Annual Meeting of the Geological Society of Japan
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S1. Cretaceous Flare-up in the Circum Pacific Region
  • Kenichiro Tani, Yukiyasu Tsutsumi, Teruyoshi Imaoka, Kenji Horie, Dani ...
    Session ID: S1-O-1
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    Convergent plate margins, such as the Mesozoic-Cenozoic circum-Pacific orogenic belts, are regarded as one of the plausible candidates for the post-Archean continental crust formation, as they are associated with abundant calc-alkaline I-type batholiths. However, the fundamental tectonic processes that triggered these voluminous granitic crust formations have remained largely unresolved due to the lack of precise temporal constraints on the granitic magmatism. We have conducted a comprehensive geochronological study of the granitic and silicic volcanic rocks exposed in the Southwest Japan Arc, which is typical of the circum-Pacific orogenic belts, utilizing zircon U-Pb geochronology. Newly obtained zircon ages reveal three clear pulses of granitic crust formation at 85, 60 and 35 Ma separated by approximately 25 million year intervals. The ca. 85 Ma magmatism was the most voluminous and was distributed in a broad zone that extends ~120 km across-strike, whereas the magmatism at 60 and 35 Ma were focused on the northern margin of the SW Japan Arc. Furthermore, the magmatism at 85 Ma involved sediment-incorporated, ilmenite series granitic rocks, while the magmatism at 60 and 35 Ma involved more juvenile, mantle-derived, magnetite series rocks. Thus, not only did the silicic magmatism in SW Japan occur in pulses, there was also a spatial and compositional transition in the magmatism through time. The ocean basin reconstruction model by Müller et al. (2008, Science) revealed pulsed oceanic crust production at the mid-oceanic ridges in the Pacific Plate during the Jurassic to Paleogene, also showing approximately 25 million year interval, indicating that convergence rate of the Pacific Plate around the circum-Pacific region has experienced fluctuation of similar time interval. This suggests that pulsed Cretaceous-Paleogebe silicic crust formation revealed in the SW Japan can potentially be attributed to the enhanced subduction zone magmatism.

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  • Yukiyasu Tsutsumi, Kenichiro Tani
    Session ID: S1-O-2
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    西南日本内帯の白亜紀-古第三紀花崗岩類は,基本的に大陸側に向かって若くなる傾向を持ち(Iida et al., 2015),九州でも同様と考えられてきた(大和田ほか, 1999;Tsutsumi, 2022).しかしながら,最近のジルコンU-Pb年代測定により,九州の白亜紀花崗岩は大陸側に向けて単調に若くなるのではなく,大陸側と海洋側双方に向かって古くなる年代傾向を持つことが分かった(図A). 巨大海台の沈み込みによりイザナギプレートのスラブが水平となったため,ジュラ紀の火山前線はアジア大陸の内陸にあった(Kiminami & Imaoka, 2013).ジュラ紀末からのスラブの剥離とロールバックにより火山前線が海洋側に移動した結果,朝鮮半島の白亜紀花崗岩類は大陸側ほど古い(Kim et al., 2016).北部九州西部花崗岩類は大陸側ほど古くなる94 -112 Maの年代を示し,朝鮮半島南西部と深い関係が示唆される. 一方,北部九州東部花崗岩類は岩石学的特徴(石原ほか; 井沢ほか, 1989),秋吉帯および周防帯への貫入,山陽花崗岩のジルコンU-Pb年代(96-105 Ma; Imaoka et al., 2022; Skrzypek et al. 2016)に対応する北に向かって若くなる96-107 Maの年代などから,山陽帯の西側延長と思われる.また,国東半島中部から西部の花崗岩類は高温型変成岩を伴い,柳井地域および高縄半島の領家花崗岩の年代(主に94-105 Ma; Shimooka et al.,2019; Skrzypek et al. 2016)に対応する96 -100 Maの年代を示すため,領家帯の延長と思われる.国東半島東端は108-110 Maを示し,肥後深成岩類(108-113 Ma; Tsutsumi, 2022)に対応する. さらに,東部花崗岩類で最も若く北端にある平尾岩体は,西部花崗岩類南端の佐賀岩体および草野岩体よりも古い.このずれは,磁鉄鉱系列花崗岩類の分布と同様,小倉-田川構造線の西側を北に戻すことで解消可能である(石原ほか, 1979).チタン鉄鉱系列と磁鉄鉱系列の境界の位置は海溝からの距離に依存する.よって,草野岩体と佐賀岩体の南部は東部花崗岩類と同様に山陽帯の西側延長部であると考えられる. 以上の結果より,白亜紀中期の東アジア収束域には時代と共に互いに接近する大陸側と海洋側の2つの火山帯が同時に存在したことが示唆される.朝鮮半島と西南日本の花崗岩類はその痕跡であり,九州の白亜紀花崗岩類は2 つの火山帯の「接合部」を示すと考えられる.白亜紀の海洋側の熱活動は120 Ma頃に始まったが,その痕跡は肥後帯や荷尾杵花崗岩などの中部九州南部にのみ残存し,多くは中央構造線(MTL)の衝上(Yanai et al., 2010)によって失われた.本研究の年代学的まとめを図Bに示す.Iida et al. (2015) Island Arc 24, 205-220.; Imaoka et al. (2022) Eng. Geol. JPN, 12, 5-17.; 石原ほか (1979) 地雑 85, 47-50.; 井沢ほか (1990) 月刊地球 12, 435-439.; Kim et al. (2016) Lothos, 262, 88-106.; Kiminami & Imaoka (2013) Terra Nova, 25, 414–422.; 大和田ほか (1999) 地論 53, 349-363.; Shimooka et al. (2019) JMPS 114, 284-289.; Skrzypek et al. (2016) Lithos, 260, 9-27.; Tsutsumi (2022) Island Arc 31, e12446.; 柳井ほか (2010) 地雑 119, 1079-1124.

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  • Tetsuo Kawakami
    Session ID: S1-O-3
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    領家帯における花崗岩類の固結年代は、古くはCHIMEモナズ石年代測定により貫入関係に整合的な年代値が柳井地域と三河地域で得られ、年代間隔をおかずに断続的に花崗岩類の貫入が起きたと考えられていた[1]。しかし、LA-ICPMS等による花崗岩類のU-Pbジルコン年代測定が盛んに行われるようになると、花崗岩類の活動年代にパルス性があり、パルスごとに貫入深度の変動が見られることがわかってきた[2-4]。 この特徴は三河地域で顕著である。三河地域では99-95 Maに片麻状花崗岩がBt帯(0.29-0.37 GPa)[5]相当深度(11-14 km)に変成岩類の面構造に調和的に貫入し、その後81-75 Maに別の片麻状花崗岩がGrt-Crd帯相当深度(16-23 km)に変成岩類の面構造に調和的に貫入した。続いて75-69 Maに多量の塊状花崗岩類が広域変成の変成分帯に非調和に貫入した。75-69Maの塊状花崗岩類の貫入深度は接触変成帯から0.23-0.32 GPaと見積もられており、浅部(9-12 km)に貫入した花崗岩類であると言える。塊状花崗岩類の貫入は三河地域のBt帯からGrt-Crd帯にかけてみられる一方、81-75 Maの片麻状花崗岩類から見積もられる固結圧力はGrt-Crd帯(0.43-0.57 GPa)[5]相当のため、81 Ma以降75 Maの間には広域変成帯は傾動、高変成度側が選択的に削剥され、Grt-Crd帯はBt帯相当の深さまで上昇したことになる。領家帯の花崗岩類の年代学的研究は急速に増加しているが、特に貫入深度の年代変化は、当時の地殻がおかれたテクトニックな状況を反映している可能性があるため重要である。浅部に貫入した75-69 Maの塊状花崗岩類、同時期の斑レイ岩類[6]は、70Maの年代を示す濃飛流紋岩と同期しており、イグニンブライト・フレアアップの深部相と解釈できる[7]。 一方、花崗岩の貫入を受ける側の地殻の応答も、近年徐々に明らかになってきた。三河地域のGrt-Crd帯の複数試料中のジルコンを年代測定したところ、各試料に複数の異なる変成年代が記録されていた。ジルコンはメルトの存在下で成長が著しい [8]ことから、Grt-Crd帯全体が97-87Maの間、部分融解していたと考えられる。さらに84Maにも変成リムが成長していることから、Grt-Crd帯の構造的直下に貫入した片麻状花崗岩の接触変成を記録していると解釈された[7]。この特徴は、青山高原地域でも見られる[9]。75-69Maの塊状花崗岩類のうち最大の岩体である伊奈川花崗岩の周囲では、大規模な接触変成帯の形成[10]と部分融解がみられ、同時期のペグマタイト脈は延性変形している [7]が、変成帯全体から見れば局所的な範囲にとどまる。 柳井地域では花崗岩類の貫入年代が105-94 Maに集中する傾向があるが[2]、貫入深度が浅部à深部à浅部と変化する傾向は三河地域と共通している。105 Maの塊状花崗岩がBt帯とMs-Crd帯相当(0.07-0.19 GPa)[11]の浅部(3-7 km)に貫入し、続いて100-98 Maに片麻状花崗岩がGrt-Crd帯相当(0.43-0.63 GPa)[11]の深部(16-23 km)に変成岩の面構造の調和的に貫入、続いて96 MaにChl帯からKfs-Crd帯の変成分帯を切って塊状岩体が貫入している[2]。柳井地域から南東に位置する久賀地域での花崗岩類のU-Pbジルコン年代は88-100 Maと若い方にも広がる[12]。柳井地域のGrt-Crd帯の変成ジルコン年代(103-99 Ma)は周囲の花崗岩類の年代とほぼ同じであり、後の塊状花崗岩貫入の影響を受けていない点で三河地域や青山高原地域とは異なる。 領家帯の形成テクトニクスや変成履歴に関しては、柳井地域の研究[e.g. 2, 11, 13]をもとに多くの研究がなされてきたが、年代的にも花崗岩と変成岩の関係も、柳井地域は青山高原地域や三河地域と異なっており、領家深成・変成作用には地域性が大きい。今後のテクトニクスの議論では地域差をうまく説明できることが重要である。[1] Suzuki & Adachi 1998 JMG [2] Skrzypek+ 2016 Lithos [3] Takatsuka+ 2018a Island Arc [4] Takatsuka+ 2018b Lithos [5] Miyazaki 2010 Lithos [6] Nakajima+ 2004 TRSE [7] Kawakami+ 2022 Island Arc [8] Kawakami+ 2013 CMP [9] Kawakami & Suzuki 2011 Island Arc [10] 三宅+ 2014 地雑 [11] Ikeda 2004 CMP [12] 宮下+ 2018 地質学会要旨 [13] Okudaira 1996 JMG

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  • Kazuya Shimooka, Mitsuhiro Nagata, Yasuhiro Ogita, Toshiro Takahashi, ...
    Session ID: S1-O-4
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    1. はじめに西南日本内帯には、東アジア大陸縁辺域の白亜紀フレアアップイベントで形成された花崗岩類が広く分布している。近年の同位体岩石学をはじめとした研究から、これらの花崗岩類は苦鉄質下部地殻の部分溶融によるものであると考えられているが(例えば, Nakajima 2004, Trans. R. Soc. Edinb. Earth Sci.)、そのメカニズムは未だ明らかにされていない。梶島は愛媛県北東部に位置し、岩脈状の花崗岩を伴う白亜紀斑れい岩類が広く露出する。堀内(1985, 岩石鉱物鉱床学会誌)は当地域に分布する斑れい岩類について詳細な記載岩石学研究を行い、鉱物組成の特徴から当地域の斑れい岩類が同一のマグマから形成されたことを示唆した。一方で、Kagami et al. (1985, Geochem. J.; 2000, Island Arc)は梶島の斑れい岩類を含む西南日本白亜紀深成岩類の同位体岩石学研究から苦鉄質岩と珪長質岩の成因的関連性を示唆した。Shimooka et al. (under revision)は梶島の斑れい岩類と花崗岩類についてジルコンU-Pb年代測定を行い、斑れい岩類と花崗岩類から92–91 Maと約84 Maのマグマ活動年代を報告した。白亜紀の斑れい岩類はマントルの活動に伴って形成された可能性が指摘されていることから(例えば、Kodama et al., 2019, JMPS)、梶島における斑れい岩類と花崗岩類との成因関係を明らかにすることは、西南日本のマントル−地殻間のマグマ過程の解明と白亜紀フレアアップのメカニズムを理解することに繋がる。本研究では、梶島の斑れい岩類中に花崗岩類が生成された野外産状を新たに発見した。これらの野外産状に加え、深成岩類の岩石記載、全岩主要微量元素組成、全岩Sr-Nd同位体組成、ジルコンHf同位体比のデータに基づき、白亜紀フレアアップイベントでの花崗岩質マグマ生成プロセスを明らかにする。2. 野外産状・岩石記載当地域の花崗岩類は、母岩の斑れい岩中に岩脈状に産出する。また、斑れい岩中にはしばしばcmオーダーの花崗岩質メルトの網状構造が発達する。この花崗岩質メルトの網状構造は、斑れい岩と漸移的な境界を示し、一部は花崗岩質なメルトプールや岩脈へと変化する。斑れい岩中には半自形~他形の輝石、融食された斜長石とカンラン石をポイキリティックに内包する角閃石巨晶が観察できる。3. 全岩主要微量元素組成主要元素組成分析の結果、花崗岩類はSiO2含有量72.0~75.7 wt%、K2O含有量0.9~5.5 wt %の組成範囲を示す。コンドライト(Barrat et al., 2012, Geochim. Cosmochim. Acta.)で規格化した希土類元素組成は、細粒斑れい岩を除く全ての斑れい岩類で正のEu異常(Eu/Eu*=1.5~9.1)を示す。一方で、花崗岩類は、低SiO2質な試料ほど正のEu異常(Eu/Eu*<1.2)、高SiO2質な試料ほど負のEu異常(Eu/Eu*>0.6)が大きくなる傾向がみられる。4. 全岩Sr-Nd同位体組成・ジルコンHf同位体組成ジルコンU-Pb年代に再計算した斑れい岩類のSr-Nd 同位体組成は花崗岩類の同位体組成と類似する(Fig. 1a)。ジルコン Hf 同位体組成も同様に、斑れい岩類と花崗岩類で類似した組成範囲を示す(Fig. 1b, c)。5. 議論梶島における斑れい岩類と花崗岩類との全岩Sr-Nd同位体、ジルコンHf同位体組成の一致は、両者の成因的関連性を強く示唆する。野外および鏡下での記載岩石学的特徴からは、斑れい岩の部分溶融もしくは斑れい岩質マグマの結晶分化による花崗岩質マグマの生成が示唆される。マグマ混合をはじめとした複雑なマグマプロセスの考慮は今後の課題である。本研究では、新たに、斑れい岩と花崗岩のεNd(t) とジルコンεHf(t)の多くが負の値を示すことを明らかにした。このことは、白亜紀フレアアップでは斑れい岩の起源物質であるマントルがエンリッチしていたことを示唆する。さらに、本研究での深成岩類の示すジルコンHf同位体組成(εHf (t) =-13~+2; Fig. 1b, c)は、白亜紀ユーラシア縁における既報の白亜紀深成岩類の同位体組成(εHf(t)=-30~+4; 例えば、Wang et al., 2020, Canad. J. Earth Sci.; Liu et al., 2018, Acta Geol. Sinica)の中に収まることから、梶島の深成岩類は西南日本内帯の白亜紀深成岩類を代表するものと考えることができ、苦鉄質下部地殻での珪長質マグマ形成過程を記録した地質体と捉えることができる。

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  • Jonny Wu, Tsung-Jui Wu, Ken Yamaoka
    Session ID: S1-O-5
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    Japan has been situated along an active subduction zone since at least the Cretaceous. Here we review the emerging use of seismic tomography to map subducted plates (i.e. slabs) now lying within the mantle under Japan to reconstruct Japan-NW Pacific plate tectonics since the Cretaceous. We build a ‘tomographic’ plate tectonic reconstruction and summarize the ages, kinematics, thermal regime, and likely identity of the plates outboard of Japan since the Cretaceous. Our plate reconstruction is compared against relatively independent arc magmatism along Japan and surrounding regions from 140 to 0 Ma. We explore possible links between arc magmatic flare-ups and lulls, magmatic ages, spatiotemporal patterns, and geochemical compositions and Japan-NW Pacific plate tectonics.

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  • Yoshihiro NAKAMURA, Kazuhiro MIYAZAKI, Mitsuhiro NAGATA, Yutaka TAKAHA ...
    Session ID: S1-O-6
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    白亜紀フレアアップイベントによって形成された花崗岩体南縁及び東縁部には約1000 kmに渡って延性変形帯が発達する.従来この変形帯は,プレートの斜め沈み込みによるひずみの運動論的分配によって東アジア大陸縁に形成した高角度な大規模横ずれせん断帯と解釈されてきた(高木, 1999).しかし領家花崗岩ジルコンU-Pb年代データの拡充・地震波探査による中央構造線の地下深部構造の解明・新しいプレート復元モデルの普及によって,白亜紀に定常的に活動していた島弧内の大規模横ずれ帯という解釈では説明できない研究データが多数報告されてきている.そこで我々は,各地の延性変形帯の形成タイミングを再度検討し,白亜紀火成活動に呼応して形成された延性変形場の制約と東アジア東縁の構造発達史を議論する. 延性変形によって形成されたマイロナイト帯は,複数の放射年代値を組み合わせた花崗岩体の冷却史と変形微細組織に基づく変形温度推定から延性変形年代の制約が可能である(例えばNakamura et al. 2022). 本発表では中央構造線・棚倉構造線・それらに関連した内部せん断帯と報告されている8地域の年代値をまとめ延性変形のタイミングを制約した.マイロナイトの微細組織や変形温度の報告がない試料に関しては個別にSEM-EBSD分析による石英C軸ファブリック解析から変形温度を推定して変形年代を制約した.この結果白亜紀に形成した花崗岩マイロナイトは2つの延性変形年代グループ; 1) 105~90 Ma及び 2) 80~55 Maに分類可能であることを明らかにした.前者は阿武隈地域 (畑川及び棚倉マイロナイト; 本研究)のみで発達するのに対して,後者は入良川 (綿貫ほか, 2017)・日本国 (Takahashi et al. 2012)・鹿塩 (Nakamura et al. 2022)・足助 (Kanai and Takagi, 2016)・飯南 (島田ほか 1998)・唐崎マイロナイト (本研究)に発達する.後者は四国西部から新潟県まで西から東へ変形年代が若くなる極性を示す.またいずれの地域でもマイロナイト形成時に非常に早い冷却速度 (27~56 ℃/Ma)が推定されており,火成作用終了後に起きた急激なテクトニクス場の変化によって岩体縁辺部で延性変形を引き起こしたと示唆される.鹿塩地域では,海嶺の接近に伴うスラブの浅化と前孤域削剥による後退によって火山フロント付近で形成した花崗岩類が海溝側に短期間で接近したことで急激な冷却が岩体縁辺部で起きたことが変成岩起源マイロナイト解析から示唆されている(Nakamura et al, 2022). 我々が見積もった変形年代は,いずれも数Myrから長くても10 Myr以内の継続時間で終了しており,過去に想定されていた1000~4000 kmにも及ぶ大規模横ずれ変位をこの継続期間で達成させることは困難である.我々のデータを総括すると,白亜紀フレアアップイベントのパルス的な活動と同時期に岩体縁辺部に延性変形帯が発達しており,変形活動が活発な時期の地域変遷が認められる.このような変形活動の時間的空間的変遷は,東アジア東縁における沈み込み帯における上盤/下盤プレートのカップリングの変遷を反映している可能性がある.[引用] 高木 (1999), 構造地質, 43, 21-31. Nakamura et al. (2022), JMG, 40, 389-422. 綿貫ほか, (2017), 地質学雑誌, 123, 533-549. Takahashi et al. (2012), JAES, 47, 265-280. Kanai and Takagi (2016), JSG, 85, 154-167. 島田ほか (1998), 地質学雑誌, 104, 825-844.

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  • Ken YAMAOKA, Simon Richard Wallis
    Session ID: S1-O-7
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    古日本弧における白亜紀の対の変成帯の形成とそれに伴うマグマティズムは、従来、活発な拡大海嶺と東アジア大陸縁との相互作用の結果であると理解されてきた (例えば、Uyeda & Miyashiro, 1974)。中央構造線に沿った西南日本の火成年代が示す西から東への若化トレンドは、多くの研究者によって拡大海嶺の斜め沈み込みによる海嶺-海溝-海溝の三重点の移動を反映していると考えられている (Kinoshita & Ito, 1986)。しかし、最近の海洋古底地磁気異常データやマントルトモグラフィーに基づく西太平洋の海洋プレート移動の復元からは、拡大海嶺が古第三紀初頭に、海溝におおよそ平行に沈み込んだことが示唆されており(例えば、Whittaker et al., 2007; Wu et al., 2022)、拡大海嶺沈み込みの描像は従来と比べて大きく異なっている。本研究では、海嶺の斜め沈み込みのモデルの主要な根拠となっていた火成年代の東西変化について、年代データのコンパイルに基づいて再検討することで、陸上地質記録と海洋プレート記録の両者を矛盾なく説明できるモデルを探索した。収集された1211地点のデータからは、西南日本の120–60 Maの火成活動において、同時期の火成活動の空間分布で定義される火山弧のトレンドが現在の緯線方向に並んでおり、中央構造線に対して斜交した関係を示すことが明らかになった。また、60 Maから46 Maの間では珪長質火成活動はほとんど停止し、46 Ma以降から現在の火山弧とほぼ並行なトレンドでの火成活動の再開が認められる。このような火成活動の停止は拡大海嶺が沈み込み、スラブウィンドウが形成されることで説明可能である。本発表では、海嶺沈み込み期におけるマイクロプレート回転に伴って、内帯の南縁部が中央構造線に沿って東ほど大きく侵食されるプロセスを想定することで、中央構造線と火山弧の斜交が説明できることを示す。想定される回転運動は古地磁気データとも整合的である。海洋プレートの復元では、海嶺沈み込み期以降、沈み込み方向が反時計回りにシフトしており(Seton et al., 2015)、このプレート収束ベクトルの変化が、マイクロプレートの回転に寄与した可能性がある。本研究で新たに提案するモデルでは火成活動の記録と最新の海洋プレートモデルを矛盾なく説明できる。その一方で、中央構造線に沿った大きな横ずれ断層運動は想定されないことから、従来より提案されている前弧域における横ずれ堆積盆としての和泉層群の形成モデル(例えば、平ほか, 1981)とは相容れない。また、内帯南縁部における地殻の大規模な侵食の証拠は古第三紀以降の付加体などの地質記録に残されている可能性があるが、未検討である。西南日本に分布する火成岩、変成岩、堆積岩を横断した検証が必要である。【引用文献】 Kinoshita & Ito (1986), The Journal of Geology, 92, 723–735; Seton et al. (2015), Geophysical Research Letters, 42, 1732–1740; 平ほか (1981), 科学 (Kagaku), 51, 508–515; Uyeda & Miyashiro (1974), GSA Bulletin, 85, 1159–1170; Whittaker et al. (2007), Science, 318, 83–86; Wu et al. (2022), Earth and Planetary Science Letters, 583, 117445.

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T1. Deformation and reaction of rocks and minerals
  • Tae-hoon UHMB, Takehiro Hirose, Yohei Hamada
    Session ID: T1-O-1
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    The fault friction is integral to earthquake physics, with friction playing a pivotal role in fault mechanics, such as earthquake initiation, energy dissipation during slip, and fault strength evolution. Therefore, the capability to predict future frictional behavior is a cornerstone in our quest to improve earthquake prediction and understanding. Yet, predicting future frictional behavior, a task crucial for substantial progress in earthquake prediction and understanding, remains unexplored due to the complexity of identifying relationships between past physical parameters and future friction. In this study, we constructed models, established by the Transformer Architecture, to predict future frictional behavior on experimental fault surfaces using past physical parameters, including normal stress, temperature, power density, axial shortening, and friction, recorded over specific timeframes (50 Hz). Transformers Architecture is a type of machine learning model, known for their 'attention' mechanism; they're widely used in language models like “ChatGPT” to generate natural languages. Our models are trained on sequential data obtained from the "Pressurized High-Velocity" (PHV) shear experiments conducted on Carrara Marble specimens. These experiments were performed at a constant slip velocity (0.01 m/s) under varying normal stress conditions ranging from 0.5 to 2.5 MPa. We initially evaluate the performance of each model in predicting future friction under varying slip conditions. Following this assessment, we identify the physical parameter that best elucidates future friction, based on the performance of the respective models. Further, we explore the temporal relationships between specific past physical parameter and future friction by analyzing the attention weights of the best-performing model. Our findings suggest that future friction behaviors under changing slip conditions can be predicted by certain physical parameters, notably past friction. Additionally, we observed that future friction at each given time is influenced by past physical parameters from each distinct time. We anticipate that these insights will establish a foundation for the development of future friction prediction models and contribute to a deeper understanding of fault friction behaviors.

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  • Takehiro Hirose, John Bedford, Yohei Hamada
    Session ID: T1-O-2
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    地震時の動的な高速断層すべり時には、断層沿いに摩擦熱が必然的に発生し、それに伴って断層の強度が著しく低下する。地震時に強度を失ったこの断層が、地震後にどれだけ早く強度を回復できるかは、地震の再来周期およびそれを規定している要因を探る上で重要である。断層の強度回復に関する研究は、「すべり―固着―すべり」摩擦実験(SHS実験)によって1970年代から盛んに行われてきた。しかし、当時の実験時のすべり速度は10-7~10-5m/s程度であり、地震時の>10-1m/sに及ぶ高速断層運動を再現するものではなかった。2000年代になってようやく高速断層運動が実験室で再現できるようになり、Mizoguchi et al., (2006)によって地震後の強度回復がはじめて調べられた。その結果、地震後に断層の強度は急速に回復することが報告された。しかし、その強度回復の物理化学的プロセスの詳細は不明のままであった。そこで本研究では、地震時のすべり速度を再現した高速SHS実験を行い、力学データとそれを規定する物理化学プロセスを、回収試料の微細構造組織観察と顕微ラマン分析をから調べた(Bedford et al., 2023)。 実験には高知コア研究所に設置している低~高速剪断試験機を用い、すべり速度0.57 m/s、垂直応力1.5MPaの室温湿条件で、断層面近傍の温度を熱電対で測定しながら実験を行った。実験試料には花崗岩と斑レイ岩を粒径63~125umに砕いた模擬ガウジ試料を用いた。実験の結果、(1)動的すべり停止直後から断層の強度は数十秒のオーダーで急速に回復すること、(2)その回復速度は従来行われてきた動的すべりを伴わない低速SHS実験で観察される回復速度(e.g., Dieterick, 1972)よりも1~2桁速いこと、そして(3)急激な強度回復が終了した後は低速SHS実験で得られた回復速度と同じオーダーになることが明らかとなった。動的すべり直後の急速な断層の強度回復は、強度回復時にガウジ内の圧密がほとんど進行していないことから、ガウジ粒子の摩擦接触域のクリープ変形ではなく、摩擦発熱した接触域における化学結合の変化に起因する可能性があることがわかった。  本研究によって、地震断層は地震時の摩擦発熱の影響で断層すべりが停止した後に急速にその強度が回復することが明らかとなった。このことは、地震の再来周期は、断層の強度回復過程ではなく、テクトニックな応力蓄積速度や断層すべりの安定性を支配するパラメーターの時間変化に規定されることを示唆している。Dieterich, J. H. (1972) Time dependent friction in rocks, J. Geophys. Res., 77, 3690–3697. Mizoguchi, K., Hirose, T., Shimamoto, T., & Fukuyama, E. (2006) Moisture related weakening and strengthening of a fault activated at seismic slip rates, Geophys. Res. Lett., 33, L16319, doi:10.1029/2006GL026980. Bedford, J. D., Hirose, T., & Hamada, Y. (2023) Rapid fault healing after seismic slip. J. Geophys. Res., 128, e2023JB026706, doi:10.1029/2023JB026706.

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  • Shunya Kaneki, Hiroyuki Noda
    Session ID: T1-O-3
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    脆性領域における岩石強度は、摩擦係数一定の条件では、有効垂直応力(垂直応力と間隙流体圧の差)の増加に伴って線形に増加する。特にプレート沈み込み帯では、局所的に低い有効垂直応力とスロー地震の発生との関係が、地震学的および測地学的な観測から示唆されてきた。Rice (1992) は、物性値一定の流体が鉛直横ずれ断層帯に沿って流れるモデルを考えて、断層帯の透水係数が有効垂直応力の急激な減少関数である場合、深部での有効垂直応力がある値に漸近することを数学的に示した。一方で、Riceのモデルを直接他のテクトニクス場に適用することの是非については疑問の余地が残る。Riceのモデルを発展させて沈み込み帯に適用可能なモデルを構築し、それに基づいて有効垂直応力の深度分布を定量的に評価することで、スロー地震の発生に関する議論を深めることができると期待される。本研究では、沈み込み帯浅部の脆性領域における局所的な有効垂直応力の減少を引き起こす要因について定量的に調べるため、沈み込み帯に特徴的な過程を考慮した水理学的モデルを構築し、モデル計算を行った。代表的な沈み込み帯として南海トラフ熊野沖に着目し、モデル計算時の物性値として掘削コア試料の室内実験データを参照した。基本モデルでは、堆積物の沈み込みに伴う力学的効果(例えば圧密)およびスメクタイトの脱水反応を考慮した。物理的に妥当な解(有効垂直応力が負になったり発散したりしない解)では、Rice (1992) と同様に有効垂直応力の勾配が深度の増加に伴って急激に減少するものの、現実的な流体物性を導入した影響で、深部において有効垂直応力がある値に漸近する傾向は見られなかった。また、有効垂直応力は深度の増加に対して常に単調増加であり、局所的に低い有効垂直応力の存在は確認できなかった。分岐断層への流体の流出を考慮した場合でも、有効垂直応力の局所的な減少は実現されなかった。しかし、シリカ析出などによって局所的に透水係数が減少した場合、その領域で局所的に有効垂直応力が低くなることがわかった。このことから、透水係数の局所的な減少が、浅部スロー地震の発生を引き起こす要因である可能性が示唆された。スメクタイトの脱水反応による有効垂直応力変化それ自体は支配的な要因ではないものの、反応時に放出されるシリカの析出によって透水係数の減少が促進される可能性がある。

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  • Itsuki NATSUME, Yui KOUKETSU, Katsuyoshi MICHIBAYASHI, Atsushi OKAMOTO
    Session ID: T1-O-4
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    海洋プレートは中央海嶺で形成後、海溝からマントル深部に沈み込むまでに様々な断層運動を経験する。その過程で断層沿いに浸透した海水が、海洋プレートと水-岩石反応を起こすことで、海洋プレートのレオロジーは大きな影響を受ける。特に、岩相間で元素移動が起こり得る地殻-マントル境界での水-岩石反応によって生成される含水鉱物のレオロジーへの影響については、試料採取が困難なこともあって研究が進んでいない。そこで本研究では、陸上に露出した海洋プレート断片であるオマーンオフィオライトモホ遷移帯(ダナイトとハンレイ岩が貫入により混ざり合った領域)に発達した含水鉱物を多量に含む延性剪断帯に着目した(Michibayashi and Oohara, 2013)。本研究では、この含水延性剪断帯の微細構造発達過程を基にして、海洋プレートの地殻-マントル境界における水-岩石反応を考察した。延性剪断帯の岩石試料の研磨薄片について、偏光顕微鏡・反射顕微鏡観察、顕微レーザーラマン分光分析、SEM-EDS元素マッピング、SEM-EBSD鉱物相マッピングを用いて鉱物同定と微細構造観察を行なった結果、岩石の微細組織がOl sub-zone, Amp-Pl sub-zone, Amp sub-zone, Chl sub-zone, Cpx sub-zone に分けられた。さらにこれら微細組織中の含水鉱物の形成温度およびモホ遷移帯でのダナイトとハンレイ岩の混合の影響を推定するために、縦軸に温度、横軸にダナイトとハンレイ岩を端成分とした全岩化学組成に対するシュードセクションを作成した。なお計算は、H2Oに飽和したCaO-FeO-MgO-Al2O3-SiO2-H2O系で、一般的な海洋地殻の厚さに相当する圧力(200 MPa)を仮定して行なった。シュードセクションの結果から、原岩の化学組成に依らずAmp sub-zoneは約800℃以下、Chl sub-zoneとCpx sub-zoneは約650℃以下で形成されることが示唆された。先行研究(Michibayashi & Oohara, 2013)で報告された組織の類似性をふまえてOl sub-zoneはダナイト由来の組織で、ハンレイ岩由来のAmp-Pl sub-zoneも同じく900℃~800℃程度で変形作用を受けた。その後,角閃石の充填組織より、Amp sub-zoneはOl sub-zone の形成後に変形を伴いながら形成された。さらに,緑泥石の充填組織およびChl sub-zoneへの歪の局所化を示唆する組織より、変形を受けつつ約650℃で Chl sub-zone と Cpx sub-zone が形成され、Chl sub-zone へ歪が局所化した。以上の結果より、海洋プレートのモホ面(地殻-マントル境界)に発達した延性剪断帯では、温度低下を伴う水-岩石反応によって含水鉱物を含む様々な岩石組織が形成され、歪がより変形し易い含水鉱物に局所化すると考察される。また,本研究で示された水-岩石反応は,オマーンオフィオライトが形成されたオブダクションだけでなく、海洋プレートに発達する種々の断層の深部領域でも同様に起きている可能性がある。【引用文献】Michibayashi and Oohara, 2013, Earth Planet. Sci. Lett., 377, 299-310.

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  • Hiyori Abe, Ken-ichi Hirauchi, Betchaida D. Payot, Julius A. Pasco
    Session ID: T1-O-5
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    沈み込み帯域オフィオライトは海洋プレートの沈み込み開始時に関連するプロセスを記録している.海洋底における沈み込み開始過程を再現した数値シミュレーションでは,沈み込みの継続にはプレート境界に沿って低粘性層が存在することが必要であることが示されている(Izumi et al., 2023).海洋プレートの沈み込み時には海洋地殻物質から大量の流体が上盤側のマントルウェッジに付加すると考えられるが,どのような熱水変質作用が起こり,プレート境界域のレオロジー的性質に影響を及ぼすのかについてはあまり理解されていない.そこで本研究では,中央パラワンオフィオライトの基底部かんらん岩体を研究対象として構造岩石学的解析を行った.中央パラワンオフィオライトは,上位から玄武岩質溶岩,輝緑岩,斜長石花崗岩,斑れい岩,トロクトライト,かんらん岩によって構成され,その下位に断層を介してメタモルフィックソールが位置する(Keenan et al., 2016).Keenan et al. (2016)は,約34 Maに中央海嶺の拡大軸付近で強制的沈み込みが起こり,約15 MaにCagayan Ridgeへの大陸地殻の衝突に伴いオフィオライトとメタモルフィックソールが衝上したことを指摘している.角閃岩の変成ピークは約700℃,1.3 GPaである(Valera et al., 2021, 2022).本研究で採取した基底部かんらん岩はダナイトあるいはハルツバージャイトから構成され,かんらん石の平均粒径から粗粒(約460–1560 μm)・中粒(約190–780 µm)・細粒タイプ(約50–190 μm)に区分される.メタモルフィックソールとの境界から約4–55 km離れたかんらん岩は粗粒タイプである一方,境界から約3 km以内に存在するかんらん岩は中粒・細粒タイプであった.全てのタイプのかんらん石には亜粒界や波動消光が認められ,動的再結晶による粒径減少の進行が示唆される.中粒・細粒タイプには面構造に沿って形態定向配列を示すトレモライト粒子群(粒径約10–260 μm)が存在していた.メタモルフィックソール近傍に分布する細粒タイプにはかんらん石粒界が鋸歯状をなす溶解構造が認められ,粒間を滑石が埋めていた.かんらん石の結晶方位解析の結果,粗粒・中粒タイプは{0kl}[100],(010)[100],(001)[100]のいずれかのすべり系を示す一方,細粒タイプは(100)[001] (Cタイプ)ファブリックを示した.J-indexは粒径減少に伴って5.24から1.12まで低下する.かんらん石-スピネル温度計により求められた平衡温度は粗粒タイプで585~679℃,中粒タイプで599~699℃,細粒タイプで595~611℃であり,粒径による差異は認められなかった.本研究の粗粒タイプのかんらん石のファブリックからは,比較的低含水量の条件下(Karato et al., 2008)での転位クリープが示唆される.細粒タイプについては比較的高含水量下(Karato et al., 2008)での転位クリープによる変形が示唆され,細粒タイプにおいて最も多くトレモライトが認められることと調和的である.細粒タイプは低いファブリック強度を示すことから,拡散クリープの寄与を考える必要がある.本解析の結果,パラワンオフィオライトの基底部かんらん岩へのCaOやSiO2に富む流体の付加が明らかになった.流体が付加したかんらん岩における著しい変形集中は,熱水下における転位クリープから拡散クリープへの遷移に起因するかもしれない.さらに,かんらん石の溶解と滑石の析出が認められたことは,かんらん石の細粒化が進行したのち,より低温(<700℃)条件下においてSiO2交代作用が起こった結果を意味すると考えられる.滑石は著しく低い摩擦係数をもつことから,結晶塑性変形が卓越しなくなる比較的低温下においても変形集中が基底部かんらん岩内で起こり続けていた可能性がある.スラブ起源流体の付加による変形集中の痕跡は,沈み込み開始時のプレート境界において基底部かんらん岩が低粘性層として存在し,海洋プレートの継続的な沈み込みに重要な役割を果たしていた可能性を示唆する.引用文献:Izumi et al., 2023, Tectonophysics, 861, 229908. Karato et al., 2008, Ann. Rev. Earth Planetary Sci., 36, 59-95. Keenan et al., 2016, Proc. Natl. Acad. Sci., 113, 7379-7366. Valera et al., 2021, J. Metamorph. Geol., 40, 717-749. Valera et al., 2022, Chem. Geol., 604, 120941.

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  • Kazuhiko Ishii, Yuhi Tahara, Kyosuke Hirata
    Session ID: T1-O-6
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    稍深発地震のCMT解から推定される沈み込むスラブ内の応力状態は,Down-dip tension(DT)が卓越する東向きの沈み込み帯とDown-dip compression (DC)が卓越する西向きの沈み込み帯に大別できる(文献1).一方,より深い地震(>350 km)はすべての地域でDCが卓越する(文献1).西太平洋縁に沈み込むスラブ(千島,東北日本,トンガ)の形状は1つのヒンジ部をもち,300 kmより浅いスラブの応力状態は,海溝付近でのbendingとより深部でのunbendingに伴う2組のDTとDCのセットからなる.東太平洋縁に沈み込むスラブ(チリ,ペルー,中央アメリカ)の形状は2つもしくは3つのヒンジ部をもつが,スラブの応力状態は海溝付近ではbending-unbendingに対応する2組のDTとDCのセットを示すが,より深部(100〜300 km)ではスラブの形状に関係なくDTが卓越する(文献2).このようなスラブの応力状態の違いは,スラブの負の浮力や660 km境界での抵抗による均一なDTまたはDCの応力状態とbending-unbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態の重ね合わせとして基本的に理解できる.本研究では,スラブの応力状態を制約条件として,スラブのレオロジー特性を検討することを目的として,2次元数値モデルによる計算を行った. モデルの大きさは,水平距離7000 km,深さ2900 kmで,粘性や密度など一定の物性をもつ複数の層からなる.沈み込む海洋プレートの厚さと粘性,および上盤大陸プレートの動き(自由に動く場合とモデル側面に固定する場合)の条件を変えて結果を比較した.上盤プレートが自由に動く場合,海洋プレートの厚さと粘性に関係なく,沈み込みに伴い海溝が後退し,スラブ先端が下部マントルまで沈み込んだのちflat subductionに移行するとともに上盤プレートの応力状態が引張から圧縮に変化する.上盤プレートを固定した場合,固定した海溝から沈み込むため,スラブはほぼ鉛直に沈み込み,上盤プレートの応力状態は引張のまま変化しない.一方,深さ100〜300 kmでのスラブの応力状態は,おもにスラブの厚さと粘性に依存し,低粘性(1023 Pa s)かつ薄いスラブでは,DT応力が卓越するのに対し,高粘性(1024 Pa s)あるいは厚いスラブでは,unbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態が卓越する.低粘性で薄いスラブは曲げに対する抵抗が小さく,660 km境界での抵抗をスラブが褶曲することにより吸収するため,DC応力が上方へ伝播せず,より浅部(深さ100〜300 km)では負の浮力によるDT応力がunbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態よりも卓越する.一方,曲げに対する抵抗が大きいスラブでは,660 km境界での抵抗を吸収できずにDC応力が上方へ伝播するため,負の浮力によるDT応力よりもunbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態が卓越する結果になる.これらの結果は,東太平洋縁の沈み込み帯に特徴的な深さ100〜300 kmでDTが卓越するスラブの応力状態には,薄くて粘性の低い(1023 Pa s)スラブが必要であることを示している. マントル物質の高温変形実験から推定されるクリープの活性化エネルギーは高く,それから予想されるスラブの粘性は1024 Pa s以上になる.しかし,かんらん岩など多相系岩石の拡散クリープでは粒成長速度が遅いため,粒成長の効果も考慮した拡散クリープの有効活性化エネルギーは小さくなると予想される.そこで,温度と圧力に依存するレオロジー則を使い,拡散クリープの有効活性化エネルギーとして110 kJ/mol(文献3)を仮定した2次元数値モデルで計算した.その結果,年齢の若いスラブの沈み込みでは,スラブの有効粘性係数は1023 Pa s以下になり,深さ100〜300 kmでDT応力が卓越するのに対し,古いスラブの沈み込みでは,スラブの温度が低いため,その粘性は1024 Pa s以上になり,深さ100〜300 kmでunbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態が卓越する結果になった. 以上の結果より,深さ100〜300 kmのスラブの応力状態を説明するには,変形実験から推定されるよりもスラブが低粘性である必要があり,そのメカニズムとして,拡散クリープによって変形するスラブが考えられる. (1) Alpert, et al., 2010. doi: 10.1029/2010GC003301(2) Sandiford, et al., 2020. doi: 10.1029/2019TC005894(3) Nakakoji & Hiraga, 2018. doi: 10.1029/2018jb015819

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  • Yuya Akamatsu
    Session ID: T1-O-7
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    クラックなどの空隙を通じて海洋プレートに取り込まれた水は,沈み込み帯の地震活動や物質循環と密接に関連している.海底下の間隙水を直接観測することはできないが,岩石中の空隙に含まれる水は母岩の弾性的性質に大きく影響するため,地震波速度から水の存在を間接的に推定することができる.そのため,沈み込み帯などで地震波速度構造の調査が近年盛んに行われている.地震波速度の観測結果から間隙水の量や形状などの特徴を推定するためには,岩石の弾性的性質と間隙水の関係を知る必要がある.そのため,含水条件での岩石の弾性波速度を測定する実験的研究がこれまでに多く行われてきた.それらの実験結果は,実験試料スケールでのクラックの効果を反映している.一方で,海域での地震波探査では通常100 Hz以下の周波数を持つ地震波が用いられるため,観測される地震波が反映する構造は数百m以上に及ぶ.そこには,小さな実験試料では考慮できないクラックの空間的な不均質性の影響や,巨視的なクラックの効果も含まれているはずである.したがって,実験室で測定される弾性波速度から実際のフィールドで観測される地震波速度へのスケールアップを実現するためには,数百mを超えるスケールにおいて,実験室で確認されるようなマイクロクラックと実験試料には含まれないメソスケールのクラック(フラクチャー)が,どれくらい,どのように分布しているのかを理解する必要がある.そこで本研究は,クラックの不均質性とサイズの効果を評価するために,掘削コア試料をから得られた連続的な物性測定データおよび脈状鉱物の分布データから,地震波の波長スケールでミクロ・メソスケールのクラックがどのように分布しているのかを推定した.また,観測される地震波速度は,地震波が伝播するときの岩石内部の間隙水圧の平衡度合いによって変化する.そこで,得られたクラックとフラクチャーの空隙率とサイズから,岩石のミクロ・メソスケールでの浸透率をそれぞれ推定し,見かけの地震波速度に与える影響を調べた.サンプルには,ICDP Oman Drilling Project Hole GT3Aで採取されたコア試料とその物性データを用いた.Hole GT3Aは,オマーンオフィオライトにおける海洋地殻のシート状岩脈からはんれい岩層への遷移帯に相当し,全長約400 mのコアがほぼ100%の回収率で得られた.まず.掘削コアの連続的なP波速度データから,コアに含まれる微視的なクラック(マイクロクラック)の分布を推定した.P波速度は掘削船ちきゅう船内のMSCL(Multi-Scanner Core Logger)システムで測定され,波長が数mm程度のP波速度が4 cm間隔で得られている.そのため,測定されたP波速度の深さ変化は,コアに含まれるマイクロクラックの量の変化を反映していると考えられる.そこで,有効媒質理論に基づいてP波速度からクラック空隙率を計算し,その深さ変化からマイクロクラックの巨視的なスケールでの空間分布を評価した.一方,メソスケールのクラック(フラクチャー)の分布は,MSCLや実験室での物性測定では考慮できない.そこで本研究は,コアを横切る数mm程度の幅をもつ脈状鉱物を,かつてのフラクチャーであると仮定し,脈状鉱物の分布からフラクチャーの分布を推定した.脈状鉱物は掘削コアのX線CT画像を用いて検出し,得られた脈状鉱物の深さ分布や形状から,フラクチャーの空隙率や空間分布を評価した.その結果,Hole GT3Aにおけるマイクロクラックの平均空隙率は0.4%–0.6%,フラクチャーの平均空隙率は0.1%–0.3%と推定された.空隙率とサイズから推定される浸透率は,マイクロクラックを含む岩石では最大で10-16m2程度,フラクチャーを含む岩石では最大で10-10m2程度となった. これらの値をもとに,地震波探査の周波数(<100 Hz)での見かけの地震波速度をモデル計算した.その結果,フラクチャーは岩石の浸透率を大きく増加させ,岩石内部の間隙水圧が容易に平衡になることで,見かけの地震波速度を変化させる効果がマイクロクラックよりも大きいことが示された.これは,沈み込み帯などでしばしば観測される高Vp/Vs異常や地震波の減衰異常が,マイクロクラックだけでなくフラクチャーの存在に起因している可能性を示唆している.

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  • Yuta Tsuge, Ichiko Shimizu, Naoya Hatano, Masaya Higaki, Masao Nakatan ...
    Session ID: T1-O-8
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    断層の強度は岩石や鉱物の摩擦強度によって支配されていると考えられている。これまでの室内実験では、多くの岩石の摩擦係数が0.6~0.85 となるByerlee 則が経験的に知られている。このByerlee 則を含む Amontons-Coulomb の法則は一般に、摩擦係数が真実接触部の降伏強度と剪断強度の比によって決まるという凝着摩擦説 (Bowden and Tabor, 1964) で定性的に説明される。しかし、金属などの摩擦係数の値はこのような単純な関係式に従わず、降伏応力の大きい石英などの地殻主要鉱物については定量的な議論もされていない。そこで、本研究では断層アナログ物質として、石英などと比べてはるかに降伏応力が低く、結晶構造も単純で、水との反応性も低い蛍石 CaF2を用いた。これまで蛍石の摩擦に関してはPin-on-disc 実験 (O'neill et al, 1973) や原子間力顕微鏡 (AFM) を用いた研究 (Niki et al, 2012) はあるものの、蛍石-蛍石の接触面間の摩擦についての報告はない。本研究では、蛍石の単結晶試料と粉末試料について低滑り速度・大変位の摩擦実験を行い、得られた定常状態の摩擦係数を比較した。比較のため、石英や曹長石についても同様の実験を行った。単結晶試料の実験は直接剪断摩擦試験機を用いて行った。この装置では、エアベアリングによって装置の摩擦を軽減することで、精密に摩擦力を計測することができる。実験試料には天然の単結晶蛍石および人工石英を直径2 mmまたは3 mm の円柱状に成型して用いた。蛍石は (111) または (100) 方向の円柱底面(滑り面)を#400の研磨紙で粗く研磨したものを用いた。基盤には石英ガラスまたは、天然蛍石多結晶体を#400で粗く研磨したものを使用した。法線応力は ~10 MPa、滑り速度は500-1000 μm/s の間で変化させて行った。粉末試料の実験には新たに開発した回転摩擦試験機 KURAMA を用いた。実験試料には、天然蛍石および天然曹長石を粉砕し、篩にかけた粉末試料 (粒径 73-120 μm)、および市販の石英砂 (粒径 ~70 μm) を用いた。実験は単結晶試料・粉末試料いずれも室温で行い、乾燥条件下と水に飽和した条件下で実験を実施した。本研究では、回転摩擦試験では法線応力を ~200 MPa、滑り速度を1 –1000 μm/s に変化させて実験を行った。単結晶の実験では、同種物質間の摩擦係数は μ~0.3-0.5 と比較的大きい値を示したが、異種物質間の摩擦係数は μ~0.15-0.3 と比較的小さい値を示した。異種物質間の中でも、石英 on 蛍石 では μ~0.3 程度となったが、蛍石 on 石英ガラス では μ~0.15 と極めて小さい値をとった。また、乾燥条件下の実験では水に飽和させた実験よりデータのばらつきが大きくなった。粉末試料の実験の結果、蛍石・石英・曹長石のすべての実験で μ~0.5-0.6 となり、Byerlee 則に典型的な0.6 と近い値となった。上記の結果は、同種物質間の凝着力が、異種物質間の凝着力より大きかったことを示唆する。異種物質間の摩擦において、石英 on 蛍石 の場合には、石英の方が硬いため掘り起こしによる摩耗が働いたことが考えられる。一方、蛍石 on 石英ガラス の実験では、μ~0.15 と非常に小さな摩擦係数を示した。これは AFM で計測される蛍石の摩擦係数 μ~0.2 (Niki et al, 2012) と近い値である。このことから、石英ガラスが滑らかな面であったために、原子レベルの摩擦抵抗力を反映した摩擦係数をみていた可能性がある。乾燥条件下の実験では、データのばらつきが大きくなったが、これは直接剪断試験における片当たりの影響が考えられる。水に飽和した条件での単結晶同種物質間の実験では、μ~0.5 となり、粉末試料の μ~0.5-0.6 と近い値を示す。白雲母や緑泥石などの板状鉱物では、単結晶試料の摩擦係数が粉末試料の摩擦係数より著しく小さいという報告があり、これらは板状鉱物の結晶構造を反映した底面滑りの影響によるものと解釈されている。一方、今回の実験では、バルク鉱物で異方性の小さい蛍石や石英を使用した結果、そのような違いはみられなかった。蛍石や石英では単結晶試料・粉末試料のいずれの場合も、凝着摩擦が主要な摩擦機構であったと考えられる。蛍石は石英より1桁小さい降伏応力をもつが、摩擦係数には大きな違いがなかったことから、真実接触部の剪断強度と降伏強度に相関があるという凝着説に整合的な結果が得られた。引用文献Bowden and Tabor (1964) University Press. Oxford.Niki et al. (2012) Tribology Online.O'neill et al. (1973) Journal of Materials Science.

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  • Manamu Miyazoe, Keishi Okazaki, Hiroyuki Noda, Dyuti Prakash SARKAR
    Session ID: T1-O-9
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    断層における岩石の変形機構は,深さ(温度・封圧)により異なる。浅部は低温であるため,地震を伴う脆性変形が卓越する。脆性変形領域では、せん断強度は Byerlee の法則に従い、深くなるほど封圧の増加により大きくなる。一方で,深部では温度が上昇することにより、地震を伴わない塑性変形が卓越する。塑性変形領域ではせん断強度は流動則に従い、温度が高いほど小さくなる。この変形機構の入れ替わりが脆性-塑性遷移である。脆性-塑性遷移が起こる深さ領域(脆性-塑性遷移領域)は脆性領域の下限部にあたり、せん断強度が高くなるため、しばしば巨大地震の震源となる。本研究では脆性-塑性遷移領域の条件下でせん断実験を行い、回収試料の微細構造から脆性変形によるせん断歪量と塑性変形によるせん断歪の割合の変化を見積もることを試みる。 せん断実験は Griggs 型固体圧式高温高圧三軸変形試験機(Griggs 型試験機)を用いて行い、試料には地殻内の断層や沈み込み帯プレート境界を想定し、大陸地殻および海洋堆積物の主要鉱物である石英の多結晶体を用いた。実験条件は封圧 1000 MPa、せん断歪速度 2.5*10-4 /s の一定条件にして、温度条件を石英の脆性-塑性遷移領域を含むとされる 400-1000 °Cの範囲 とした。実験中には力学データを測定し、回収した試料は薄片に加工し、画像解析プログラムを用いて解析した。画像解析では、粒子の長軸方向の角度、試料全体の歪量、R1面の角度を測定し、これらからNoda(2021)のモデルを用いて全体の歪に占める塑性変形による歪量の割合を算出した。  実験の結果、力学データでは400-700 ℃で摩擦則に従う脆性強度を,800 -1000 ℃で流動則に従う塑性強度を示し,脆性-塑性遷移領域は700-800℃であるように見受けられた。また、微細構造からの計算の結果、Noda(2021)のモデルで求められた塑性変形による歪量の割合は,高温領域では力学データと同程度の結果が得られた。しかし、低温領域では、微細構造からの計算では400℃でも塑性変形の割合が60%程度という力学データと矛盾した結果が得られた。このような結果になった原因としてNoda(2021)のモデルが長軸方向とアスペクト比の初期のばらつきを考慮してないこと、y面での滑りの寄与が大きいことがあげられる。本発表ではそれらについて吟味していく。

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  • Qi Wang, Takamoto Okudaira, Norio Shigematsu
    Session ID: T1-O-10
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    Identifying the dominant slip systems in naturally deformed quartz is crucial for understanding the rheology of the continental crust because the rheological properties of quartz aggregates may differ for the different dominant slip systems. Although the basal <a> slip system has been considered the dominant slip system in quartz under upper crustal conditions, some studies argue its activity in deforming quartz. In this study, we analyzed the crystallographic- and shape-preferred orientation of quartz phenocrysts in a deformed granitic porphyry in the Ryoke belt, SW Japan, to clarify the dominant slip systems in the naturally deformed quartz under the upper crustal conditions based on the optical and electron backscatter diffraction (EBSD) observations. The quartz phenocrysts show microstructures indicative of crystal plasticity, such as elongation parallel to the stretching lineation, wavy extinction, and marginal dynamic recrystallization. The identified active slip systems include prism <a>, basal <a>, prism [c], and rhomb <a> through misorientation analyses via EBSD data. The aspect ratios of grains with dominant prism <a> and basal <a> slip systems are higher than prism [c] and rhomb <a> slip systems, implying that the similar strength of prism <a> and basal <a> slip systems and weaker than prism [c] and rhomb <a> slip systems under the upper crustal conditions. The c-axis orientations of quartz grains with basal <a> slip system inferred from the misorientation analysis distributed at the peripheral of pole figures, whereas those with prism <a> slip system located at the center of pole figures. The observation supports the traditional view that peripheral c-axis fabrics indicate basal <a> slip system activation rather than the recently proposed oriented nucleation and growth model.

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  • Thomas Yeo, Norio Shigematsu, Simon Wallis, Tatsuya Sumita, Chunjie Zh ...
    Session ID: T1-O-11
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    延性変形中のキャビティの形成・成長・合体による「延性破壊」は,金属学ではよく知られた現象である.延性変形する岩石中における同様の現象は,サンアンドレアス断層などの内陸断層深部において観測されている微動現象と関連する可能性がある.しかし,岩石中の延性破壊に関する報告は少なく,現象への理解はほとんど進んでいない.本研究では延性破壊の過程を検証するため,マイロナイト中のキャビティ密度と歪および破壊の関係を明らかにした.さらに,延性破壊による構造のスケールが,現象の地球物理観測により検出可能な程度に大きいのかを検討した. 本研究は中央構造線(MTL)上盤側の領家花崗岩マイロナイトを対象とした.これらのマイロナイトの変形は不均質であり,過去に地殻構成岩石の脆性-延性性遷移直下の変形を被ったと考えられている.破壊やキャビティの構造の解析には,光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた.この際,電子後方散乱回折法(EBSD)により求めた石英の再結晶分率を,歪相当量として用いた.さらに,延性破壊による構造の空間的広がりを,デジタル露頭モデル (DOM)を用いて評価した. 本研究の結果、歪増加とともにナノキャビティも増加し.キャビティ密度が約7.5%に達すると延性破壊に発展することが明らかになった.さらに DOM を用いた解析から,延性破壊を含む構造は,MTLにおいて少なくとも走向方向に約1200 mの長さ,約100 mの厚さを持つことが明らかになった.延性破壊によるカタクレーサイトの破片の微細構造から,今回見出された破壊の滑り速度は必ずしも速くない.すなわち,今回見出されたkmスケールの延性破壊による構造は,内陸断層深部において微動現象の痕跡を見ている可能性がある.

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  • Hiroaki YOKOYAMA, Jun MUTO, Hiroyuki NAGAHAMA
    Session ID: T1-O-12
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    地殻を構成する岩石がどの程度の応力で変形したかを知ることは,岩石圏の強度やプレート運動による長期的な断層運動などのテクトニックプロセスを理解するために不可欠である.地下深部で形成されるマイロナイトの変形時の応力推定として,動的再結晶粒子の粒径応力計(たとえば,Platt & De Bresser, 2017)や方解石の双晶密度応力計(たとえば,Rybacki et al., 2013)などが挙げられる.動的再結晶は高温での変形,方解石双晶は低温で主要な変形メカニズムである.しかしながら,阿武隈山地の東縁にある社地神剪断帯沿いに白亜紀花崗岩類に接して分布する方解石マイロナイト中には,動的再結晶と変形双晶が両方みられる(久田・高木, 1992).本研究では,双晶密度応力計に関する先行研究に対してどの応力計を適用すべきか考察を行った.その上で,社地神剪断帯沿いに産する方解石マイロナイト試料の微細組織解析を行い,変形当時の差応力推定を行った. 方解石の双晶密度応力計の先行研究 (Rowe and Rutter, 1990; Sakaguchi et al., 2011; Rybacki et al., 2013; Rutter et al., 2022) の実験条件と結果をまとめたところ,任意の差応力において低封圧条件 (100 ≦ Pc ≦ 225 MPa) よりも高封圧条件 (300 ≦ Pc ≦ 400 MPa) で双晶密度が大きくなる関係が見られた.ここで,石灰岩マイロナイトを含めた相馬地域の地質は,変成度は高くとも弱いスレート構造が見られる程度であり,300 MPaを超えるような圧力環境にはなかったと推察される.ゆえに,低封圧条件のデータに対してのみフィッティングを行うと,σ = 26.2√NL という式が得られた.ここで,σ は差応力 (MPa),NL は双晶密度 (/mm) である.本研究の双晶密度を用いた応力推定ではこの式を用いる. 方解石マイロナイトの微細組織の観察では,双晶が動的再結晶粒子によって切られていることより,双晶の後に動的再結晶が起きたことが分かった.さらに,炭質物ラマン温度計 (Kouketsu et al., 2014) によって比熱温度を推定したところ,340 ± 30 ˚C ~ 250 ± 30 ˚Cの温度が得られ,白亜紀花崗岩類に近いところほど高い温度を被った傾向が見られた.方解石の双晶密度による応力計では,双晶変形時の差応力として212-283 MPaと推定された.また,動的再結晶粒子の粒径応力計 (Platt and De Bresser, 2017) を用いて,動的再結晶時には25-43 MPaの差応力が見積られた.双晶密度応力計と粒径応力計で推定された応力値は,白亜紀花崗岩類からの距離に応じた空間変化は見られなかった.さらに,上記の温度と応力値を用いて方解石の転位クリープ流動則 (Renner et al., 2002) により歪速度を推定すると,花崗岩類に近い部分では10-12-10-11 /s,花崗岩類から離れた部分では10-14-10-13 /sという値が得られた. これらの結果より社地神剪断帯沿いに産する方解石マイロナイトは以下のような変形を受けたと考えられる.まず,白亜紀花崗岩の貫入初期の圧縮により相馬地域の褶曲構造が形成された(原・梅村,1979).その後,花崗岩類の上昇に伴う温度上昇により方解石の動的再結晶が起こった.この時,応力は空間的に一様に分布していたものの,白亜紀花崗岩類に近い部分で一桁以上速い歪速度で変形していたと考えられる.さらに,これらの結果は上部地殻を構成する岩石が,変形条件に応じて変形機構がどのように遷移するのかを明らかにする上で重要な意義を持つ.引用文献原郁夫・梅村隼夫, 1979, 日本列島の基盤, 加納博教授記念論文集, 559-578.久田司・高木秀雄, 1992, 地質雑, 98, 137-154.Kouketsu, Y. et al., 2014, Island Arc, 23. 33-50.Platt, J. P., and De Bresser, J.H.P., 2017, J. Struct. Geol., 105, 80-87.Renner, J. et al., 2002, J. Geophys. Res. Solid Earth, 107, 2364.Rowe, K. J., and Rutter, E.H., 1990, J. Struct. Geol., 12, 1-17.Rutter, E.H. et al., 2022, Geosciences, 12, 222.Rybacki, E. et al., 2013, J. Struct. Geol., 601, 20-36.Sakaguchi, A. et al., 2011, Geophys. Res. Lett., 38, L09316.

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  • Tomoyuki Ohtani, Shunsuke Aoki, Itsuki Yamada
    Session ID: T1-O-13
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    根尾谷断層は1891年に濃尾地震を引き起こし,最大で7.4 mの水平変位及び6 mの鉛直変位が生じたことがよく知られるものの,断層岩としての特徴はこれまでにあまり調べられていない.近年,原子力規制庁が岐阜県本巣市根尾水鳥と根尾長嶺において断層ガウジ帯を貫くボーリング掘削を行い,そのコア試料の観察・分析を行うことによって,最新すべり面の特徴を調べることができる.ここでは,帯磁率分布が示す最新すべり面の特徴を示すとともに,そこから考えられる摩擦発熱について述べる. 根尾谷断層は濃尾地震の際に温見断層,梅原断層とともに地表変位を生じ,岐阜・福井県境である能郷白山付近から岐阜県本巣市根尾長嶺,本巣市日当を経て,岐阜市北西部付近へ至る長さ約35 kmの活断層である.根尾長嶺ではR3NDFD-1とR3NDFP-1の2本のボーリング孔が掘削された.R3NDFD-1は傾斜82 °,長さ80 mであり,R3NDFP-1は傾斜60 °,長さ30 mである.明瞭な断層ガウジ帯はいずれのボーリングコアでも1ヶ所のみである.最新すべり面は断層ガウジ帯における連続性,直線性のよい面として認められ,R3DFD-1では深度64.73~65.96 m,R3-NDFP-1では深度15.93~16.07 mに分布している.いずれのボーリングコアでも最新すべり面とその近傍には色調の濃淡によって分類できる断層岩類が分布しており,最新すべり面沿いでは主として暗灰色断層ガウジと優黒色断層ガウジが不連続に分布している. ポータブル帯磁率計を用いて帯磁率を1 cm 間隔で測定した結果,最新すべり面では帯磁率が約0.5であり,暗灰色断層ガウジ・優黒色断層ガウジでは一部で1.0~2.0と周囲より高い値を示す.一方で,最新すべり面とこれらの断層ガウジを除けば,最新すべり面の近傍であっても帯磁率は約0.3である.また,最新すべり面から離れた弱破砕の玄武岩では15~20とかなり高い値であるのに対して,弱破砕の砂岩・泥岩,チャートでは0.01~0.2である. XRD分析の結果,暗灰色断層ガウジ・優黒色断層ガウジと玄武岩において磁鉄鉱が認められる.また,断層ガウジの一部にはからスメクタイトが認められる. Yang et al. (2020) によると,スメクタイトは250 ℃以上に加熱されることで細粒な磁鉄鉱が形成する.このため,暗灰色断層ガウジ・優黒色断層ガウジに含まれる磁鉄鉱は,断層活動時に生じる摩擦発熱によって,スメクタイトから形成したものであると考えられる.ボーリングコアの最新すべり面は深度60 mに位置しており摩擦発熱はそれほど大きくないと考えられるため,スメクタイトから磁鉄鉱が形成したのは濃尾地震のときではなく,この断層ガウジがより深部に位置していたときであると考えられる.なお,暗灰色断層ガウジ・優黒色断層ガウジに玄武岩が混入しても帯磁率は高くなるものの,鉱物の組み合わせが大きく異なることから,その可能性は低い.最新すべり面でも周囲と比べてやや高い値を示しており,これは最新すべり面の近傍にある暗灰色断層ガウジ・優黒色断層ガウジが破砕され,それが最新すべり面内に混入した可能性が示唆される.参考文献Yang et al. (2020) Review of Geophysics, 58 (4).

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  • Toshiaki Masuda, Mizuho Sakai, Yasutomo Omori, Kenji Kusunoki
    Session ID: T1-O-14
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    「ホルンフェルス」は、花崗岩などの深成岩の周囲に露出している接触変成岩である。方向性のない等方的な岩石を思い浮かべるかもしれないが、「実はそうではなさそう」というのが本講演の主題である。★ 面構造の定量化  解析は雲母などの板状鉱物粒子の長軸方位(カッパ)の計測から始まる。多数の方位データからvon Mises分布(例えばMasuda et al., 1999)を利用して、集中度(カッパ)と平均方位(シータバー)を計算することが出来る。カッパは完全に一様な分布ではゼロ、それ以外の分布には >0 の実数が与えられ、数値が大きければ大きいほど集中度は高い。★ ランダム方位のシミュレーション  乱数を発生させて角度分布を与えた場合にどのようなカッパとシータバーが得られるのかを検討した。その結果、カッパとは粒子数()に大きく影響を受け、nの増大とともに規則的に減少することが判明した。★ 目視観察とカッパの関係 ・カッパが2以上の場合には、粒子配列の目視によりが推定できる(観ればわかる)。これは面構造の走向・傾斜の計測が目視だけで可能な状況と同じで、このような岩石は結晶片岩に相当し、接触変成帯にある場合には片状ホルンフェルスという名称がふさわしい岩石である。・カッパが1程度の場合には、かろうじて走向・傾斜が観てわかる状況である(慣れた観察者はもっと小さいでも観てわかるかもしれない?)。 ・カッパが0.2 ~ 0.8 程度の場合には、目視による走向・傾斜の計測は困難である(観てもわからない)が、von Mises分布を利用すれば定量化は可能である。・カッパが0.2 以下の場合には、von Mises分布を利用したとしても、信頼できるデータ取得は(おそらく)困難である。★ 結論 目視によりホルンフェルスと判断した岩石でも、面構造のカッパとシータバーが定量化できる場合がある。花崗岩などの深成岩体が貫入する際の、周囲の応力—歪場の解析が可能になるかもしれない。[引用文献] Masuda, T., Kugimiya, Y., Aoshima, I., Hara, Y., Ikei, H., 1999. A statistical approach to determination of a mineral lineation. Journal of Structural Geology, 21, 467-472.

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  • Junichi Fukuda
    Session ID: T1-P-1
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    地殻の主要構成鉱物である石英は、応力場において地下10数kmまでは脆性変形が卓越し、以深では塑性変形が卓越する。石英の脆性-塑性遷移領域は巨大内陸地震発生領域に対応することから、領域での石英の変形過程や応力、歪速度を検討することは重要である。本研究では愛知県足助剪断帯において、脆性塑性遷移領域で変形した花崗岩質変形岩に含まれる石英について、破壊に次いで局所的に形成された微小剪断領域において、発達する細粒粒子のすべり系を決定し、流動則を用いて応力と歪速度を見積もった。 偏光顕微鏡下において、石英、長石類、角閃石の1 mmまでの岩片が存在することが確認できる。石英はしばしば割れ目の間に微小剪断を示し、そこでは細粒な石英粒子が生成している(下図a, b)。細粒粒子のサイズは数µmで生成領域の幅は最大数百µmである。ホスト石英粒子と割れ目の細粒粒子について、電子線後方散乱回折(EBSD)分析を行った。その結果、ホスト石英粒子のc軸の結晶学的方位定向配列は底面<a>すべりを示す(下図c, d)。一方で、細粒粒子の結晶学的定向配列は底面<a>すべりを示す領域と柱面<a>すべりを示す領域に分かれる。また、ホスト粒子の割れは弱面であるr面やz面に平行に起こり、剛体回転により安定位置で配列することで、石英岩片のc軸の結晶学的方位定向配列を説明する。 最近Tokle et al. (2019)が底面<a>すべりと柱面<a>すべりに対応する流動則を報告した。彼らの流動則を用いて、一般的な脆性-塑性遷移領域温度である300℃を仮定したとき、応力270 MPa以上かつ歪速度が10–12.7/秒以上のときに柱面<a>すべりが卓越し、これらの応力と歪速度以下のときに底面<a>すべりが卓越する。さらに、この270 MPaの応力について、石英についての動的再結晶粒径古応力計を適用するとその粒径は数µmとなる。この計算された粒径は試料で観察される粒径とも一致する。一般に脆性塑性遷移領域での石英のすべり系は底面<a>すべりであるが、微小剪断領域では、局所的な高応力集中と高歪速度により、柱面<a>すべりが活躍すると考えられる。引用文献Tokle L., Hirth G., and Behr W.M. (2019) Flow laws and fabric transitions in wet quartzite. Earth and Planetary Science Letters, 505, 152–161.

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  • Yasushi Mori, Miki Shigeno, Nobuo Gouchi, Tadao Nishiyama
    Session ID: T1-P-2
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    沈み込みプレート境界は、地殻およびマントルの岩石の混合場であり、構造性メランジュで覆われていると考えられる(Bebout & Penniston-Dorland, 2016)。メランジュを構成する岩石の物性は、プレート境界の変形やすべり現象に直接的な影響を与える。特に滑石などの力学的に弱い鉱物の形成は、岩石の剪断強度を著しく低下させるため、地震やスロー地震の発生との関連が注目されている(Moore & Lockner, 2007; Spandler et al., 2008; Tarling et al., 2019; Hirauchi et al., 2020; Hoover et al., 2022など)。本研究は、神居古潭変成帯および西彼杵変成帯の蛇紋岩-交代岩メランジュにおける滑石形成と剪断集中を記載する。 神居古潭変成帯の常盤山メランジュは、蛇紋岩や泥質岩のマトリックスと多様なテクトニックブロックで構成される。変成温度圧力は、ホストの片岩で200–350℃、0.4–1.0 GPa、緑簾石青色片岩ブロックで360–480℃、0.8–0.85 GPaと見積もられている(榊原ほか, 2007; Takeshita et al., 2023)。蛇紋岩マトリックスには局所的に滑石片岩の剪断帯が発達し、塊状蛇紋岩→スケーリーファブリックを持つ蛇紋岩→滑石岩→滑石片岩という、岩相と変形の発達段階を読み取れる。スケーリーファブリックのすべり面は微細な滑石脈で特徴づけられることから、蛇紋岩の剪断変形に伴う交代作用が滑石脈を形成し、滑石脈がすべりを担うことで剪断変形の集中が生じたと考えられる。 西彼杵変成岩類の三重メランジュおよび西樫山メランジュは、主にアクチノ閃石片岩のマトリックスと多様なテクトニックブロックで構成される。変成温度圧力は、ホストの片岩で440–520℃、1.3–1.4 GPa、ヒスイ輝石岩ブロックで>400℃、>1.3 GPaと見積もられている(Shigeno et al., 2005; 森部, 2013; Mori et al., 2019)。アクチノ閃石片岩マトリックスは、全体が剪断帯になっており蛇紋岩や滑石片岩のレンズを含む。全岩化学組成解析は、アクチノ閃石片岩が滑石化した蛇紋岩と苦鉄質変成岩の混合物を原岩とした交代岩であることを示唆する。 神居古潭変成帯と西彼杵変成帯のメランジュでは、交代作用を受けたマトリックスに剪断変形が集中している。剪断帯には滑石が介在しており、すべりや岩石混合の促進に重要な役割を果たしたと考えられる。蛇紋岩の滑石化は、固相体積減少と脱水(=流体体積増加)を伴う。この流体体積増加は固相体積減少より大きいため、滑石化は間隙水圧を上昇させる傾向にある。このことも岩石強度の低下につながり、滑石自体の力学的な弱さとともに剪断の集中と促進に寄与した可能性がある。文献Bebout, G.E., Penniston-Dorland, S.C. (2016). Lithos240–243:228–258.Hirauchi, K. et al. (2020). Earth Planet Sci Lett 531: 115967.Hoover, W.F. et al. (2022). Geophys Res Lett 49:e2022GL101083.Moore, D.E., Lockner, D.A. (2007). Int Geol Rev 49:401–415.Mori, Y. et al. (2019). Jour Mineral Petrol Sci, 114, 170–177.森部陽介 (2013). 熊本大学修士論文, 199 P.榊原正幸ほか (2007). 地質学雑誌 113 補遺, 103–118.Shigeno, M. et al. (2005). Jour MineralPetrol Sci, 100:237–246.Spandler, C. et al. (2008). Contrib Mineral Petrol 155:181–198.Takeshita, T. et al. (2023). Jour Metamorph Geol 41: 787–816.Tarling, M.S. et al. (2019). Nature Geosci 12:1034–1042.

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  • Ryo HATTORI, Akito TSUTSUMI
    Session ID: T1-P-3
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    摩擦凝着説によれば、摩擦力は摩擦表面の微小な凸部の接触面積に比例する。岩石の摩擦実験では、一定の垂直応力下で静止摩擦が保持時間の対数に比例して増加するlog tヒーリングという現象が報告されている(Dieterich, 1972)。また、この場合、真実接触部の面積も負荷保持時間の対数に比例して増大することが知られている。これまでの研究では、log tヒーリングが湿度依存性を持つといういくつかの実験報告(例えばFrye and Marone, 2002)から、真実接触面積の増大速度も湿度依存性を持つと考えられていた。しかし最近では、石英のナノインデンテーション実験結果(Thom et al., 2018)に基づいて、真実接触面積の増大速度は湿度による影響を受けない可能性が議論されている。一方で、尾上・堤(2020)による研究では、単結晶石英を用いた摩擦実験において、湿度20%以下の低湿度領域においてlog tヒーリングの湿度依存性が最も顕著に現れることが示されている。このように、摩擦強度のヒーリング現象が湿度依存性を示す要因は未解明である。本研究では、ヒーリングの湿度依存性の詳細を検討することを目的として、特に低湿度条件下での人工水晶を用いたナノインデンテーション試験とSHS試験を実施した。ナノインデンテーション試験は、尾上らが使用した人工水晶を対象とした低湿度条件(5-20%RH、室温)で実施した。試験には汎用のナノインデンテーション試験機(DUH-211S、Shimadzu)を使用し、試料を覆うアクリルチャンバー内の湿度をドライエア発生装置と湿度管理装置で制御した。複数の湿度条件・負荷保持時間においてナノインデンテーション試験を行い、記録された荷重-深さデータから押し込み硬さを算出し、実際の接触面積の推定を試みた。SHS試験は、同人工水晶から加工・整形した円筒状試料を用いて複数の湿度条件で実施した。実験では,あらかじめ垂直応力1.5 MPa, すべり速度105 mm/sの条件において42 mのすべりを与え、摩擦表面にガウジが生成した状態をSHS実験の摩擦面の初期条件とした。尾上・堤(2020)のSHS実験では、負荷保持中に剪断応力が完全に除荷される状態であったが、本実験では負荷保持中に剪断応力が維持されるように実験手法を改善した。 ナノインデンテーション試験の結果について、除荷曲線の傾きから理論的に推定した接触面積の値には大きなばらつきがあり、有意な結果を得ることはできなかった。一方、負荷保持中の深さの推移データからは、湿度0-30%RHの条件では真実接触面積の時間増加が湿度に依存しないことが強く示唆され、これは先行研究と矛盾しない結果であった。SHS試験結果については、先行研究の結果と同様に、すべり再開時の摩擦について湿度依存のヒーリングが観察された。これらの結果は、真実接触面積の増大に関係しないヒーリングの湿度依存性のメカニズムが存在することを強く示唆する。今回のSHS実験では、一般的なSHS実験で報告されている負荷保持中の摩擦の減少が確認できたため、今後この結果を用いて各種摩擦構成則パラメータの湿度依存性を検討することで、ヒーリングが湿度依存性を示すメカニズムを考察する予定である。 今回見られた接触面積のばらつきの原因として、石英への負荷保持実験において押し込み硬さの計算に用いられる複合弾性率が熱ドリフトの影響を受ける可能性があることが疑われた。そのため、Liu et al.(2014)の手法に基づき、複合弾性率の値を固定して接触面積の推定を試みた。しかし、データの改善は見られなかった。追試を行った結果、試験間の時間を空けない連続実験を行った場合に、不安定な深さ推移が観察されることが多いことがわかった。これらの挙動が試験機の特性に起因するのか、石英の物性の均質性に関連しているのかについては、さらなる検討が必要である。文献Dieterich, J. H. (1972). JGR, 77(20), 3690–3697. https://doi.org/10.1029/JB077i020p03690Frye, K. M., Marone, C. (2002). JGR, 107(B11), 2309. https://doi.org/10.1029/2001JB000654Thom, C. A. et al. (2018). GRL, 45(24). https://doi.org/10.1029/2018GL080561尾上裕子, 堤 昭人 (2020). JpGU-AGU Joint Meeting 2020, 講演要旨 SSS15-11.Liu, Y. et al. (2014). Scripta Materialia, 77, 5–8. https://doi.org/10.1016/J.SCRIPTAMAT.2013.12.022

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  • Kaho NOBUHARA, Yurie TSUKISHIMA, Hiroshi MORI, Takayoshi NAGAYA, Takaf ...
    Session ID: T1-P-4
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    [はじめに] 沈み込み型変成帯の超苦鉄質岩類に関して構成鉱物の空間変化と形成時の温度–圧力条件を推定することは,沈み込み境界深部の物質科学的検証を行う上で基礎的かつ必要不可欠である.また,貫入マグマの熱影響を経験した接触変成域は,温度上昇に伴う鉱物組み合わせの詳細把握が可能な「天然の加熱実験室」として有用である.そこで今回,蛇紋岩化と接触変成作用の両イベントを観察可能な,長野県伊那地域・三波川帯の超苦鉄質岩類に着目した.本研究地域では貫入境界面と超苦鉄質岩類の分布がほぼ直交し,同一層準において接触変成に伴う構成鉱物の空間変化を観察できる.また,三波川帯の広域変成作用の指標である変成分帯に基づけば,本地域の超苦鉄質岩類は全て緑泥石帯に分布し,ザクロ石帯以上の高変成度域のみに分布しウェッジマントル起源とされる四国中央部(Aoya et al., 2013)との比較においても重要な研究地域である.そこで本研究では,非接触変成域を含めた貫入境界に近づくにつれての広域かつ連続的な鉱物組み合わせの空間変化を追跡し,蛇紋岩化作用及び接触変成作用における変成プロセスを明らかにすることを研究目的とした.[地質概要・試料採取・研究手法] 調査地域は,中央構造線と糸魚川–静岡構造線の会合部にあたり,これら2つの断層に挟まれて三波川帯が南北方向に細長く配列する.三波川帯の西部(三波川エリア)は主に泥質岩主体の結晶片岩類,東部(御荷鉾エリア)は玄武岩主体の御荷鉾緑色岩類からなる.超苦鉄質岩類は両エリアにおいて,地質体の配列に沿って分布が認められる.北端の三波川エリアでは木舟花崗閃緑岩体(木舟岩体)が約2×1 kmの規模で貫入し,周囲に接触変成作用を与えている(牧本ほか, 1996). 本研究では,木舟岩体の貫入境界から約20 km以内の範囲で,計30地点以上から超苦鉄質岩類を採取し,偏光顕微鏡観察・SEM-EDS・ラマン分光分析を用いて鉱物同定・鉱物化学組成分析を行った.加えて,木舟岩体については角閃石圧力計(Mutch et al., 2016)を用いて貫入圧力を推定するとともに,既存の超苦鉄質岩類のP–T図(Jenkins, 1981; Kempf et al., 2022)との比較より,変成反応,温度推定,及び流体影響について考察した.[蛇紋岩化作用] 貫入境界から約2.5 km以上離れた地域では,接触変成作用の影響は認められず,蛇紋岩化作用のみを強く被った組織が発達する.これら蛇紋岩は,両エリア共に主にリザダイトからなるメッシュ状組織を呈す.また,三波川エリアではメッシュ組織内部に一部ブルーサイトが認められる一方,御荷鉾エリアではバスタイト組織が特徴的に卓越する.これらは,三波川エリアではカンラン石のみ,御荷鉾エリアではカンラン石と直方輝石の加水反応によりそれぞれ蛇紋石化が進行したことを示唆する.また,直方輝石の蛇紋石化ではSiO2流体が生成されること,及びブルーサイトはSiO2流体との反応により蛇紋石化することを考慮すると,御荷鉾エリアから三波川エリアへとkmスケールでSiO2流体が大規模に流入した可能性を示す.[接触変成作用] 木舟岩体周辺の接触変成域では,鉱物組み合わせの系統的な変化が認められ,貫入境界に近づくにつれて順にⅠ~Ⅳ帯に区分した.各帯における特徴的な構成鉱物としては,Ⅰ帯がアンチゴライト,Ⅱ帯がカンラン石とタルク,Ⅲ帯がカンラン石,トレモラ閃石をコアにもつMg普通角閃石,スピネル,および輝石仮像,Ⅳ帯はⅢ帯の特徴に加え斜長石の出現が挙げられる.変成反応としては,Ⅰ帯はリザダイトからアンチゴライトへの相転移,Ⅱ帯はアンチゴライトの脱水反応,Ⅲ帯はトレモラ閃石の脱水反応と緑泥石の単独分解,Ⅳ帯は角閃石とカンラン石の脱水反応が推測される.また,木舟岩体より推定した圧力条件(約2 kbar)を考慮すると,温度条件は,Ⅰ帯が約300~400 ºC,Ⅱ帯が約500~600 ºC,Ⅲ帯が約700~800 ºC,Ⅳ帯が800 ºC以上に制約される.また,アンチゴライトを切るクリソタイル脈がI帯のみに貫入境界から同心円状に分布して認められる一方,Ⅳ帯ではMg普通角閃石を部分的に置換したパーガス閃石の存在が南北方向に認められる.これらは,接触変成作用初期と後期のそれぞれの時期に,経路・組成の異なる流体移動が生じていた可能性を示す.[引用文献] Aoya et al., 2013, Geology, 41, 451-454; Jenkins, 1981, CMP, 77, 166-176; Kempf et al., 2022, Swiss J. Geosci., 115, 1-30; 牧本ほか, 1996, 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅); Mutch et al., 2016, CMP, 171, 1-27.

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  • Shumpei Sugimoto, Kazuhiro Koga, Motohiro Tsuboi
    Session ID: T1-P-5
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    [はじめに]五島列島は長崎県の西部に位置し、日本海の南端と東シナ海の北端を結ぶ対馬海峡に位置しており、北から中通島、若松島、奈留島、久賀島、福江島の5つの主要な島からなる。五島列島の地質は中新世初期-中期の五島層群堆積岩類や凝灰岩が大部分であり、そこに花崗岩類が貫入している。中でも久賀島はその大部分に花崗岩類が分布している。五島花崗岩類はフィッション・トラック年代測定法によりおよそ14-15 Maに形成されたと報告されている1)。これはアジア大陸から日本列島が分離した年代と近くこれらの花崗岩類の成因解析は当時の地質的な環境を推察する手段として注目されているが、それらの地球化学的研究は未だ十分になされていない。そこで本研究では久賀島に分布する花崗岩類に着目し、全岩化学組成分析から花崗岩類の地球化学的特徴について考察した。[地質概要]久賀島が属する福江地域に分布する新第三紀火成岩類は、主に福江流紋岩、五島花崗岩類、蠑螺島流紋岩、椛島火山岩類からなる2)。これらの火成岩類の伸長方向は北東-南西で、五島列島の配列とほぼ並行である。五島花崗岩類は花崗閃緑岩、花崗閃緑斑岩、花崗岩からなる。五島花崗岩類のうち花崗閃緑岩は久賀島北部のみに分布しており、花崗閃緑斑岩の多くは久賀島の南部から福江島の北部にかけて貫入している4)。Shin et al. (2009)3)によれば、対馬諸島で確認された中期中新世の花崗岩類には、優白質花崗岩と灰色花崗岩、細粒暗色包有岩がある。これらは苦鉄質マグマと珪長質マグマが混合・混交して形成されたとされている。Koga (2019)4)は五島列島の花崗岩類についてSiO₂に対するFeOとMgOの比により2種に分類できるとした。SiO₂の増加にともないFeO/MgOが直線的に増加するものをGDグループ、SiO₂が一定で広いFeO/MgOが広い範囲をとるものをHFGグループとした。GDグループはマントル物質に起因して生成されたと考えられ、HFGグループは高温マントルの上昇による地殻の部分溶融に起因するとされた。[研究]久賀島に分布する花崗岩類について、主成分元素、微量元素、希土類元素の分析を行った。主成分、微量成分元素については溶融ガラスビード法により波長分散型蛍光X線分析装置で測定を行い、希土類元素については誘導結合プラズマ質量分析法で測定を行った。その結果今回分析した花崗岩類の全てのサンプルがHFGグループに属した。また対馬海峡に分布する対馬花崗岩類と主成分元素及び微量元素を比較すると多くの元素においてハーカー図上で同じようなトレンドを示した。しかしMnOやNa₂Oの含有量は五島花崗岩類よりも対馬花崗岩類の方が低く、K₂OやBa、Thの含有量では五島花崗岩類よりも対馬花崗岩類の方が高かった。またZrでは五島花崗岩類はSiOの増加に伴い上昇したのに対し、対馬花崗岩類ではSiOの増加に伴い減少した。これは五島花崗岩類の起源マグマが常にZrに不飽和であったため分化過程でZrが増加し、対馬花崗岩類では起源マグマが初期からZrに飽和しており、ジルコンを晶出しながら結晶化したため減少したと考えられる5)。P₂O₅では両地域の花崗岩類がSiO₂の増加に伴い大きく減少しており、燐灰石の分別が起こったと考えられる6)。またSiO₂の範囲は五島花崗岩類のGDグループと対馬花崗岩類の灰色花崗岩が近く、五島花崗岩類のHFGグループと対馬花崗岩類の優白質花崗岩が近いことが分かった。しかし、対馬花崗岩類はFeO/MgOとSiO₂に相関は見られなかった。CIコンドライトで規格化した希土類元素パターン図についても五島花崗岩類と対馬花崗岩類では有意な差は見られず、ほぼすべてのサンプルで軽希土類元素に富み、重希土類元素では水平なトレンドであった。 [引用文献]1) 宮地六美; 比較社会文化. 1995, 1, 61-65.2) 河田清雄・鎌田泰彦・松井和典; 地域地質研究報告5万分の1地質図幅, 1994, 鹿児島(15)第8号 3) Shin, K.-C.; Kurosawa, M.; Anma, R.; Nakano, T.; Resour. Geol. 2009, 59, 25–50.4) Koga, K.; Tsuboi, M.; Minerals. 2021, 11(3), 248.5) Ishihara S.; 資源地質. 2014, 64(3), 127-132. 6) Sugii, K; Sawada, Y.; Geoscience Rept. Shimane Univ. 1999, 18, 69-84.

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  • Hideaki Seki, Motohiro Tsuboi
    Session ID: T1-P-6
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    長崎県五島列島は日本列島の背弧域南西部に位置する。その地質は主に新第三紀中新世の中期-前期にできた五島層群堆積岩類,中期にできた凝灰岩,五島花崗岩類,流紋岩,第四紀完新世-更新世にできた玄武岩で構成されている。1)このうち,五島花崗岩類は福江島,久賀島,若松島,中通島に分布する。五島花崗岩類は花崗閃緑岩,花崗閃緑斑岩,文象斑岩の3種類からなる。五島列島と対馬の火成岩類の放射年代はおよそ15 Maと報告されており,これは大陸から日本列島が分離し日本海が形成された年代とほぼ同時期である。2) 3) また花崗岩体中に存在する有色鉱物から構成される苦鉄質岩は,堆積岩や変成岩から影響を受けた外来的な捕獲岩とする説,あるいは花崗岩の活動に先立って起こった塩基性火成活動に由来する噴出岩や輝緑岩が花崗岩の影響を受けたものとする説,花崗岩と同じ由来のもので花崗岩マグマの初期結晶作用の濃集物とする説,融点の低い花崗岩マグマ中に融点の高い塩基性マグマが入り,急冷周縁部を持つ溶岩が生じ苦鉄質岩を形成する説など様々な起源が提唱4)されており,苦鉄質岩の形成は花崗岩体の形成に深くかかわっていると考えられている。また,対馬には五島列島と同時期の花崗岩類が分布している。Shin(2009)5)によれば対馬で確認された中期中新世の花崗岩類には,優白色花崗岩と灰色花崗岩がある。優白色花崗岩はEM(エンリッチマントル)Ⅰ型マグマに由来する苦鉄質マグマが下部地殻に注入にしたことよる部分溶融で生じた珪長質マグマ起源であり,灰色花崗岩はこの珪長質マグマが地殻上部の上昇してきた苦鉄質マグマと混ざり合い形成されたものである。また,これらのマグマの形成は日本海の膨張に伴い地殻が薄くなったことと高温マントル物質の上昇に起因することが示唆された。本研究では,五島列島のなかでも詳細な研究が行われていない中通島北部,立串・矢堅目崎地域における花崗岩体とそれに伴う苦鉄質岩について全岩化学組成を分析するとともにその成因を考察した。中通島は五島列島北部に位置しており,五島層群に属する青砂ヶ浦層と,飯ノ瀬戸層,堆積岩や閃緑岩に貫入した五島花崗岩類が分布する。6)中通島から花崗岩とそれに伴う苦鉄質岩の主成分,微量成分元素ならびに希土類元素組成について蛍光X線分析装置及び誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて測定した。SiO₂の含有量は花崗岩が(65.3-73.8wt%),苦鉄質岩が(58-64.5wt%)で,花崗岩,苦鉄質岩ともにSiO₂の含有量の増加に伴いFe₂O₃,TiO₂の含有量は減少した。また,苦鉄質岩のみSiO₂含有量の増加に伴いMgOの含有量が減少した。また花崗岩,苦鉄質岩ともにAl₂O₃/(CaO+Na₂O+K₂O)比は0.84-1.13と低く,メタアルミナスからややパーアルミナスな組成を示す。微量成分元素は花崗岩,苦鉄質岩ともにSiO₂の増加に伴いTh,Zrの含有量が増加した。また,苦鉄質岩のみSiO₂の増加に伴いYの含有量が増加した。対馬の優白色花崗岩ではその他の西南日本外帯と比較してBa含有量が高く,Pbの含有量が低いという特徴的な傾向を示した。5)中通島の花崗岩のBa,Pbの含有量について同様に比較したところ,Baに関してはその他の西南日本外帯と類似した傾向を示したものの,Pbの含有量は平均16ppmと対馬の例と同様にその他の西南日本外帯の平均値(22-25ppm)より低い値を示した。希土類元素の存在度パターンはほとんどの花崗岩,苦鉄質岩がLREEに富み,小さな負のEu異常を示す。La/Yb比は花崗岩が1.9-5.8であるのに対し,苦鉄質岩は2.9-6.4と少し高かったものの,対馬の灰色花崗岩のような幅広い範囲(3.0-12.7)は示さなかった5)。 1) 河田清雄, 鎌田泰彦, 松井和典, 地域地質報告5万分の1地質図幅鹿児島 1994, 6p. 2) Ishikawa, N.; Tagami, T. J. Geomag. Geoelectr. 1991, 43, 229–253. 3)Ishikawa, N.; Torii, M.; Koga, K. J. Geomag. Geoelectr. 1989, 41, 797–811. 4) 田結庄良昭,岩石鉱物学会誌 1984, 79, 133. 5) Shin, K.-C.; Kurosawa, M.; Anma, R.; Nakano, T. Resource Geology. 2009, 59, 25–50. 6)松井和典,今井功,片田正人,地質調査所月報 1961, 67(790), 35-37.

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  • Keishi OKAZAKI
    Session ID: T1-P-7
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    プレートテクトニクスのダイナミクスはかんらん岩中のカンラン石の変形特性により大きく支配されていると考えられている。カンラン石の結晶塑性変形の構成則である流動則は、様々な条件により決定されている。その一方で、多くの巨大地震が発生する地震発生域の下限域のような、岩石の破壊・摩擦と結晶塑性変形が混在する領域の変形特性についてはよくわかっていない。本発表では日本海溝周辺の深部アウターライズ地震発生域に相当する温度圧力条件(温度400–1000度、圧力500–1000MPa)でのカンラン石多結晶体の変形実験の結果について報告する。温度が1000度の場合、カンラン石多結晶体の力学挙動は結晶塑性変形に支配される定常すべりを示した。一方、温度が400–800度の変形実験において、破壊音とAEを伴う不安定断層すべりが観測された。圧力500MPaの条件ではカンラン石多結晶体の最高強度はByerlee則(摩擦係数0.6)と近い値になった。しかし、圧力1000MPaでは不安定すべりが起こっているにもかかわらず、みかけの摩擦係数は0.2-0.5程度となった。この高圧下における低いみかけの摩擦係数の原因は、カンラン石多結晶体の最高強度がカンラン石のパイエルスメカニズムの流動応力により基底されいるからと考えられる。力学データと変形回収試料の組織との比較から変形は、若干の結晶塑性変形の存在も示唆されるものの主にY(B)面に繋がるR1せん断面に集中していた。これは本研究の実験条件においては、変形初期段階ではパイエルスメカニズムによる結晶塑性変形が卓越するが、転移の上昇や原子の拡散が十分に起こらず、一定の歪量で破壊が起こるような疲労破壊のような現象が起こっていることを意味しているのかもしれない。このような“弱いけど不安定”な変形挙動がアウターライズ地震が発生するような海洋リソスフェアの変形を担っている可能性がある。本発表ではさらに間隙水圧を制御した排水条件下でのかんらん岩の変形挙動と水-岩石反応による断層の安定化についての予察実験の結果についても報告する予定である。

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  • Hanaya OKUDA, Takehiro HIROSE, Asuka YAMAGUCHI
    Session ID: T1-P-8
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    火山ガラスとそのスメクタイトとの混合物は、沈み込み帯の浅部でよくみられる。火山ガラスは海底地すべりなどを引き起こすすべり面となることが多く、またその変質生成物であるスメクタイトは最も摩擦強度が低い物質の一つであることから、火山ガラス-スメクタイト混合物の摩擦特性は沈み込み帯の浅部における断層すべり挙動にとって重要である。本研究では、スメクタイト含有量の異なる火山ガラス-スメクタイト混合物について、有効法線応力5 MPa、間隙水圧10 MPaの条件下で、10 μm/sから1 m/sまでの様々な速度条件下での摩擦実験を行った。摩擦係数はどの速度条件においてもスメクタイト含有量に負に依存した。スメクタイト含有率が15-30%の試料では、1-3 mm/sの中速度条件で急激なすべり弱化挙動を示すことがわかった。この中間速度でのすべり弱化挙動によって、自発的なすべりの加速を引き起こすための断層サイズが~10 kmへと拡大し、断層破壊の拡大およびすべりの加速を抑制する。したがって、変質火山灰層のような少量のスメクタイトが含まれる堆積物は、沈み込み帯浅部におけるスロー地震を引き起こしている可能性がある。

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  • Tarojiro Matsumura, Yoshihiro Nakamura, Kazuhiro Miyazaki
    Session ID: T1-P-9
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    重なり合ったスペクトルの特徴から,化学的・物理的な情報を抽出する営みは,長年にわたって,材料科学や地球科学など,広範な分野で利用されてきた.しかし,既存の非線形最小二乗法に基づいた手法では,初期値の敏感さなどに起因する作業の煩雑さから,効率的な解析作業が困難である.加えて,バックグラウンド除去,ピーク本数の決定,といった事前処理も必要であるため,数百本を超えるスペクトルデータの解析には途方も無い作業コストが必要になってしまう.したがって,近年は分光装置の高性能化に呼応するかたちで,作業コストを軽減し,効率的な解析を可能とする新たなスペクトル解析手法への期待が高まっている.本発表では,高効率なピークフィッティング手法の一つであるSpectrum adapted EM algorithmが実装されたパッケージであるEMpeaksRを紹介し,地質学分野への展開として,岩石中の炭質物結晶から大量に得られた炭質物ラマンスペクトルデータの解析事例を報告する.Spectrum adapted EM algorithm は材料科学分野においてX線光電子分光分析によって得られた大量のスペクトルデータを効率的に解析する手法として,Matsumura et al. (2019)で提案された手法である.この手法はEM algorithmを基本とすることによって収束が保証されているため,既存手法よりも解析作業の自動化に適している.また,シンプルなアルゴリズムであるが故の拡張性にも優れており,一般化されたEM algorithmの一つであるECM algorithmを用いた多様なフィッティングモデルの導入(Matsumura et al. 2021)や,バックグラウンドモデルとの同時最適化(Matsumura et al. 2023)も可能である.上記のMatsumura et al. (2019, 2021, 2023)で提案されたスペクトル解析手法をR言語上で利用できるパッケージが”EMpeaksR”である.EMpeaksRは簡単なコマンド入力によってSpectrum adapted EM algorithmによる効率的なピークフィッティングが実行できる.Spectrum adapted EM algorithmを用いた地質学分野におけるスペクトル解析の展開として,Nakamura et al. (2019)で報告された炭質物のラマンスペクトルデータへの適用事例を紹介しながら,EMpeaksRの導入および,利用手順について解説する.これに加えて,将来的な機能拡張の方向性や,ユーザーインターフェース改善案についても話題提供を行う. 引用文献:Matsumura, T., Nagamura, N., Akaho, S., Nagata, K., & Ando, Y. (2019). Spectrum adapted expectation-maximization algorithm for high-throughput peak shift analysis. Science and Technology of Advanced Materials, 20(1), 733-745.Matsumura, T., Nagamura, N., Akaho, S., Nagata, K., & Ando, Y. (2021). Spectrum adapted expectation-conditional maximization algorithm for extending high–throughput peak separation method in XPS analysis. Science and Technology of Advanced Materials: Methods, 1(1), 45-55.Matsumura, T., Nagamura, N., Akaho, S., Nagata, K., & Ando, Y. (2023). High-throughput XPS spectrum modeling with autonomous background subtraction for 3 d 5/2 peak mapping of SnS. Science and Technology of Advanced Materials: Methods, 3(1), 2159753.Nakamura, Y., Hara, H., & Kagi, H. (2019). Natural and experimental structural evolution of dispersed organic matter in mudstones: The Shimanto accretionary complex, southwest Japan. Island Arc, 28(5), e12318.

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  • Shin-ichi UEHARA, Kazuo Mizoguchi, Tomonori Taniguchi
    Session ID: T1-P-10
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    背景と目的:岩石中に発達するせん断帯の透水特性,すなわち透水性の大きさや異方性などの性質は,せん断帯内部の歪みの空間分布の特性(歪みの大きさと符号(膨張性か圧縮性か),歪み集中域の幅など)に依存する.この歪みの空間分布は,せん断変形した深さ(あるいは有効封圧条件)によって異なる.一般的に,比較的浅い条件では,岩石は局所脆性変形(脆性変形)し,比較的深い条件では,延性分散変形(延性変形)することが知られている.脆性変形時や延性変形時におけるせん断帯内部の歪みの空間分布については,これまで詳細に調べられている.それに比べて,脆性−延性変形遷移に伴うせん断帯内部の歪み空間分布の変遷については,まだよくわかっていないことが多い.本研究では,封圧下での軸変形実験を行い,実験後試料の非弾性歪み分布を定量的に解析することで,脆性−延性変形遷移に伴うせん断帯内部の歪み空間分布を評価した. 実験方法:実験試料には,能登半島の中新世穴水累層から採取した凝灰角礫岩を,直径約40 mm,長さ約80 mmの円柱形に成形したものを用いた.この岩石は,最大2.3 mmの粒子(斜長石,輝石など)と,より細粒な基質(斜長石,輝石,ガラス質など)から構成される.間隙率は19.5から26.1%,密度は2030 ± 80 kg/m3である.変形実験は,一定の軸速度条件で行った.岩石は水で飽和させ,間隙水圧は大気圧とした.封圧は1 MPaから100 MPaまでの値に設定し,変形実験中は一定に保った.歪み空間分布の解析方法:実験前及び後の試料について,マイクロフォーカスX線CT(TESCO TXS-CT450/160)で,CT像を撮影した(解像度:0.06 mm).試料スケールのせん断帯に垂直かつ試料の軸を通る平面で断面イメージを作成し,実験前・後の画像から,デジタル画像相関(digital image correlation, DIC)技術により非弾性変形を評価し,その結果から,変形実験による非弾性歪みの空間分布を計算した.結果と考察:今回使用した岩石試料は,封圧が10 MPa周辺で脆性−延性変形遷移が観察された.DIC解析の結果,脆性領域では,非弾性歪みの大きさが比較的小さいことから,試料の軸に対して30から45°の角度を成す試料スケール(マクロスケール)の膨張性の亀裂沿いに変形が集中することがわかった.脆性−延性変形遷移では,幅が約20 mmで,軸に対して45°の角度を成す歪み集中帯が観測された.この歪み集中帯は,歪み値が5%以上の圧縮性であった.延性領域においてもせん断帯内部の歪みは圧縮を示すが,封圧が増加するにしたがってせん断帯の幅が広くなり,歪み値が小さくなる傾向が見られた.非弾性歪みが比較的目立って観察されたケース(封圧が10 MPa以上)については,歪み値の頻度分布(ヒストグラム)やバリオグラムといった統計的な解析を試みた.その結果,歪み集中の度合いやその方向性について定量的な評価をする上で有用な情報が得られたことから,今回のような解析にこれらの統計的な手法を用いることが有効である可能性が示された. 今回の結果より,高間隙率の凝灰角礫岩においては,脆性−延性変形遷移ではせん断帯は圧縮性であり,その透水性は母岩よりも低く,またせん断帯に垂直方向の透水性は平行方向のものに対して小さいという異方性を示すことが予想される.本研究の成果によって,日本列島に広く分布する同様の地質におけるせん断帯の透水性を評価する上で有益な条件を与えることが期待される.

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  • Taiki IGARASHI, Masaoki Uno, Atsushi Okamoto
    Session ID: T1-P-11
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    蛇紋岩の原位置での炭酸塩化は、多くの大気中の二酸化炭素を長期的かつ安全に固定化する手段として期待されている。しかしながら岩石の溶解には低pHが、炭酸塩の析出には高pHが適しているというジレンマを抱えているほか、析出した炭酸塩によって流体の流路が塞がることが確認されており、岩石の効率的な炭酸塩化には未だ多くの障壁が存在する。天然の岩石の観察から、岩石の炭酸塩化においては、反応の体積膨張により反応誘起破壊を生じさせ、流体の流路を確保し続けることが必要とされている(e.g., Plumper et al. 2012, Kelemen&Hirth 2012)。模擬物質としてペリクレースの水和反応を用いた実験では反応誘起破壊を起こすことに成功しているが(e.g., Uno et al. 2022)、天然の岩石でこれを生じさせた例はない。 本研究では、天然の岩石で反応誘起破壊を伴う効率的な炭酸塩化を実現する条件を探るため、中国北東部で採集されたブルーサイトに富む蛇紋岩のコア試料(径6mm, 高さ5mm程度)を二酸化炭素飽和水(CO2圧:10MPa, pH : 7.35)、炭酸水素ナトリウム水溶液中(蒸気圧下, pH : 9.51)で、90, 150, 200℃に熱し、1週間反応させた。出発物質のコア試料内は大きく蛇紋石領域、ブルーサイト領域に二分され、蛇紋石領域は細粒な蛇紋石-ブルーサイト混合物で構成されており、ブルーサイト-蛇紋石脈が横切っている。本研究ではこの蛇紋岩領域の炭酸塩化に注目し、そのプロセスについて考察した。 実験後の生成物は反応条件ごとに異なり、蛇紋石領域では炭酸水素ナトリウム水溶液-200℃の場合において、最も多くマグネサイトが析出した。二酸化炭素飽和水では、温度の上昇とともにブルーサイト脈の溶解幅が減少し、母岩の蛇紋石の反応量、マグネサイトの析出量は増加した。炭酸水素ナトリウム水溶液では、温度の上昇に伴ってブルーサイト脈の溶解幅、母岩の蛇紋石の反応量、マグネサイトの析出量は増加した。以上の観察から、高pHで炭酸塩が析出しやすい炭酸水素ナトリウム水溶液においてはブルーサイトの溶解が律速しており、温度の上昇とともにブルーサイトが溶解しやすくなったことで炭酸塩化が進んだことが考えられる。一方、炭酸塩が析出しにくい二酸化炭素飽和水では、温度の上昇とともにCO2の溶解度が下がり、pHが低下したことで炭酸塩が析出するようになったことが考えられる。 また、二酸化炭素飽和水-150℃,炭酸水素ナトリウム水溶液-150℃,200℃の資料中の蛇紋石領域のみにおいて、明瞭な反応誘起破壊が確認された。最もマグネサイトの析出が見られた炭酸水素ナトリウム水溶液-200℃の試料に着目すると、試料内部に斜め方向の亀裂、試料外周に表面に垂直な亀裂が生成していた(図1a)。試料中の反応した部分には、元の蛇紋石-ブルーサイト混合物の周りに多孔質蛇紋石が生成しており、さらに外側にメッシュ状にマグネサイト-蛇紋石混合物が生成していた(図1b)。これらのことから、炭酸水素ナトリウム水溶液-200℃の試料の反応メカニズムを以下のように考察した(図1c, 1d)。①試料表面の蛇紋石-ブルーサイト混合物からブルーサイトが選択的に溶解することで局所的にMgイオンを供給、pHを上昇させるとともに、多孔質蛇紋石を残存させる。②ブルーサイトの溶解によって生じた脈内や蛇紋石中の間隙にマグネサイトが析出することで試料外周部分の体積を膨張させる。③外周部分の膨張により内部に引張亀裂が発生する。④亀裂から流体が浸透し、亀裂表面で①-②同様の反応・膨張が起こる。⑤内部の膨張により外周部分に引張亀裂が発生。このように、蛇紋岩における連続的な反応誘起破壊プロセスには、ブルーサイトの選択的反応による局所的な反応・膨張が重要な役割を担っている可能性がある。

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  • Takumi NARA, Masaoki Uno, Diana Mindaleva, Tetsuo Kawakami, Fumiko Hig ...
    Session ID: T1-P-12
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    近年の地震観測で,火山性深部低周波地震がマグマ性流体の移動により誘発される可能性が示唆されている(Yukutake et al.,2019).その実態検討には,マグマ貫入による地殻破壊の現象理解が重要で,これが下部地殻中の高度変成岩に記録されている可能性がある.そこで本研究では,高度変成岩から,下部地殻におけるマグマ貫入の深度,温度,応力状態,破砕様式を制約し,マグマから放出された流体の母岩への浸透時間を推定した.そして,メルトの貫入温度と含水量を推定し,一回のマグマ貫入に伴う地殻破壊現象と,その地震との関連性について検討した. 調査地域は東南極セール・ロンダ―ネ山地人差し指尾根で,約6億年前に東西ゴンドワナ大陸の衝突に関連した高度変成岩分布地域である(Osanai et al., 2013).花崗岩質岩脈(~100m)とそこから派生した角閃石脈によって,母岩の面構造が高角に切られている.また,岩脈には引張せん断き裂が観察された.母岩は赤褐色の珪長質グラニュライトで主な鉱物は直方輝石,単斜輝石,斜長石,角閃石であるが,花崗岩質岩脈に沿ってその両側に,白色の反応帯を伴う.反応帯では,珪長質グラニュライト中の直方輝石と単斜輝石は角閃石や黒雲母に置換されている. 鉱物化学組成を分析し,岩脈貫入時の温度・圧力条件を推定した.珪長質グラニュライトから花崗岩質岩脈にかけて,斜長石はXAnが0.44から0.25に,角閃石はAlT1が1.32 から 2.10 apfuなど,鉱物化学組成は規則的に変化している.また,燐灰石の塩素濃度は0から1.2 wt%の移流拡散的プロファイルを示した.岩脈貫入時の温度・圧力条件推定のために角閃石-斜長石温度計(Holland & Blundy,1994),角閃石圧力計(Anderson & Smith,1995)を岩脈/反応帯境界に適用した.なお,岩脈/反応境界部分では,石英,カリ長石,斜長石,角閃石,黒雲母,イルメナイト,メルト,流体が共存し,前述の地質温度圧力計の適用条件を満たす.その結果は〜700℃,〜0.8 GPaで,これが岩脈貫入による反応帯形成時の温度・圧力条件を示すと考えられる. 岩脈の組成から,メルトの岩脈貫入時の温度と含水量を推定した.岩脈中には150–170ppmのZrが含まれ,岩脈貫入時のメルトがZrに飽和していたと仮定し,Zr飽和状態温度を推定した(Watson & Harrison,1983).これが約820℃を示し,岩脈貫入時の最低温度に相当すると考えられる.メルトの含水量は,反応帯形成に必要な含水量から最低1 wt%,820℃におけるメルトの飽和含水量から最大12 wt%(Papale et al., 2006)と推定された. 燐灰石中の塩素濃度の移流拡散的なプロファイルについて局所平衡を仮定した反応移流-拡散モデル(e.g.,Mindaleva et al.,2020)を適用し,流体の母岩浸透継続時間を推定した.ペクレ数は50-180,流体浸透継続時間は35–120時間と推定された.高いペクレ数は移流卓越を示し,これは高流体圧を示唆しており,流体移動の継続時間も~100時間と推定される. 岩脈の方位から岩脈が貫入時の広域的応力場を推定した.ドローン写真から生成した3次元露頭モデルから,91個の花崗岩質岩脈の方位を計測した.岩脈の方位は,ほとんどが走向は西南西,傾斜はほぼ鉛直であった.この岩脈方位の分布が応力場とマグマ流体圧に起因すると仮定し,引張割れ目に対する古応力インバージョン(GArcmB; Yamaji,2016)から応力状態を推定した結果,σ2が比較的鉛直,σ1とσ3が比較的水平で,応力比がφ=(σ2−σ3)/(σ1−σ3)=0.26の一定の応力状態が示唆された. 以上より,本研究における単一岩脈でのマグマ貫入による地殻破壊プロセスを考察した.花崗岩質マグマの貫入が,約700 ℃,約0.8 GPa,一定応力状態の下部地殻で生じ,引張せん断き裂を形成.冷却過程でマグマから含塩素流体が放出され,流体圧の比較的高い状態が約100時間継続,母岩へと浸透した.この間に,反応帯と角閃石脈を形成したと考えられる. 本研究によって推定した,単一岩脈の地殻破壊の深度,破壊様式,現象継続時間は,エピソディックな火山性深部低周波地震(Kurihara & Obara,2021)とおおむね一致する. このことから,高度変成岩中へのマグマ貫入の露頭規模での地質学的記録から,下部地殻へのマグマ貫入が深部低周波地震に関連している可能性を指摘できる.今後,熱力学計算,母岩に作用する差応力や,岩脈貫入時の地震規模の推定から,せん断変位の時定数や低周波地震の発生メカニズムに関するより詳細な検討が可能であろう.

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  • Shuhei Fujiwara, Atsushi Okamoto, Masaoki Uno, Kazuki Yoshida, Tomohir ...
    Session ID: T1-P-13
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    地殻中の流体の主要な通り道は、岩石の割れ目や粒界であると考えられてきた。一方、近年、変質した長石などの内部に多数の微細空隙が存在することが発見され、流体との反応によって形成されるそのスケールからマイクロスケール空隙が注目されている[1]。特に、地殻の主要鉱物であるカリ長石(Kfs)や斜長石(Pl)と塩水(NaClやKClの水溶液)との反応による置換プロセスに関する水熱反応実験が数多く行われてきた。しかし、多くの研究において、空隙の観察は実験後にのみ実施され、また走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いた2次元観察がほとんどである。そのため、空隙の3次元的な形状や連通性、その時間的な変遷についてはまだ十分に理解されていない。また、複雑な幾何学的形状をもつ空隙を定量的に評価する指標が存在していない。本研究では、(1)KfsとNaCl水溶液の反応(曹長石(Ab)による置換;ΔV=+8.85%)、(2) AbとKCl水溶液の反応(Kfsによる置換;ΔV=-8.14%)という対照的な反応の熱水反応実験を行い、水熱実験とX線CT撮像を同一試料に対して繰り返し行うことで、その空隙形成について詳細に検討した。AbまたはKfsの角柱試料(1mm×1mm×2mm)をそれぞれ2 M のKCl またはNaCl水溶液とともに金管に封入し、600℃、150MPaの条件で48時間ごとの反応実験行った。実験後、高分解能3次元X線顕微鏡(ボクセルサイズ:1.656μm; Versa, Zeiss co.)でX線-CT撮像を行い、 1回目の3次元形状データ取得後、2回目の実験(48時間)とX線CT測定を行った。 出発物質がAbの場合もKfsの場合も、どちらも表面や割れ目から置換反応が進行していた。反応帯の幅は、AbからKfsへの置換反応においては48時間後の50μmから96時間後には75μmに、KfsからAbの置換反応では、20μmから50μmに増加した。どちらの反応においても、マイクロスケールの空隙(大きさ5-30μm)は、反応フロントにおいて形成されており、これは空隙が反応フロントの進行とともに移動することを意味しているが、空隙の形状は対照的であった。AbからKfsへの置換反応では、平板状の空隙が中心の亀裂面とほぼ平行に配列しており、すべての空隙が孤立して存在している。一方、KfsからAbへの置換反応では、空隙は3次元的な枝分かれのある樹状構造を示し、その一部は中心の亀裂面と部分的につながっていた。ボックスカウンティング法により空隙のフラクタル次元の解析を行うとどちらも1.85から2.2の値を示し、KfsからAbへの置換反応による空隙の方が比表面積が大きい傾向を持つ。また、多数分布する空隙すべてのフラクタル次元の解析を行うと、明瞭なスケール依存性をもち、ボックスサイズが小さいときは1次元的な構造をとり、ボックスサイズが中間の時は2次元的(平面的)な構造をとることがわかった。講演では、パーシステントホモロジーによる幾何学的な評価も合わせて、長石の置換反応に伴う空隙の定量的評価とそのメカニズムについての考察を行う予定である。 1. Plümper et al., 2017, Nature Geoscience, vol. 10, pp.685-691

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  • Manami KITAMURA, Miki TAKAHASHI, Takuya ISHIBASHI
    Session ID: T1-P-14
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    近年、我が国では高温高圧の超臨界地熱資源の利用に向けた研究開発が進められている。超臨界地熱資源を利用できれば、従来よりも大出力の発電が実現できる可能性がある(例えばAsanuma et al., 2012)。地熱資源の利用に向けて、地下貯留層内での流体移動を予測することは不可欠であり、そのためには有望地域の地下に分布する岩石の水理特性に関する情報が必須である。 本研究では、葛根田地熱地域で掘削されたWD-1a井の地下約2.8 – 3.2 kmより採取された葛根田花崗岩の浸透率を測定した。実験に用いた試料の初期間隙率は2.1%(WD-1a No. 10)と2.8%(WD-1a No. 12)である。実験には産総研設置の高温高圧ガス圧式変形試験機を用いた。実験では、温度は葛根田地域で推定された地下温度プロファイルを踏まえて375 – 436℃に設定し、圧力は試料採取深度で推定された上載岩圧と間隙水圧を踏まえて設定をした。浸透率は、各温度・圧力条件で間隙圧オシレーション法により測定をした。 実験の結果、WD-1a No. 10試料では、有効圧が10 MPaから46 MPaに増加するにつれ、浸透率は~10-18 m2から~10-19 m 2まで低下した。また、WD-1a No. 12試料では、有効圧が10 MPaから52 MPaに増加するにつれ、浸透率は~10-17 m2から10-18 m2まで低下した。これらの結果に関して,初期間隙率の大小と,同一圧力条件下での浸透率の大小の関係は整合的である。一方,両実験では温度条件は異なっており、このことが浸透率の大きさに影響している可能性がある。例えば、Moore et al. (1994; 2001)は、Westerly花崗岩を用いた実験において、昇温直後に限れば、高温ほど浸透率が高いという傾向を報告している。両実験の結果も、高温ほど浸透率が高いというMooreらの結果と整合的である。本発表では、試料の微細亀裂構造や他の温度・圧力条件での実験結果を含めて、より詳細に議論をおこなう予定である。

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  • Taisei Kimura, Ken-ichi Hirauchi
    Session ID: T1-P-15
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    沈み込み帯の浅部スラブ・マントル境界域は、継続的なスラブ脱水によって高い間隙流体圧状態となっていると予想される(Shelly et al., 2006)。また、過去に浅部マントルウェッジ深度相当のプレート境界域で形成された高圧変成岩類を対象とした構造地質学的研究では、豊富な流体存在下で形成される交代岩が沈み込み境界の力学特性に及ぼす影響に注目している(例えば、Ujiie et al., 2022)。本研究では、過去のスラブ・マントル境界域に相当すると考えられる蛇紋岩メランジュ(Bebout and Barton, 2002)に着目する。野母半島長崎変成岩類中に分布する蛇紋岩メランジュは、曹長岩からなるブロックとアクチノ閃石に富むマトリックスからなり、NaあるいはCaに富む流体がスラブ・マントル境界付近に流入したことが示唆されている(西山ほか,1997)。本研究では、蛇紋岩メランジュ内での交代作用の進行がメランジュ全体の変形様式にどのように影響を与えたのかを明らかにすることを目的として、構造岩石学的研究を行った。 フィールド調査地域は、宮崎町川原木場において蛇紋岩体と白亜紀の結晶片岩類(黒雲母帯;宮崎・西山,1989)の境界部に露出する蛇紋岩メランジュ(西山ほか,1997)である。蛇紋岩メランジュに分布する交代岩は主に変成塩基性岩と曹長岩からなる(西山ほか,1997)。変成塩基性岩は主に曹長石、緑泥石、アクチノ閃石、ゾイサイトからなり、蛇紋岩メランジュ近傍の塩基性片岩と類似した鉱物組合せを示す。しかし、構造や各鉱物の量比は両者の間で大きく異なり、同一の露頭内(数10 m2)において大きく分けて2種類の産状が確認された。1つ目は、幅数cmの曹長石に富む層と緑泥石に富む層が互層状をなしているタイプである。曹長石に富む層は、粒径100〜300 μmで等粒状の曹長石粒子の集合体によって特徴付けられ、一部の層は膨縮構造を呈する。緑泥石に富む層では、層構造に沿って緑泥石が形態定向配列している。2つ目はblock-in-matrix構造を呈するタイプで、幅数cm~数10cmの曹長岩からなるレンズ状ブロック群とアクチノ閃石、緑泥石、ゾイサイトからなるマトリックスで構成される。ブロックには、等粒状の曹長石粒子群の粒界に緑泥石を含むものと含まないもの、またはアクチノ閃石を含むものの3種類が存在した。マトリックスはアクチノ閃石または緑泥石の強い形態定向配列で特徴付けられる。これらの変成塩基性岩は、幅数cm程の緑泥石-アクチノ閃石片岩からなる延性剪断帯によって後生的に切られている。また、蛇紋岩体との境界付近では曹長岩からなる幅数mのマイロナイト化した剪断帯が分布し、粒径30〜100 μmで等粒状をなす曹長石粒子群からなる。 変成塩基性岩は、周囲の塩基性片岩と比較して曹長石と緑泥石に富むことから、塩基性片岩にNaやMgに富む流体が付加したことにより形成されたと考えられる。互層状をなす原因について不明であるが、元々存在していた片理に沿ってNaとMgの含有比が異なる流体が流入した結果であるかもしれない。block-in-matrix構造については、互層状をなす変成塩基性岩がテクトニックに混在化して形成されたものと思われる。曹長石に富む層は膨縮構造を呈していたことから、緑泥石に富む層に対してコンピーテントな層として存在していたと考えられる。このことは、曹長石に富む岩石がブロックとして存在している産状と調和的である。また、block-in-matrix構造のマトリックスにおいてアクチノ閃石が多く存在することは、混在化が起きた際あるいはその後にCaに富む流体が流入したことを示唆する。さらに、緑泥石-アクチノ閃石片岩の形成は、変成塩基性岩内に開口成分をもつ破断が起き、CaやMgに富む流体が流入した結果であると考えられる。緑泥石-アクチノ閃石片岩は延性剪断帯として活動していたことから、アクチノ閃石や緑泥石がより多く析出した領域は力学的に弱くなり、歪の局在化が起こる場所となると考えられる。以上のように、本地域の蛇紋岩メランジュには複数のステージの交代作用が起きており、交代作用の進行にともなってスラブ・マントル境界域において変形集中帯として活動した可能性がある。 引用文献:宮崎・西山(1989),地質学論集,33,217-236.西山ほか(1997),日本地質学会104年学術大会見学旅行案内書,131-162.Bebout and Barton. (2002), Chem. Geol. , 187, 79-106. Shelly et al. (2006), Nature, 442, 188-191. Ujiie et al. (2022), Geochem. Geophysi. Geosyst. 23, e2022GC010569.

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  • Naoya OKADA, Takumi Yoshida, Tomoyuki Ohtani
    Session ID: T1-P-16
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    活断層での鉱物充填過程を知るためには、活動直後ではなく活動からある程度時間が経過した断層を対象とすることが望ましい.根尾谷断層は1891年の濃尾地震を引き起こしてから132年が経過しており,鉱物充填過程を調べるのにふさわしいと考えられる. 根尾谷断層では2019年に原子力規制庁によりNDFP-1とNDFD-1の2本のボーリング掘削が行われた.これらのボーリングコアには,濃尾地震の際に変位を生じた最新すべり面が含まれており,地下における最新すべり面を観察・分析することができる.矢田部ほか(2021)は根尾谷断層最新すべり面の断層ガウジにおいてX線CT観察,粉末X線回折分析,および蛍光X線分析を行い,断層活動により最新すべり面で密度低下が起こり,その後時間経過とともに方解石が析出し密度回復が行われると考察した.しかしながら,最新すべり面の断層ガウジ中における方解石の産状は確認されておらず,方解石の形成が断層活動に伴うものか明確にはされていない.そこで本研究は,最新すべり面を含む断層ガウジをより細かなスケールで観察することで,方解石の産状を観察し,その形成過程を解明することを目的とする. NDFP-1とNDFD-1は濃尾地震の際に根尾谷断層に沿って6 mの縦ずれ変位を生じた岐阜県本巣市根尾水鳥で掘削された.NDFP-1の掘削長は140.3 mであり,掘削深度110.8 mで最新すべり面を貫通する.NDFD-1の掘削長は524.8 mであり,掘削深度387.7 mで最新すべり面を貫通する.掘削の方向は南西であり,水平面上では両者は断層にほぼ垂直に交わる.掘削地付近の地質はジュラ紀付加体である美濃帯であり,泥岩基質メランジュ,砂岩泥岩互層,石灰岩,チャート,玄武岩が主に分布している. 走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて最新すべり面内及びその周辺の断層ガウジに含まれる方解石の産状を観察し,エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により元素マッピングを行った.その結果,Caは最新すべり面内ではフラグメント状に分布するのに対し,最新すべり面近傍では脈状に分布することが認められた.BSE像にて最新すべり面内の方解石のフラグメントを観察すると,その形状は亜円形であり,自形性を有していない.また,最新すべり面近傍でCaが脈状に観察された領域においてBSE像による観察とSEM-EDXによる元素マッピングを行った結果,方解石が脈状に観察された領域の中心部には自形性を有しない方解石が存在し,その周りに基質と自形からやや自形性を有する細粒な方解石が存在することが明らかとなった. 最新すべり面内の方解石のフラグメントが亜円形であることは,断層活動により方解石の破砕が繰り返されたことを示唆している.最新すべり面近傍の細粒な方解石の周囲が断層ガウジであるにもかかわらずこの方解石が自形からやや自形性を有することは,この方解石が断層活動時に断層ガウジに生じた亀裂に新たに晶出したものであることを示唆している.最新すべり面近傍の自形性を有しない方解石は,この方解石が細粒な方解石より古い時代に晶出したことを示唆している. 亀裂での方解石の形成過程は,断層活動によりCaを豊富に含む地下水が供給され亀裂に細粒な自形性を有する方解石として晶出した,などが推定される. 根尾水鳥の断層岩の断層活動開始時の深度について考察すると,これまでの断層活動が断層ジョグの内側を6 m隆起させた濃尾地震と同様であると仮定すれば,最新すべり面近傍で自形からやや自形性を有する方解石が認められたのは断層ジョグの外側であることから,この地点においては断層による鉛直方向の移動はないものと見なすことができる.また中田ほか(2018)から,根尾水鳥における河川の下刻は根尾市場・根尾長嶺の上位段丘面と河床面の高低差から60~100 m,あるいは根尾川沿いの山の尾根と河床面の高低差から920 mと推定されることから,断層ジョグの外側の断層岩は現在より地表面から数百m程度深い地点に存在していたことが推定される.よって,広域応力場による隆起沈降を除外すれば,この地点における断層活動開始後の方解石の充填は現在とほぼ同程度の深度で行われた可能性がある. 以上より,根尾谷断層の最新すべり面を伴う断層ガウジ中では濃尾地震後に方解石の充填は行われていない可能性が高い.また,最新すべり面近傍の断層ガウジでは濃尾地震より前の断層活動で生じた亀裂への方解石の充填が,現在とほぼ同程度の深度で行われたと考えられる.原子力規制庁(2019)平成30年度原子力規制庁請負成果報告書. 矢田部ほか(2021)日本地質学会学術大会講演要旨集. 中田ほか(2018)1:25,000活断層図「谷汲」 国土地理院.

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T2. Metamorphic rocks and tectonics
  • Toru Nakajima, Sota Niki, Shumpei Kudo, Tetsuo Kawakami, Fumiko Higash ...
    Session ID: T2-O-1
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    造山運動に伴う地殻物質の生成・改変は、大陸地殻進化の基本的なプロセスであるが、古い造山運動の記録は新しい造山運動により上書きされ、変成鉱物の内部組織や包有物にのみ残されている場合が多い。ヒマラヤに広く分布する正片麻岩は、ゴンドワナ大陸北東縁辺において古生代初期に生じたビンフェディアン造山運動 (Cawood et al., 2007; 2021)に伴い貫入した花崗岩が原岩であるとされているが、ザクロ石などの変成鉱物に乏しく、その詳細は明らかにされていない。本研究では中央ヒマラヤに分布する正片麻岩に産するジルコンの内部組織と包有物に着目し、ヒマラヤ造山運動に伴う高温変成作用によって上書きされた古生代初期のマグマ―流体活動履歴の解読を試みた。  中央ヒマラヤ、カリガンダキ川沿いに分布する正片麻岩の主要鉱物組み合わせは、石英+カリ長石+斜長石+白雲母+黒雲母+ザクロ石であり副成分鉱物として電気石、燐灰石、モナズ石、ジルコン、チタン鉄鉱を産する。ジルコンはマトリクスに多く見られるほか、ザクロ石、黒雲母、燐灰石中の包有物として産する。ジルコン中には石英、カリ長石、斜長石、黒雲母、燐灰石などの鉱物包有物に加えて、流体包有物や多相固体包有物が観察される。本研究ではジルコン中の包有物記載を行った後、ヒーティングステージを用いた流体包有物の氷点測定、CL像撮影、EPMAによる元素マッピングを行い、内部組織の分類を行った。またレーザーアブレーション分流法とICP質量分析法を組み合わせて(LASS-ICP-MS)各領域の微量元素とU–Pb年代の同時測定を行った。  本研究ではジルコンの内部組織を内側より1) inner-core, 2) outer-core, 3) dark annulus, 4) metamorphic rimに区分した。それぞれの領域の組織は、より外部の組織により切られている。1)inner-coreはCL像で波動累帯構造またはセクター構造を示し、U–Pb年代は>1000 Maである。2)outer-coreはCL像で振動累帯構造を示し、U–Pb年代は510–460 Maである。outer-coreには石英や黒雲母などの鉱物包有物に加え、中塩濃度(2~7 %NaCleq)の初生的な流体包有物、多相固体包有物が多く見られる。一部の多相固体包有物中には自形性の良い石英やカリ長石、黄銅鉱、蛍石、閃亜鉛鉱、金属ビスマスなどが産する。このことから、outer-coreは高度に分化したS-type花崗岩質メルトから晶出したと考えられる。3) dark annulusはCL像で暗色を呈する円弧状の領域として認識され、P, Y, REE, Uに富み、U–Pb年代は490–440 Maである。dark annulusにはゼノタイム、モナズ石、トール石などの鉱物包有物のほか高塩濃度(10~11%NaCleq)の初生的な流体包有物が多くみられる。dark annulusの包有物に富み多孔質な組織は、高塩濃度流体の流入とそれに伴うジルコンの溶解再沈殿反応により形成されたものと考えられる(Geisler et al., 2007)。outer-coreとdark annulus中の包有物とU-Pb年代は、これらの領域がビンフェディアン造山運動に伴う地殻の部分溶融とそれに伴うS-type花崗岩の活動、その後の高塩流体の活動に伴い溶解・成長したことを示唆する。4)metamorphic rimはジルコン最外縁に薄く成長した領域として認識され、一部がdark annulusを脈状に切る。U–Pb年代は45–17 Maであり、Gd/Yb比から複数の成長ステージが認められる。このことからヒマラヤの衝突型造山運動に伴う高温変成作用の複数ステージでジルコンが成長したことが示唆される。以上の結果は、ジルコンのouter-coreとdark annulusに記録されたビンフェディアン造山運動に伴うマグマ―流体活動の痕跡が、後のヒマラヤの高温型変成作用でもリセットされていないことを示唆している。このように、複数回の造山運動に伴うマグマ―流体活動履歴を解読する際に、ジルコンという強固なカプセルに保存されたメルト・流体包有物が重要な手がかりとなる。引用文献Cawood, P. A., Johnson, M. R., & Nemchin, A. A. (2007)., Earth Planet. Sci. Lett., 255, 70–84. Cawood, P. A., Martin, E. L., Murphy, J. B., & Pisarevsky, S. A. (2021)., Earth Planet. Sci. Lett., 568, 117057.Geisler, T., Schaltegger, U., & Tomaschek, F. (2007)., Elements, 3, 43–50.

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  • HAFIZ U. REHMAN, RENA GOTANDA, YUI KOUKETSU
    Session ID: T2-O-2
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    Himalayan metamorphic belt resulted due to the India-Asia collision, Indian plate subduction, and exhumation back to the earth's surface. Previous studies (Rehman et al. 2007, JAES 29, 390-406), reported detailed thermobarometric structure of the Barrovian-type progressive metamorphic zonation (chlorite, biotite and garnet zones in the Lesser Himalayan Sequence:LHS), garnet-staurolite zones within the fault region, namely the Main Central Thrust (MCT), and garnet-staurolite to kyanite-sillimanite zones in the Higher Himalayan Crystalline (HHC) in the Himalayan metamoprhic belt, Kaghan Valley, Pakistan. Conventional thermobarometery data yielded P–T estimates of 534 ± 17 °C and 7.6 ± 1.2 kbar for garnet zone, 526 ± 17 °C and 9.4 ± 1.2 kbar for staurolite zone, and 657 ± 54 °C at 10 ± 1.6 kbar for kyanite zone, respectively. P–T estimates from mafic rocks (amphibolites and eclogites) from HHC were 645 ± 54 °C at 10.3 ± 2.0 kbar and 746 ±- 59 °C at 15.5 ± 2.1 kbar. In this study, we conducted Raman sectroscopic analyses on 21 thinsections mainly from pelitic and graphitic schists, and gneisses that contained graphite. Almost in all the studied samples, except a few, first order peaks of graphite (e.g. D1: ~1350 cm-1, G: ~1580 cm-1, D2: ~1620 cm-1, D3: ~1500 cm-1, and D4: 1245 cm-1) were observed. Peak-fitting on raw data of Raman spectroscopy was done and FWHM (Full Width at Half Maximum) were calculated for all the analyzed samples and temperature estimates were obtained using the RAMAN thermometry approach reporetd in Kouketsu et al., 2014, Island Arc, 23, 33-50; Aoya et al. 2010, J. Metamorphic Geol., 28, 895-914: and Kaneki & Kouketsu, 2022, Island Arc 2022;31:e12467). Raman data from graphite in samples of chlorite and biotite zones produced temeprature estimates from 350 ℃ to 440 ℃, of garnet and staurolite zone within the MCT zone from 460 ℃ to 540 ℃ (consistent with conventional thermobarometry), and of kyanite-sillimnite zones showed values of minimum T of 302 ℃ and maximum up to 664 ℃. The > 600 ℃ values are consistent with the previously reported data mentioned above, however the relatively lower T values in HHC samples may indicate surface damage possibly due to polishing. The slight jump in temperature values near the MCT zone (ca. 480 ℃ ~ 540 ℃) indicate shear-heat related thermal event due to the fault activation in that area.

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  • Tomoki Taguchi, Tomoyuki Kobayashi
    Session ID: T2-O-3
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    変成作用下で成長した高剛性のホスト鉱物とその内部に取り込まれた包有物の間には、岩石上昇期における鉱物の体積変化の違いを反映した残留圧力が発生する。例えば、ザクロ石に包有された石英は、圧縮応力下で正の残留圧力、引張応力下では負の残留圧力を保持する(Kouketsu et al., 2014 Am. Mineral.)。包有物が保持する残留圧力値はラマンスペクトルのピークシフト量から算出することが可能であり、岩石の変成条件を見積もる手法としてラマン地質温度圧力計の開発や較正も進展している(e.g. Kohn et al., 2023 Annu. Rev. Earth Planet. Sci.)。特にザクロ石―石英系のラマン地質圧力計は、その適用可能な鉱物組み合わせが変成岩でよく認められるため、変成作用解析の汎用的な手法と評価されている。さらに最近では、藍晶石―石英系のラマン地質圧力計(Tomioka et al., 2022 Can. Mineral.)も提案され、ザクロ石を欠く変成岩や藍晶石を含む様々な高度変成岩の変成履歴解析に有用と考えられている。本研究ではスロベニア北東部ポホリェ山地に産出する泥質片麻岩に対し、藍晶石―石英ラマン地質圧力計を適用した結果、負の残留圧力を示す石英包有物を見出したので、そのラマン分光学的特徴および岩石学的意義について報告する。 ポホリェ山地は東アルプスに位置し、超高圧変成作用を経験した泥質片麻岩やエクロジャイトが露出する。泥質片麻岩のザクロ石中には、超高圧条件を特徴づける微小ダイヤモンドに加え、モアッサナイト(SiC)包有物の存在も報告されている(Janák et al., 2015 J. Metamorph. Geol.)。当該地域における泥質片麻岩のピーク変成条件は、熱力学的解析に基づきP/T = >3.5 GPa /800–850 ℃と見積もられている(Janák et al., 2015 J. Metamorph. Geol.)。 負の残留圧力を保持する石英包有物は、粗粒な藍晶石を含有する泥質片麻岩で確認された。本研究試料は、ポホリェ山地の超高圧変成ユニットで採取されたものであり、先行研究(Janák et al., 2015 J. Metamorph. Geol.)の泥質片麻岩と同様の変成履歴を経験したと考えられる。基質の主要鉱物組み合わせは石英+白雲母+黒雲母+斜長石+ザクロ石+藍晶石であり、副成分鉱物としてルチル+石墨+ジルコン+緑泥石が観察された。基質藍晶石は淡い藍色を呈し、その多くが他形的な斑状変晶として産する。また、藍晶石の中心部には包有物はほとんど認められず、縁辺部付近に限り石英包有物が密集する組織を示す。ラマン分光分析の結果、藍晶石中の石英包有物は幅広い負の残留圧力(−0.01 〜 −0.20 GPa程度; Δω1 = −0.1 〜 −3.8 cm−1に相当)を保持することが判明した。また、一部の石英包有物では、正の残留圧力(0.01 〜 0.10 GPa程度; Δω1 = 0.1 〜 2.2 cm−1に相当)を保持するものも確認された。岩石組織観察に基づくと、藍晶石内に石英が取り込まれた時期は、ピーク超高圧変成作用後の岩石上昇期に対応づけられる可能性が高い。近年、ポホリェ地域ではエクロジャイトや泥質片麻岩中のザクロ石に包有される石英包有物について、プログレード期に取り込まれたと解釈できる正の高残留圧力値が検出された(西ほか, 2023 地質学会講演要旨; Wannhoff et al., 2022 15th Emile Argand Alpine Workshop)。一方、本研究成果は藍晶石中の石英が正と負の残留圧力境界近傍で多く包有され、その際に高温環境が継続していたことを示唆する。一般に、負の残留圧力を示す石英は高温―超高温変成岩でよく認められる(e.g. Kouketsu et al., 2014 Am. Mineral.)。ポホリェ地域の泥質片麻岩はピーク超高圧変成作用後(P/T = >3.5 GPa /800–850 ℃)、上昇時に等温減圧の圧力温度経路を経験したと示唆されているが(Janák et al., 2015 J. Metamorph. Geol.)、本研究で見出された負の石英残留圧力の存在はこの解釈を支持する可能性が高い。

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  • Mio Naito, Kensuke Yamane, Daisuke Nakamura, Takao Hirajima, Martin Sv ...
    Session ID: T2-O-4
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    ヨーロッパのヴァリスカン造山帯の東端に位置するボヘミア地塊には高圧から超高圧変成作用を受けた変成岩類が産出する。その中核部を占めるモルダヌビア帯の構造的最上位には、主に珪長質グラニュライトからなるGföhlユニットがあり、その中にはザクロ石橄欖岩やエクロジャイトの岩塊も含まれる。Gföhlユニットには珪長質グラニュライトで最も大きな岩体とされるBlanský les岩体がある。今回、その岩体から減圧期に形成された二次的な輝石を含む珪長質グラニュライトを発見したので、その記載と減圧期の温度圧力履歴の制約を与える。 本研究では、チェコ共和国南部のBlanský les岩体の中央部に位置するZrcadlová Hut’採石場(以降ZHと略す)で採取された試料を扱う。 ZHに産する珪長質グラニュライトの主要な構成鉱物はザクロ石、石英、斜長石、カリ長石、黒雲母である。輝石を含む珪長質グラニュライトは比較的細粒なザクロ石(直径2mm未満)と黒雲母を多く含む。マトリクス中には斜方輝石が存在し、単斜輝石+斜長石のシンプレクタイトも含まれている。ザクロ石中の包有物は石英、長石、黒雲母が主であり、一部のザクロ石には斜方輝石と斜長石の組合せの包有物を含むことがあり、ザクロ石周辺には斜方輝石と斜長石のコロナを形成する場合もある。斜方輝石とザクロ石の間には斜長石があり、両者は接しない。また、輝石のみがザクロ石中に包有された包有物は見られなかった。このグラニュライトには藍晶石は含まれてはいないが、スピネル+斜長石シンプレクタイトを囲むザクロ石コロナが含まれており、もともと藍晶石があったことを示唆する。また、同採石場では藍晶石を包有物としてもつザクロ石を含む珪長質グラニュライトが存在し、昇温型累帯構造をもつザクロ石を含むことがある。 輝石を含む珪長質グラニュライト中のザクロ石の化学組成はコアからリムにかけてFeが増加する累帯構造を示した。また、この輝石を含む珪長質グラニュライト中のザクロ石はグロシュラー成分を多く含み(Xgrs > 0.16)、コアからリムにかけてCaが減少する累帯構造をもつものも見られた。 マトリクス中の黒雲母のMg#は50-70で、包有物の黒雲母は50-80にばらつき、フッ素と塩素も含む。フッ素量はマトリクス中の粒子と包有物の両方で0.11-0.36 apfu(O = 11)の範囲にわたる。塩素量は最大0.044 apfuであり、ほとんどが0-0.016 apfuの範囲内である。 輝石の化学組成について、斜方輝石のMg#は51-62であり、Al量のほとんどは0.01-0.06 apfu(O = 6)の範囲にあり、Al量が0.07 apfu以上のものはザクロ石中に斜長石と存在する斜方輝石のものであった。単斜輝石のMg#は68-73で差は見られなかった。 長石の化学組成ではマトリクス中のもの、ザクロ石中の包有物のもの、単斜輝石とシンプレクタイトを成すものとそれぞれ異なる傾向が見られた。マトリクス中の斜長石はNaに富むものが多く(XAn= 0.2-0.4)、ザクロ石中の包有物はCaに富む傾向が見られた(XAn= 0.4-0.6)。単斜輝石とシンプレクタイトを成す斜長石はXAn=0.3-0.5の組成を示した。カリ長石の化学組成はXKfs>0.8で包有物とマトリクスで差は見られなかった。 地質温度圧力推定には、Grt-Bt温度計(e.g., Hodges & Spear, 1982)とGrt-Ky-Qz-Pl圧力計(Koziol & Newton, 1988)、両輝石地質温度計(Bertrand & Mercier, 1985)を使用した。冷却型累帯構造を持つザクロ石のコア、Fe-Mg鉱物と接しないマトリクスの黒雲母と斜長石の組成を使用して求めると、約1.9-2.1 GPa、850-950℃の推定温度圧力が得られた。両輝石地質温度計からは斜方輝石と単斜輝石が接する粒子の組成を用いると、1.0GPaにおいて700-750℃の温度が得られた。一方で、別試料の珪長質グラニュライトの昇温型累帯構造をもつザクロ石のリム、マトリクスの黒雲母、包有物の斜長石の組成より約2.3GPa、1050℃の温度圧力条件が得られている。本試料中の輝石は組織的に減圧期に形成されたものであるが、両輝石地質温度計が示した温度は最高変成温度より少なくとも100℃以上低い。これらの珪長質グラニュライトはその減圧期に有意な冷却を伴っていたと考えられる。引用文献 Bertrand & Mercier (1985) Earth Planet. Sci. Lett., 76, 109–122.Hodges & Spear (1982) Am. Mineral., 67, 1118–1134.Koziol & Newton (1988) Am. Mineral., 73, 216–223.

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  • Takeshi IKEDA, Saori GOTO
    Session ID: T2-O-5
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    高温変成岩中のザクロ石の化学組成は一般に均質である。これは累進変成時の成長累帯構造が最高変成条件下で均質化したためと考えられており,この均質な組成は,周囲の共存鉱物と平衡な組成とみなされている。そこで従来,ザクロ石の均質な内部とマトリクスの鉱物の化学組成を用いて,最高変成条件が見積もられている。この理解は暗黙のうちに,最高変成条件下ではザクロ石の均質化が完了していたこと,後退変成時の再平衡は限定的であることを前提としている。 ところが,均質化も平衡に向かう反応の進行も温度の上昇で促進され温度の下降で抑制されるので,どちらの過程が先に終了するかは一概には言えない。本研究は,反応進行の終了後もなお均質化が進行したと解釈される例を見出した。この場合の粗粒のザクロ石の均質な内部はどの時期の平衡組成も保存しておらず,温度圧力計に使用することが不適切であることを明らかにした。 用いた試料は東南極リュツォ・ホルム岩体のスカーレンに産する石英長石質片麻岩である。マトリクスの苦鉄質鉱物はザクロ石だけで,少量の黒雲母がザクロ石の包有物として産する。ザクロ石のCa含有量は,縁辺部で粒径によらずほぼ一定,内部で粒子ごとに異なる累帯構造を残している。それに対し,Mg/(Fe+Mg)(以下#Mg)は粒子内でほぼ均質である。このことは拡散係数の大きなFe, Mg の成長累帯構造が高温下で均質化したことを示唆する。ところが,この #Mg値は岩石内で不均質で,粗粒なザクロ石ほど低い値を示す。このことは粒界拡散を伴う岩石内平衡が保持されていないことを意味する。この現象は簡単な2成分相図を用いて次のように説明できる。 組成累帯構造を形成するザクロ石は,本来完全平衡で成長を終了する温度より高温まで成長する。その温度でのザクロ石の均質化過程によって,ザクロ石粒子全体のバルク組成はリムの組成に近づく。この均質化過程は黒雲母の分解によって進行する。そして,バルク組成がリムの組成に一致する前に黒雲母が消滅する。黒雲母の消滅後は,バルク組成を変えずに均質化が進行する。 今,ザクロ石が粗粒と細粒の複数の粒子からなると想定すると,細粒粒子は黒雲母が消滅する前に均質化を完了し,その組成はこの温度で黒雲母と共存していた組成となる。一方,粗粒粒子は黒雲母が消滅するときにはまだ均質になっておらず,そのバルク組成を保ったまま黒雲母の消滅後に均質になる。その組成は成長累帯構造の平均組成であり,黒雲母と共存していた組成ではない。つまり,高温時の組成は粗粒ザクロ石でなく,細粒ザクロ石に保存されている。 以上の相図に基づく議論をふまえ,検討試料の消滅直前の黒雲母の組成を見積もり,それと粗粒ザクロ石の組成を地質温度計に適用すると,細粒ザクロ石の組成を用いた場合より 60〜80℃低い見積もりを与える。この見積もり温度の低下は,リュツォ・ホルム岩体で様々な手法で見積もられる温度の中で,ザクロ石−黒雲母温度計が系統的に示す低下に匹敵する。このことは,粒界拡散が不十分な環境下でのザクロ石の均質化が,リュツォ・ホルム岩体で広く生じていたことを示しているのかも知れない。

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  • Mizuki Takahashi, Shunsuke Endo
    Session ID: T2-O-6
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    はじめに ザクロ石角閃岩の部分融解は,造山帯の下部地殻や高い地温勾配下(20℃/km)で沈み込んだ海洋地殻に起こりうる重要なプロセスである.世界のいくつかの沈み込み型変成帯において,ザクロ石角閃岩とトーナル岩~トロニエム岩の組合せは,沈み込んだ海洋地殻の部分融解を示すものとして報告されている(例えば,Garcia-Casco et al., 2008).今回,鳥取県若桜地域の蛇紋岩中から,ザクロ石角閃岩とそれに伴うトロニエム岩を発見した.本発表では,これら岩石が高温沈み込み帯における部分融解を示している可能性について議論する.地質背景と産状 鳥取県東部の若桜地域に分布する志谷層は,約300Maの変成年代を持つ蓮華変成岩(高P/T)である (Nishimura and Shibata, 1989).志谷層は泥質片岩と苦鉄質片岩から構成され,大江山オフィオライト相当の超苦鉄質岩類や変斑レイ岩を伴う.泥質片岩は緑泥石帯からザクロ石帯への累進変成作用を示し(Yamaguchi, 1990),一部の苦鉄質片岩には青色片岩相の鉱物組合せが認められる(Kabir and Takasu, 2021).超苦鉄質岩類は原岩(主にハルツバージャイト)の組織を残す塊状蛇紋岩から,面構造の強く発達した片状蛇紋岩まで変化する.そして,片状蛇紋岩により志谷層とは隔てられた高変成度(ザクロ石+黒雲母+オリゴクレースの組合せをもつ)な泥質片岩の分布を初めて確認した.この泥質片岩中にブーディン状にザクロ石角閃岩およびトロニエム岩を産する.岩石記載 ザクロ石角閃岩は,優黒質なタイプと,優黒質部を切る不規則な優白質部を含むタイプに分類できる.優黒質部は主に自形のザクロ石,褐色角閃石(パーガス閃石~マグネシオホルンブレンド),チタナイトにより構成され,ザクロ石中には多量の斜長石,石英,ルチル,緑れん石が包有される.斜長石包有物は石英を伴い多角形の輪郭を示す.優白質部は斜長石,石英,白雲母,ゾイサイト,緑れん石,チタナイトにより構成され,トロニエム岩はより粗粒な岩石であるが同様の構成鉱物をもつ.ザクロ石に包有される斜長石はオリゴクレース(An27)であるが,優白質部およびトロニエム岩の斜長石は部分的にオリゴクレース(An12)が残存するものの,大部分はアルバイトと微細なゾイサイトに分解している.優黒質部のザクロ石は自形の斑状変晶で,昇温期の累帯構造(コアAlm61Grs26Prp7Sps6からリムAlm58Grs25Prp15Sps2)を保持している.一方,優白質部では,ザクロ石が自形の輪郭を残して斜長石+石英に置き換えられた「ゴースト」が多数観察される. 優黒質部のザクロ石中には,ジルコンや石英とともにルチルが包有されるため,Zr-in-Rutile温度計(Tomkins et al., 2007)を適用した結果,最高で約660℃(1 GPa)となった.また,基質の褐色角閃石にTi-in-Ca角閃石温度計(Liao et al., 2021)を適用すると最高で約700℃と推定された.議論 ピーク温度を660-700℃とすると,玄武岩系の含水ソリダスを越えるため,ザクロ石角閃岩が部分融解を経験した可能性がある.また,ザクロ石中の斜長石+石英包有物はメルト包有物が結晶化したものかもしれない.優白質部は,優黒質部の構造を切っており,「ゴースト」ザクロ石の存在とあわせて,ピーク以降に形成されたことを示す.ザクロ石角閃岩の優白質部とトロニエム岩は同様な岩石学的特徴をもつ.ザクロ石角閃岩の優黒質部はレスタイト,トロニエム岩はメルトと考えられるが,地球化学的検討が必要である.また,ザクロ石が昇温累帯構造をもつことは,下部地殻の融解よりも,沈み込んだ海洋地殻の融解を支持するように思われるが決定的ではない.スラブ融解として考える場合,青色片岩を形成するような志谷層の変成作用(Kabir and Takasu, 2021)とは異なる高温沈み込みが起きたテクトニクスを説明する必要があり,部分融解イベントの年代決定も必要である.文献:Garcia-Casco et al. (2008) J. Petrol. 49, 129-161; Kabir and Takasu (2021) Earth Sci. 75, 19-32; Liao et al. (2021) Am. Min. 106, 180-191; Nishimura and Shibata (1989) Mem. Geol. Soc. Japan, 33, 343-357; Tomkins et al. (2007) J. Metamor. Geol. 25, 703-713; Yamaguchi (1990) Geol. Rept. Shimane Univ. 9, 29-36

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  • Ippei Kitano
    Session ID: T2-O-7
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    栃木県西部の足尾山地では足尾帯のジュラ紀付加体が広く分布し,しばしば白亜紀~古第三紀花崗岩類に貫入され,局所的にホルンフェルス化している(河田・大澤,1955;矢内, 2008;伊藤・中村,2021).北野(2022)は,栃木県西部の鹿沼市板荷において片麻状構造および鉱物の配向性を有する片麻岩を見出し,その岩石学的特徴を報告した.この片麻岩では,珪質層と雲母質層の互層による面構造とフィブロライトの束状集合体の配列による線構造が認められ,定向配列するフィブロライトの大半はランダムに向いた紅柱石に置換されている.本発表では,上記の板荷産片麻岩から温度圧力条件を見積もり,領家帯泥質変成岩との比較を行った. 調査地域では,ジュラ紀付加体の層状チャートに黒雲母花崗岩が貫入し,気成鉱化作用により花崗岩中またはルーフペンダントの層状チャート中にタングステン鉱床が形成されている(Ishihara and Sakai, 1995).黒雲母花崗岩は岩体頂端で斑状となり,変質(グライゼン化)している.紅柱石を含む変質した粗粒両雲母花崗岩から,64–63 Ma の白雲母または黒雲母K–Ar年代が得られている(Ishihara and Sakai, 1995). 分析試料の珪質片麻岩は紅柱石含有斑状黒雲母花崗岩の付近に産し,数cm厚の珪質層と数mm厚の雲母質層からなる.主な鉱物組み合わせは黒雲母,白雲母,フィブロライト,紅柱石,カリ長石,石英で,少量のルチル,アパタイト,電気石,ジルコン,クリソベリルが含まれる.珪質層では主に粗粒~細粒な石英が占め,面構造に沿って配列している細粒な黒雲母や白雲母,フィブロライトを包有する.石英の粒間は黒雲母,白雲母またはカリ長石が産する.雲母質層は主に細粒な黒雲母,白雲母,フィブロライトおよび粗粒な紅柱石から構成され,前者は定向配列し,後者はランダムに配向する.雲母質層のカリ長石は白雲母と石英と接するが,フィブロライトまたは紅柱石とは接しない.一部のフィブロライトおよび紅柱石は白雲母に,カリ長石は白雲母+石英に置換されている. 板荷産珪質片麻岩中の黒雲母と白雲母は,それぞれ2.47–3.51 wt%と1.41–2.59 wt%の高いフッ素含有量で特徴づけられる.黒雲母のXMg値は0.45–0.50の幅をもち,粗粒石英中または基質中で定向配列する黒雲母は0.18–0.21 (pfu)のTi含有量をしめすのに対し,白雲母+石英に伴う細粒黒雲母は0.14–0.17 (pfu)の低いTi含有量をしめした(酸素数22).白雲母は0.60–0.69のXMg値をしめし,粗粒石英中の白雲母のTi含有量(酸素数22)は0.07–0.09 (pfu)であるのに対し,基質中で定向配列する白雲母およびカリ長石を置き換える白雲母のTi含有量は0.07–0.13 (pfu)とやや高く,フィブロライトおよび紅柱石を置き換える白雲母のTi含有量は0.03–0.10 (pfu)とやや低い. 黒雲母Ti固溶量地質温度計(Henry et al., 2005; Wu and Chen, 2015)と黒雲母―白雲母地質圧力計(Wu, 2020)を適用すると,黒雲母+白雲母+珪線石+石英が共存した最高変成条件は約580–600 °C,>4.5 kbarで,紅柱石が形成した熱変成条件は約540–560 °C,3.7–4.2 kbarと見積もられた.この最高変成条件はやや圧力が高いが,領家帯愛知県三河地域のカリ長石―珪線石帯の変成条件(574–709 °C,3.7–4.3 kbar: Miyazaki et al., 2010)に類似する.さらに,本研究で見積もられた紅柱石形成条件は,三河地域のザクロ石―菫青石帯ミグマタイトに貫入する紅柱石―石英脈の形成条件とほぼ一致する(Kawakami et al., 2022).以上の結果から,板荷産珪質片麻岩は,領家帯と同様の複数回の熱パルスを経験した可能性が示唆される. 引用文献 Henry et al. (2005) American Mineralogist,Ishihara and Sakai (1995) Resource Geology,伊藤・中村 (2021) 地質調査研究報告,Kawakami et al. (2022) Island Arc,河田・大澤 (1955) 5万分の1地質図幅説明書「足尾」,北野ほか(2022)日本地質学会第129年学術大会要旨,Miyazaki et al. (2010) Lithos,中沢・物部 (1957) 地下資源調査報告書,Wu (2020) Lithos,Wu and Chen (2015) Science Bulletin,矢内 (2008) 「関東地方」朝倉書店

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  • Tomoki OKAMURA, Daisuke NAKAMURA, Mutsuki AOYA
    Session ID: T2-O-8
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    四国・三波川帯別子地域にはエクロジャイト相変成作用を受けた複数の粗粒苦鉄質岩体(東平・西五良津・東五良津など)が存在する。中でも、より古いグラニュライト変成(例えば、Yokoyama, 1976: J. Geol. Soc. Jpn., 82, 549-551)の痕跡を残す東五良津岩体の起源が沈み込み帯の上盤側(大陸地殻下部)なのか下盤側(海洋地殻表層部)なのかが未確定であり、三波川帯の構造発達史を考える上での重要課題として残されている。一方、隣接する西五良津岩体は層厚100mに及ぶ大理石を含むため沈み込んだ海山・海台起源が確実であり、東五良津岩体がこれといつから履歴を共にしていたのかが1つの焦点となる。Ota et al. (2004)(Lithos, 73, 95-126)は温度圧力条件の連続性等を調べ、両岩体は原岩形成時から一連のものと考えた。さらにAoki et al. (2019)(Island Arc, DOI: 10.1111/iar.12332)は両岩体はもともと一体とみなした上で、地球化学的研究から、それら全体の起源を沈み込む下盤側の海洋性島弧に求めた。これらの説の妥当性の鍵を握るのは、斑レイ岩起源とされる東五良津岩体のグラニュライト変成作用時の温度・圧力条件だと考えられる。変成圧力(深さ)が一定以上に大きかった場合、現在の地質図上での大理石とグラニュライトの近接分布(距離にして約2.5km)を断層の介在なしで説明することはほぼ不可能となるであろう。 本研究では東五良津岩体に由来する4つの転石試料の観察と分析を行い、1試料(BNB3)から斜方輝石を含む鉱物組合せを見出したので、その試料についてより詳しく観察と分析を行った。用いた薄片は径1cm以上のザクロ石巨晶を含む領域、およびマトリクスは輝石が多産する領域、緑簾石が多産する領域に分けられる。  ザクロ石巨晶のリムに近い部分には斜方輝石(OpxIG)が包有物として含まれる。輝石多産領域の単斜輝石(ヒスイ輝石成分はほぼ含まれない)は直径数mmあり、斜方輝石(OpxIC)を包有物として含むものもある。マトリクスの斜方輝石(OpxM)は直径1mmほどで、同程度の大きさのザクロ石や単斜輝石と接している。なお輝石多産領域から斜長石は見つかっていない。緑簾石多産領域は肉眼でほぼ白色を呈し、藍晶石、角閃石、石英、少量の斜長石(大部分はアルバイト)やパラゴナイトを含む。また微小なオンファス輝石(径0.02mmほど)がNa-Ca角閃石の周囲に石英を伴って産する。 ザクロ石の組成はXgrs(0.15~0.18)に大きな変化はないものの、Mg# (Mg/(Mg+Fe))は57~66の幅があり、個々の粒子はリムでMg#が減少する累帯構造をもつ。斜方輝石は場所によって組成が異なり、各粒子内でも非対称な組成不均質がある。Mg#はザクロ石中が最も高く(OpxIG:83.5~87.0)、単斜輝石中で最も低い(OpxIC:80~82)。マトリクスのMg#はそれらの中間の値を持つ(OpxM :81.5~84.5)。またAl含有量にも違いがあり、OpxIGではAl = 0.14~0.17 apfu (O=6)なのに対してOpxICではAl = 0.18~0.21 apfuとなる。マトリクスのOpxMはAl = 0.13~0.22 apfuと不均質で、ザクロ石と接するリム近傍でMg#が高く、Alが少ない傾向がある。単斜輝石は先に記述した微小なオンファス輝石を除くと、すべてNa/(Na+Ca) < 0.12となり、Mg# =86~97のディオプサイドである。また、それらのSi含有量は低く、Si = 1.84~1.94 apfu (O=6)である。角閃石は薄片全体に渡って様々なステージで形成された粒子が産するものの、大部分の角閃石はBサイトのNa含有量が0.5 apfu (O=23)未満のCa角閃石である。 以上の組織的かつ化学組成上の特徴を考慮して、マトリクスの斜方輝石形成時の温度圧力条件を推定する。OpxMでザクロ石に近いリムから0.2mm範囲のAlに乏しいデータの平均組成とそれに接するザクロ石のコアの平均組成を対にとって、ザクロ石-斜方輝石温度圧力計(Harley & Green, 1982: Nature, 300, 697-701; Harley, 1984: CMP, 86, 359-373)を用いて計算すると約780℃, 0.8 GPaといった温度圧力条件が得られた。この圧力は玄武岩質岩(密度3 g/cm3)が上にある場合には地下27 kmに相当するため、海洋底下での変成作用と考えると現在の西五良津岩体との近接関係が説明困難である。このことより、本研究試料の岩石は上盤側の大陸地殻下部での変成作用の後に西五良津岩体と接合して沈み込み、エクロジャイト相での変成作用を受けたものと判断する。

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  • Tadao Nishiyama, Yasushi Mori, Miki Shigeno
    Session ID: T2-O-9
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    近年,地震発生のメカニズムや地震断層の断層破砕岩の組織との関連において,pulverizationが注目を集めている(Putnis et al., 2017).  pulverizationとはmicrofracturingとほぼ同義で,日本語では「粉砕,粉粒化」に近い.「微破砕作用」とでも訳すべきだろうか.似た言葉にcataclasisがあるが,cataclasisは断層運動に伴う脆性破壊とそれに伴う変形の全体像を指し,破砕岩片の大きさは限定しない.従って’cataclastic pulverization’などの表現も用いられる.日本の変成岩からは,pulverizationに関する記載岩石学的研究は少ない(日本人の研究としてはSoda and Okudaira,(2018)が注目される).pulverizationを示す変成岩・深成岩は多く存在するのだろうか?またpulverizationは何を意味するのだろうか?本講演はこれらの疑問から出発している.  われわれは次の4つの変成岩からpulverizationの組織を見出した.(1)西彼杵変成岩の呼子の瀬戸断層に沿うカタクラサイト,(2)西彼杵変成岩中の超高圧シュードタキライト,(3)野母変成岩のアルビタイト化した泥質片岩,(4)肥後変成岩の縞状大理岩.(1)と(2)は断層岩であるが,(3)と(4)は一見して断層岩に見える岩石ではない. (1)の例では,呼子の瀬戸断層に隣接する泥質片岩中に幅50cm程度のカタクラサイトが発達し,ドロマイトでセメントされた基質中に黄鉄鉱の微破砕組織が発達する. (2)では蛇紋岩メランジュに含まれる炭酸塩化蛇紋岩(リストベナイト:マグネサイト+石英岩)の構造岩塊中に発達するシュードタキライト中に磁鉄鉱,ジルコン,チタン石などの微破砕組織が認められ,剪断により初期粒径の10倍以上に引き延ばされている例も見られる. (3)では泥質片岩中に発達するアルビタイト(交代岩)中に微破砕組織を示す緑簾石,ザクロ石,チタン石が緑泥石やフェンジャイトに包有されて脈状に産する.脈以外の部分の鉱物は微破砕組織を示さないという特徴がある. (4)では白色大理岩中に灰白色の縞状構造(数mm幅)を有する部分があり,その縞をなす層の中に,透輝石などの微破砕組織が観察される. これらの産状から以下のことが推論される. 変成作用の間に,断層運動による脆性破壊によって形成された岩石中の割れ目は,流体の通路となり,新たな鉱物が沈殿することによってseal(密封)される(1の例).断層運動に伴う剪断加熱により岩石の溶融が起こっているシュードタキライトの場合も,溶融に先立って剪断作用に伴う微破砕作用が存在したことが(2)の例によって示される.(3)の例では,剪断作用による割れ目の形成に伴い,流体が浸透して微破砕組織を示す鉱物を包み込むように脈が形成されることを示している.この流体は周囲の母岩と反応して,交代岩(アルビタイト)を形成している.交代作用を引き起こした流体の浸透が,剪断破砕によって支配されていることを示す点で重要である.また断層運動による脆性破壊の痕跡はsealingによって認識しがたくなることを示している点でも重要であり,pulverization textureはこのような事象が起こったことの強力な証拠となりうる.(4)の場合は,一見変成岩特有の縞状構造にしか見えない構造が,断層運動による剪断構造であることを示している. 以上のようにpulverization(微破砕組織)は,単に断層岩に特有の組織として注目される(Reches and Dewers, 2005)だけでなく,交代作用の前駆現象としての破砕作用の認識(流体通路の形成の認識),また縞状構造と剪断構造の識別などに有効な岩石組織として重要である. 文献 Putnis, A., Jamtveit, B., and Austrheim, H. (2017) Journal Petrology, 58, 1871-1898. Reches, Z. and Dewers, T. A. (2005) Earth Planetary Science Letters, 235, 361-374. Soda, Y. and Okudaira, T. (2018) Terra Nova, 30:399-405.

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  • Kazuhiro Miyazaki, Takeshi Ikeda, Yayoi Muraoka
    Session ID: T2-O-10
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    地殻下底から上昇する珪長質マグマのバッチサイズに着目して,深部でミグマタイトを生じるような高温型変成帯(以下深部高温型変成帯)の形成と浅部でのプルトン(以下浅部プルトン)の同時形成が可能かどうかを検討した.その結果を九州北部糸島―脊振山系雷山地域のプルトン−変成岩の形成過程に適応した.本研究では,玄武岩マグマの底付け付加よる加熱により,地殻下底のマグマ生成域において下部地殻の部分溶融で珪長質マグマが形成されるとする.生成域では,小さなマグマバッチが空間的にランダムに生じる.生成されたマグマバッチは,他のマグマバッチと接した場合,合体する.一定サイズ以上になったマグマバッチは,生成域から上昇離脱する.このプロセスが,繰り返し起こると,生成域及び離脱上昇するマグマバッチのサイズ分布は指数-mのべき分布となる.モデルでは,べき分布の指数が時間と共に変化しない定常状態が出現し,自己組織化臨界状態(SOC)に達する(Bons, et al., 2004).生成域からのマグマの上昇は,マグマに充填されたクラックが進展することで起こる (Bons et al., 2001).クラックを充填するマグマバッチのサイズが大きいほど,進展速度が速い(Bons et al., 2001).大きなマグマバッチは,冷却されることなく,地殻浅部まで上昇する.一方,小さなマグマバッチは,冷たい地殻ではすぐに固結してしまう.小さなマグマバッチが大量に上昇を続ければ,地殻下部は徐々に加熱され,深部高温型変成帯が形成される.モデルでは,浅部プルトンと深部高温型変成帯の同時形成が可能である.珪長質マグマの総量のうち,どの程度が浅部プルトンの形成に関与し,どの程度が深部高温型変成帯の形成に関与するかは,マグマバッチサイズ分布の指数に依存する.mが大きいほど深部高温型変成帯の形成に有利なり, mが小さいほど浅部プルトンの形成に有利になる.上記のモデルを糸島−背振山系雷山地域の地質に適応した.この地域の花崗閃緑岩は,花崗閃緑岩のジルコンのU-Pb年代(村岡,2021; 堤・谷,2022)と地質調査の結果により,北から南へ,約112 Maの北崎花崗閃緑岩,約105Maの糸島花崗閃緑岩,約98 Maの糸島花崗閃緑岩として識別できる.それぞれ,南北幅約20km,東西幅約40〜60km広がりを持つ.各プルトンの境界には変成岩が分布する.98 Ma糸島花崗閃緑岩の南縁部にも変成岩が分布する.本研究,及びYamada et al.(2008)より,各プルトンの間及び南縁に分布する変成岩の変成圧力は,3-4 kbarであり,南北約40 kmの距離があるにもかかわらず,大きな圧力差は検出されない.さらに,北崎花崗閃緑岩及び105Ma糸島花崗閃緑岩の定置圧力は,それぞれ2.5-3.6 kbar及び1.6-2.7 kbar(宮本・島田,2016)である.ルーフを構成する変成岩を形成した熱源は,浅部プルトンだと考えられる.浅部プルトンが広く分布する糸島―雷山地域の地殻下底のマグマ生成域から分離上昇したマグマバッチサイズ分布は,比較的小さなべき指数のmを持っていたと考えられる.先のモデルは,深部高温型変成帯の形成を予測する.これに相当する変成岩は,すでに大和田ほか(2000)で存在が指摘されており,雷山山頂付近に分布する.ミグマタイトからなる高温型変成岩で,変成圧力は5-7 kabr,変成ジルコンU-Pb年代は約105 Maと約98 Maが得られた.変成圧力は見かけ下位の層準へ向かい増加する.この変成岩の見かけの厚さは数 km未満であり,形成後に変成岩層の薄化が起きていたと予想される.この変成岩がなぜ雷山山頂付近に分布するのかを考察した.雷山の南方に分布する98Ma糸島花崗閃緑岩の定置圧力は,5.5-6.5 kbar(矢田・大和田,2003)であり,他のプルトンより高圧である.深部高温型変成帯の断片と考えられる変成岩の上昇機構として,深部に定置し完全には固結していない98 Ma糸島花崗閃緑岩が,その周囲の深部高温型変成帯の薄化を伴いながらダイアピルとして上昇した可能性が指摘できる.引用文献 Bons et al. (2001) JMG, 19, 627-633;Bons et al. (2004) Lithos, 78, 25-42; 宮本・島田(2016) 日本鉱物科学会(要旨);村岡(2021)日本地質学会(要旨);大和田ほか(2000) 地雑,56, 229-240; 堤・谷(2022)日本地質学会(要旨);矢田・大和田(2003) 地雑,109、518-532;Yamada et al. (2008) JMPS, 103,291-296.

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  • Kohei SHISEKI, Tatsuki TSUJIMORI
    Session ID: T2-O-11
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    エクロジャイト化した玄武岩質の海洋地殻は一般的にマントルかんらん岩より高密度であるが、収束プレート境界のダイナミクスにより、その断片が変成岩体として造山帯の地殻浅所まで上昇することがある。沈み込み帯深部から上昇可能な高圧変成岩体のサイズは、高圧変成スラブ(=高圧変成岩)の2D動力学モデリングに欠かせないパラメタの1つである。大陸衝突に伴う超高圧変成帯においては、10~100kmスケールの巨大な岩体がモホ面深度付近まで上昇し、その上昇時における圧力・温度(P-T)経路の性質は岩体のサイズに依存する。一方、海洋プレート沈み込み帯の高圧変成帯の場合、一般に岩体サイズと上昇P-T経路の間に系統的な相関はなく、P-T経路は沈み込みチャネル内の高圧変成スラブ上昇機構と停滞時間に依存すると考えられ ている。飛騨外縁帯の青海地域はBanno (1958)及びMiyashiro and Banno (1958)によって、世界で初めて藍閃石を含む変成岩帯が変成分帯された地域として知られる。Banno (1958)が識別した緑泥石帯と黒雲母帯のうち、緑泥石帯には藍閃石を含む典型的な高圧型変成岩が点在する。そし て、緑泥石帯には粗粒なざくろ石の斑状変晶で特徴付けられた鍵層"Garnetiferous Bed (GB)"が約6km続き、2000年代はじめにはその"GB"の東端からエクロジャイトが発見された(辻森ほか, 2000; Tsujimori, 2002)。辻森ほか (2001), 辻森・松本(2006)は、鍵層"GB"の地図上の分布と1950年代の標本から含藍閃石変成岩を確認することで、エクロジャイトを含む高圧変成ユニット「Eclogitic Unit」という名称を提案した。近年、Yoshida et al. (2021) によって新たにエクロジャイト相変成岩の産地が確認されたが、それはBanno (1958)の鍵層"GB"に相当する。一般に、蛇紋岩を浮力として上昇した高圧変成岩のサイズは10~100m程度であることが多いが、青海蛇紋岩メランジュでは最大6kmに達する連続的なエクロジャイト相変成岩の露出が予測されている。さらに 最近、鍵層"GB"ではない地域からも非常に保存のよい塊状のエクロジャイが見出された。これは青海地域のエクロジャイト相変成岩が、先行研究よりも広範囲に露出する可能性を示唆するものである。著者らは、これまで2次元動力学数値モデリングにより高圧変成岩体の上昇を支配するパラメタの制約を行ってきた(志関・辻森,JpGU2023)。予察的な数値計算の結果、海洋プレート沈み込み帯において沈み込みチャネルが肥大化した場合、チャネル内の岩体の温度履歴はスラブとの距離に強く依存するという結果が得られた。これは、同一の地質帯において異なる後退変成履歴を記録した高圧変成岩体が同時に産出する可能性を示唆する。本講演は、2次元動力学数値モデリングで再現した高圧変成岩体と、青海地域のエクロジャイト相に達した変成岩体の上昇経路を比較する。そして、同一の地質帯に産する高圧変成岩の上昇時の温度圧力経路の多様性について議論するとともに、青海地域のエクロジャイト相に達した変成岩を例に、顕生代の海洋プレート沈み込み帯における高圧変成岩体のより確からしい上昇経路・上昇機構のダイナミクスを体系化するための取り組みを紹介する。【引用文献】Banno (1958) Japanese Journal of Geology and Geography, 29, 29–44. Miyashiro and Banno (1958) American Journal of Science, 256, 97–110. 志関・辻森, JpGU Meeting 2023, MIS13-P02. 辻森ほか (2000) 地質学雑誌, 106, 353–362.辻森・松本(2006) 地質学雑誌, 112, 407–414. Tsujimori (2002) International Geology Rreview, 44, 797–818. 辻森ほか (2001)日本地質学会第108年学術大会見学旅行案内書, 157–177.Yoshida et al. (2021) Journal of Metamorphic Geology, 39, 77–100.

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  • mitsuhiro toriumi
    Session ID: T2-O-12
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    It has been still unknown that the timing of the exhumation of the metamorphic belts shows intermittent and sometimes periodic along the subduction plate boundary, though plate subduction is still continuous. There seem two basic mechanisms for this: one is the mechanism depending on the tectonic framework of the subduction zone, and second is the mechanism controlled by the changing the parameters of constituent materials such as the accretion of masses and viscosity depending on water content. There are several models of metamorphic exhumation from the subduction boundary: one is the viscous drag exhumation model, and the other is the friction drag exhumation model in the along the subduction boundary or in the wedge mantle (Toriumi 2022). In both models, the driving force of the exhumation or extrusion should be the gravitational one yielded by density difference and total mass of the extrusion body against the surrounding upper mantle. The net force acting on the metamorphic mass as, dF = Fb - 2kt S = S h drm g (w/ h - 2 k m dr/drm) , in which t is shear stress, dr is density difference, w is mass aperture, h is depth, g is gravitational acceralation, and k is extensional coefficient. In the condition of extensioal stress (k<0.5), the critical depth of massive extrusion attains 100 km.Reference,Toriumi, M., 2022, Geochemical Mechanics and Deep Neural Network Modeling, Springer.

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  • Yukinojo KOYAMA, Simon Richard WALLIS, Takayoshi NAGAYA, Mutsuki AOYA
    Session ID: T2-O-13
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: April 10, 2024
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    沈み込み帯のプレート境界部(沈み込み境界)にかかる応力は物質の変形をもたらし、地震や摩擦・剪断熱の発生を支配するため、地震現象や沈み込み帯熱進化のモデル構築において必須の情報である。なかでも最大剪断応力は物質の変形に最も大きく影響する要素であるが、その正確な推定は難しい。例えば、直接掘削では最大剪断応力を含む完全な応力場の情報を取得し得るが、取得可能範囲は最大でも深さ数㎞にとどまる。そのため、より深い領域では、脆性・延性変形による摩擦・剪断熱を変数としたモデル計算によって地殻熱流量の測定値を再現することでプレート境界面上の最大剪断応力推定が行われている。しかし地殻熱流量の測定は地殻流体や海底水温変動などに強く影響されるため、摩擦・剪断熱に起因する成分の正確な抽出は難しい。また測定地点数によっては十分な空間分解能が得られず、結果として沈み込み帯傾斜方向の推定応力値は最大で数倍も変化し得るうえに、沈み込み帯走向方向の応力分布は不明である。また上記手法で得られる応力は観測期間中の値であり、沈み込み帯の熱進化など、数千万年に及ぶ地質学的議論に応用するには時間スケールの乖離も問題となる。 過去に沈み込み境界の直下を構成し、現在は地表に露出する岩体は、沈み込み境界での変形に関わる情報を長い時間をかけて保存する。また、沈み込み帯における位置関係がよく保存された岩体を用いることで、沈み込み境界の傾斜・走向方向ともに高い空間分解能で情報を取得することが可能である。本研究では岩体の変形記録を読み解くことで、沈み込み境界の応力分布の推定を試みた。 西南日本に位置する三波川沈み込み型変成帯、汗見川流域を対象地域とし、傾斜方向の応力分布を推定した。三波川帯ではマントルウェッジ由来の蛇紋岩と海洋地殻由来の片岩が隣接し、過去の沈み込み境界が露出していると考えられる。主要な造岩・変形鉱物である石英の動的再結晶粒子に着目し、c軸の結晶方位分布を用いた石英開口角温度計により推定した変形温度と、先行研究による岩体の温度圧力履歴を比較することで、岩体の変形時期と変形深さを推定した。さらに変形温度と石英動的再結晶粒子の結晶粒径を応力計に代入し、岩体の受けた最大剪断応力を推定した。結果、粒径測定面や応力計の違いによる影響を含めても、平面応力場では、深さ17–27 kmの領域では最大剪断応力がいずれも16–41 MPaの範囲に収まり、深さによらず一定であることが示された。必要な歪量を考慮すると、石英動的再結晶粒子は最低でも数万年かけて形成されると考えられる。本研究結果は、より適切な時間スケールと高い空間分解能を持った情報として、沈み込み帯の熱進化モデリングへの境界条件を提供するものである。 さらに本研究では、四国中央部三波川帯の広範囲にわたって同様の分析を行い、走向・傾斜方向の応力分布や、時間変化を検討中である。現在のところ、最高変成温度と岩体の変形温度の差が約100℃未満であれば、深さ17–27 kmの領域では15–40 MPa程度の、一定の最大剪断応力が示されている。これはピーク変成時から岩体上昇の初期にかけて、走向・傾斜方向ともに、沈み込み境界にかかる応力が一定であったことを示唆する。一方で、最高変成温度と岩体の変形温度の差がより大きいサンプルは、変形深さ条件が12-16 kmと浅く、最大剪断応力は30–65MPaと高い値を示すことも分かってきた。これは岩体の上昇が進むにつれて、岩石の大部分において変形が終了し、変形が局所化していたことを示唆する。 三波川沈み込み帯の推定熱構造は、深部スロー地震が活発に生じる西南日本沈み込み帯の熱構造と類似しており、三波川沈み込み帯でもスロー地震が発生していた可能性が示唆される。また、本研究で用いた岩石試料の変形深さ17–27 kmは、三波川沈み込み帯においてはマントルウェッジ直上に相当し、これは典型的な深部スロー地震の発生領域である。さらに、深部スロー地震の発生に伴う応力変化は極めて小さく無視できる。従って本研究結果は、沈み込み帯熱進化モデリングのみならず、深部スロー地震発生時の最大剪断応力条件としても応用が期待される。

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