日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
11 巻, 6 号
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  • 方向指示型超音波ドプラ法による解析
    松井 忍
    1974 年 11 巻 6 号 p. 367-374
    発行日: 1974/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    方向指示型ドプラ法を用いて, 心, 肺, 血管系に異常を有さない15歳から75歳に至る正常血圧者 (150/90mmHg未満) 58例 (男42例, 女16例, 平均年齢43.9歳) を対象として各動脈部位 (右側総頸, 上腕, 橈骨, 大腿, 足背動脈) の血流パターンを記録し, その加齢による変化について検討し, 次の結果を得た.
    (1) peak velocity (forward flow) に関しては, 総頸, 上腕, 橈骨, 大腿各動脈にて加齢とともに低下傾向にあった. 特に, 総頸動脈において他の各動脈部位に比し velocity の低下が著明であった.
    (2) inclination of first forward flow に関しても, (1) と同様の結果を得た.
    (3) appearance time に関しては, 上腕, 橈骨, 大腿, 足背各動脈にて加齢とともに短縮傾向にあったが, 総頸動脈にては年齢との間に一定の傾向は認めなかった.
    (4) 総頸, 上腕, 橈骨各動脈における収縮中期逆流相は若年者でしばしば認められるが, 40歳, 特に, 50歳以上の老年者ではほとんど認められなかった. また, その velocity は加齢とともに低下傾向にあった.
    大腿動脈における収縮後期-拡張早期間逆流相は全症例に認められ, かつ, その velocity は加齢とともに低下傾向にあった.
    (5) 各波高比に関しては, 加齢とともに総頸動脈にてS2/S1, I/S1, D/S1 d/S1の大なる傾向, D/S2の小なる傾向, 上腕, 橈骨動脈におけるS2/S1の大なる傾向, 大腿動脈のR/S, D/Sの小なる傾向を認めた.
    以上の結果は心臓血管系の老化の指標として超音波ドプラ法による血流パターンが応用されうる可能性を示唆するものと考えられた.
  • 予測因子の重回帰分析による検討
    鏡森 定信, 河野 俊一, 岡田 晃, 川西 徹郎, 莇 昭三, 奧田 洽爾, 金川 克子
    1974 年 11 巻 6 号 p. 375-381
    発行日: 1974/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    著者らは昭和38年以来, 城北病院の診療圏における循環器検診や病院外来の高血圧患者を対象に高血圧患者会をつくり, 外来治療や毎年夏の一斉管理検診を実施して来た. 5年から10年にわたり管理を受けた277人の本態性高血圧患者から29人の脳卒中 (脳硬塞22人, 脳出血7人) が発生した. これらの脳卒中と管理初期の断面検査成績および管理期間中の検査成績の推移との関連を検討した. すなわち本研究はこれらの検査成績から将目の脳卒中発生の予知が可能かどうかを吟味するとともに, 今後の高血圧管理のための基礎的資料を得ることを来的とした.
    循環器検診の各検査成績は相互に関連を有する. そこでこれらの関連を考慮した上で, 脳卒中発生に対する各検査成績の重要度を重回帰分析により電算機を用いて解析した. 結果は以下の通りであった.
    1. 脳硬塞に対して有意であったのは管理初期の肥満度+20%以上 (この項目のみ負の偏回帰係数), 尿糖陽性, ST-T変化, 眼底細動脈硬化であり, 経年変化では管理検診時の血圧が管理初期の血圧よりも高いことがしばしばあった場合と, 管理検診時の血圧が1回でも180and/or 100mmHg以上を示した場合であった.
    2. 脳出血の発生に対しては管理初期の眼底高血圧性変化が有意, 尿蛋白陽性が有意な傾向を示し, 経年変化では管理検診時の血圧が1回でも180and/or 100mmHg以上を示した場合が有意であった.
    したがって脳卒中の発生に関しては血圧の経年変化に関する成績の重要性を考慮した上でも, 管理初期にすでにあった合併所見がその発生に強く関連しており, 今後の高血圧管理においては充分な血圧管理に加えて, これら合併所見の発生を予防することがきわめて重要であると考えられた.
  • 山梨県白州町における年齢と血圧因子を中心にした10年間の追跡調査成績
    西田 毅
    1974 年 11 巻 6 号 p. 382-392
    発行日: 1974/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    脳血管障害の発症要因を疫学的アプローチによって解明し, 本症の予防または管理上の手がかりを得る目的で, 40歳以上の地域住民1662人を対象に10年間, 追跡調査を行なった. 追迹期間中に169例の新たな脳血管障害の発症がみられた. 脳血栓, 脳出血ともに加齢とともに発病率が増加するが, 近年, 高齢者における脳血栓の発病率の増加が著しく, 脳出血と脳血栓の比は低下の傾向を示した.
    高血圧症からの脳血管障害の発症は, 正常血圧からの発症の約5倍であり, 40歳代, 50歳代の年齢層では高血圧による本症の発症危険度が有意に高い. 70歳以上の年齢層では, 脳出血の発症とは冬期の拡張期血圧の上昇が, 脳血栓の発症とは冬期の収縮期血圧がより大きな関連を示した.
    高血圧の管理により, 脳出血, 脳血栓ともに発症危険度が明らかに低下する.
    以上の成績は, 脳血管障害の発症要因として年齢と血圧が最も重要な因子であること, また, 高血圧の管理は脳出血, 脳血栓を問わず新たな脳血管障害の発症を減少させることを示唆するものと考えられる.
  • 5年間の死亡に及ぼす年齢の意義
    西丸 雄也, 尾前 照雄
    1974 年 11 巻 6 号 p. 393-401
    発行日: 1974/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    脳血栓発症後1カ月以上生存した151例について5年間の追跡調査を行ない, 発症時の年齢によって60歳未満と60歳以上に分け, 臨床症状, 検査所見が長期予後におよぼす意義の相異について検討した.
    全症例の年齢は23~85歳, 平均58.5歳であった. その生存率は1年後87%, 2年後81%, 3年後74%4年後71%, 5年後63%で, これらは年齢別, 性別の全死因の死亡率より算出した期待生存率より低値であった. さらに年齢階級別に比較すると, 老齢者になるほど期待値と実際の生存率との開きは大きくなっていた. 死因は脳血管性障害23例, 心疾患5例, 感染症10例, 悪性腫瘍9例, その他9例であった.
    60歳未満の症例では, 収縮期血圧160mmHg以上の場合に生存率が低下し, 拡張期血圧100mmHg以上の場合に生存率の低下の傾向がみられ, 脳血栓の既往, 意識障害, 高度の脱落症状, 脳波異常, 心電図, 眼底所見, 脳動脈狭窄, 脳循環などは生存率に大きな影響を与えていなかった.
    60歳以上の症例では, 脳血栓の既往, 意識障害, 発症2カ月の改善不良, 脳波の中・高度異常の場合に生存率が低下し, 発症時の高度脱落症状, 収縮期血圧160mmHg以上, 心電図異常, 脳動脈狹窄, 頭部血流量の低下の場合に生存率の低下の傾向がみられ, 拡張期血圧100mmHg以上, 眼底所見は生存率に大きな影響がみられなかった. 特に60歳以上の場合には脳波異常と神経脱落症状の長期生存率におよぼす影響が大きいと考えられた.
  • 須田 恵美子, 橋口 一英, 山之内 博, 東儀 英夫, 朝長 正徳, 亀山 正邦
    1974 年 11 巻 6 号 p. 402-407
    発行日: 1974/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者連続剖検230例のうち, 臨床的に脳底動脈血栓症と診断された3例について, 臨床病理学的に検討した.
    2例が一見して無言無動症に類似するが随意的な眼球運動によって, 意志の伝達が可能である locked-in syndrome を示した.
    剖検では1例が新旧入り混じった硬塞巣が両側橋底部にみられた. 脳底動脈は背側部すなわち分枝の起始部に, アテローム硬化が強く認められた.
    1例は新しい硬塞巣が橋右上部に古い硬塞巣が橋左中部に認められた. 脳底動脈はアテローム硬化が強く, 上半分が血栓がつまって安全閉塞をおこしていた.
    残りの1例が発作4日目には完全昏睡になり. 広範囲な硬塞巣が両側底部のみならず被蓋部にも及んでいた. 脳底動脈はアテローム硬化が強く血栓がつまって完全閉塞が認められた.
    臨床的に脳底動脈の狭窄と完全閉塞を区別する事はきわめて困難である.
  • 石井 壽晴, 細田 泰弘
    1974 年 11 巻 6 号 p. 408-415
    発行日: 1974/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老化過程研究の好個のモデルと考えられる Werner 症候群の1剖検例を報告した. 患者は男性で, 思春期前後より漸次, 嗄声, 足底部皮膚硬化, 両側若年性白内障を来たし, 高血圧にて入院. 既往歴も勘案し本症の診断を受けて加療中, 29歳時に心, 腎不全にて死亡. 家族歴で, 両親はいとこ同士の結婚であるが, 同胞には本症を疑わせる者はいなかった. 検査所見では, 心, 腎不全を思わせる以外に, 内分泌機能も含め, 特記すべき事はなかった.
    剖検所見は外見上, 禿頭, 白髪, 顔面皮膚の萎縮のため, 年齢よりはるかに老けてみえた. 下腹, 下肢には, 色素沈着を伴う皮膚萎縮, 足底部皮膚硬化, 左眼義眼装着, 右眼白内障術後状態, 腋毛, 恥毛脱落, 精巣および陰茎萎縮を認めた. 心血管系は心肥大 (450g), 年齢に比して高度の大動脈粥状硬化症, 全身の高度の動脈および細小動脈硬化症をみた. ことに, 脳, 膵, 前立腺では, pseudocalcification および Mönckeberg 型動脈硬化症を呈した. 腎は高度の細小動脈硬化性萎縮腎 (左84, 右77g) の他, 悪性腎硬化症を思わせる所見もみた. その他, 内分泌臓器の萎縮 (下垂体0.5g. 甲状腺8g, 副腎左右各6g, 膵52g, 精巣左8, 右9g), 前立腺萎縮をみた. は, 骨梁の細小化, 声帯の萎縮, 胸腺退縮を認めた. なお, 悪性腫瘍の合併はなかった.
    既剖検報告を通覧すると, 全般的に強皮症様皮膚萎縮, 動脈硬化症, 内分泌・生殖器臓器の萎縮が認められ, 本例でも同様の変化をみた. 特に本例の細小動脈硬化症は特徴的であった. また, 既報告中, 甲状腺腺腫および類縁腫瘍の高頻度な事も指摘したい. 本症は, 特定臓器の欠陥に起因すると考えられる組織学的ならびに諸種検査上の所見に乏しく, 形態学的な変化は, 本症の本態を示すものではなく, 2次的表現と考えられる. 特に, 眼, 皮膚, 血管, 骨, 声帯, 内臓諸臓器とともに, 常に存在する結合織に着目したい. 就中, 従来より知られる血清, 尿中のムコ多糖, 培養線維芽細胞の態度などより, subcellular な障害が考えられ, 結合織代謝と老化という点から, なお追求されるべきであろう.
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