日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
10 巻, 5 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 小川 和朗, 吾郷 泰広
    1973 年 10 巻 5 号 p. 277-292
    発行日: 1973/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    コレステロール食長期投与によるウサギ実験的粥状硬化症を指標として, Elastase (EL) の予防効果および治療効果を光学顕微鏡および電子顕微鏡により形態学的に検討した.
    本実験の結果, ELには, 実験的粥状硬化発症の予防効果が認められることが確認された. しかし, 一度形成された粥腫の除去作用あるいは, 治療効果は不定であり, あまり判然としなかった. 予防効果は, ELの腹腔内注射例および経口投与例の両例に認められたが, 腹腔内注射の場合のほうが, EL量は少量で効果が出現した. 組織像よりすれば, EL 1mg/kg/日腹腔内注射の予防効果がEL 1mg/kg/日経口投与の予防効果にほぼ相当するようである. いずれの場合にも予防効果には, dose response が認められた.
    ELは, また, コレステロール投与による脂肪肝発症をも予防した.
    なお, ELの抗粥状硬化作用の作用機構について考察を加えた.
  • 再検討と臨床応用
    竹岡 常行, 中島 伸二, 古見 耕一, 森 皎祐, 相沢 豊三
    1973 年 10 巻 5 号 p. 293-303
    発行日: 1973/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    近年新しく開発された蛋白分画法の中で, ディスク電気泳動法は, 検体が微量ですみ, 分離能および再現性もすぐれ, 稀薄蛋白液の泳動にも前処置に濃縮を必要としない等の利点を有している. 本法による髄液蛋白分画の研究は, 従来, 使用髄液量を一定とした泳動実験の報告を見るのみであり, 使用髄液蛋白量を一定とした論文は, 本邦にはみあたらない. 我々は泳動する蛋白量を一定にして, 総計386検体の髄液を泳動し, そのうち122検体を疾患別に検討し, 以下に述べる成績を得た.
    1) 髄液のディスク電気泳動法において, 使用蛋白量を一定 (約200μg) とすることによって, 泳動像およびその蛋白分画相対濃度百分率を, 各検体間でより正確に比較することができた.
    2) 蛋白分画を大きく5区域にわけた. 正常髄液23検体の各分画相対濃度百分率の平均値および標準偏差は, Pre.-zone: 10.9±2.7%, Alb.-zone: 40.3±5.8%, A-zone: 13.5±1.6%, B-zone: 19.2±3.9%, G-zone: 16.1±2.6%であった. G-zoneの意義については免疫グロブリンとの関係を考察した.
    3) 疾患により有意の増減 (危険率5%) を認めた分画は, 髄膜炎, 神経梅毒, 脳硬塞, 脳腫瘍, 多発性硬化症および椎間板ヘルニアのいずれの疾患でも, 髄液蛋白量が40mg/dl以上のときは, Pre.-zone の減少とG-zone の増加を認めた. 椎間板ヘルニアでは常にA-zone の増加があり, 髄液蛋白量が40mg/dl以下のとき Alb-zone の減少を認めた. 脳硬塞では, 常に Pre.-zone が減少し, 髄液蛋白量40mg/dl以下のときA-zone は増加した. 髄液蛋白量が40mg/dl以下でも G-zone の増加を認めた疾患は, 多発性硬化症, 脳腫瘍, 椎間板ヘルニアであった.
  • 中西 克巳, 三好 勝彦, 堀内 成人, 佐々木 陽, 鈴木 隆一郎
    1973 年 10 巻 5 号 p. 304-313
    発行日: 1973/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    本邦においても食生活の改善を主とする生活環境の変化により, 近年胆嚢疾患は増加しつつある. また一方, 検査法の進歩により, 臨床的にも胆嚢疾患が成人病の一環として重要な位置を占めるようになってきた.
    我々は通常の社会生活を営む健常人を対象として経口胆嚢造影の集団検診を実施し, 異常胆嚢所見の出現状況, その加令との関係, 体重との関係, 胃十二指腸X線所見との関係を検討した. さらに肝機能検査, 糖負荷試験, 血圧測定, 心電図検査等を併せて施行し, 異常胆嚢所見と, これらの検査異常の合併状況について検討した.
    経口胆嚢造影は胆嚢疾患のスクリーニングテストとして広く用いられているが, 造影剤の通過, 吸収に問題があり, 造影陰性, 造影不良例については再検によって陽性像または正常造影濃度の得られることが多い.
    体重は胆嚢像と関係が深く, 造影陰性, 造影不良, 拡大, および収縮不良例は, 肥満, 過体重例に多く, 変形および小胆嚢はやせたものに多い. 胆石はやせたものには少ない.
    胃十二指腸X線所見との関係では, 術後胃に造影陰性, 造影不良, 拡大例が多くみられるが, その他は特徴的な関係に乏しい.
    異常胆嚢所見を示したものの臨床検査は, GTT異常23.5%, 高コレステロール23.5%, 高アルカリフォスファターゼ27.7%, 高血圧27.5%, 心電図異常37.2%で, 胆道系と直接関係するアルカリフォスファターゼ高値, コレステロール高値例とともにGTT異常, 高血圧, 心電図異常の合併が高率である. これらの合併疾患は胆石保有例よりも造影不良や拡大胆嚢例に多くみられる. したがって経口造影胆嚢像の分析の際は, 胆石その他の器質的変化の追求にとどまることなく, 合併する糖代謝異常や, 心疾患の存在を考慮する必要がある.
  • 一次判別関数による
    岡田 文郎, 額田 忠篤, 杉谷 義憲, 山内 良紘, 高野 隆, 阿部 裕, 吉川 巌
    1973 年 10 巻 5 号 p. 314-320
    発行日: 1973/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    死亡率において最高位にある脳血管障害の予後, 特に生命予後を知ることは治療上からも重要なことである. 今日まで, ある程度経験的にある種の神経症状, たとえば意識障害, 発熱, 呼吸障害などが存在すると生命の危機があるといわれてきた. もちろん予後は病巣部位, 出血の広がり, 合併症などにより左右されるが, これらすべてを包含しての解析は不可能に近い. 本論文は, 脳出血発作当初の臨床症状, 臨床検査所見のうち比較的情報の得やすい項目を選び, そのなかから生死と関連深い項目を相関分析により抽出して, その項目をパラメーターとして脳出血発作後1ヵ月以内の生命予後に関する一次判別関数を導いたものである.
    対象は大阪大学医学部第一内科および関連病院に入院の脳出血患者63名 (男44, 女19) でそのうち死亡例は19名 (男13, 女6) で平均年令は61才であった.
    まず生命予後すなわち生存するか死亡するか, と関連があると一般に考えられる項目, すなわち年令, 意識障害, 嘔吐, 痙攣, 尿失禁, 瞳孔異常, 対光反射異常, 共同偏視, 病的反射, 呼吸障害, 尿蛋白, 尿糖, 脈拍, 体温, 収縮期および拡張期血圧, 血沈, 白血球数およびその分類のうち好中球比率の18項目をとりあげ症状については, 一度でもあれば“あり”とし0, 1式に数量化 (“あり”を1,“なし”を0) し, 連続量はそのままで, 生死との間で相関分析とX2検定を行なった.
    計算の結果生死と相関の高かった項目は, 意識障害, 尿失禁, 瞳孔異常, 対光反射異常, 脈拍, 体温, 血圧, 白血球数で, このうち特に尿失禁, 脈拍, 体温は0.1%の危険率で有意という高い相関性を示した. 次にこのうちの8項目をパラメーターとして脳出血の生命予後を判定する一次判別関数を導いた. この式の正診率は, Internal Sample で88.9%, External Sample で83.9%であった. この式は医師の主観を除外し客観的に簡単な項目で生死を判別し得るものであると考える.
  • 脂肪細胞の大きさと年令, 肥満度との関係について
    石川 俊次, 堀江 健也, 相沢 豊三, 中村 治雄, 五島 雄一郎
    1973 年 10 巻 5 号 p. 321-326
    発行日: 1973/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    肥満は, 脂肪細胞の大きさの増大, または脂肪細胞の数の増加, あるいはその両者によって発現するが, それぞれの場合に, その代謝面で異なった態度を示すと考えられる. そこで, 脂肪細胞の大きさと数との関連から, 脂肪組織の代謝や肥満者の代謝の研究を行なうことは興味深い.
    著者らは, Björntorp らの方法を一部修飾して, 脂肪細胞の大きさに関する測定法を検討した. 手術時または針生検にて採取した脂肪組織を, 短時間 formaldehyde で固定したのち, 凍結切片を作製し, 生理的食塩水中に浮遊させ, 光学顕微鏡下で脂肪細胞の最大直径を測定した. 血管周囲には, 小さい脂肪細胞が集合しているので, かかる特殊な部分を除外した区域につき, 選択をさけ, 連続的に100個の細胞を測定した. その結果, 脂肪細胞の直径は, ほぼ正規分布を示し, 直径計測についての測定誤差は, 平均7.2%であった. 本法は少量の脂肪組織で測定できること, 経費が比較的安くすむこと, また実際的に臨床応用も可能で, すぐれた測定法であると考えられる.
    本法を応用して, 15例につき, 外科手術時, 腹壁皮下より得られた脂肪組織について, 脂肪細胞の大きさを測定した. 比体重と脂肪細胞の大きさには, 1%以内で有意な相関が認められた. この関係は, 60才を超えた群と60才以下の群に区別しても同様であった. しかし, 全体として正の相関を示すにもかかわらず, 同程度の肥満度を示す例の間に, 脂肪細胞の大きさに著明な差を認めた. 同程度の肥満度の場合, 幼少時より肥満傾向にあった例は, 成人に達してから肥満した例に比較すると, 脂肪細胞が小さいという傾向が認められた. このことから, 前者は後者に比較してより多くの脂肪細胞を保有していると推定できる.
  • (1) 脳底部動脈硬化と年令・性
    木元 克治, 上田 一雄
    1973 年 10 巻 5 号 p. 327-331
    発行日: 1973/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    本邦人剖検例920例の脳底部動脈の動脈硬化を, Baker の方法を用いて病理学的に検索した.
    20才代ですでに脳底部動脈硬化が認められる症例があるが, 30才代以後次第に脳底部動脈硬化の所見を有する例が増加し, 50才前後ではほぼ半数に脳底部動脈硬化を認め, 70才以上ではほとんどすべての例に脳底部動脈硬化を認めた. また, 動脈硬化が認められない例の割合は, 一般に女性のほうが男性に比して高かったが, 20才代および70才代では逆であった.
    脳底部動脈硬化の重症度は30才代では軽度であるが, 加令とともに増強し, 男性では40才代, 女性では50才代で著明な脳底部動脈硬化を有する例が一部にみられ, 70才代では症例の半数が, 80才以上ではほとんどの例が著明な脳底部動脈硬化を示した. 性別にみると, 60才代以下では男性のほうが脳底部動脈硬化が強く, 70才以上では女性のほうが脳底部動脈硬化が強かった.
  • 肝硬変症患者との異同を中心として
    三好 康夫
    1973 年 10 巻 5 号 p. 332-339
    発行日: 1973/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    白血球と栓球が脂酸の合成を行なうことから, 成人型糖尿病患者 (8例) の血液細胞における脂酸のエステル化と変換について, 健康成人 (10例) と肝硬変患者 (7例) を対照として両疾患の異同を比較した.
    空腹時の血液3mlを1μCiの1-14C stearic acid ならびに1-14C linoleic acid とともに37℃, 4時間 incubate した. 粟井らの方法で脂質を抽出し, thin layer chromatography にて phosphslipid (PL), triglyceride (TG), cholesterol ester (CE), free fatty acid (FFA) に分けておのおのへのエステル化率をみた. PLとTGへの脂酸はさらに gas chromatography によって分離し, 個々の脂酸への変換率をしらべた. 14Cの計測には liquid scincillation spectrometer を用いた.
    14C標識脂酸の分布は両脂酸とも約90%がFFAにとどまり, PLには6~10%, TGに1~5%, CEには0.3%以下であったが, PLとTGへのエステル化は両疾患とも健康人に比し低下していた. 1-14C stearic acid と incubate した場合, 両疾患群においては, PLおよびTG脂酸とも18:1の%分布値の低下と18:2のそれの増加がみられ, またPL脂酸においては, 糖尿病群で20:2の増加, 肝硬変群で18:0の低下と20:4≦の脂酸群の増加がみとめられた. 1-14C linoleic acid の場合には, 糖尿病群で20:3の%分布値の著明な増加がPLおよびTG両分画ともに認められ, これは肝硬変ではみられない特徴であった. また, 両分画脂酸における18:3の低下は両疾患群に共通にみられ, 特に糖尿病群で著明であった.
    以上に得られた成績は両疾患時における脂酸代謝上の異常を反映していると考えられ, これらの病態生理について若干の考察を加えた.
feedback
Top