを含む珪長質火山岩類も広くみられる.この珪長質火山岩類は,松山周辺では砕屑岩および火砕岩からなる高浜層群,興居島層群中に含まれる.分布は極めて狭いが多様な岩相をもつこれらの地層群についても興居島南東海岸の露頭で観察を行う.
愛媛県西予市城川町や野村町は,黒瀬川構造帯(市川ほか,1956)の模式地としてよく知られており,黒瀬川古期岩類である先シルル系の三滝火成岩類・寺野変成岩類・シルル系(~デボン系)の岡成(おかなろ)層群が分布している.日本最古級の地質が観察されるこの地域一帯は,大野ヶ原周辺の四国カルストの石灰岩体や,宇和海沿いの三瓶町須崎海岸のシルル系や仏像構造線なども含めて,2013年に四国西予ジオパークとして日本ジオパークに認定された.
本巡検では,黒瀬川構造帯の模式地の一つである三滝渓谷の三滝火成岩類や,寺野集落周辺の寺野変成岩類,シルル系の岡成層群など,四国西予ジオパークのジオサイトを中心に訪れる.また,黒瀬川構造帯周辺の新期伊野変成コンプレックス(脇田ほか,2007)に対比されると考えられる緑色片岩や,三宝山帯の鳥巣層群の石灰岩などを観察する.
領家帯は,白亜紀の花崗岩類とそれらに密接な関係をもつ変成岩類からなる地体構造単位である.これまでに,構造地質学,変成岩および深成岩に関する岩石学,地球化学,年代学などからの研究が数多くなされてきた.領家帯は,下部グラニュライト相に達するような広域変成作用を被っていることから,かつての島弧の地殻断面が隆起・露出していると考えられている.島弧地殻内部で発生する地震の震源は,地下約20kmよりも浅い領域に集中し,それよりも深い領域で稀なのは,地殻の深部では岩石が流動的に変形するために地震を引き起こすような脆性破壊が起きにくいことが理由とされている.島弧地殻を構成している珪長質岩石の変形機構は,石英と長石のレオロジーから,300°Cから450°Cの間の温度条件で脆性から塑性に遷移すると推定され,島弧の地温勾配を25°C/km程度と仮定すると,脆性-塑性遷移領域は12kmから18kmの深さの範囲にある.本巡検では,島弧の深部地殻での花崗岩質マグマの挙動,中部地殻でのコンピテントレイヤーの形成とその破壊における流体の挙動という視点から岩国-柳井地域の領家帯を案内する.
棚倉断層沿いに発達する中新統は日本海拡大期の左横ずれ運動によって形成された横ずれ堆積盆を埋積したものである.そこに挟在する男体山火山角礫岩は,組成がアイスランダイト質であり,日本海拡大と密接に関係しているものと考えられている.主に堆積相解析を用い,火山体(男体山海底火山),火山活動の詳細を検討した結果,男体山海底火山は複数の噴火口をもつ複合火山であり,非爆発的な噴火を連続して起こしたことが明らかになった.当時の男体山海底火山周辺の古応力は,男体山火山角礫岩中の石英脈の方位がNE-SWからENE-WSWに揃うこと,沈降場であったことから,NW-SEからNNW-SSE方向の引張軸をもつトランステンション領域における応力場であったことが示唆される.棚倉断層の横ずれ運動によるトランステンションの応力により地殻が破断し,下部地殻の部分溶融起源のアイスランダイト質マグマが急速に上昇,噴出した可能性が高い.
球状氷を砂粒子に見立てた,砂岩の続成作用(特に砂の固結化作用)を教示するための実験(A, B, C)を考案,実施し,その実用性を検討した.実験Aでは,氷点下で2つの球状氷を塩ビパイプ中に重ねて静置した.実験Bでは,実験Aと同様の方法で,2つの球状氷の上に890gの重しを乗せた.実験A,Bともに,1ヶ月後,球状氷は結合していた.実験Cでは,室温下でアクリルパイプ中に2つの球状氷を重ねて入れ,ラップで密閉した後,氷点下で静置した.2ヶ月後,球状氷は結合していた.実験Aの1ヶ月後および実験Cの2ヶ月後における結合した球状氷を薄片にし,偏光板に挟んでクロスニコル状態で観察した.実験Aでは面接触を示し,球状氷の結合が圧力溶解による砂粒子の結合に類似していた.実験Cでは,球状氷は霜を介して結合されていた.実験A,Bは圧力溶解,実験Cはセメント化作用を模した実験教材として活用できると考えられる.
関東平野中央部で掘削されボーリングコアの解析に基づき,同地域の地下600mまでの上総層群および下総層群相当層の層序を検討し,間に挟在する海成層と海洋酸素同位体比ステージ(MIS)との対比を試みた.本地域の上総層群相当層は,Gauss正磁極帯に対比される上部鮮新統と下部~中部更新統からなり,その上位に中~上部更新統の下総層群相当層が重なる.上総層群相当層準には,約1.6Ma付近に50~100万年間の堆積間隙を持つ不整合が認められる.約1.6Ma以降の地層には大きな堆積間隙は認められず,陸成層と海成層が周期的に繰り返す地層が重なる.対比された海成層の分布深度に基づくと,久喜市から春日部市付近が関東平野中央部における1.6Ma以降の沈降運動の中心であることが示された.同時に,不整合の存在からは,この沈降は第四紀を通した運動ではなく,約1.6Ma以降の構造運動であると解釈される.
This paper describes a new species of Cyrtospirifer (Late Devonian Brachiopoda) from the Ainosawa Formation of Soma, Abukuma Mountains (South Kitakami Belt), northeast-ern Japan, termed Cyrtospirifer ainosawensis, sp. nov. by Tazawa, Inose and Kaneko. This new species most resembles Cyrtospirifer choanjiensis of Tazawa (2017), described from the Upper Devonian of Choanji, southern Kitakami Mountains (South Kitakami Belt), northeastern Japan.